決まりごと  ≪景時side≫





 何が・・・といって、世の中には暗黙の決まりごとが存在する。
 言わずもがなというソレ。
 これはまさに口にこそしないが、守らなくては大変な目に合う。
 とくにオレの場合、性格的にも外せない。
 そんなこんなで、バレンタイン当日は有川家で夕食会ということにしてもらった。


「景時さん。無理してないですか?」
 幸いにも今年は木曜日がバレンタイン。
 オレの帰り時刻は無理をせずとも早いもので。
「うん。だって、オレはもうここにもらっちゃってるから」
 腹を撫でて見せると君が笑う。
 実際、ケーキを焼いてくれた当日に食べてしまったんだから、今日はもう関係ない。
 あるけどナイが正しいかな?

「パパとおじさまの分なら、手渡しじゃなくてもよかったのに」
 オレの考えなどお見通しなんだろうなぁ。
 だってさ、本当の贈り物は君の元気な姿なんだから。
「う〜ん。里帰りしたかったから。有川家、オレの実家だし」
 この前、将臣君と少しばかり話しをしたからね。
 それなりにお父さんたちとの連絡手段はあるが、会った方が確実だし話が早い。
 そのような事情もあるにはある。

「だったらいいんですケド」
 ようやく納得してくれたらしい。
 助手席からずっと感じていた視線が外へと移った気配を感じる。
「いいの、いいの。せっかくのご招待なんだからさ」
 大きくハンドルを切り、有川家の駐車場へと車を進めた。
 きっと、もう帰宅されていることだろうな〜、お父さんと行成さん。
 きっちり定時退社してそうだ。



「こんばんは!」
 ちゃんの第一声で、出迎えに来てくれた人物たちの顔が綻ぶ。
 わかる!その気持ちはわかっちゃうんだよなぁ、これが。
 普段のオレがそうだから。
「いらっしゃい、ちゃん。待ってたわ〜〜〜」
「こんばんは。待っていたよ、二人とも」
 オマケなオレとしては、それなりな挨拶をして上がらせてもらう。

「はい!これ、おじ様に」
「ありがとう。わざわざすまなかったね」
 口と顔があってないです、行成さん。
 そんなツッコミの言葉が浮かんだけれど、オレには向いてないんだよね。
 ツッコミというものは。
 こう素早く口から言葉が出てこないんだな〜、これが。
「えっと・・・いつもお世話になってますから」
「そんな事はないよ。家にも女の子がいたらこんな風なのかと楽しくてね」
 行成さんの言葉に嘘はないのだろう。
 オレだって、朔が沈んでから知った。
 女の子がいるというのは、とにかく家の中が華やぐ。
 楽しい気持ちにさせてくれるんだよ。
 朔が元気じゃないと真っ暗。
 そういうものなんだとわかった。
 小さい時は本当に可愛くて───


「景時さん。朔のこと、考えてたでしょ〜〜〜」
「あっ・・・うん。そう・・・朔もこういうイベントがあったらオレにくれるかな〜?」
 傍目にはどう見えていたかしらないけど、仲は良い方だったと自負している。
 ・・・朔がどう思っていたかは考えない前提で。
「朔ですからね〜。すっごく照れちゃって、素直にくれなさそう。忘れた頃にとか」
「・・・かな。はは・・・・・・」
 よく見ている。
 確かに朔はそういうトコロがある。
 でも、オレを無視することもなくて。
 だから、誰もいないところでこっそりポイと渡してくれるんだろう。

「もうひとつ、欲しかったですか?」
「え?いやぁ・・・想像してみただけ。どうかな〜〜ってね」
 有川家のリビングへお邪魔する。
 かつて知ったるなんとやらで、二人でちゃっかり座って。
 紫子さんからチョコレートをもらって。
 でもそれは、ちゃんが好きそうなチョコレートで。
 ぼんやり綺麗な箱を眺めていた。



「・・・で?手作りって言わないのか?」
「いいのっ!だって、チョコっていうか、チョコチップクッキーなんだもん」
 将臣君のひと言で、行成さんはチョコレートの箱を手に書斎へ消えた。

「・・・あれ?」
 ちゃんのビックリ目が可愛いけど。
 行成さんがこれだと───


「親父もなぁ。隠さなくたってとらねぇっての。いくら俺たちがコンビニものだからって」
「・・・兄さん。その場ですぐに食べてしまったのは兄さんだからな」
「へ〜、へ〜。別に買ったものの方が安全、安心ってだけだ」
 そうなんだよね。
 最初は作るっていっていたけど、ちゃんは二人に買ったものにした。

「だから手作りあげなかったんだよ。形がどうこう言われそうだったから。べ〜〜〜だ!」
「まあ、まあ。オレは美味しいチョコレートケーキを食べさせてもらったからね」
 なるほど。
 譲君はお菓子の先生だから初手作りは渡しにくい。
 将臣君には何か言われそうだから渡しにくかった・・・ってことか。
 そんなことをつらつら考えていたら、お父さんたちも到着。



「お邪魔します」
「こんばんは。少し遅れてしまったかな」
 ちゃんが小走りでお父さんへ小箱を渡す。
 お父さん、嬉しそうだ。



「・・・私に手作りということは。景時君にも?」
「もちろんだよ。景時さんが大本命のチョコレートケーキ。ハート型でオペラにしたの」
 そんなに嬉しそうに報告されちゃうと、オレ、困っちゃうな〜。
 だってさ、お父さんが・・・おや?
 まったく関心なさそうな───


「ママはパパにどんなのあげたの?」
「私?私はパパに手作りチョコレート」
「げげげっ」
 ちゃんの驚き方が可笑しくて。
 お父さんが冷静なのも可笑しくて。


「あら、あら。雅幸さんたら。それで景時君を羨ましがらないのね」
 紫子さんが大きく頷いている。
 オレも同じ意見です。どうりで。


「ママもお初?」
「あら。私はずっと手作りだったのよ?を産んでかしら。時間がなくて買うようになったの」
「ええっ?!ママがお菓子作ったの見たことない・・・・・・」
 ふうん?お母さんは、実はお菓子作りが得意な人だったんだ。
 それは、それは。


「皆さんにもあるの。少しだけれど」
 小さなチョコが三つ入っている透明な袋を配られた。
 お団子みたい。
 オレが不思議なものでも見るようにしていたからか、隣から君が覗き込んでくる。
「トリュフだ〜。ママがこんなの作れるなんて、知らなかった。これ、美味しいんだよ」
 ふむふむ。
 またもちゃんが好きなモノを手に入れた。
 ラッキーってやつ?



「久しぶりに集まったのだから、そろそろ夕食にしましょう」
 行成さんの言葉で全員がダイニングへ移動。
 そう、そう。
 今日はバレンタイン。
 もう君の気持ちはココにもらっているから。
 オレは怖いものナシ。
 そんなことより、偶然にも手に入れたチョコレートを君と二人で食べたいなぁと。
 家に帰ってからの行動予定ばかり考えていた。



 ま!そんな一日ってことで。










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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:もう少しで二月が終っちゃうとこだった。間に合ったぞ!     (2008.02.24サイト掲載)




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