盲点 あまりにが大人しいのが気になるが、下手に刺激して車内で暴れられたり、ましてや 器物破損という事態は避けたい。高速での事故は都合が悪い。 それ故にが窓から外を眺めているのを止めはしないし、近づきもしない。 の後ろ姿へ視線を合わせ、見つめるだけの純頼。 (そろそろ諦めてくれたかな・・・・・・) 夕闇が迫る風景を眺めているの視線は、どこにも定まってはいない。 時折光に反応しては天を仰いでいる。 自分たちの車が陽が沈む方角へ向かっているのが皮肉に感じられる以外は、とくに気になる 点はなにもない。 「・・・君を迎えに来てくれないなんて、薄情な旦那様だよね」 に聞えるか聞えないかの小さな呟き。 年末の京都での事を考えると、景時が何も仕掛けてこないことが不気味だ。 (君を大切に思うからこそ・・・手を出しかねている?) 藤原にとって必要な人物と人質が一致しているだけだ。 それがどのような意味を持つのかまでは純頼には理解できていなかった。 「ちゃん。君が嫌でも・・・たぶん君は僕の花嫁さんだよ?」 今度はに聞えるように口にすると、ゆっくりとが振り返った。 「うふふ。意味わかんないです、それ。私は景時さんの奥さんだもの。それに、もうとっくに 迎えに来てくれてるの。バイバイ」 が満面の笑みを浮かべている。 その時、そこにいない人物の声が純頼にも聞えた。 『ちゃん、お待たせ。おいで?』 声につられるようにが車の後方へ向かって両腕を伸ばす。 一瞬ではあるが柔らかなピンクのシャボンにが包まれるのが見え、すぐに姿は光の中へと 消失してしまった。 「馬鹿な!そんな・・・・・・」 純頼の叫び声に助手席にいた部下が振り返るが、もうそこにはの姿はない。 ドアも窓も開けられておらず、はどこへ消えたというのだろうか。 「坊ちゃま!すぐに戻りましょう」 「そうしてくれ」 後ろを振り返っていたのならば、何か後ろに仕掛けがあるのだろう。 どこでもいいから出口を探して引き返すしかない。 それなのに、タイミング悪く周囲の車の動きが鈍い。 翡翠の部下の妨害工作により、純頼たちが乗る車は車線変更が叶わない。 上手く前後と左車線を押さえられ、右側車線からの移動が出来ないまま走らされる。 「・・・くっ・・・やられた。これじゃ鎌倉へすぐには戻れない。・・・・・・まあ、いいよ。 一度本家に帰ろう。こいつらに付き合ってやるのも悪くない」 これまで晴純が決めた通りに動いてきた。 妨害工作まで段取りがしてあるところをみると、雅幸たちにとってはたいしたことではないのかも しれない。それは悔しいが、本家の祖父である貴純に知られてしまうのは時間の問題だ。 いずれにしても一度は呼び出されるならば、このまま戻っても同じだと、あえて無理に鎌倉へ 戻ろうとはしなかった。 「景時さん!」 どさりと物音がしたかと思うと、景時に飛びつく人物がどこからともなく沸いて出た。 「お帰り。ごめんね?怖い思いさせちゃってさ」 景時は自分の膝上に座っている人物を、心ゆくまま抱きしめる。 「ううん。ちっとも怖くなんてなかったんですよ?ただ・・・嫌だっただけで」 これでもかというぐらいに景時にしがみ付く。 景時は黙っての背を撫でている。 景時たちの車はといえば、無事に料金所を抜けて再び鎌倉方向へと向きを変えているところだ。 将臣は翡翠の部下から報告を受け、そのまま現状を行成へ報告している最中。 ようやく日が沈みきった空を東へと走り出す車中、将臣がへ毛布を投げた。 「お前、パンツみえる」 「おばかっ!そんなの最初に言ってよ」 ぶつぶつ言いながらも、毛布に包まり景時に再び抱きつく。 「見えないよ。こんなに暗いんだからさ。少し休むといいよ?オレも眠いかな」 「景時さん?!あの・・・・・・」 を離れた車中から引き寄せるほどの術を使ったのだ。 