解釈  ≪景時side≫





 お約束の風呂である。
 何がって、ちゃんの髪を洗うのが目的。
 いや・・・それ以外もないとはいえない。
 オレとしても、邪な気持ちがないわけではないのだが。
 が!・・・なのだ。
 そこは、それ。
 気持ちをひた隠しに隠しまくり、無心を装い髪を洗う。



「あの・・・景時さん。私ね?その・・・薬で眠っていて・・・・・・」
「うん。・・・ごめんっ!どこか痛い?変な感じ?」



 しまった!あまりに普通に話して、ご飯食べてなんてしてたから。
 君の体調に気づかなかった。



「ちっ、ちが・・・の・・・そうじゃなくて、だから・・・たぶん」
「・・・違うの?よかった〜。あ。頭が痛いとか、気持ち悪いとかある?
そういうのとも違うって意味?今からでも病院に・・・・・・」



 この時間だと、どうなんだろう?
 でも、以前お世話になったあの病院ならば・・・と。
 そんな事を考えていたら、振り返ったちゃんが涙目で。
 頭の中が真っ白になった。



「その・・・何もなかったと思う。なかったの。・・・洗うのって・・・
そのぅ・・・・・・自信ないけど、大丈夫だから」



 まったくもって女心に疎いとは不便だ。
 こういう時に朔がいてくれたなら。
 頭に岩が落ちてきたほどの衝撃を受けた。



「ごめん。そういう意味で髪を洗いたいってことじゃないんだ。・・・
君が汚されたとか思っていないよ。コレ言うと叱られそうだけど・・・
式神がね。純頼君が髪に触れたの伝えてきてさ。だから・・・全部オレの
なのにって。オレの奥さんに何するんだよって、単純にヤキモチ。何かなんて
あるわけないんだ。あったら・・・オレ、自分を許せない」



 大切に、大切に抱きしめる。
 ごめんね?君の方が何倍も不安で緊張していただろうに。
 オレは自分の気持ちしか考えていなかったよ。



「・・・も、いいの。信じてもらえないのかなって思って、それが怖くて。
寝てた時の事はわかんないし、ちょっと自信なくって。だからたぶんって」
「大丈夫。そのための式神なんだから。遠くても、純頼君を吹っ飛ばすくらいは
出来なくもないんだ。ただ、今回はそんな事をしても君を助けられないのが
わかっていたから我慢した。それだけ。それに、一発勝負というなら、コレの
成果を違った形で使えると考えてもいたから」


 晴明様の護符。
 今回のように使うつもりで修行していたんじゃないんだよね。


「これ?違うって・・・・・・」


 可愛いなぁ。小さいけどやっぱり桃色の水球なんだね?
 ちゃんの中では、もうそれが定着してしまってるんだ〜〜〜。
 何だか楽しい気分にさせられる。


「元々は気脈から遮断できる小さな結界の役割。ただ、中に君が自分で入れる
ならば、もしもの時に君だけ別の場所へ移動させられるとは考えていたんだ。
例えば、オレが守りきれなさそうな時とか」
 そう。この説明の仕方じゃ君は怒るかもしれない。
 それでも、もしもの備えとしては考えていた事だ。

「なっ!そんなの・・・・・・」
「そうだよ。オレの自己満足。でもね、必ず君のところへ戻る。そう思ってる
のも事実だから、あんまり怒らないでね?場合によっては君がいない方が
大きな術を使える事もあるってだけ。巻き込みたくないからね。それこそ嵐の渦
なんて、自分だけでいっぱい、いっぱい!」
 両手を上げてバンザイをしてみせると、君が笑ってくれた。


「うん。離れるの前提じゃないなら・・・いいです。今度は私の番ね?」
 座っているオレの後ろに君が立つ。
 髪を洗ってもらえるんだと思ったら、気持ちが浮き立ってしまう。
 我ながら単純だ。


「景時さんは・・・体調はダイジョウブ?」
「オレ?オレは・・・ちゃんをぎゅ〜ってして、髪も洗ってもらっちゃって。
元気、元気!後はぁ・・・・・・もうないかな、うん」
 君を車で抱き留めた時点で、オレは自分の事なんてどうでもよくって。
 こうして二人でいられてよかったと、ただそれだけ。

「・・・無理しないで下さいね?」
「してないよ。しないように今日はこちらに泊めてもらおうと思って。さすがに
今、もう一度ってのは厳しいからさ。オレなりにお父さんたちに甘え中」
 実際そう。
 今日ばかりは、もう一度あの術を使うのは無理。
 だからこそ行成さんの家。
 もしもの時には白龍も呼べるこの場所は、安全地帯なんだよ?
 君にとっても、オレにとっても。



「よかっ・・・た・・・・・・景時さん、いつも一人で抱え込んじゃうから」
「ははっ。信用ないのは前科があるから仕方ないけど。将臣君に言われたからね。
オレたちの事を助けたいと思う人がいるのって、それもチカラのうちなんだって」
 二人で湯船に浸かりながら、なんとなく手を重ね合わせる。

