早期解決 ≪景時side≫ ここ数日で、いくつかの問題にぶち当たっている。 各々は小さなことなんだけれど。 いわば、意思疎通が図られない事による勘違いとか。 放置しても大勢に影響はないと思われる。 ただし、オレが面白くない事があるのは事実。 怒る・・・いや。面白くないが適切な表現だ。 順次解決を図るべく、まずは九郎のところへ向かう! 「九郎〜〜〜、暇?」 文を見てはいるけれど、読んではいない様子の九郎に話しかける。 「・・・景時か・・・・・・忙しくはない・・・が・・・・・・」 ははぁ〜、また宴の招待状だね? ま、出るしかないでしょ。西国の源氏の大将みたいなもんだし。 「九郎はさ、難しく考えすぎなんだよ。歌だって楽だってさ、得意な人がすればさ」 上目遣いに睨まれた! 「・・・それは出来るから言える事だろう?」 「う〜んとね。大陸の方じゃ舞の種類に“剣舞”ってのがあるんだよね。つまりはさ、 ちゃんは舞も出来るし、剣も出来て。舞っている様に剣を使うでしょ?あれの もっとこう・・・型を披露みたいなのが。そういう出来そうなのをしてみるのもいいん じゃないかな〜って。もともとは楽しむための芸事披露でしょ、舞も楽も今様歌も」 おおっ!九郎が考えてるよ。そうそう、いい事だよ。 「・・・・・・芸事はよくても、和歌ばかりは。その場で詠めなければならないんだぞ?」 「そこ!オレなんてさ、出来ない事たくさんなんだけど、“出来ないよぉ〜”って最初 から宣言してると、不思議と協力者が現れるもんだよ。九郎もさ、してみれば?」 九郎の立場と性格だと、ちょ〜っと抵抗あるとは思う。 だけど、相手・・・この場合は宮廷側の貴族たちね! 距離を縮める良い機会だと思うんだけど。 ああいう手合いは、得てして教えたがりだし。 「・・・・・・現れなかったらどうするんだ」 あらら。後ろ向きだね。 「ま、その時はその時?時々はオレでよければ指南いたしますよ〜ってね!と、いう 訳で。その文、将臣君へ返事しないの?」 「あ、ああ・・・・・・返事は・・・今から書く」 九郎も肩の力を少し抜けば楽だよ。おっと!目的は別だった。 「その文遣い、オレが行くから。書けた頃にまた来るね〜」 頼まれてもいないのに内裏への文遣いを買って出る。用事があるんだ、実は。 これでひとまず、九郎の件は片付いたかな〜。後は弁慶が何とかするでしょ! 北面へ向かうと、弓の稽古に励んでいる武士が大勢いる。 え〜っとね。いた、いた。 「譲君!今日も稽古に来てたんだ〜、えらいね〜」 手招きしてみる。いい感じに矢が無いからね!そろそろ休憩かなと思ってさ。 「おはようございます、景時さん。毎日しないと、勘が鈍りますから」 いかにも譲君らしい。武芸というものにおよそ縁遠いオレにはわからない感覚かも。 「この前の話・・・なんだけどね」 「この前・・・ですか?」 とぼけてもダメだよ〜。オレはこの件に関しては厳しく詮議させてもらう。 「ちゃんの手料理の話!譲君が一番最初に食べた・・・って事になるんだよね?」 さり気なく手近な階に座りながら話を続ける。 「あっ!・・・・・・そ、それは・・・そうですけど。食べられる物という意味では・・・いや、その 味が・・・あれは・・・食べ物のようなもので・・・・・・・・・・・・」 そんなにビクビクしなくてもいいのにね〜。 それにしても、“食べ物のような”って何? 「・・・でも、譲君が一番最初・・・なんだよね?」 ここが肝心なところなんだよ。“一番最初”を強調して言ってみる。 ま!オレのヤキモチだね、これは。 