どれだけの負担をかけたのかわからないから余計に心配になり、その顔を覗き込む。 「ごめんね〜。こんなに長く緊張するの久しぶりで。君を見たらなんだか・・・ね」 があたたかくて、ついつい眠気に襲われる。 「うん。ちょっとだけお昼寝しましょうね」 もこれだけ長い時間集中して術を使ったのは初めてだ。 景時に背を撫でられるのが心地よいのだろう。 すぐに安らかな寝息が聞え始めた。 の様子を見計らい、将臣が景時に向かって手を出す。 「携帯貸せ」 「翡翠さんへ?」 「そ。向こうも上手くいった。っていうか、途中で諦めたクサイ。一度京都に戻るつもりなんだろうな」 手慣れたもので、すぐに番号をリストから選択し、そのままコールする。 「こんばんは・・・はじめまして。有川将臣と申します」 将臣の切り替えのよさには感心する。 『やあ。そろそろくる頃かと思っていたよ。それで?』 電話の向こうの声は聞えないが、彼の事だ。 今回の事もすべて見えていて力を貸してくれたに違いない。 だからこそ、将臣が直接連絡をしても問題はない。 「一週間って・・・どうですかね?先に連絡しなかったのは悪いとは思っているんですけど。遠くから 連絡より、一度近くでってのもあるんだろうし。アイツは京都に一度帰るつもりらしいし。何か情報を 仕入れて鎌倉へ戻るには、ちょうどイイ時間だと思うんですケド」 主語がない。 けれど、それでいい。 『問題ないね。私にすれば、五日といいたいところだけれどね』 「今時、週休二日でしょう?五日は確約、残りは自由でいいんじゃないっすかね?」 ぞんざいな口とは裏腹に、将臣なりに計算があっての事だったらしい。 『ほう?いいね、そういうのは嫌いじゃない。他には?』 「ない。これで駄目なら何か考える予定だったケド。よくよく考えると、あなたの様なタイプに、 一番大切なモノの話をすると余計な刺激になるだけだし?そんなのヤブヘビ〜〜〜」 からからと笑う将臣。 翡翠の弱点を察して、その先を読んだのだ。 『・・・藪蛇とは穏やかではないね』 「いえ〜?俺の周囲には多いから。ヤブヘビがご不満なら、触らぬ神バージョンもアリ?」 例えて言うならば、このような場合の筆頭は雅幸だ。 そして、若干甘さはあるものの行成も同類に数えてもいい。 さらに数えるならば、異世界からあっさりこちらへ来てしまった白虎たちなど、いかにもである。 ここで下手に大切な人物の名を口にすれば、二度と信用を得られないばかりか、すべてが水の泡。 『なるほど。有川家のお坊ちゃまは、お利口さんだね。実に賢明な判断だとだけ言っておこうかな』 翡翠の笑い声が聞える。 どうやら将臣の読みは当たったらしい。 「春には・・・俺と弟もご挨拶に行きますよ。そもそも、が行くっていったら、それは決定事項だし。 景時だけにいい格好させられね〜事情がね。・・・菫ばあちゃんの遺言引き受けてる身としちゃ」 『そう。・・・それは楽しみだね。ただ、会う時期はもう少し早くなるかもしれない』 「ま、何だってイイ。休暇の件はOK?それと、景時にかわる」 将臣が景時に携帯電話を返した。 「あの・・・ありがとうございました。無事に彼女を取り戻せました」 常に景時に力を貸してくれていたし、気遣ってくれていたのはわかっている。 ようやくお礼が言えたと胸を撫で下ろす。 『君は実に面白い男だね?陰陽師殿。姫君の奪還方法は私でも思いつかなかったよ』 「いや・・・その・・・ですね。これには訳が・・・・・・」 説明をしたいが電話で話すのは憚られる。 景時の戸惑いが伝わったのだろう。 『その辺りは橘の殿を交えた方がよさそうだね。あちらは・・・晴明殿と交流があったようだよ』 「ええっ?!それは・・・・・・」 確かに白虎の一人は異世界の平安時代のようなところからとは聞いていた。 しかし、年代としては範囲が広い。晴明と同じ時代の人物だとは思いつかなかった。 