春だから 「と、いうわけで。これがいいんだけど、長くても四泊五日のプランしかないの」 春休みも間近の週末。 景時とは、何故かの実家で夕飯を食べ終えていたりする。 居間でくつろぐ父親に向かって、掻き集めてきたパンフレットを並べて見せているのは。 「・・・・・・それで?」 付箋がついているプランは、いわゆるフリープラン。 京都へ行って帰るだけのもので、オプションをつけない限り何もなしの、すべて自由行動。 確かにたちに都合が良さそうだが、問題としているのは別の部分らしい。 「こんなんじゃ何にも出来ないよ!パパ、何とかして?」 「そういうことか」 湯呑をテーブルに置くと、顎に手を当て考える。 「長く滞在したい・・・という意味でいいのかな?案内が必要なら、菊池に頼めばいい」 「そうなの!でもね、宿泊だけ増やすと激高料金」 プランの範囲で宿泊を増やすのは割引料金。 規定を超えると、途端に通常料金になるのだから困りもの。 年末年始の時はすべて父親の手配に乗るだけだったのだから、いざ調べてみると、その料金設定の 高さに驚いた。 「本当に計画性がないねぇ?は。もう景時君と宿泊場所は決めてあるよ。とっくにね」 「ええっ!?何、それ。・・・景時さん?」 思わず隣に座る景時へ厳しい視線を向けてしまう。 「あ、ごめん。言ってなかったね。でもさ、ちゃんもパンフレットの事を教えてくれてなかった よね?」 どのタイミングで話に入ろうか迷っていた景時としては、雅幸に話を振ってもらえて大助かり。 の体質から前回と同じホテルにしようと最初から決めていたし、手配も済んでいる。 「それは・・・そうだけど。買い物の帰りに、せっかく旅行社で集めてきたのにぃ」 「ごめんね〜?もう春休みは行くつもりでいたみたいだから。お父さんたちも一緒に何日か行けそう だってことで、先に宿泊する場所を予約してもらっていたんだ。花見の季節は大変らしいよ?」 「えっ?パパ行くの?行かないって断言してなかった?」 行けるとなれば、今度は別の事に意識が向くらしい。 が身を乗り出して父親の顔を覗き込む。 「・・・ふう。どちらでもいいんだよ、私はね。ただ、せっかく仲直りしたんだ。花奈を花見に参加 させたくはないかい?」 母親である花奈の仲直りの相手は、花奈の両親で、の祖父母。 たちの行き先のひとつは、花奈の両親が受け継いでいる神域にある神社。 「あ、そっか。ママも行きたいよね、お花見。じゃ、パパ運転?」 「景時君には特技がなかったかな?」 質問に質問で返される時は、否という事。 学習した自分を褒めたいが、そもそも雅幸が捻くれているのが問題なのであって、今まで騙されて いた事実の方が憐れに思える。 「そうやって何でも景時さんに押しつけて〜〜〜」 「ははっ。大丈夫。道は覚えているし、実際に自分で覚えたいし。喜んで!」 景時としては、方向感覚も道路も実地で覚えたいと考えていた。 雅幸もそう判断していてくれたのだろうと、その信頼の深さに改めて感謝していた。 何事も無くの学校も終わり、景時の方も雅幸が手を回してくれたお陰で、しっかり春休みを 頂戴できることになった。 少しずつ準備をしていたから、春休み初日に京都へ行ける。 「支度出来た?」 「バッチリです。今回は私たちが先なんですもんね〜」 雅幸は何やら用事があるらしく、花奈と後から京都へ向かうとのこと。 「そろそろ来るかな?」 景時が時計を見ようとすると、丁度インターホンが鳴った。 「オレが出るよ」 戸締り確認を始めたに声をかけてから玄関へ向かう。 予想通り譲が立っていた。 「おはようございます、景時さん。今日は母さんが無理を言わないよう気をつけさせるので」 「おっはよ〜、譲君!こちらこそヨロシクね〜。京都まで一緒ってことで」 有川家は年末年始と同じ東山の別邸を宿泊場所に決めたらしい。 将臣にいわせると、虎穴になんとやらで、相手に居場所を教えておいた方が面倒がないのだとか。 紫子もそれに賛同し、また、京都に不案内な息子たちだけでは心配だと同行を決めた。 確かに変に詮索されるよりはいいかもしれない。 「ええ。先輩は・・・寝ちゃうんでしょうけどね」 「あはは〜。それ、否定出来ないな。ソファーでもね、いつの間にか眠っていて可愛いんだ」 気づけば景時に寄り掛かって来る。 