染まる ≪景時side≫ 転寝気味のちゃんを抱えながら、空を見上げる。 空が高い─── いつからか、オレには空を見上げる余裕などなく。 そして、季節の移り変わりは戦術でしか頭になかった。 夏なら水を確保して。冬なら暖を確保してとか。 ちゃんと居るとね、忘れていたものが思い出せる。 置き忘れてしまった、大切な気持ちが。 「兄上。ご住職が・・・・・・」 口元へ人差し指を立てて静かにという合図を朔へする。 「あら。ったら・・・・・・」 朔がこんな顔して笑うのが普通になった。 ぜ〜んぶちゃんのおかげだよなぁ。 オレが言う軽口は、ことごとく機嫌を損ねるだけだったし。 「兄上。こちらでは寒いでしょうから、簀子の方へいかがですかと。温かい白湯も いただけるそうですわ」 「そ?でもなぁ・・・・・・もうしばらくこのまま休ませてあげたいかな。普段とは違う のがいい休みになってるみたいだし。白龍と黒龍は?」 行く時は朔といたはずの二人が居ない。どこだ? 「九郎殿と一緒に。あちらでじゃれてます」 あっそ。な〜んだ。白龍はもともと懐いていたけど。 黒龍は人を見るよな〜。九郎は気に入られたという事か。 まあね。割と八葉には変な態度はとらないかな。 「ふ〜ん。じゃあさ、お弁当食べる頃にお邪魔させてもらおうかな。オレも挨拶しな いと悪いしね」 「それは九郎殿がして下さいましたので。兄上は必要ございません」 ・・・棘があるぞ、朔。何、その役立たずみたいな。 「・・・朔。お兄ちゃんは悲しい」 「嘘を吐く暇があるなら、そのお顔どうにかして下さい」 え?顔?顔って・・・これはねぇ。 「だって、ちゃんが奥さんで、ココに居てくれて。しかも、沙羅ちゃんがココに いるんだよ〜!段々お腹が大きくなってきて大変そうでちゃんには負担だろう けど。こう・・・嬉しくって撫でちゃうんだよね〜〜〜」 ・・・しまった。さらにシマラナイ顔だよな、今。 恐る恐る朔の方を見れば、今度は笑っていた。 「兄上。大切になさいませね。私も・・・・・・がこちらの世界に残ってくれるとは 思いませんでした。しかも、兄上の花嫁になってくれるなんて。あ・に・う・えの!」 突き刺さる言葉をありがとう、妹よ。 オレも実のところは自信がなかった。 「そうなんだよね。オレもさ、自分の気持ちを言うなんて考えてなかったんだ。だけど、 伝えなきゃ何も始まらないってちゃんに教わって・・・・・・」 「が物好きでよかったですわね」 「いや、は気づいていたんだろう。景時の真実の姿に」 いつのまに九郎が?! 「景時。色々・・・すまなかった・・・・・・お前の気持ちに気づいてやれなくて・・・・・・」 わ!何だか真剣な話になってきたぞ? 「いや〜、そんな。全部済んじゃってるし。どちらかと言えば、言わなかったオレの 方が悪いような・・・・・・」 「だが・・・・・・」 九郎ってば、ずっとそんな事を溜め込んでいたのか? 「・・・誰も悪くないですよ?ただ、気持ちがすれ違っちゃってただけだし。大切なモノ、 失くさずに済んだんだし。私がこうして景時さんといられるのは皆のおかげだし」 「起きてたの?」 ちゃんを抱えなおす。どこから聞かれていたんだろう・・・・・・。 「今ですよ?気持ちよくて転寝しちゃった」 皆に囲まれて覗き込まれている状況に照れている様子が可愛い〜。 「白龍。黒龍。お腹空いた?」 ちゃんに手招きされて、白龍が隣に来た。 「あの・・・おむ・・・食べたい!」 「もぉ〜、白龍はオムライス好きだよね〜。じゃ、お弁当食べましょうか」 そうそう。