『橘の奥方様は、稀代の陰陽師とその弟子の八葉のおかげで穢れから守られていた。私の奥方には 一応は陰陽師がついていたが、先代には及ばない者でね。また、星の一族も然り。とにかく穢れに 弱く、心配していた。ところが、紅の姫君ときたら、穢れを弾き飛ばしそうな勢いだ。君だね?』 「ははっ・・・・・・結界張る程度ですけど。今回のはオレじゃないです」 晴明が残してくれた護符。そっとの右手首を撫でる。 『さてね。君は自分を過小評価すると姫は仰っていなかったかな?』 「さあ。ただ・・・ちゃんを見てると何でも出来そうな気がしちゃうのはホントです」 信じようなんて考えた事がないとに言われた。 そんな当たり前の事はわざわざ考えないのだと。 当たり前と思われている喜びがある。必要とされている自分─── 『会えるのを楽しみにしているよ。花梨共々ね。そう・・・将臣にも伝えておくれ。ではね』 「はい!また」 翡翠が将臣の名前を口にした。 「将臣君。翡翠さん、君によろしくって。名前、覚えられてる。さすがだね〜〜〜」 携帯をポケットにしまいながら、電話中の将臣の肩を叩く。 「・・・しらん、そんなのは。じゃ、みんな家でいいな。ああ。何だかわかんねぇ。翡翠さんに電話した。 ・・・ああ。だけ。・・・・・・さてね。ま、寝てるし、切る。飯すぐに食えるようにって譲に。 じゃあな」 電話を切った将臣が振り返る。 「雅幸おじさんたちも家にいるってさ」 「だろうねぇ?」 景時の腕の中で眠るのこめかみ辺りにキスをする。 「・・・オマエは眠らなくていいのか?」 「まあ・・・なんとも。もったいなくて無理かな」 連れ去られたばかりというのに夢を見るほど安心しているのか、の口元が何か言いたそうに 笑んでいる。 とてもじゃないが、眠くても寝られない。 (やっぱり・・・君は温かくて・・・・・・ふわふわ) の髪を梳き、少しばかり不快な事を思い出し小首を傾げる。 きちんと本人に断わって、後で解決すればいいと思い直した。 「村上さん・・・ありがとうございました」 ようやく落ち着いた景時が、運転手である村上に礼を述べる。 「とんでもない!この日のために雇われていたのですから。旦那様からは、いつになるかわからないけれど、 現役の時なみに運転をして欲しい日がくると。それが今日だったというわけです。役目を無事に果たせた。 ようやく普通の運転手になれそうです」 「・・・考えたら、村上さん長いよな〜、家にいるの」 将臣の記憶がある辺りからは、すでにお抱え運転手として家にいた。 「そう・・・ですね。かなり若いときからご厄介になってましたから。レーサーといっても、一度怪我を すると、そうそう仕事がないんですよ。テストドライバーにしても、かなりの競争率ですから」 「そっか。なんだかなぁ・・・菫ばあちゃんも、何を親父に残してたんだか」 振り返ることなく、見覚えのある海沿いの夜景を眺める。 「将臣君。今日はありがとう。オレね、一人じゃ無理だった。皆が助けてくれたから・・・・・・」 「それもお前の力だ。助けたくねぇ奴に手は貸さないだろ?」 皆の機転が少しずつ重なり今回の奪還劇がある。 それが雅幸たちに筒抜けで、景時たちの力が試されたのだとしてもだ。 今回の件は、いわば、を守る、守れる証明。 何故ならば、その手段について問われていなかった。 景時たちが自分で考え、どう行動を起こしてかが重要だったのだろう。 もしも景時たちが失敗したとしても、に危害が加わることはなかった。 (人質って・・・自分たちにとってはどうでもイイ人間じゃないと成立しないんだよ?) 純頼や晴純の考えがどうかは知らないが、一般的にはそうなる。 に次代の子孫を残させようというならば、の無事は保障されているようなものだ。 「・・・それでも、ありがとう・・・だよ。だってさ、オレ、ちゃんいないなら、頑張る意味ないんだ」 すべてをという言葉は飲み込んだ。 