東風 ≪景時side≫ 「いってらっしゃ〜い!」 「行って来る!!!」 朝ごはんを食べたら毎日の約束事をしてもらって守護邸へ行く。 行って来るといのは、“行く”と“来る”なのだ。 必ず帰るという約束を毎日してるんだよなぁと。 そんな事を考えながら歩き出した・・・のだが。 どうも変な感じなんだよな。 こう・・・風がオレに何かを知らせようとしてる。 梅の香りかぁ。もう春だね。 「梅・・・お土産にしようかな?」 馬に乗って、出勤する。 そう急がなくても馬が歩くから着くんだ。 もう目の前は守護邸。出勤した・・・んだよな、一応。 ・・・・・・したけれど。 「馬、このままで!頼むね〜」 すぐに乗れるように、部下に手綱を預けるだけにする。 何かが。そう。このモヤモヤ〜はひとつしかない。 「九郎、おはよう!でさ〜お願いがあって〜〜」 九郎と弁慶が話しているトコロへ割り込む。 間違いなくオレの方が重要な用件だよ。うん。 「・・・今度は何だ?」 「棘があるな〜。“今度は”だって・・・じゃなーい!オレ、しばらく休むから」 そうだよ、休むんだ。休まなければならない。 嫌そうな顔くらいじゃ、怖くないよ。 もう九郎のしかめっ面には慣れてる。 「はぁ?何を馬鹿な・・・・・・」 「馬鹿でいいから!・・・ちゃんがオレを呼ぶと思うから!」 言いたい事だけ言い切って、さっさと帰る。 梅をお土産にしたいんだ。どうしても。 真っ直ぐ帰ればいいのに、やや遠回りをしてとっておきの梅を手に入れて帰宅した。 「た、ただいま!ちゃん?あのさ・・・・・・」 我ながら、早い。 ついさっき出たばかりの我が家の敷居を再び跨いでるわけで。 そして、愛しい人の姿を求めて家中を探す。 「・・・ちゃん?・・・・あれ〜?ちゃ〜〜〜ん!」 梅を手に、ウロウロ。 そりゃもう、いるハズの人がいないんだから。 思いついて庭へ出てみれば、鼻歌混じりで朔へ洗濯物を手渡していた。 「ちゃん!その・・・・・・」 どう言えばいいのか?声をかけたものの、朔もいる。 これは・・・小言を覚悟せねばだよなぁ。 「景時さん?!忘れ物?」 よたよたと歩く姿が心配だ。 素早く庭へ降りると、ちゃんの手を取って階まで一緒に歩く。 視線が痛いぞ、妹よ。無言の攻めだな? 「え〜〜っとね。今日は休みだったから。うん。忘れ物・・・かな?」 忘れ物は休む事。そうだ、そうだ。オレは休むね! 「お休みだったのに、お仕事行っちゃったの?残念でしたね!」 口では残念といいながら、その笑顔は喜んでいる証拠だよね? オレが休みだと嬉しい?! 「そっ。休みだったんだよね〜。で、途中で梅の香りがしてね。お土産」 天満宮の梅は有名。この種類は色が白くて香りがいい。 「わわ!可愛い〜〜〜。そういえばね、今日はなんとなく変で。景時さんがいると安心!」 「そうなの?!調子悪い?」 オレの勘は鋭い。・・・・・・ちゃんに関する事限定で。 「違うの。調子がっていうか・・・お腹が変なの。ごにょっとしてる」 非常に判断に困る表現だが、間違いない。 沙羅ちゃんが出たいと主張を始めたとしか思えない。 「朔〜!母上は?」 オレの呼びかけで、朔も階までやって来た。 準備してもらわないとな〜。 「母上は・・・そういえば、近所へ出かけてくるとか・・・・・・」 「・・・すぐに帰ってくるかな?ちゃんが、産気づいてからじゃ遅いしね」 「「ええっ?!」」 ・・・・・・ここでちゃんと朔が一緒に驚くのは違うぞ? いつ産まれてもおかしくない大きさだよ、このお腹は。 さり気なく視線を移せば、ちゃんも気になるのかお腹を撫でているしさ。 「そっかぁ。お母さんになるんだ、私。そういう変だったんだ〜〜〜」 「どっ、そっ、そう!母上!母上を探して参りますわ!」 朔らしくないけど、朔らしいのかな? ちゃんのために、駆け出す妹の背を見送ってみた。 珍しく慌てている。しかも! 普段なら絶対に走らないよなぁ・・・・・・。 いや、いや。これは言わない方がいい。・・・倍返しされる。 「・・・お腹変なの?」 簀子へ上がりながら、そっと触れてみる。 「変・・・なのかな?いつも重いんですけど。こう・・・下の方が重い感じっていうか〜」 変さ加減が上手く表現できないらしい。 こればかりは、オレにも経験がないので助言は無理! 「ふ・・・む。じゃ、無理しないで寝てるとかは?外になんて・・・・・・」 そう、そう。安静第一。 「でも・・・お日様がキラキラで、外が気持ちいいかな〜って。こう・・・肺に空気を入れると 元気が出そうな気がしたんですよ〜〜〜」 あ〜〜〜。ちゃんは楽しい事を見つけるのが上手なんだった。 だぁ〜よなぁ。オレも春だなぁ〜〜って思っていたトコ。 風が梅の香りを運んでくれたしさ。 「そっか。じゃあ、部屋でごろごろがいいかな。風、まだ少し冷たいからね」 「は〜〜い!・・・・・・あれれ?」 ちゃんがしゃがみ込んでしまった!!! 「大丈夫?!何?足が痛い?」 どうすればいいんだ〜〜〜。まさかっ?! 「・・・・・・お腹・・・痛い・・・かも?」 どうする、どうする、どうする、どうする!!! 母上も朔もいない時に!!! どうする、景時?! とりあえず、準備してあった産屋へ運ぶべきか?! 「ちゃん!支えるから、少しだけ我慢して歩いて?」 抱き上げていいものなら、抱き上げたいよ。軽いよ、二人分くらい。妻とオレの子くらい楽勝! けれど、腹部を圧迫する事は許されない。 必死にちゃんを支えて運ぶ。 誰か、帰ってきて! |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:景時くんの前髪は、望美ちゃん探知機なんですよ、きっと(笑) (2006.02.28サイト掲載)