ここじゃなくて暖かい場所で食べられるんだった。 「ご住職が簀子でいかがですかって。どうする?」 「わ!それは嬉しいかも。正座は最近大変なんですよ〜」 「それじゃ境内の方へ行きましょう」 朔の後に続いて歩く。しっかり者だね朔は。ホント助かる。 きっと朔が話してくれたんだろうな、お邪魔させてもらえるようにさ。 皆で弁当を食べる。彩がすごい。おにぎりだけかと思ってたのに。 「景時さん。これね、“竜田揚げ”って言うの。だからさっき聞いたんだよ?」 へえ〜。鳥肉だよね? 「美味しい・・・・・・」 「ホント?!嬉しいな〜」 うん。ほんと。美味い。そして、あの黄色い物体は何だ?! オレの視線に気づいたちゃんが、オレにも白龍たちと同じモノを取ってくれた。 「これね、オムライスのおむすび。外は玉子焼きで、中が赤い炒めたご飯なんですよ」 あれか、譲君が作ってくれたやつの小さいのだね。思い切って一口。 「ん〜!そっか。これは・・・こうすれば持ち歩きも出来るんだ。便利だね」 「えへへ。でね、てんむすもあるの」 「て・・・?て・・・何?」 ちゃんに差し出されたおにぎりは、エビの尻尾がはみ出していた。 「あのですね、天ぷらが具のおにぎり。名古屋名物だけど、べつに名古屋じゃなくても 売っていたから知ってたの。焼きおにぎりは時間がなくて。時間がある時に作りますね!」 いつもながら面白い。食べてみよ〜っと。 「あ〜〜〜・・・・・・」 これは初めてだけど想像以上。ヒノエ君のおかげで海産物には苦労してないんだよね。 「だめ?無理っぽい?」 「ぜ〜んぜん!これって小さいからたくさん食べられちゃうね」 ちゃんの顔がパパパッと輝いた。 「ほんとに?嬉しいな〜。これって偶然なんですけど昨日教わったんですよ、譲君に」 「へ〜〜。譲君って色々詳しいんだね」 「はい!お料理たくさん聞けて助かっちゃう」 ・・・・・・返事に困るな。どうりで譲君が叫んでいたよ。 料理本代わり─── ごめんね、譲君。まったく悪気はなさそうなんだよね、ちゃん。 今度何か面白い物でも贈らないといけないな。彼には迷惑をかけっぱなしだ。 夫婦そろって・・・・・・うわっ!夫婦だって! 「・・・景時さん?」 「いっ、いや!あはは〜、美味しいなぁ〜。竜田揚げ、もうひとつ食べちゃおっかなってね」 危ない、危ない。影でオレがどんな立ち回りをしていたか知られたくないし。 そんなにヤキモチ妬きと知られるのもなぁ? 「慌てなくてもたくさん作りましたよ?白龍がいるし」 う〜ん。可愛い。ニコニコご機嫌だね! 一時はどうしようかと思ってたんだよね。 体調悪くて辛そうだったし。よくどこかを見たまま動かなかったよね─── そんな君の横顔を盗み見てた。声をかけると笑顔になったけど。 オレがもっと何かしないといけなかったんだろうな。 うっかりオレは場所を忘れてちゃんを抱き締めていた。 「景時さん?!」 驚きながらも抵抗しないちゃん。いいって事だよね。 おや?・・・逆に背中をトントンと軽くあやす様に叩かれていた。 「え〜っと・・・その・・・オレが子供みたい?」 笑って首を横に振られてしまった。・・・どうして? 「景時さんもね、いいんだよ。うわ〜ってなっても。ね?」 頭まで撫でられていて、いいのだろうか?オレって・・・・・・。 紅葉を観に来て、オレはちゃん色になれたのかもしれない。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:景時くんは“夫婦”な事実に気づいてドキドキv (2005.12.04サイト掲載)