すべて頑張る意味がなくなる、それは真実“すべて”だから。 異世界の家族には申し訳ないが、それだけの覚悟を決めてと共にあることを選んだ。 「・・・お〜、コワっ。景時君は思い込みが激しくて嫌だねぇ〜っと。・・・・・・が好きなもんばっか だろうな、今日の夕飯。それと、譲がすっげー顔して俺に小言いいそうで面倒」 溜息をひとつすると、将臣は再び流れる風景を見ているのか、見ていないのか、窓の外を向いている。 静かな車内にはの眠りを妨げるものは何もなかった。 静かな帰宅の予定だったが、それは紫子により叶わぬ事となる。 「おかえりなさい!ご飯あるわよ?しっかり食べないとだめよ〜〜〜」 ぐいぐいとの手首を掴んで連れて行く。 残された将臣と景時はといえば、いきなりの出来事に目を瞬かせた。 「・・・早く上がりなさい、二人とも。譲が予定より五分遅いと機嫌が悪くてな」 行成に先導されてダイニングルームへ移動すると、そこに並べられた料理の数々に将臣の頬は引きつり、 景時の目は見開かれた。 「これ・・・・・・」 「ああ。特に問題はアレなんだそうだ。出来たてを食べてもらう予定らしくてね。すぐに食べた方がいい」 景時の背を押すと、景時は先に座っているの隣の席についた。 「早く!兄さんのも一応あるんだからなっ」 「・・・一応かよ・・・・・・」 ぶつぶつ口の中で文句をいいつつ将臣も景時の向かいに座る。 他の者たちは夕食をすませているらしく、席にいるのは三人だけだ。 「はい!先輩、これから食べて下さい」 の好きな薄生地タイプのピザを譲が取り分ける。 「わ〜〜〜。これ、大好き!いただきま〜す」 大きな口で嬉しそうに頬張る。 誰も何があったかなど尋ねない。 の両親など、ダイニングルームに顔も出さない。 そんな周囲の気遣いが心地よく、景時と将臣も落ち着いて食事に専念できた。 食後のティータイムとなれば、全員が揃うリビングへ景時たちも加わる。 「・・・翡翠さん」 「やあ、お帰り。帰ったのは知っていたけれど、いずれ会うのだしね」 雅幸の隣にいるのは翡翠だ。 景時の言葉に反応した将臣が歩み寄り、片手を差し出す。 「ど〜も。・・・確かに早いっすね?」 「だろう?」 くすくすと笑う翡翠と握手を交わす将臣。 それは気分を害するものではなく、寧ろすべての答えが繋がるもの。 「わ〜〜〜!花梨さんは?」 「残念ながら・・・仕事といって秘密にして来たのでね。京都で会う時は話をあわせてくれまいか?」 確かにあの花梨が今日の事を知って黙っているタイプには思えない。 が人の悪い笑みを浮かべる。 「翡翠さんの特大の秘密知っちゃったってコトですよね?京都に行ったら、ちょ〜美味しいデザートお願いします」 「やれ、やれ。それは私にも付き合えという事かな?」 「もちろんです!」 の交換条件は可愛らしいものだ。 恐らく花梨がメールか何かでに愚痴ったのだろう。 食事よりもデザートばかり食べている花梨に、翡翠がデザート禁止令をだしたのを。 「・・・身体が心配でね」 「ですよね〜。でも、ただ禁止っていうのもあんまりですよ?せっく京都なんですから、和菓子とか創作菓子とか ヘルシー系は時々OKにしないと、今度はストレスでイライラって!」 「敵わないな。普段の食事についてもお聞かせ願えないかな?」 女性の好み全般などお手の物と思っていた。 実際、異世界ではそのような事で失敗したことがないのだ。 口説く手段などいくらでも持ち合わせていたし、不得手と感じたこともない。 ただ一人を除いて─── 「・・・食事より一緒にお出かけとかしてますか?伏見の時、とっても楽しそうでしたよ?二人で散歩して、 買い食いしてとか、楽しいと思うんですけど・・・・・・豪華なご飯ばかりじゃ疲れちゃうし」 の言葉に目が覚める思いがした翡翠。 