凝り性  ≪景時side≫





 誰かの役に立つとは嬉しいものだ。
 実際、ほんとうに相手の役に立ったかなんてのはわからないんだけど。
 それでもちゃんとした食べ歩きは面白く、楽しいひとときであった。
 うん、うん。
 まあ、その実デートなんだから楽しくないわけがない。
 アルバムのような洋二への報告書もどきを二人で作っていて言われたことは───

「景時さんって・・・凝り性ですよね〜?パソコン使ってこんな風に仕上げて」
「そう?そうかな〜〜〜。でもさ、こんなに簡単に残せるものが作れるなんてね」

 そう。このように簡単に自分で作れる。
 九郎に報告する時いつも大変だったんだよ。
 斥候で戦になりそうな場所を調べたりした後にさ。
 足場の具合とか風景の描写に気象条件、目で見せられれば一発なのにって。
 口や下手くそな絵を描いて説明するのは実に困難だった。
 こんな風に作って、ささっとぱぱっと説明したら、さぞかし優秀な軍奉行だったろうね。
 九郎を思い出しながら、食べ歩きレポートを印刷し数枚めくる。
 


「私もデジカメで撮るのは楽しいと思うんだけど、プリントするくらいしか出来ないし」
「プリントしないと持ち歩けないしね〜」

 途端にぺちりと額を軽く叩かれた。

「・・・景時さん。いつか言おうと思っていたんですけど」
「何?」

 いつかが今ってことなんだよね。なんだろ?

「まず、パスケースの中」
「あっ!いつ気づいて・・・・・・」
「改札通る時に見えました」

 あは、あはは〜。
 確かにこの前君があんみつを食べていた時の写真を入れてますね。
 はい。バレました!

「携帯の待ち受けは人に見せないならいいんですけど。職員室の写真立ても」
「ええっ?!そんなのどうして知って・・・・・・」
「遅刻で将臣くんが職員室呼び出しされた時に見たらしくて。クラスの皆知ってます」

 おおっ?いつのまに見られたんだろう。
 
「だって、テレビでよく見るよ?仕事場に家族の写真」
「あんなの外国の映画とかドラマの中だけです」
「いいの、いいの。オレはいつも見ていたいから」

 ちゃんが赤くなり、可愛いな〜と思って顔が緩みそうになる。
 一応注意を受けている身としては、これをいうとまたまた叱られ指数が上がってしまう。
 ・・・止めておこう。
 とにかく。いつも見ていたいという気持ちに嘘はない。

「・・・お昼はいつも一緒でしょう?」
「授業は週二回しかないよ?たった二回でさ〜。ほかの時間が気になって、気になって」

 ガクリと君の首が項垂れた。
 理由はわかってるんだけど。

「あのですね?教科ごとに先生が違うのが普通なの」
「そうなんだよね〜。全教科の免許があればよかったのにって思ったもんだよ」

 再び項垂れる君の様子が可笑しくて。
 言いたい事はわかってるんだよ。
 でもさ、それはソレ。
 オレの気持ちは別のところにあるって事もわかって欲しくて、つい話の方向を変えてみる。
 が、しかし。
 話は一回転して戻って来てしまった。



「景時さん」
「はい」

 ちゃんの視線が痛い。
 嫌な予感。

「他にもありますね?」
「ほほほほほほ、他って?」

 こうも声が上擦っていたらバレるだろう。
 我ながらちゃんに対してやましい時だけは嘘が吐けない。

「・・・食べ歩きした時の写真。こんな簡単にこれを作ってるって事は、他にもあるでしょう?」

 問い詰められる視線に負けそう。
 いや、もう半分以上負けている。
 しかし、言えば取り上げられてしまう。
 言わずに後で見つかっても困る。
 これぞココロの葛藤という状態。
 緊迫の空気の中、先に動いたのはちゃんだった。



「・・・景時さん。私が食べていた時の写真って、プリントしたのとこれだけですよね?」
「うっ・・・・・・」

 とっさに胸を押さえて後ろを向いてしまった。
 もう隠せないっ!
 確かにすべての写真をプリントした。
 二人で眺めたのだから隠してはいない。
 そして、洋二に送るための食べ歩き報告にも載せた。
 
 隠したいのは別のモノ。
 ・・・没収か?!

