びっくりの白  ≪望美side≫





 三月って、三年生が居なくなると独特の雰囲気があって。
 人数が減ったとか、そんな単純なものじゃなくって。
 一年生は後輩が出来るな〜とかあるんだろうし。
 二年生は上級生がいなくなって伸び伸びといった空気。
 そこに受験がリアルに目の前にぶら下がり〜で複雑。
 それなのに、どこかわくわくするのは、春休み前のイベントのおかげ。

「あ〜、そっか。ホワイトデーだね」
「うわ〜、は余裕だね〜」
「余裕っていうか・・・別に何もないもの」
 景時さんが知ってるとも思えないんだけど。
 ・・・案外知ってそう。
 勘違いしてなければいいけど。

「今年は土曜日だから、学校ないし」
「クラブはあるじゃない。結構休みでも出てきて渡したりするもんだよ」
 女の子だとそういうのありそうだけど、男子がそこまでするかなぁ?

「はるかは先輩だから、卒業しちゃってサビシイんじゃない?」
「えへへ。約束してるから大丈夫」
 そうなんだよね。
 みんな、なんのかんのと、とっくに上手くいっていて。
 一ヵ月後に返事なんて、のんきな男子はいませーん。

「じゃあさ、デート?」
「土曜日だしね」
 いいなぁ、デート。
 私も誘ってみようかな。
 景時さんのお誕生日サプライズしか頭になくって。
 ホワイトデーについて忘れてた。
 でも、私から言うんじゃ催促してるみたいで嫌だし。
 親友たちの話に耳を傾けながら、ホワイトデーについての話はそれきり。
 毎日帰りが早くて日々の事に追われて、すぐに前日になった。





「お返しもらっちゃったね」
「譲君、イイ子だよね〜」
 いつもの仲良しメンバーでお昼を食べていたら、譲くんが教室まで来て。
 バレンタインのチョコレートを作った時の親友全員にも手作りクッキーをくれた。
「器用だよね〜。それに比べて兄はあれだよ」
「将臣くんはいつもあんなだもんね」
 さっさと食べればいいのに、漫画読みながらお弁当だし。
 はぁ〜〜〜っ。おば様に言っちゃうぞ?
 お行儀悪いなぁ、もう。

「今日は梶原先生、来ないね」
「職員室で食べるって今朝言ってた。入試の仕事はないみたいなんだけど、成績表
をまとめて進級会議の資料とか作るんだって」
 先生って忙しい仕事なんだな〜って、景時さんが働いているのをみて知った。
 長期のお休みがあって楽そうなんだけどな。
 景時さんはお勉強大好きだから、そういうのも苦にならないみたいだし。
 雑務的な事も、元・軍奉行だもの。
 段取り上手というか、何でも出来ちゃうっていうか。
 ちっとも心配いらない感じ。
 
が作ったお弁当、残さず食べてて可愛いよね。今日も空だよ、きっと」
「時々怖いよ。失敗作でも食べきっちゃいそうで。お料理、もっと上手になりたい
なぁ。譲くんって、どうしてあんなに上手なんだろ〜」
 卵焼き、ちょっと焦げてたって美味しいとかいうし。
 無理があるのよ、それって。
 私だってちょっと苦いなと思うもの。
 嘘ってほどじゃないんだけど・・・・・・。

「あれよね、梶原先生って、がいれば何でもいいんだよ。いいね〜、らぶらぶ」
「それもちょっと違う気がするぅ。・・・夕飯は何がいいかなぁ」
 そろそろオムライスかな。
 初めて食べた時に美味しかったお料理って、かなりインパクトあるみたいで。
 定期的に食べたがるから、ケチャップのハート付きで作ってる。

〜。もう少し、こう、若者らしい会話っていうか。お布団干すとか、夕飯の
心配とかじゃなくてさ〜」
「そうだよ。あんまり恋人同士の期間がないまま結婚しちゃったから、そういうの
足りなくない?」
 心配してくれてるのはわかるんだ〜。
 でも、ホントは異世界でたくさんイチャイチャしてましたって言えないし。
 向こうでとっくに妻をしていたので、こっちでも続きで同じですとも言えないし。