まさに藤原とのかかわりを心配し、閉じ込めてばかりいたからだ。 が駄目なら花梨へと、ターゲットが変わる事を恐れての配慮が裏目に出ていたのだ。 「・・・くっ、くっ、くっ。さすが雅幸殿の姫君は、よく見えていらっしゃる。明日の朝一番に帰り、 仰るとおりにいたしますよ」 「そ〜して下さい!・・・えっと・・・・・・」 が景時を振り返る。 景時は話が済んだところで全員に向かって頭を下げた。 「オレの配慮が足りなくてご迷惑おかけしました。色々とありがとうございました!」 景時に頭を上げさせようと、雅幸が二度手を叩く。 「景時君。もう済んだ事はいいんだ。それに・・・も不注意だった。わかっているね?」 「・・・うん。ごめんなさい。私が・・・自分だけでなんとか出来るって思って・・・・・・」 俯くを背後から景時が抱きしめる。 「いえ、彼女は悪くないんです。オレが・・・何も動きが無い事に油断していた。それだけです」 「・・・つか、俺だよな。わりぃ。だけどよ、そもそも悪いのは向こうじゃん?」 頭を掻きながら詫びる言葉とは裏腹に、横柄な態度の将臣の後頭部に譲の平手が飛んだ。 「なってない!その態度は何だよ!!!」 「いてぇ・・・兄を打つか?普通」 頭を押さえながらしゃがみ込む将臣。 「まあ、いいよ。今回は景時君のおかげで騒ぎにもならずに済んだ。もよく頑張って修行していたようだ。 そうだろう?」 雅幸がその場をまとめる。 「うん!だけど、景時さんなの!景時さんがね、私を呼んだんだ〜。でね?気づいたら景時さんの上に 座ってたの」 腰に回されている景時の腕に手を添える。 を呼び戻し、抱きしめてくれた腕に。 「あら。それじゃ景時さん、重かったわね?」 「ママ!」 途端にの頬が膨れる。 「重くなんかないんです。オレがそうしたかったんです・・・・・・ほんと、よかった・・・・・・」 目を閉じる景時。 その柔らかな空気が周囲に伝わる。 「・・・今日は家に泊まるでしょう?」 「ええ。そうさせて下さい。明日も学校がありますから。・・・明日は佐藤先生に叱られそうだなぁ〜」 会議の途中で駆け出してしまったのだ。 叱られる程度で済めばいいのだが。 「それは心配ないよ。私が連絡をしたから。京都のお父さんに急病になってもらったからね」 「わわわ!それじゃ、桜を見に行った時にお礼しなきゃ」 やはりは京都へ行くつもりらしい。 「・・・そうだね。そうするといい。私たちはそろそろ失礼しようかな。翡翠もこちらに泊まるのだろう?」 立ち上がり、の頭を軽く叩き、ついで景時の肩へ手を置く雅幸。 「・・・ありがとう」 「あっ・・・・・・」 景時が振り返ったときは、すでに雅幸の姿はドアの向こう。 続いて花奈がの鼻先へ指を当てる。 「今日だけ主婦業お休みさせていただきなさいな。ね?明日は学校なんだから」 「うん・・・あの・・・・・・」 「明日のお弁当は私が作ってあげる。とりあえず、明日は休まないこと。それだけ頑張ればいいわ」 「わかった。授業中、将臣くんみたいに寝ないようにする」 花奈が笑いながら雅幸の後を追って部屋を出た。 「さ!景時君とちゃんはどうする?景時君の部屋はそのままよ?」 紫子が嬉しそうに手を合わせて二人へ問いかける。 「あっ・・・と・・・・・・その・・・以前の客間をお借りしていいですか?」 「景時君。ここは君の家でもあるって言わなかったかな?貸すのではないよ。好きな部屋をどうぞ」 「え〜っと・・・はい。ありがとうございます。今日はどうしてもちゃんと一緒がイイです。はい」 馬鹿正直に二人でいたいと言える景時の真っ直ぐさ。 「だろうねぇ?ちゃんもだね」 「はい!明日だけ頑張れば週末はお休みだから。お邪魔しますね?」 両親が言わんとしている事は理解している。 周囲に何かあったと覚らせるなという、その一点のみ守ればいい。 素直に主婦業は休みと決め、も景時に追随する。 