景時は雅幸から譲り受けた書物を出来るだけ読んでおきたいのだが、自室ではの姿が見られ ない。 リビングのソファーで読むようにしていたら、片づけを終えたが隣に座り、料理本を開く手 が止まったかと思うと転寝してしまうという、ゆったりとした夕食後の時間が日課になりつつあり、 そうして迎えた春休み。 「・・・母さんが先輩の寝顔を撮ったりしないよう見張っときます」 「オレにもくれるんならいいけど」 真顔で返してくる景時の発言にこめかみ辺りを押さえていると、 「おはよう、譲くん。お待たせっ。もう行けるよ」 が玄関の鍵を手に小走りにやって来た。 行成を欠いた有川一家と新幹線での移動。 仕事があるので行けないということらしいが、紫子をひとりにしてもいいのだろうか。 着いたら別行動なのは決まっていた事だし、将臣と譲もどこかへ行く予定らしい。 そう考えているのは景時だけなのか、誰にも変わったところは見受けられない。 (晴純さんからすれば妹だけれど) 紫子の笑顔に曇りは無く、も楽しそう。 景時だけが要らぬ心配をしているようで、それはそれで不安になる。 「ちょっと隣に行って来る」 将臣はひとりがいいというので、将臣だけが隣の個室。 こちらは譲に任せ、将臣がいる個室のドアを叩いた。 「起きてるぜ〜」 「お邪魔するね」 景時の訪問を予想していたようで、将臣は足を伸ばし、スペースを広々と使って座っていた。 「母さんなら・・・翡翠さんの部下たちがいるから問題ない。逆に、あの別荘は盗聴されてるかも しれないし。だったらそれを有効活用ってんで話はついてる」 「・・・だよね〜。別荘の管理、晴純さんなんでしょ?」 紫子が欲しがっている別荘は、父親の持ち物だとしても管理者は晴純。 「まあな。それに、晴純伯父さんは母さんに手出しできない。言っただろ?久しぶりの女だって。 有川に嫁いでるが、藤原の姫という立場に変わりは無いんだと。本来、星の一族の血筋は女性がは じまり。だから、星の一族について、一応は晴純伯父さんが後継ぎらしきになってるけど、見届け をする役目は母さん。じいさんもそれをわかってるから母さんを自由にさせてる」 行成によって事前に知らされた情報を正確に景時に伝える。 「あ、そういう事。困るのは向こうかぁ・・・それを知ってるから、紫子さんもあんなに強気で」 「ま、そういうことだ。・・・母さんの気が強いのは、もともとの性格だけどな」 最後の方は小声になっていた。 「それで?どうしてわざわざ敵の本拠地の近くに行きたいんだ?がじいさんばあさんに会いた いってだけじゃ弱すぎる」 「確かめたい。敵の本拠地というのなら、オレを良く思っていない人が数人いるというだけで、敵 としていいのかもわからないんだ。ただ、確かめたい。そして、知りたい。あの地をどうすれば救 えるのか。そのためには、もう一人の地の白虎の八葉に会わなければいけない。安倍晴明という稀 代の陰陽師と面識があるらしくてね。そもそも、ちゃんを助けられたのは、晴明殿が残してく れた護符のおかげ。どこまでの未来を予測して残してくれたのかとか。すべての答えはあの土地の 歴史の中にしかないと思ってる」 将臣の目を見つめ、真剣に本心を明かすと、 「ったく。毎度毎度、勉強より性質が悪いっての。答えが決まってるもんなんて楽だよな」 照れ隠しなのか、髪を梳くように頭を抱えて溜め息を吐いて見せられた。 「それが答えだってわかるまで、誰かが調べてくれたからオレたちが楽してる。そう考えたら同じ だよ」 「オーケイ。調べものなら母さんの顔で行けるところがたくさんある。“藤原の紫姫”といえば、 出入り自由なんだが・・・行くと向こうさんにも知られるリスク有り」 幼い頃から父親に連れ歩かれ、それこそ目に入れても痛くないという可愛がりようだったらしく、 母親自身が言っていた。 『お財布なんて、持ったことがなかったの』 誰かが支払わねば物は買えない。 そこに長年気づいていなかったというのだから、将臣からすればどういった家だったのかと疑問 だった。 異世界で平家全盛期に客人扱いで住まわせてもらうまでは─── 「ありがとう。何とかなるかな。歴史なんかは雅幸さんのお父さんが強い味方。神事が知りたけれ ば、花奈さんのお父さん。陰陽術に関しては、晴明神社の方がいて。