「十分だよ!今日はオムライスでダブルハート書いちゃお〜っと」
「・・・やられた。名物、梶原夫婦の惚気攻撃」
 惚気が攻撃になるわけないじゃない?
 そんなくるみちゃんの呟きは無視して、さっさとクッキーをつまんだ。





 十三日の金曜日は、やっぱりいつもの金曜日で。
 景時さんが両手をあげてオムライスを喜んでいた。
 たがら、次の日の朝起きた時に景時さんがいるのも普通で。

「おはよ」
「ん。はよぉ・・・・・・」
 まだ起きたくないな。
 ぬくぬく気持ちイイ。景時さん、温かい。

「昨夜言うの忘れちゃったんだけど、デートしようよ。朝は軽く食べて、昼は
ドライブ付きで外。どうかな?」
「ほんとに?じゃ、支度しなきゃ。朝ご飯は何がいいですか?」
 ぬくぬくとデートを天秤にかけたけど、やっぱりデートは嬉しいの。
 起き上がると髪がもしゃもしゃっとしていて。
 それを景時さんが手で梳いてくれた。

「着替えるだけでいいよ。朝ご飯はちゃん家で食べるから」
「家って・・・家?」
 いきなり実家に帰れと言われてる?

「そ。お母さんには言ってあるし、お父さんも土曜日はのんびり起きるって
言ってたから。今から行けば丁度いいよ」
「・・・パパ、今日は遊びに行かないんだ」
 パパがいんちきサラリーマンってわかってから、出張も嘘くさいし。
 土曜日の接待ゴルフも嘘だったっポイし。
 信用ならない。

「あはは。オレたちを待ってるだろうから、起きようね」
 促されるままに起きて、支度して、朝から実家に帰ってみた。





「おはようございます」
「おはよう、景時さん。も起きられたわね?」
「・・・起きたよ。パパは?」
 そうよ、そうよ。
 せっかくのお休みぬくぬくを中断したんですからね。
 パパが起きてなかったらお仕置きものよ。
「新聞読んでるわ。すぐご飯だから」
 挨拶もそこそこ。
 すぐに伝統のニッポンの朝ご飯。
 食べ終えるとパパに呼ばれて、ついでにお茶してみた。

「可愛いにお返しをしないといけないからね。花奈」
「はい、どうぞ」
 何かな〜って袋から箱を取り出して開けると、オフホワイトの柔らかそうな
パンプス。

「うわ〜、パパのセンスとは思えない。・・・ありがと」
「それはそうだよ。紫子さんとママに選んでもらったんだから」
「あ、やっぱり」
 パパがこのブランドのお店で買ってるの想像しちゃった。
 悪くないけど、ひとりでは変だよ。

「行成さんからは預かってるの。はい、どうぞ。後でお礼を言いなさいね」
「う、うん。でも、この袋って・・・・・・」
 靴と同じブランドのショップバッグ。
 正直憧れるけど、私のお小遣いじゃ買えないもの。
 靴に合う小ぶりのバッグが入っていた。
 きっと紫子さんだ。センスいいのよね。

「景時君もあるんだろう?」
「ええっ?!」
 何にも言われてないよ。
 隣を見上げると、照れくさそうに頭をかいていて。
 景時さんのこの顔好きだなぁ〜。
 そうじゃなくて!
「実は、お母さんにホワイトデーのプレゼント預かってもらってたんだ。君に
見つからないように考えたんだよね〜」
 いつの間に・・・・・・。
の部屋にあるわよ。着替えてらっしゃい。景時さんが選んだお洋服の
イメージに合うように靴やバッグを見立てたのよ。今日のデートに間に合わ
せたんだから」
「服・・・なんだ。ありがとう、景時さん。着替えてくる」
 デートっていうから、ちょびっとはおしゃれしたけど。
 でも、今日のための服だなんて!
 どんな服だろうと思ったら、二階へダッシュしちゃった。

 バルーンなお袖の可愛いデニム生地のワンピース。
 雑誌に載っていて、こんなの着てデートしたら楽しそうだよねって。
 みんなと話をしていたあの服。
 どこから聞きつけて買ってくれたんだろう。
 嬉しくてパパたちの前で一回りして見せびらかして。

