早春の足音  ≪景時side≫





 ぶっちゃけ、節分過ぎたら春ですよ。
 こっちは暦が違うからね。
 でも、二月は寒い。
 まだまだ冬の範囲だと思う。
 けれど、三月ともなればお日様はきらきらして、陽も長くなった。
 そうして期末テストも終わり、卒業式も済み。
 残すところ、在校生は終業式待ち。
 ・・・ま、これは学校側の予定。
 生徒たちにとっては、ホワイトデーがあるしね。
 何だかそわそわしてる。オレも含めて。
 
「何がいいのかなぁ・・・・・・」
 ちゃんは何が欲しいのだろうか?
 共学でよかったと思うのは、情報収集が容易い点。
 しかも、お節介で可愛い生徒たちは、オレの心中を知ってか、よって
たかって集まって来てくれる。
 授業の帰りに廊下でふと漏らした一言。
 肩に突然のしかかる重み。
 面倒だから背負ったままで歩く、歩く。

「あっ、ひでーの。梶原先生、無視かよ〜。ほら、コピーして来た」
「そう、そう。参考にどうぞ〜。義理のお返ししなくていいなら、本命
だけで楽じゃん」
 群がる男子生徒たちによって手渡された雑誌のコピー。
 見れば見出しも大きく───

「ホワイトデー特集・・・だってさぁ、手作りのチョコレートケーキに
買った物で返すのって、違和感あるんだよねぇ」
 特大の溜め息を吐いてみせると笑われる。
 ・・・オレは笑われ体質らしいよ、朔。
 こちらの世界に居ない妹が、呆れた顔で溜め息を吐いて嫌そうな顔をする
のが目に浮かぶ。

「男が何を手作りするんだよ。今時、変なものやったら喜ばれるどころか
引かれるって。だったら、女が好きそうな食いものかアクセサリー系が
無難なんじゃないの?高校生の俺たちじゃ、土曜日ってことでデートも
つけるわけよ。先生もデートに誘えばいいじゃん」
「だよな〜。女子の話じゃ、洗剤切れてただの、生活臭漂うカナシイ話題
なんだって?手を繋いでの帰り道の話題じゃないでしょ、それ」
 オレの肩を叩いては教えてくれるんだけど、どうもね。
 何をあげても、しても、本当に喜んでもらえるのか自信ないんだ。

「最高の笑顔が欲しいんだよねぇ・・・・・・」
 こう・・・渡した時に、パパパッと弾けるというか。

「出た!名物、惚気攻撃。今のはダメージでかい」
「ちょっと、ちょっと。胸なんて抑えてる場合じゃないんだって。オレは
もう泣きたいくらいに思いつかなくて困ってるんだからさ〜」
 逃げられる前に確保。
 逃がさないから。
 飛んで火に入ったのは、君たちでしょうが。

「いい加減、その辺で手を打ちなよ。実際、限定品じゃそろそろ予約も
危ないと思うぜ?」
「そう、そう。薔薇の花束を君に〜とか、してみたら?じゃまだ年の
数分の花も少なくて済みそうだし」
 確かにそうなんだ。
 もう十日を切ってる今となっては、手遅れに近いものもある。

「とりあえず、これ読みながら考えるよ。ありがとう。次の授業、遅れ
ないよーに」
「りょーかいっ!また何か見つけたら持ってくる」
 いいね〜、可愛いね〜。
 オレのためにせっせと調べてくれちゃって。
 ま。半分くらいは自分たちにも関係あるってトコだろうけど。

 この時のオレは、まんまと君と将臣君たちの策に嵌められているとは
気づいていなかった。



「景時〜。今日の帰りさ、ちょっと付き合えよ」
「付き合えって、オレは帰るよ〜。早く帰れそうだし」
 せっかくちゃんと帰れる貴重な日。
 何故に将臣君と帰らねばならないのか。
 しかも、それじゃちゃんがひとりになっちゃうでしょうが〜!