紫子さんにお願いするとすれ ば、その土地の持ち主を調べたかったり、会ってみたかったりっていう時かな。個人の敷地内に入 りたい事情が出来た時、いきなり見せろっていうのは無理だろうし。もしも知り合いなら、庭を見 せてとか頼みやすいからね〜」 「知り合いの知り合いにだって頼めるから安心してろ。んじゃ、そういう事でこっちの個室を提供 してやる」 将臣が立ち上がり、軽く親指を立てる。 「あっ・・・そんな・・・・・・」 「いいって、いいって。母さんと一緒じゃ、アイツも居眠りできねぇだろうしな。待ってろ」 将臣らしい気遣いをそのまま受け取ることにする景時。 「ありがと。旅行が楽しみ過ぎて、昨夜なかなか寝付けなかったみたいでさ」 「んなことだろうと思ったぜ」 そうまで気負わなくても、予定は予定通りに時間が経過すれば訪れる。 寝るのが惜しくなるほど楽しみと思える素直さを持ち続けているを羨ましいと思う。 「ところで、将臣君たちは向こうで何するの?」 「俺か?俺は翡翠さんトコに弟子入り。郷になんとかってもんで。譲は弓の稽古とか言ってたぜ? 花奈さんの実家で。結局、純頼が転校してきちまったから、個人戦しか勝負できないんだと」 いかにも将臣らしい選択と、譲らしい選択。 「頑張るねぇ?」 「おう!あれだけの人の傍にいられりゃ、仕事しても困らない何かは学べるだろ。一応、上に進む 予定ではいるけどな。お勉強だけじゃ何かと不足ってワケ。じゃあな」 やはり将臣の着眼点は、同世代に比べると何手も先に行っている。 頼もしい背中を見送ると、目蓋を閉じた。 「ほんと・・・君の幼馴染たちは頼りになる」 もうすぐ来るだろうの笑顔を思い浮かべる。 八葉の仲間たちに会いたいと思うのは、こんな時。 (オレひとりじゃ何もできないけれど・・・皆がいれば) 助けてくれる仲間がいる。 八葉という絆がなくても、友人であったり、家族であったり、別の絆もある。 本来の繋がりの意味を、身を持って知った。 「景時さん!将臣くんが、景時さんが眠そうだから傍にいてやれって」 ノックと同時に扉が引かれ、返事をする間もなく待ち望んでいた人物が飛び込んでくる。 「もしかして、疲れてます?慣れないお仕事してたんですもんね。せっかくの休みだったのに、私 が京都へ行きたいなんて言ったから・・・・・・」 向かいではなく、景時の隣に座ってくれた。 その距離が心地よく、の肩へ寄り掛かった。 「着いたら試してみたい事がありすぎて、考えていたら眠くなっちゃって。これぞ睡眠学習?」 「もう!でも、私も少し眠いから、寝ちゃいましょうか。きっと譲くんが起こしに来てくれますよ」 さすがというか、幼馴染たちの役割分担を無意識に理解しているらしい。 時間に几帳面な譲の方が、起こしに来る確率が高い。 「じゃ、おやすみ〜」 「一応アラームセットしておきますね」 手早く携帯を操作すると、景時の肩へ身を預ける。 ただの移動時間が、充実の休息時間となった。 「まだ寒いなんて〜」 「そうねぇ、京都は盆地だし。朝晩はまだまだ寒いわね」 三月の下旬だというのに、薄手とはいえコートを脱ぐには寒すぎる。 ホームでが小さく身震いをすると、さりげなく景時が風上に立ち寒さを防いでやる。 そんな二人を見た紫子が微笑み、時計を見てから将臣の肩を叩いた。 「一度家でお茶を飲んでから出かけてはどう?」 紫子の提案に、 「あ、それいいな〜。ついでに何か食いたい」 「兄さん!朝飯食べただろ?」 「だな〜」 ふざけているが、とりあえず将臣も譲も否定をしない。 すると、様子を窺っていた景時が、 「じゃ、オレたちもお邪魔させていただこうか?まだ店もあまり開いていないしさ」 「賛成!それに、私もちょこっとなら何か食べたいかも〜。パンケーキとか〜」 上手くの返事を引き出し、参加となった。 藤原家所有の別荘にお邪魔するのは、景時たちにとっては二度目。 紫子には故郷でも、将臣たちには思い出らしい思い出は無い。 景時とにしてみれば更になにもない。 何もないのに懐かしさを感じるのが、京都という街が持つ魅力なのだろう。 「やっぱり眺めがいいですよね〜〜〜」 窓の外、眼下に広がる街並みがどこか春めいて明るい。 京都でパンケーキというらしい脱線ぶりだが、そこはご愛嬌。 譲は各自のリクエストに見事に応え、到着早々料理人に早変わり。 