風花  ≪景時side≫





「あ・・・・・・」

 久しぶりの休日。早起きしたものの、水は冷たい。
 井戸の水で顔を洗ってから庭を眺めれば、白いモノが舞う。
 花弁よりも軽いソレは、落ちる事を嫌がっているのだろうか?
 天から地へ───
 それはまるで・・・・・・



 手のひらで受け止めると、すぐに融けてしまう雪。
 決して手に入らないモノのような気がして───
 怖くて動けなくなった。



「景時さん?もう!そんな薄着で・・・・・・はい」
ちゃん?!駄目だよ、こんなトコまで!!!」
 ここは何処かといえば、階に腰かけていたのだから外。
 ちゃんが冷えたら大変だ!
 せっかくオレにかけてくれた上着だけど、さっさと肩からとって彼女を包み込む。

「景時さんが寒いかなって持ってきたのにぃ・・・・・・」
 不満顔だなぁ。でも駄目。
「駄目だよ、ホラ。雪なんだからさ」
 雪が降るほど寒いんだよと、解ってもらうつもりで庭を指差した。



「・・・・・・風花ですよ。雪は・・・ここより遠くで降ってるんです。雪がダンスしてるみたい」
「“だんす”?」
 聞き間違いではないよな?

「うふふ。舞ですよ。雪の舞って事かな?ふわふわって、少しでも長く舞いながら土に
融けるの。水になって、また空に上って、繰り返しなんだよね・・・・・・」
 時々ちゃんは、陰陽師のような事を言う。
 森羅万象。大地の循環、空の法則。
 そもそも、五行説自体がちゃんの言葉そのものだったりする。

「そう・・・だね。雪・・・好きなの?」
 静かに空を見上げる横顔を盗み見る。
 君が好きなら、いいよ。寒くてもさ。それくらい我慢する。

「好きですよ。見るだけなら。・・・・・・外に出かける人は大変だろうけど・・・家でね、待つのも
心配でドキドキで大変なの。知ってました?」

 あ・・・・・・どうしよう。
 どうしてそんな風に言ってくれるんだろうね?
 ふんわりした微笑をみたら、手を伸ばしてしまった。

「景時さん。今日はお仕事じゃないけど。雪の日は気をつけて下さいね?」
「うん。元気で無事に帰ってくるから。いつものしてね?いつものご褒美・・・・・・」
 君の体温がオレを救ってくれる。
 臆病な本当のオレを。
 不安な心を見透かしたように、包まれているのはオレの方。

「景時さんが無事に帰ってきたらいつも通りです。朝ご飯にしましょう?それと・・・いつか雪が
降ったら雪合戦しましょう?私と沙羅ちゃんが同じ組。景時さんはひとりで二人相手ですよ?」
「え〜、オレひとり?だったらさ、オレとちゃんと沙羅ちゃんが一緒でさぁ。誰か呼んで相手
になってもらおうよ〜」
 ちゃんを抱き締めて、頬を寄せて駄々を捏ねてみる。

「うふふ。それもイイですね。雪だるま作って、雪ウサギも。カマクラ出来るくらい積もるかな〜」
「たくさん知ってるね。遊び方」
 ちゃんがいた世界の鎌倉は、そんなに雪が降るのだろうか?

「知ってるだけで、カマクラは作ったことないですよ?ウサギは得意!」
「こういうの・・・でしょ?オレも朔によく作ったんだよな〜。次の日解けてて泣かれたんだよ」
 手で楕円の形を作って見せる。これはたくさん作らされたよ。
 顔が気に入らなくて泣かれたしさ。
「ほんとに?朔が?イイコト聞いちゃった!」
 もしかして・・・何かつるっと言っちゃいましたかね?オレは。

「手袋・・・編みたいな。そうしたら、手が冷たくないのに・・・・・・」
「へ?オレの手袋じゃ駄目なの?」
 手袋はあるよなぁ。待てよ・・・編む?
「あのね、羊さんの毛の糸があって。それで編むとふわふわで暖かいの。残念だなぁ」
「そっか・・・じゃあ。オレが特別に注文してこよ〜っと。桃色の手袋。今年はちゃんの分だけ。
来年は・・・沙羅ちゃんの分もかな?」
 どうかな〜と思って。ちゃんの瞳を覗き込む。

「手、ちっちゃいのかな・・・私も赤ちゃん見た事ないかも・・・・・・」
 ちゃんがお腹に手を添えている。
 オレもちゃっかり触れてみた。
「オレもね〜、子供・・・しかも、ややことなると世話した事がなくて。実は知らなかったりして」
「新米のお父さんとお母さんですもんね!」
 決心がついているらしいちゃんの笑顔が眩しい。
 母は強しだよなぁ・・・・・・。
「新米も新米。どうしたものか・・・・・・こればかりはさ、八葉の仲間は当てにならないしね〜」
「そうだ!私たち、一番ですよ!うふふ。皆の先輩」
 

 遠くで朔の声がする。少し話し込みすぎたな。
「朔に叱られる前に、朝ご飯食べようか」
「はい!お味噌汁が冷めちゃう」


 昨日の続きで今日の続きが明日───






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:雪がふわふわ〜と。空が青いのに雪が舞う不思議さ。     (2005.12.30サイト掲載)




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