「お天気が少し残念だけど、お昼を予約しているので。そろそろ出かけます。
お邪魔しました」
「予約って、聞いてな・・・・・・」
 景時さんに手を引かれて、パパとママに送り出されて。
 何となくわかっちゃったぞぅ?
 景時さん、ホワイトデーの計画してたんだ。
 わざと昨夜言わなかったんだ。
 助手席からじぃ〜っと景時さんの横顔を見ていたら。
 視線はわかるものなのよね。
 みるみる景時さんが耳まで真っ赤で。

「そんなに見ないで欲しいな・・・なんて」
「だって。前に紫子さんに頂いたコートまで着たら、コーディネート完璧
なんだもん」
 この道、知ってる。いつかの海辺のレストラン。

「実は、そのコートがとても似合うなと思っていて。逆に納得したんだよね。
服を買いに行ったまではよかったんだけど、サイズを知りたくてお母さんに
電話をして。そうしたら、すぐ後に紫子さんから電話があって。オレがその
ワンピースを買うなら、皆で揃えようって。その時にね、ちゃんにとても
似合う服があるお店のひとつだって教えてくれた。紫子さん推薦のお店じゃ
大安心だよ」
「あ、そうですね。着物はサイズなんてないもの」
 お洋服はサイズがあるものね。靴もそう。ママ大活躍だわ〜。
 紫子おばさまって偉大。
 どうして私のサイズを知ってるのか、考えたことなかったぞぅ?

「さ、お姫様。お手をどうぞ。ホワイトデーのスペシャルプランにご招待」
「えへへ。照れますね、こういうの」
 レディーになったみたい。
 お席に案内されて、やっぱり海向きで景色がイイ。
 出されるお料理はどれも綺麗で美味しくて。
 デザートが出てきて、スペシャルがわかった。

「ハートのケーキにブーケ!」
「オレがケーキを作ろうかなとか考えたんだけど、みんなが止めろって」
「みんなって?」
「クラスの男子」
 景時さんたら。相談相手が間違っているような。
 でも、パパたちも違うし。
 翡翠さんはクールに決めちゃいそうだから違う。
 菊池さんもそういうのスマートそうだし。
 将臣くんは除外で、譲くんもちょっと違うかな。

「そういえば、これっていつお買い物に行ったの?」
「あ、それはね、オレの誕生日の日。将臣君が付き合ってくれた」
 やられた。将臣くんか〜、仕掛け人。

「もしかして、私が騙されてたのかな?」
「結論はそうかな。将臣君の一石二鳥作戦。説明されてはいないけどさ、君に
頼まれてオレを連れ出さなきゃならなくて。オレもホワイトデーのために空き
時間を必要としている事情を知ってたからね!」
 むむぅ。何もしてなさそうでしてるんだよね、将臣くんって。

「そ〜んな顔しな〜いの!」
「・・・ですよね。すっごく美味しいです。ナッツも入ってる〜」
 崩しちゃうのもったいないけど、食べたら消えゆくものなのよ。

「こぉ〜んな豪華なホワイトデー、初めて。ありがとう、景時さん」
「オレも。バレンタイン初めてだったから・・・ね」
 そっか。チョコレート自体が無かったものね、向こうでは。

「皆もデートしてるのかなぁ。私ね、皆がホワイトデーに映画とか計画してる
話が楽しそうで羨ましくて。景時さんをデートに誘いたくなっちゃったんです
けど、それって日にち的に催促しているみたいで・・・言えなかったの」
「そんなのいいのに。オレとしては、君といられればいいんだけどね」
 やっぱり。お弁当の時に言われた通りだよ。

「この後はどうしますか?午後の予定」
「これっていうのは決めてないんだ。水族館でも映画館でも何でもありだよ」
「じゃ、お買い物して、朝のぬくぬくの続き!お昼寝がいいです」
 朝、ちょっぴりもったいないことしたな〜って。
「それは・・・一番嬉しいお願いかも。そうしようか」
「はい!」



 無理しなくていいの。朔もよく言ってくれた。
 私は私のしたいことをすればいいって。
 私と景時さんのホワイトデーは、いつもの休日の朝に戻って。
 ぬくぬくして過ごそう。
 きっと、景時さんもそれが一番って思ってる!










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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:アップが間に合いました!季節ネタもたまにはいいかと。     (2009.03.14サイト掲載)




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