「うん。春だね〜。これ持って散歩に行きたいよね〜」 おにぎりを頬張りながら景時がつられて景色を眺める。 「お前ら食うかふらふらするかしかやることないのかよ」 どんぶりメシで二度目の朝食中の将臣。 いくらなんでも食いしん坊という点については将臣に言われたくない。 すかさずが言い返す。 「食べてるだけの将臣くんに言われたくありませんっ!いいの。今回は新婚さんで来てるんだから。 いちゃいちゃのラブラブのデートで、ご飯は当たり前なの。ひとりぼっちで予定なしの、可哀想な 将臣くんは、この後は昼寝ですか〜〜〜〜〜?」 景時と将臣の誘導とも知らず、上手くが話を振ってくれた。 「俺か?俺は・・・近所をフラフラ腹ごなし。で、また何か食う。花見団子とかありそうだよな」 「まったく計画立ててないんだ。しょ〜もな。譲くんは?」 大雑把な兄より、几帳面な弟の考えが知りたい。 「俺ですか?俺は弓の稽古と道具を買おうかなと。それに、京都の食材も覚えたいんですよ。先輩。 年末は京風おせちの特訓ですからね?まさか忘れていませんよね」 きりりと眼鏡をかけ直しながら言われると、いくらでも記憶の糸を手繰り寄せるしかない。 「はい・・・よろしく・・・お願いシマス・・・・・・」 「なんだ〜?声が小さいな〜〜〜」 形勢逆転の将臣が調子に乗ると、 「まあ!じゃあ、家に来てくれるのよね。楽しみだわ〜。鎌倉で京風もいいわよね」 紫子がさらに未来へ思考を飛ばし、今にも来年用のの着物を買いに行きそうな勢い。 「場所なんてどこでもいいじゃないですか。もしかしたら、またこちらで年越しかもしれないし。 どこでおせちを作っても味は変わりませんよ」 鎌倉の方が確かに安全だ。 だが、が年末にいたい場所が鎌倉限定とも思えない。 譲の考え通り、まさには場所より料理を気にしていた。 「お料理は少しずつ覚えるからいいんですぅ〜〜〜。一度に全部なんて無理だもの」 「まあ・・・なぁ?」 返事に困った将臣の視線は、から譲、譲から景時へと移る。 「ちゃんの料理は美味しいよ。愛情たっぷりだから。個人的にはハートが気に入ってるんだけ ど、ハートはオレ限定だからね!」 さも他の者たちにはわかるまいと胸を張る景時。 「ケチャップ味が好きなのか?」 「酸味と甘みが美味しいけどさ〜。あの形がね?意味を教えてもらった時から気に入ってるんだ」 軽く片目を閉じれば、だけが真っ赤になって俯いた。 「そういえば・・・やたら記号がどうたらって知りたがっていましたよね」 「へ〜、へ〜。いつでも何でも確認に来られてたっけな」 異世界での梶原邸でのやり取りを思い出す。 「だってさ〜、ちゃんは知ってて使うけど。オレは知らないわけよ。それって何か意味がある んじゃないかって思うのが普通で。でしょ?」 この辺りの探究心の差が勉強好きと嫌いへの分かれ道。 景時は知りだがりゆえに、知識を得ることについて苦は無い。 「知らん。二人でやってくれ。俺は・・・散歩に行って来る。天気もいいしな!」 大きく伸びをして立ち上がると、将臣はさっさと部屋を出て行ってしまう。 「気まぐれねぇ?あの子は。ちゃんたちはどうするの?私はここにいるから、いつでもここへ 来てね」 「はい!私たちは・・・パパたちが来るまでは行きたいトコふらふらしてきます。お花見は一緒で すよね?ママのお家の」 紫子たちもわざわざ京都まできているのだからと参加を確認する。 「ええ。譲もあちらでもう一度弓を射たいっていうし。確かに練習にはいいわよね」 「練習というより、修行のつもりなんですが」 明らかに言葉の重みが違う。 それについて母親に説明するつもりはないが、言葉の訂正だけはしておきたい。 「そう?いいのよ、ここが手に入るなら。ここは・・・清水とは地続きで、由緒正しい土地だから」 水の流れが滞っていない神域。 古来より、山には神が住まうという信仰がある。 四神でいえば青龍が守護する方角でもあり、まさににとって心地よい土地だろうことは紫子 にも想像がつく。 「まあ・・・別にいいんです。負ける気がしないですから。ただ、パーフェクトを目指したいだけ です」 与一に言われた。 生きたければ腕を磨いて、生き残れる手段を得ろと。 (俺は師匠の言葉を守りたい) 譲の決心が静かに伝わる。 