「いいですね、ここは。実に楽しそうだ。私は雅幸殿と話をさせていただきますよ」 翡翠が立ち上がる。雅幸は先に行成の書斎で待っているだろう。 「私もすぐに行こう。紫子は花奈さんを頼む。それと・・・お前たちはさっさと明日の準備だ」 景時たちが休みやすいよう場がまとめられる。 「へ〜い。こういう時に気を抜くなってんだろ?わかってるって。バイトキャンセルしとく」 欠伸をしながら将臣が部屋を出ると、 「俺も弓の道具の手入れをしたいから、部屋に戻ります。おやすみなさい」 譲は礼儀正しく一礼をしてから自分の部屋へと戻った。 「おじ様、おば様、ありがとう。私ね、とっても大切に守られてるんだなって・・・・・・」 「いいんだよ。景時君は家の息子なんだから。ちゃんは家にお嫁に来てくれたってことだろう?」 「そう、そう。私の娘!いいわ〜、女の子は可愛いし、楽しいわよね。男の子はどんどん相手を してくれなくなってしまって、つまらなくって」 紫子がを抱きしめた。 「景時君。残念ながら私には母からの言葉は何も残されていない。けれど、それこそが母が言いたかった、 伝えたかった事なのだろうと思うんだ。だから・・・君が信じるままに。それが正解だよ」 行成はそれだけ言うと紫子を連れて部屋を出た。 「景時さん。あの・・・ね?今日は・・・・・・」 「もう・・・お互いに何も言わないようにしよう?礼も詫びもいらないんだ。今、こうして二人で いられるんだから。それより・・・オレのお願いを聞いて欲しいな」 景時の手がの髪に触れる。 さらさらと髪が流れるのを眺めると、胸が痛む原因を取り除くべくの瞳を覗き込む。 「その・・・髪、洗わせて欲しいな。式神が・・・・・・え〜っと・・・・・・」 純頼が触れたと伝えてきた式神の気配に、一瞬ながら力が暴走した。 相手にとっては静電気程度だったろうが、の髪に触れた事実が不快である。 「式神?式神・・・・・・もしかして、私についてました?」 「あっ・・・うん。そう・・・なんだ。オレとある一定の距離を離れると、君を追いかける式神が つけてあって・・・さ」 の行動を疑ってのものではないが、場合によっては嫉妬深いとも、懐が狭いともしれる行為だ。 「だからか〜。何だか安心なんですよね、ひとりでも。何となく景時さんが近くにいるっポイっていうか。 な〜んだ。それなら最初から言って下さい。私、携帯もないし、お財布もなくって。どう連絡しようか 必死に考えていたんですよ。・・・ホントは必死のちょっと前に景時さんの声がしたから、そんなに 必死じゃなかったんですけど」 ぺろりと舌を出して、ほどほどに必死だったのだとは言う。 景時への気遣いも半分はあるのだろう。 「うん。・・・単なるヤキモチ焼きって思われるのが怖くて・・・さ」 「え〜〜〜。そんなことないのに。私、景時さんがいるってわかって嬉しいですよ?ホントのほんとに」 ヤキモチならば、とて同じだ。 京都のホテル、街中、あらゆる場所で景時を見つめる視線に気づく。 景時の隣にいるから気づいてしまう。 (もしかして・・・景時さんも同じ?別に純頼くんなんて・・・・・・) 何も感情を持ち合わせていない相手。 ないというより、分類としては面倒であり、嫌いという方になる。 それでもを追いかけてくる辺り、迷惑なのだが近くにいるのは事実だ。 「景時さん!お風呂に入って、早く寝ましょう!明日、学校だから」 「・・・そうだね。確かにそ〜だ!」 素早くを抱え上げる。 「今日はぜ〜んぶズルしちゃいます」 「そう、そう。それがいい。甘えさせていただこうね〜」 いつだって乗り越えられる。仲間と家族の絆があるから─── |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:もう解決です(笑) (2008.06.23サイト掲載)