「・・・・・・今日は・・・・・・」
「君は悪くない。将臣君風に言うと、もともと向こうが悪いってカンジ?」
 自分でなんとかしようと君が考えてしまうのは当然な事で。
 そんな状況にしてしまったオレに非がある。
 ただ、それよりも悪い方々がいるのは将臣君の言う通り。



「えへへ。朝ご飯。何でしょうね?」
「何だろう?ご飯かな〜、焼きたてパンかな〜?案外両方だったり。お父さんたちも
こちらに泊まりそうだったしね〜」
「・・・隣なのに?」
「うん。ここの土地がいいんだ。そういう事。隣でも大差ないけどね。翡翠さんが
来てるし、話したいこととかあるだろうし?」
 翡翠さんがこの家に到着したのは、たぶんだけどオレたちが高速に乗る頃。
 向こうの動きを掴んで、もしもの備えで来てくれたんだろうな。
 しかも・・・新幹線の始発前に京都に帰ってしまいそうだ。
 ちゃんの言葉によってなんだけど、気づいてないかな。
 花梨ちゃんに会いたくて、部下の人に無理言ってそうだけどなぁ?
 だから。
 早く話しを済ませておくには、こっちで話して、さっさとお開きと睨んでいる。
 これで友雅さんが加わったら怖い。
 オレはそんな人たちと知り合いで光栄といえば光栄なんだけど。

「よかった〜。花梨さん、お菓子食べたくってイライラだったみたいだし。でも、
確かにスナック菓子とかばっかりじゃよくないだろうなぁとも思う。菊池さんが送って
くれたお菓子みたいのならヘルシーですよね?きっともう翡翠さんが何か考えて
ますよね!」
「あはは。だろうねぇ・・・・・・」
 今頃、何を話してるのかな。
 気になるけど、後でわかるだろうし。
 今日はぜひともこのままがイイ。
 しかし、お礼もしたいから、君の言葉をそのままアイツに伝えておこう。
 メールは便利だ。


「さ!髪を乾かして、早く寝ないとね。明日も学校だ」
 明日は純頼君がいないだろうが、油断大敵。

「えっとぉ・・・・・・」
「もちろん、オレが乾かすからね。はい〜、座って、座って」
 いつものように、サラサラってなるように。
 早く触れたくて、それこそブラシを使いながら丁寧かつ手早く乾かす。


「オレの・・・・・・」
 サラサラと手から零れる髪の感触。
「・・・変なの」
「変?変かなぁ〜〜。オレとしては、ちゃんに関しては欲張りなんだ。だから、普通」
 背後から抱きしめ、背中に口づける。
 確か・・・明日は体育が無いよね?あってもいいけど。


 ちゅっ───


「・・・したっ!景時さん、反則〜〜〜」
 振り返る君の顔が真っ赤で可愛くて。
 叱られているのに、ちっとも怖くない。
 いや、怖いんだけどね?拗ねると口聞いてくれないから。

「・・・景時さんもだよ?今日は絶対に許さないんだから!」
「オレ?」
 どうやら今日はご機嫌がよくないらしい。
 まあ、あんな事のあとでよいというのは無いだろうなぁ。
 でもさ、ちょっとくらい・・・・・・。

「私が乾かしてあげますね」
 ああ、なんだ。
 そういう事かと、今度はオレが座って髪を乾かしてもらって。


 がじっ───


「・・・あのぅ・・・ちゃん?」
 オレを食べても美味しくないよ、うん。
「ふ〜んだ。景時さんだって、偶には恥ずかしくてもいいでしょ」
 偶にはねぇ・・・恥ずかしいのかな?ここって。
「オレは体育とかないから・・・着替えないし、あんまり恥ずかしくないかもね?」
 肩を噛まれたけど、別にここって見えないし、見せないねぇ。
 少なくとも、君以外は見られない。
 オレの着替えや風呂なんて、君しか見ないでしょ〜。
 その上、こんなに優しい噛み方じゃ、今だけだよ?この歯型があるのってさ。

「・・・・・・はぅぅぅっ!いいのっ。・・・私だって、ヤキモチたくさんなんだから!」
 あ、そういう事〜?
 少しばかり情緒不安定かな。うん。

ちゃん。ここ!ここにおいで〜」
 口では優しく。
 だけど、手はしっかり君の手首を捉え中。
 嫌は聞かないからね?

 すっかり大人しくなった君を膝に抱えて、改めて幸せ満喫中。

「・・・ごめ・・・なさい」
「ん〜?コレならすぐに消えちゃう程度。ちっとも痛くなかったんだからさ」
 肩口を叩いてみせると、君の指が触れてくる。

「だって・・・・・・」
「ホント。オレって痛がりだから、痛いのは我慢できないんだよね〜。泣いちゃう。今は
泣いてないでしょ?だから平気、平気!」
 オレの軽口が役立つのはこんな時。
 君が笑ってくれたから、なんだかとても安心してしまう。



 君をぎゅぎゅっとしてベッドへ転がったまでしか記憶がなくて。
 翌朝目覚めて驚くのは、また別のハナシってことで! 










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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:はい、次!     (2008.08.18サイト掲載)




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