緊張極致点 ≪景時side≫ どれくらいの時間が経ったのか。 正直、緊張の連続で、自分が寝ているのか起きているのかもアヤシイ。 でもね、オレの手を握る手がある。 頑張ってるんだな〜〜〜って。 手伝えないのが歯痒いが、こればかりは・・・ね。 再び意識が遠ざかりかかった時、泣き声が聞こえた。 「ふぎゃあ!ふぎゃあ!」 「あら、あら。本当に女の子だわ!」 母上の弾む声がする。 そして、夢のお告げ通りに女の子だったのだと解る。 ちゃんの手の力が抜けた。 「ちゃん?!」 慌てて力強く握るけれど、握り返してはくれない。 「ちゃん!!!」 几帳が邪魔。 母上の許可無しで几帳を跳ね除けた。 「景時!さんは疲れているの。清めてから来なさい!!!」 一瞬だけ見たちゃんは、にっこりとオレに笑ってくれた。 ・・・気がした。 母上に汚れ物扱いを受けたオレ。 ここは言われた通りにしないとちゃんに会えない。 軽く身を清めて着替えた。 「母上。そのぅ・・・オレです。入っても・・・・・・」 まずは部屋の外から声をかける。 「遅いわよ!景時。早くお入りなさい」 ・・・今度は遅いのね。あっそ。 すっかりきれいに整えられた部屋で、静かに横たわるオレの奥さん。 そうだよな、頑張ってた。 もう動きたくないだろうな〜。 「その・・・ありがと。疲れた?苦しい?痛い?」 どう言えばいいのかな? こんなにやつれちゃってるちゃんに。 そっと頬に手を伸ばすと、笑われた。 「あのね・・・きれいになった沙羅ちゃんがもうすぐ来るの」 そういえば居ないな。産湯ってやつ? ・・・長すぎ。母上が遊んでるな、こりゃ。 「ちょっと見てく・・・・・・」 裾をつかまれた! 立つのを止めて、ちゃんの隣にいることにする。 「ここで待ってようかな。母上が・・・お祖母様だ!」 だよな? クスリと笑うちゃんが可愛い! 「何か言ったかしら?さん、沙羅ちゃんよ!頑張ったわね」 母上、酷いです。オレを突き飛ばすなんて! しっかりちゃんの枕元の場所を母上にとられた。 「ほら、あんなに元気に泣いていたのに、お風呂に入ったら寝てしまったわ」 ちゃんの隣にいるのが・・・だよなぁ? おい、おい。そんな小さくて大丈夫なのか?! 育つの?ソレが? 「沙羅ちゃん!パパだよ」 そ、そう。オレが父親。 触ってもいいの?潰れない? 「何をビクビクしているんですか。ほら、小さな手でしょう?」 母上〜〜。そんなに気軽に触らないでよ。 恐る恐る手に触れてみる。 ・・・指がある! こんなに小さくても人なんだなぁと思う。 「沙羅・・・・・・」 君は生まれる前から名前が決まっていたんだよ。 皆が待っていたんだからね。 「・・・ずるい。沙羅ちゃんは呼び捨て?」 「ええっ?!だって、オレの娘だし・・・沙羅・・・様?」 ダメ?呼び捨て禁止?!我が家の大切な姫君だもんね。 「もぉ!私は?」 ・・・あ、そういう事。 「ちゃんはちゃん!沙羅は娘だから沙羅!・・・場合によっては 沙羅ちゃん!・・・で、いいかな?」 名案でしょ!普段は父の威厳ってモノが。 でもさぁ、あんまり可愛いと“ちゃん”つけちゃいそうなんだよなぁ。 「景時。さんは疲れているのだから、おしゃべりはそれくらいにして、 部屋へ戻りなさい。さん。部屋を温かくしているけれど、今は体が弱って いるのだから。無理をしてはだめですよ」 ちゃんにだけ!優しいんですね、母上。 いいですよ、別に。早く出て行って下さい。 「・・・ちゃん。ちょっと待ってて。オレもここで寝るから」 適当に衣を漁って包まると、沙羅が居ない方へ移動する。 そうすればちゃんがすぐ隣。 「あの・・・・・・叱られちゃうよ?」 「平気、平気。清めてきたし、大丈夫でしょ!それに、オレが居ると温かくない?」 寒がりのちゃんには、オレの体温が最適。 いくら火鉢を置いてもね。寒いものは、寒いんだよ。 「うん・・・・・・パパだね?」 しっかり腕枕でちゃんの存在を確認する。 「パパかぁ・・・これからは叱られないようにしないと、恥ずかしいね?」 家には姑と小姑がいるからね〜。 「大丈夫。景時さんが頑張ってるのは、皆わかってる」 そっか。そうなんだ。な〜んだ。 気づいたら睡魔の淵から転げ落ちる。 ちゃんより先に眠ってしまったらしい。 これは大失態ではなかろうか? オレの家族。 家族勢揃いでのオヤスミナサイ。 オレね、妻が居るんです。 とても大切な人が。 その大切な妻がオレの子を産んでくれましたよ、父上。 オレにも家族が出来たんです。 夢で父上に会った─── |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:景時くんは、初めて家族を実感したかも?ついに呼び捨ての時?!←無理そう(笑) (2006.03.12サイト掲載)