し・・・尽くす  ≪望美side≫





 よく「〜し尽くす」とかいうじゃない?
 ほんとに全部〜?とか疑わしいなって思わないでもないこの言葉。
 いつ使うのかと、それが今だよねって実感。

「・・・食べ尽くしました・・・・・・」
「だろうねぇ?」
 頬杖をついて私の食べっぷりを眺めていたのは、向かいに座る景時さん。



 テストが終ったという開放感と。
 大好きなスイーツを市場調査みたいな理由つきで食べ放題という。
 そんな状況がそろってしまったんだもん。
 食べます。食べたんです。


「やっぱり・・・季節感って大切ですよね」
「かな。さすがに夏にお汁粉は・・・冷やしお汁粉とかあるの?」
 笑っちゃいけないけど、笑ってしまいそう。
 
「それ・・・逆にアイデアですよ。夏に冷やしにするのって」
「ええっ?!ないの?冷やせばいいっていうのはチガウ?」
 慌てている景時さんが可愛い〜。
 何でも反対のモノがあると思ってるみたい。
 熱いものなら冷たいもの。
 シンプルだけど盲点だよ〜。

「冷やしぜんざいとか食べたことありますよ」
「よかった〜〜〜。オレ、変じゃないよね?」
 ますます可愛い。

「変じゃないです。でも塩っポイの食べたいですぅ〜〜〜」
「あれはどう?」
 景時さんが向いた方へ視線を移せば、そこにはお煎餅屋さんの看板!

「食べるっ!」
「食べ尽くしたんだよね?」
 景時さんに笑われた〜。さっきは本当にそう思ったんだもん。

「甘いものを食べ過ぎた時のお煎餅は別腹です」
「でたっ!別腹。女の子の謎〜」
 笑いながらお会計の伝票を手に持って先に行っちゃう。
 厭きれた?



 急いでコートを手にとって後を追いかけると、お店の人と仲良く談笑中。
「あ。ごめんね〜?あのね、あのお店じゃないお店に行ってみない?」
「へ?」
 道を渡ってすぐなのに?
「いいから、いいから。ごちそう様でした〜」
「ありがとうございました。またどうぞ」
 手を引かれるままに店を出て、道を渡らずに逆に路地裏へと進む。
「景時さん。どこへ行くの?」
「ん〜?お店じゃなくて作ってる方。焼きたて食べたいな〜なんてね」
 景時さんって、誰とでも仲良くなるのが上手。
 でも───

「どうかした?」
「どうして焼きたてなのかな〜って」
 私を振り返る景時さんに、そのまま質問をしてみる。

「ああ。あの店先からして作っているのは別の場所だけど近所かなって。
聞いてみたら・・・ほら。そこ。ちゃんも別腹って言ってたでしょ?
あったら嬉しいと思うんだよ、こう・・・巾着みたいなのでオマケのお煎餅」
 うわ〜〜〜。景時さんて、意見をちゃんと漏らさず聞いていて。
 ひとつ、ひとつ大切に確認するタイプなんだ。
 もしかして、大雑把に見えるのは見せてるだけ?

「オレも甘いものは嫌いじゃないけれど、休憩は必要だよ。うん。
こんにちは〜。そこの甘味処で伺ってきたんですけど・・・・・・」
 しっかり、ちゃっかり上がりこんでしまってビックリ!
 あれよ、あれという間に居間でお茶つきで焼きたてお煎餅を頬張っていた。


「パリパリ・・・・・・ベタベタしない」
「袋に詰めるとどうしてもね。焼きたては香りもいいでしょう?」
「はい!!!」
 思いっきりイイ返事をしてしまいました。
 ほんとうに美味しいモノって幸せ〜〜〜。

「こんなに美味しそうに食べていただくと、こちらが嬉しくなりますね」
 まだ若い後継ぎさんみたいな人が笑ってる。
 食べすぎかな、私。
 景時さんも普通にバリバリ食べてるし、大丈夫だよね?

