野分立つ  ≪景時side≫





 そろそろ日も沈みかけで、帰ろうかなと。
 そんな事を考えながら、本日最後の仕事で市中警備の配置を眺めていたら。

 地鳴りのような音がして、風が吹き抜けた。
 まるで野分の様な風。
 
「な、何これ?」

 強い風は、周囲のモノを巻き上げる。
 巻き上げた後には、当然───

「大変だ!」

 九郎の部屋へ飛び込めば、九郎は既に外の様子を眺めていた。

「景時!市中の見回り強化。便乗して悪さする輩がいるからな」
「御意〜!」

 オレは急いで兵の詰め所へ走る。
 予定変更。通常警備の他に、この風の対応人員も増やさないとね。

「集合〜〜!隊を編成する!」

 オレの掛け声で、バラバラと集まってくる源氏の武士たち。
 そのままオレも京の市中へと見回りに出かけた。



 外がすっかり暗くなってからの帰り道。
「疲れた・・・・・・」
 警備より何より、落ちてきた屋根の部材の片付けとか。そんな事ばかりで。
 橋とかは無事だったし、怪我人も少しはいたけど、大怪我じゃなく。
 内裏も被害はなかったみたい。
 とりあえずは一安心。

 ここにきて、我が家について思い出す。
ちゃん?!しまっ・・・・・・」
 家にはちゃんが居るんだ。
 朔も龍神様もいるんだから、滅多な事はないと思うけど。
 気づいたら走らずにいられなかった。





ちゃんは?ちゃん!ちゃん!」
 門の警備の者も驚いたろうね。
 挨拶もそこそこに、主が駆け抜けたんだからさ。
 ・・・・・・いつもの事か。

「景時さん、おかえりなさい。今日は遅かったんですね」
 ちゃんは部屋で洗濯物をたたんでいた。

「無事だったんだね?」
 ちゃんの前に座ると、その手を取った。
 安心する〜〜〜。今後は警備より家が優先だな。


「・・・それが・・・ごめんなさい。無事じゃないの・・・・・・・・・」
 ちゃんが俯いてしまった。
「・・・は?何?何かあったの?どうしたの?どこか痛い?」
 ちゃんの体中を触って確認する。
 見た目には怪我していない。
 どこだ?

ちゃん!その・・・痛いトコはどこ?」
 もう泣きそうだよ、オレ。
 どうして今日に限って家に帰らなかったんだろう。

「景時さん・・・私じゃないの。無事じゃないのは」
 ちゃんがオレの膝を叩く。
 いかん。ひとりで取り乱してしまった・・・・・・。
「そ、そっか〜。それならいいや。うん」
 実際そう思った。別に他ならいいや。
「ダメなんです!だって・・・・・・」
「うわ〜!どうしたの?やっぱりちゃんに関係あるの?」
 ちゃんを抱き締めて、その背を擦る。



「無いの・・・・・・何回お洗濯物を数えても、景時さんの着物が足りないの」
「は?・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ〜、着物か。いいよ、そんなの」
 君が無事なら何にもいらない。
 そう思って出た言葉だったのに。

「・・・せっかく私が景時さんに縫った着物なのにぃ!酷いです。大切じゃないの?」
「うわぁぁぁぁ!ごめんっ。そういう意味では・・・・・・」
 とんだ失態だ。
 ちゃんが家で寛ぐ時用に縫ってくれた着物だったとは!

「探す!今からオレが探してくるから。ね?気にしないで?大丈夫だから」
 そうだよね。オレのためにって縫ってくれた大切な着物だ。
 いいやってモノではない。
 立ち上がって探しに行こうとすると、突然リズ先生が現れた。



「これが飛んで来たのだが・・・・・・」
「わ!先生、ありがとうございます。それ、景時さんの着物だ〜。よかった」
 ちゃんが両手で着物を抱き締める。
 ・・・・・・着物になりたい。
 そうじゃないな。よかった、あったんだ。

「・・・そうか。神子の想いが見えたのでな。こちらへ確認に来た」
「これ、先生の庵まで飛んで行っちゃったんですか?すごい風でしたもんね〜」
 リズ先生が笑ってるよ。
 いや、いや。
 そのちゃんの匂いを嗅ぎわけているようなアナタが怖いです、リズ先生。
 着物に残ってる気まで見えるんですか?それとも、何か光ってる?

「景時。神子の想いが強いからわかるだけだ。気にするな」
「・・・は、はい」
 ・・・オレの心中が読まれている。顔に出てたのか?


「神子。あまりモノに執着するな。大切なモノは違うだろう?」
 それきりリズ先生は姿を消した。帰られたのだろう。
 う〜ん。できる。格好イイとは、こういう時に使うんだな。



「景時さん、ごめんなさい。着物より・・・景時さんが大切だよ?」
 ちゃんがオレの服を引っ張る。
 
 かっ、可愛すぎ!

 ぎりぎり理性で欲望に蓋をする。
 ここで力加減を間違うと大変だ。

ちゃん、気にしないで?オレの一番はいつでもちゃんだから。それにさ」
 ちゃんが苦しくないように抱き締めて、続きは耳元へ囁いた。


 ちゃんの一番もオレみたいだしね?
 着物にそれが残ってるみたいだね───


 真っ赤になったちゃんが頷いてくれた。
 いつもオレの事を考えてくれているのかと思うと、嬉しいよ。
 たまには野分の悪戯も悪くないね。






Copyright © 2005- 〜Heavenly Blue〜 氷輪  All rights reserved.


≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:大切なモノを勘違いしちゃいそうな時にv リズ先生、オイシイ。     (2005.10.31サイト掲載)




夢小説メニューページへもどる