「・・・・・・景時さん。景時さんが思うような食べ物にはなっていませんでしたよ?僕たちが いた世界は何でも簡単って話をしましたよね?先輩は、それでもそう料理をする方 ではなかったんですよ。お菓子くらいは作ってましたけどね」 とりあえず頷きながら話を聞く。 そうなんだよな〜。 そういう話を聞くにつけ、こっちは不便で嫌なんじゃないかと不安になる。 「ですから、先輩が最初に炊いたご飯は炭でしたし、卵焼きは爆発してました。景時さん に食べて欲しくて始めたんですよ、料理。いつから練習していたか、知ってます?」 ・・・・・・は?え〜っと、それはいつ? オレは思い当たらないので、首を横に振る。 「僕たちが景時さんの家にお世話になる事になった時には、景時さんは居ませんでした」 思い出した。朔に叱られたんだ。探してたって。 で、『言ってよ』って言ったら、『居ないのに言えません』って。あの時ね〜。 「景時さんが帰ってきて、次の日からです。先輩が食事の支度を手伝うようになったのは。 そりゃ朝はしなかったけど、夕餉の手伝いをしてくれるようになったのは次の日から。これ は一体、何を意味するんでしょうね?もっとも、先輩も無自覚だったのかもしれないで すけれどね」 オレが洗濯しているのを見つかった次の日からか・・・・・・。わ〜、それって! よくよく考えると、いつからどうってのは聞いた事ないよな〜。 つまり・・・オレを・・・気にしてくれたのは“いつ”って話で。 譲君を詮議するつもりが、まんまと詮議されてる?!・・・・・・オレ、情けなくない? 「熊野へ旅をしている時も、俺の手伝いをしてくれてましたよ。景時さんは気づいていない かもしれませんけど、野宿の時とかのおにぎり。あれ、先輩がにぎったのもあったんですよ」 あらら〜。眼鏡を掛けなおす譲君が凛々しく見えるよ〜。 ちなみにね、オレは洗濯を見つかった時に。最初からちゃんが好きだったよ。 「あ〜っと・・・その・・・ごめんね?」 バツが悪くて謝る。 「いいえ。・・・景時さんの本気がわかって、先輩は幸せなんだなって。気にしないで下さい。 近々初めての料理が出てきますよ。俺たちの世界じゃ普通に食べてたんですけどね」 「へ〜〜。なんだろ?楽しみだなぁ。稽古の邪魔しちゃったね。色々・・・ありがとう!」 譲君に、すっごく認めてもらえた気がして。 当初の目的からは逸脱したけど、いい時間が過ごせた。残すところはあとひとつ! 九郎の文を携えて、内裏へ足を踏み入れる。 出来れば二人で話をしたいんだよね〜、無理かな〜。 「文遣いで来ましたよ〜〜〜っと」 笑うトコじゃないし〜、敦盛君ってば。うん、感情が表情に出るようになったよね! 「どうぞ。中に将臣殿が居りますよ」 「・・・ひとり?」 「ええ。・・・・・・しばらく人払いいたしましょう」 気が利くね〜、敦盛君は。助かっちゃった。じゃ、遠慮なく入り・・・ますっ! 「忙しいかな〜、九郎の返事持ってきたんだけど」 書き物をしていた将臣君が顔を上げてくれた。 「・・・景時?わざわざ来たのか・・・・・・今、誰かに茶でも・・・・・・」 「いや〜、敦盛君に人払いしてもらっちゃった」 あらら〜、将臣君らしくないね?どうしたのかな〜〜〜? “人払い”ってとこに反応しちゃって。 「この前の・・・事なんだけど。ほら、ちゃん泣いてたでしょ〜?せっかく泣き止んでくれた のに、理由を聞いたらまた泣いちゃうかな〜と。オレとしては腹に収めたつもりなんだケド」 懐から銃を取り出し、将臣君に向けてみる。 「景時?!」 驚いた顔してる〜〜〜。でもね。