「何だろう・・・焼きたてにはあって商品にはない何か・・・・・・」
「温度?食べる前にあぶったら美味しいかもですよね〜」
「それだ!!!」
 どれ?よくわかんないけれど、景時さんがニコニコ顔になった。

「これ、このままの状態で頂くことは可能ですか?」
「ええ。近所の子供たちはこちらへ買いにくるぐらいですよ」
 しっかり焼きたてを買い込み、お店で売っているお煎餅も買って。
 ぐる〜って海沿いをドライブして。
 少しだけ車を降りた。



ちゃん。オレね、一生懸命がんばるから。信じてね」
「・・・それ、難しいです」
 正直な気持ち。
 それなのに、景時さんが悲しそうな顔になっちゃって。
 言葉が足りなかったって気づいて抱きついた。

「あっ、あの。信じようと思った事がないから出来ないっていう意味で」
「・・・そっか」
 あれ〜?違った。そうじゃなくって。

「そんなのイチイチ考えたことないんです。だから、信じなきゃなんて
わざわざ考えて信じられるものじゃないですよね?だって、信じなきゃって
疑ってるからそう思おうとしているって思いませんか?そんなのわかんない。
景時さんなら絶対って勝手に頭が思ってるんだもん。上手く説明できないです。
信じていないってことじゃなくて、えっと、えっと・・・・・・」
 必死に言葉を探していると、景時さんにぎゅぎゅってされた。

「本当に・・・君は真っ直ぐで敵わないと思うよ・・・・・・うん」
「・・・真っ直ぐとかわかんないです。あの時だって、景時さんを待ってた。
そうしたら来てくれた。船の時は・・・気持ちを伝えるために信じてって。
景時さんが自分を信じられないなら、他の何かなら信じられるのかなって。
だから・・・信じるとかって、ホントはわかってなかったんです。
ただ、その人なら間違いないって、そう思ってるのはいつもの事って。
それが伝えたかっただけ」
 景時さんが額にキスしてくれた。
 伝わった?
 今度こそ伝わったよね?

「言葉は難しいね。気持ちを伝えるために言葉を使うのに。振り回されて
ばかりいるんだ・・・オレには・・・・・・まだまだ見えていないモノが
たくさんあるってことかな」
「そんなことな・・・・・・」
 見上げようとしたのに、きつく抱きしめられて顔が上げられなかった。
 ・・・きっと見られたくないのかなって。
 景時さんのコートをぎゅって掴んでそのままでいた。




「そこの迷惑カップル!このクソ寒いのに暇だな〜〜〜」
 ガードレールの方から聞き覚えのある声がした。

「や!将臣君。週末デートを目撃されちゃうなんて参っちゃうな〜」
 すっかりいつもの景時さんに戻っていて。
 景時さん越しに将臣くんと海人くんが居るのを確認した。

「ば〜か。参るもんでもねぇ〜し。なんかゴチれ」
「家へ夕飯を食べに来る?」
 景時さんたら、将臣くんのいう事なんて聞かなくていいのにぃ。

「いらねー。の手料理なら譲の方が美味いモノ食えそう。じゃあな!」
「失礼しちゃーう!!!将臣くんのおバカ〜〜〜!」
 笑いながらバイクのエンジンをかけて行っちゃったよ。
 ありえないよ、いちゃもんだよ!

「気を使わせちゃったね〜?半分邪魔しないで〜って思って返事したんだケド」
「え?」
「うん。別に本気で言ってなかったよ。オレたちが見えたから声をかけて
くれただけでしょ。そろそろ日も落ちて寒くなってきたし。帰ろう」
 景時さんの帰ろうが嬉しい。
 だって、帰るお家は同じ───

「は〜い。夕ご飯はお鍋にする?」
「イイね〜、寒いし。鍋ならオレにも出来る事ありそ〜」



 本日のスイーツ食べ歩きの成果は夕ご飯の後にまとめよ〜っと。
 景時さんと二人で!






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:わざわざじゃないんですよね、信じるって。口に出す方が嘘くさい言葉ってあるなと。     (2007.08.17サイト掲載)




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