「譲は真面目過ぎるのよね。お茶の相手だけしてくれればいいわ。午後にはお菓子も届くから」 「・・・わかりました」 紫子の機嫌を損ねるのは得策ではない。 今日は大人しく母親の相手をしようと決めたらしい譲。 「あの・・・おば様。夕ご飯、ご馳走になってもいいですか?」 「ほんとに?譲が頑張るから大丈夫よ!」 本人の承諾も得ずに勝手に請け負う。 「すみません。まだまだ不案内だし。出来れば今日は慌てないで食べたいっていうか」 ホテルで済ませるのも手だが、あまり出歩いてしまうのも相手に警戒されそうでしたくない。 ふらふらしていれば自然と翡翠の方から何らかの繋ぎをつけてくれるとも思う。 「そう?そうよね〜。せっかく京都なんだし、和食よね。・・・将臣はどうでもいいわ」 普段からいない長男は、あっさり無視されたらしい。 「わ〜い!おばんざいがい〜なっ!!!」 振り返ると料理人にリクエストする。 「道具を見がてら食材も仕入れてきますよ。デザートも和菓子系でいいんですか?」 「デザートは買ってくる!色々食べ歩きして美味しいのにするねっ」 すべて頼むのは悪いと思ったのか、またもから都合のよい返答。 「じゃ、食事だけ準備しますね」 「ありがとう、譲くん!そろそろ出かけてきます。神社って、早くてもいいんですよね?」 が紫子を見れば、 「神社は日の出とともにいいというところが多いわよ。お寺は八時とかかしら。有名なところは 少し遅めだけれど、神社なのね?」 「あのぅ・・・前にデートしたところにもう一度行きたくて」 「あら、あてられちゃったわ。午前中の方がいいから、途中まで車で送らせるわ」 こちらも上手く行き先を誤魔化しつつ告げられ、とりあえず外出となる。 残された紫子と譲は、互いに顔を見合わせていた。 「可愛いわよね、ちゃん。後でどこへ行ったか聞かなきゃね」 「母さん。そういうの、何て言うか知ってます?」 言葉にトゲがあろうとも、譲の頬も緩んでいる。 「もちろん知ってるわよ。でもね〜、興味があるの!」 「まあ、二人を尾行しなかった点だけは褒めてあげますよ。俺も出かけてきます」 午前中の方が集中できる。 流す程度に弓を引きたいと、事前に調べておいたメモを取り出す。 「そうね。いってらっしゃい。昼には戻る?」 「ええ。着替えてから夕飯の食材仕入れに行きたいし。少し遅めの昼で我慢して下さい」 紫子の意図は正確に伝わり、昼食担当も決定した。 別荘近くの駅まで送ってもらい、手を繋いでの移動にした景時と。 自分で歩いた方が何かと感覚が掴みやすい。 「伏見でいいんだよね?」 念のため確認すると、 「そぉ〜です。あのたくさんの鳥居を歩きたい」 「二時間は覚悟してね〜〜〜?」 「ええっ!?ちょっと大変かな?」 心配気な瞳で見上げられた。 「向こうにいた時は、もっとたくさん歩いていたから大丈夫!」 「だといいな。最近、楽してばっかりだったもん」 当時を思い出したのか、本殿奥の山を眺める様子は楽しげなものに変わる。 「それに。この地は水に最適だし。山は金で、森は木の集まり〜」 詳しく言うつもりはないが、火の要素以外はそろっている場所。 今のなら、修行らしい修行をしなくても気を集められるだろう。 (伏見もなんだよな・・・だから・・・なのか) 清水もそうだが、伏見も清浄な気脈が保たれている。 翡翠が隠れ家を伏見にした理由のひとつともとれるが、翡翠は陰陽術を使えない。 「景時さん?」 「ん?あまり最初に張り切ると、脹脛にくるから。のんびり行こう!」 常よりも緩やかな歩みの景時のことを、疲れたのかと心配したらしい。 「あのぅ・・・・・・」 「こういうのは、景色を楽しんでたら着いちゃったのくらいがいいと思うよ。適度に運動すると おやつも食事も美味しくなるし」 色々と理由はあるが、ゆっくりしたいのは事実。 食事の部分を強調したのが功を奏し、が手に力を込めたのが伝わってきた。 「がんばりますっ!」 「時々深呼吸をして、山の神様にご挨拶しながら行こう」 気を取り込む練習をしながら頂上を目指す。 楽しい修行もどきな一日の始まりとなった。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:ご無沙汰な現代編。春ですよ! (2010.07.25サイト掲載)