「別に・・・怒ってるんじゃないんです。景時さん、先週食べ歩きしてからお部屋に篭ってたし」

 確かに。
 オレはこの計画を思いついた時点で作業をしたかった。

「お夕飯食べてから、一時間くらい毎日篭ってましたよね?」

 そう。君も夕飯の片づけやらでオレを構ってくれない時間。
 いつもはただ君の姿を眺めていたものだ。
 眺めていると背中を押され、自分の事をしてくれといわれてばかりだった。
 本を読んでもいいし、テレビを観てもいいのだからと。
 そう言われようとも君がキッチンで働いているのを眺めるのは大好きな時間で。
 ただし、今週だけは珍しくオレにもしたい事ができた。
 いつもと違った行動は、明かに疑われる要素満載。

「本を読んだり、お片付けの続きをしているのかな〜って思ってましたけど。お片づけ進んでないし」

 今、ちゃんはオレの部屋のパソコンの前にいる。
 明かに本は山積みのまま。
 読書の形跡もなしとくれば、疑われるだろう。・・・色々と。



「景時さん。二人のとか・・・作ってないんですか?」

 この言葉にオレは危うく落涙寸前。
 どこまで清らかなのだろう、君は。


「・・・・・・二人のじゃないのなら・・・あるよ」
「へ?二人のじゃないって?誰の?」

 もういい。
 これを見られてしまうのは大変恥ずかしいが仕方ない。
 オレはオレのために作った、名付けて『ちゃん大好き写真集』を大公開した。
 内容はいたって単純。
 ちゃんの笑顔だけを特に大きく切り出して集め、オレの感想が書いてある。
 それだけといえば、それだけ。
 オレにとっては家宝に匹敵する大切なもの。


「・・・・・・はぁ〜〜〜っ。景時さんって、時々大脱線してますよね」
「面目ない」
「そういう意味じゃなくて。私も景時さんの写真集みたいの欲しかったから同じです」
「・・・はい?」


 今度はオレが驚く番だ。
 オレの?何が欲しかったと彼女は言った???


「こんなのコソコソ作っていたんですか〜〜〜?私だって作れるものなら作りたかったなぁ」
 ペラペラとページをめくりながら君の目は笑っている。
 考えてみれば撮られる事に慣れているよな。
 だから、写真があるという事に関して抵抗はないのかもしれない。
 と、思っていたら。


「私ってばアイドルみたい。・・・景時さ〜ん?こんな技、どこで覚えたんですか?」
「あ・・・・・・」

 加工した写真をすっかり忘れており。
 冷や汗が背中を滝のように流れてゆく。
 それはちゃんが嬉しそうに小物を手に取っていた写真で。
 小物がオレに変わっているわけで・・・・・・。
 自己満足でしかないけれど、ちゃんの手のひらにのっているオレ。
 彼女に救われたあの日の象徴のような一枚の合成写真。


「可愛い〜〜!手乗り景時さんを私にもして下さい!私も乗る〜〜〜」

 嫌われるか嫌がれるかと思っていた写真は、思いの他評判がよく。


「こ・・・こんな感じでイイ?」

 ちゃんにとりあえずオレを撮ってもらい。
 その写真へ座っているちゃんの写真を合成する。


「きゃ〜〜〜!景時さんに乗ってる〜〜〜。ミニミニだ〜〜〜」
 
 小さくジャンプするほどに喜ばれてしまった。
 あれれ〜?


「私も写真立てに飾る〜〜!そっちの手乗り景時さんも後で下さいね?」
ちゃん?」


 あまりに拍子抜け。
 そして部屋から去ってしまった君。





 ん〜〜〜。
 食べ歩きの報告をメールで送り、洋二に電話をしてみれば。

「・・・小さいモノ、女の子は好きみたいだよな。かといって、大きなものが
嫌いなわけでもないらしい」
「・・・余計にわかんなくなるようなこと言わないでよ〜」

 ちっとも参考にならない意見だよ。

「まあ・・・いいんじゃないか。今度は家族の写真集でも作れば」
「家族って・・・・・・そうだ、家族だ!」
「・・・バカだろう、お前は。さんと家族だろうが」

 最近朔にツッコミされないもんだから、すっかり頭の回転が鈍っていて。
 ツッコミはオレに必要らしい。
 言われないと動かない頭が恨めしい。

「とりあえずは、色々とありがとう。とても良く出来てる。さんにモデルも
頼もうかな。こんなに美味しそうに食べているのは、見ている方も嬉しくなるよ」
「でしょ、でしょ〜。毎日向かい合わせでご飯を食べるの幸せでさ〜」
「・・・惚気は他人に迷惑をかけない範囲でしろよ?」

 しっかり、さっくりご意見を頂戴し電話を切った。
 

「迷惑かけてる範囲かもしれないね〜」

 少しだけ反省。
 それでも、この幸せを誰かに言いたい。


「お風呂の準備をしよ〜〜〜っと」

 修行も兼ねているけれど、至福の時間。
 梶原家写真集の構想も練らねばならない。
 忙しくなってきた!






Copyright © 2005-2007 〜Heavenly Blue〜 氷輪  All rights reserved.


≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:パソコンが益々便利になって思うこと・・・なんちゃって!     (2007.11.04サイト掲載)




夢小説メニューページへもどる