「・・・あれだ。俺の親切は本日限定だ。何故ならば、他はバイトで空いて
いないんだな〜。・・・ホワイトデー、が欲しいものリサーチしたん
だけど。この情報料はお高いですぜ、旦那」
 首に絡まる腕の重みと引き換えに、なんとも甘美な誘い文句が囁かれる。


 ちゃんの欲しいもの───

 
「ちなみに、情報源は綾乃たち。俺が頼んで聞き込みしてもらったわけよ。
その苦労を労ってもらいつつ、買いに行くというお得な提案なワケだ。
どうよ?行くのか?行かねぇのか?」
 正直、ここまで言われると選択肢がない。
 行くしかないんだな〜、もう。

「・・・ちゃんに言ってくる」
「あ、心配なし。譲にクラブ休ませて、家まで送れって言ってある」
「それって、最初から提案じゃないよ」
 なんとなく優柔不断なところがあるオレとしては、彼の強引さは有り難い。
 やっぱり将臣君って、兄貴だ。

「じゃあ・・・行こうかな。うん。買い物、付き合って」
「OK!野郎二人ってのが難点だけどな」
 用意がいいことに、送迎付きで買い物に行った。
 まさか君が欲しいものが、こういうものとは思っていなくて。
 照れくさいものの、プレゼント用にしてもらって。
 秘密にしたくて君の実家へ寄ってもらって、花奈さんに預けた。



「夕飯、食べて行く?」
「あ〜・・・少しだけ邪魔するかな。譲、こっちにいると思う」
「そっか。ちゃんを送ってもらったしね」
 別に何の疑いもなく家のドアを開けて。
 君の笑顔で迎えられ。


「今日って何かあったっけ?」
「今日は景時さんのお誕生日!こっそり用意したくて、将臣くんに頼んじゃい
ました。だって、景時さんが家にいたら、サプライズにならないもの!」
 あまり馴染みがない事だったため、回想しても探せない。
 年齢の数え方が違うという話題にはなったような。
 それが己の身に降りかかるとは、これぞ青天の霹靂。

「お誕生日、おめでとう!皆でご飯を食べましょうね。ケーキはズルして
買っちゃいました。ごめんなさい」
 それでも、それは頼んで作ってもらったのだとわかる。
 思いっきりオレの名前入りのケーキ。

「あ、ありがとう」
「いいから座れよ。腹が減って死ぬ〜」
 将臣君に背を押されて、自分の席に着く。
 そう、オレのいるべき場所。

 いつもより賑やかで。
 いつもよりちょっぴり豪華な食事で。
 楽しい時間はあっという間で。
 二人が帰った後に、ちゃんがプレゼントをくれた。

「ありきたりなんですけど・・・ネクタイ。去年たくさんお買い物して
揃えちゃったから、何だか決められなくって」
「そんなこと・・・ないよ。すっごく特別な感じがして嬉しいんだ」
 生まれてきてくれてありがとうなんて。
 生まれてよかったと思えたのなんて。
 君と出会わなかったら、そんな風に自分のこと思えなかったと思う。

「あの・・・誕生日の記念にお願いはアリなのかな?」
 これはお約束でしょう。
 夜のお約束をいかにして伝えるか。
 まずはお伺いを立てなくてはね。
 オレが先に起きればいいんだし、朝ご飯を外にすれば万事解決。

「・・・なんとなくそんな予感はしていました。ど〜んと来いです。
何色がいいんですか?」
 真っ赤になりながらも胸を張って応える君が可愛くて。
 全部言わなくても伝わっていたんだと思うと、どうにも嬉しすぎて
困りもの。
 ついつい抱きよせて、今宵の希望を伝えてみた。



 すぐに脱がせちゃうけど、白にしてね───



 後で考えると、無意識にホワイトデーを考えていたかもしれない。
 しかも、もしかしたら君は将臣君に騙されているよ?
 オレを単に家から遠ざけようとしただけなんだろうけれど。
 それはそれで内緒がいいから、まだ秘密だけどね!










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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:ぷちお誕生日ものになりました。     (2009.03.14サイト掲載)




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