しゃべってもらわないといけないしね。 ざらざら吐いてもらうよ〜〜。 「つまりは、オレが無理してるとか、そんな話の流れになったみたい・・・だね?」 「・・・悪かったって。心臓に悪いから、そんなもんこっちに向けるな。何でも話すから」 そんな事言って〜。銃口に指入れてるの、将臣君だって。 「・・・・・・指、飛んじゃうよ?」 「いつもの銃と違うくらいわかるだろ、普通。何?何か出てくるのか?」 あ〜〜、もう。なんでこう、勘がいいんだろうね。 「バレてるなら仕方ないな〜。じゃ、将臣君の話と引き換えで今回の発明を披露しましょう」 「へえ?上手いな、景時は。・・・あれはさ、何を話しててもが“景時さんがね〜”ってなる もんだから、からかったつもりが泣かれちまって。どうするかな〜と思ってたら走ってくるアンタ が見えたからそのまま逃げたんだよ。・・・わざとじゃないぜ?」 ・・・・・・わざとじゃないのはわかったけどさ。 「やっぱりちゃんを泣かせたのは、将臣君かぁ・・・・・・酷いなぁ。オレね、いつも笑ってて 欲しいんだ、彼女には」 将臣君目掛けて銃の引き金を引くと、小さな音と小花が飛び散る。 「・・・・・・クラッカーみてぇ。が好きそうだな」 瞬きしながら笑ってくれた。やったね!驚かせたかっただけだし。 ついでに意見も聞きたいなと。 「そう思う?たださ〜、銃じゃ少し可愛くないと思うんだよね〜。その“くらっかあ”って、どういう 形してるの?」 料紙を一枚取り出して、将臣君が絵を描いてくれた。 「ほら。こんな感じ。紐を引くと紙も飛び出すんだよな。薄い紙をくるくるって。あの花火の幻術 でキラキラっとさせたら完璧じゃねぇの?・・・ついでに帝にも作ってくれ。面白そうじゃねぇか」 あらら〜。ご注文受けてしまった。 「え〜っと。うん。改良したらまた見せに・・・いや。家に来て欲しいなぁ。内裏で失敗したら怖い」 「ば〜か。だったら今のは何なんだよ」 将臣君が大欠伸をして肩を回した。確かに。 でもコレは、散々家で試してきたし、安全の確認はしてるよ。 「そうだなぁ・・・軽い嫌がらせ?ちゃんの涙の分。ただね、オレはあの後仲良しぃ〜出来た からいいんだけど、やっぱりね。・・・これくらいの仕返し、可愛いもんでしょ!」 「・・・・・・可愛くねぇ。銃はねぇだろ、銃は」 ま、そうだろうけど。 「オレの本気って事で、大目に見てよね〜〜〜。“改良版くらっかあ”は、帝も喜ぶと思うよ〜?」 「ま、仕方ねぇか。取引成立ってな!」 お互いの手を軽く打ちあわせる。“パンッ”と、いい音がした。気持ちイイ〜! 「早めにちゃんに顔見せに行ってね。気にしてるから」 ちゃんは自分の所為で将臣君が帰ってしまったと思ってるからさ。 「ああ。今日の午後にでも・・・・・・敦盛には言うなよ?抜け出すと煩いんだ、アイツ」 「御意〜〜〜。それじゃ、そういう事で」 青空の下、のんびりと職場へ戻る。 皆が我が家に寄ってくれるのは、ちゃんがいるから。 彼女が笑っていられるように、オレは何でもしちゃう。 オレには、心強い仲間がいるしね!・・・時々迷惑の元凶だけど。 「さぁ〜てと。オレも今日はおやつ食べたいな〜っと!仕事しますかっ」 目を閉じれば、君の笑顔が目蓋に浮かぶ。 今日は大丈夫。笑ってるね。よかった─── |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!
あとがき:正直に、素直になった景時くんなのでした。将臣くんも無事(笑)珍しく譲くんの出番多かったかも! (2005.10.5サイト掲載)