見せない決意  ≪望美side≫





 皆がいるのに。お寺なのに。突然ぎゅぎゅって。
 景時さんは苦しい時の気持ちの出し方が上手じゃないから。
 ぎゅってして。背中を撫でて。頭も撫でてみた───



「コホンッ。・・・、そろそろいいかしら?」
 わわわっ!
「ご、ごめんなさい。あのね・・・そのぅ、これはですね・・・・・・」
「ええ。兄上が頼りなくて」
 朔がこめかみを押さえてる。
「違うの!そうじゃなくて・・・・・・景時さんはね、普段みんなのクッションだから。いいのっ。
私にはしても。私も景時さんにしてるから!」
 早く朔に分かってもらわないと、景時さんがお小言もらっちゃう!

「・・・・・・まあ、いいんじゃないか?景時だって、父親になるのが不安と言っていたし」
 えっ?!
「九郎!何もそんな事を今、ここでバラさなくても・・・・・・」
 景時さんが困ったように頬の辺りをかいてる。
「大丈夫ですよ?沙羅ちゃん、パパが好きみたい。私が歌っても無視するのに、パパだと
反応するんですよ」
 ね!沙羅ちゃんが嬉しいと私もふんわり嬉しくなるから分かるもん。

「ぱ?ぱぱ?」
「あっ!そうだった。父親の事を私たちの世界では“パパ”って呼ぶの。小さい時に“お父さん”
は呼びにくいでしょ?だから使ってるっていうか。こっちの世界だと、おうち語っていうか、そん
な感じで使ってもいいかなって」
 九郎さんにも分かり易い説明のつもりだったんだけど。
「おうち・・・ご?」
「え〜っとですね、知ってる人だけに通じる言葉!お家の中だけで通じる言葉・・・かな」

 ぬくぬくしよ〜って言ったら、いちゃいちゃ一緒にいるとか。
 ぎゅって言ったら抱っことか。
 ちょっと例は教えられないけれど、あるんだもん。

「・・・・・・父上の事を“ぱぱ”と呼ぶのか?」
「そう!沙羅ちゃんが呼びたいように呼べばいいとは思うんだけど、言葉の響きが楽しげだし。
それにぃ・・・景時さんがパパって呼ばれるの似合うし、可愛いでしょ!そう思いません?」
 景時さんを父上って・・・ちょっと硬くない?でもぉ、男の子ならそれもイイかも!
 ・・・何だかどっちでもよくなってきた。うん、なんでもいいの。お父様でも、何でも。
 あれ?九郎さんが俯いちゃった。

「・・・俺にはわからん。俺は・・・・・・・・・呼んだ記憶が無い・・・母上もすぐに・・・・・・」
 暗い。暗いよ、九郎さん。
「もぉ〜!特別に触らせてあげるから。はい、手を出して」
 強引に九郎さんの手を取って、お腹にあててみる。

「ね?ここに命があるの。傍に居なくても、きっと九郎さんの事を思っていてくれましたよ?
呼べる、呼べないだけが親子の繋がりじゃないでしょう?最近、そう思うようになったんです。
私は両親と離れてるけど、きっと元気だって分かってくれてるかなって。・・・沙羅ちゃんを
九郎さんも大切にしてね。きっと可愛い女の子だから」
 ようやく九郎さんが笑ってくれた。
「ああ。健やかに育つよう、助力する」
「ちょ〜っと待った!九郎の嫁にはあげないからね。年が離れすぎだし」
 景時さんが割り込んできたよぅ。可笑しいの〜。
 まだ生まれてもいないのに、嫁の心配なの?
「兄上!何を馬鹿な事を仰って。せっかく九郎殿が・・・・・・」
 あらら?これは、まさかココでまた始まっちゃう?!
「景時。俺は嫁にくれとは言っていない。そもそも女子が生まれるかもわからんだろう?」
 ん?九郎さんも参戦なのかしら?
「そんな事ないよ〜、一人目は女の子で、二人目は男の子で、三人目は・・・ちょっと。くれとは
言ってないなんてヒドイ。沙羅ちゃんは嫁にあげないからいいけど」

「待って、待って!景時さん?何人生まれちゃうの?じゃなくて、私って何人のお母さん?」
 ちょっと、ちょっと!今まで聞いても教えてくれなかったのに。
「わわっ!いっ、いや、そのぅ・・・だったら・・・いいなぁって・・・とか・・・・・・・・・・・」
「景時さん、嘘がヘタ過ぎです。いいですけど。とりあえず沙羅ちゃんは決定ですしね」
 景時さんの隣に寄り掛かって座る。
「う、うん。はい・・・・・・」
 慌ててる。やっぱり知ってるんだ〜。ズル〜イ。楽しみはとっておくからいいですけどね。


「そういうのは分かるものなのか?」
 やっぱりね、そうですよ。疑問でしょ?
「違うの。私たちは特別なの。普通は分からないですよ。・・・九郎さんはいい人いないの?」
「なっ、なにを突然!弁慶みたいな事を言う奴があるか!!!」
 やだなぁ〜、もう。いい人がいるかどうかを聞いただけなのに。
「九郎さん、これくらいで真っ赤にならないで下さい。九郎さんだって親になるんだよ?私も
最初は怖くてどうしよぉ〜って思ったけど。お父さんのお父さんの、そのまたお父さんのって。
そういう繋がりがあるから今の自分がいるんだし。だから・・・・・・私も家族を作るんだぁ」
 なで、なで。名前も決めてるんだし、丈夫に生まれてね?

「・・・は凄いな・・・・・・・・・」
「でしょっ!最高の嫁さんなんだよね〜」
「兄上!茶化さないで下さい!」
 あらら。この三人って、違う意味で面白い組み合わせじゃない?

「朔殿。景時は真実そう思っているんだ。いいじゃないか」
「だよね〜。九郎ってば、イイコト言うね〜」
「・・・兄上。調子に乗りすぎです」
 あはは!面白い。この三人も見てるの楽しいかも。しばらく放置決定!


「白龍。黒龍。お腹いっぱいになった?」
「うん!神子、オム美味しかった」
 あらあら。口の周りが大変よ。懐紙でいいかな。
「黒龍は?」
 ヨシ!頷いてくれた。こちらは綺麗。白龍には躾が必要かしら。黒龍を見習わせないと。
「かわらけ投げしに行こうか!」
「うん!」


 三人で投げようとしていると、後から景時さんたちが追いかけてきた。
ちゃん、待って〜!危ないから!オレがついてないと・・・・・・」
「景時。いくらでもそこまでは・・・・・・」
「兄上!境内を走らないで下さい!!!」
 う〜ん。やっぱり面白いよ、景時さんたち。


「大丈夫ですよ。コレ投げるだけですもん。谷がスゴイですね〜〜〜」


 遠い世界の両親へ届くかな?
 は元気です。
 今度、お母さんになるので見守ってて下さいね。


「誰が一番遠くへ投げられるか競争しましょ〜!」
 大きく腕を振って〜〜。



「皆の災厄飛んでけ〜〜〜!」



 青い空と紅葉。茶色の畑に、枯れた色の谷。
 白いかわらけが私の願いをのせて飛んだ。
 大切な人たちと、笑って暮らせますように───






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:お父さんとお母さんにこっそり報告。きっと届いてる。     (2005.12.06サイト掲載)




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