お茶会 「ね〜、お菓子食べない?テストも明日で終わりだしぃ・・・・・・」 テスト期間中だというのに、は大きなペーパーバッグ持参で登校をしていた。 参考書などが入りきらないなど様々な理由が考えられるが、テスト当日となっては所謂 焼け石になんとやらでしかない。 誰もが気にかけつつ、忘れていたの大荷物の中身が明かされる。 「うわ〜!どうしたの?すっごく美味しそう!」 もちろん飛びつくのは女性陣が先。 「景時さんのお友達がカフェとかしてみたいらしくてね?お土産用の試作品を送ってくれたの。 だけと、テスト中だったから今日にしたの。明日は最後の二科目だけだし、いいかなって!」 テスト期間の最終日まで待てないのがらしい。 「これ食べていいの?」 「もちろん!ただし」 人差し指を立て、今にも摘まんで食べそうな友人を牽制する。 「試作品っていったでしょ?感想を聞かせてね?せっかく好意で送ってくれたんだし、少しは 協力したいの。お願いっ」 今度は両手を合わせて拝む仕種の。 「おっけー!そんなの普通に口から感想でちゃうって。いただきま〜す!」 「俺も!」 「私も食べたい〜」 テスト中は波が引くように素早く帰る生徒たちが、珍しく教室に残る事になった。 「ちゃ〜ん!帰ろ・・・・・・おおっ?!」 がいる予定の教室のドアをあけると、思わず仰け反る景時。 「どっ、どうしたの?みんな。ここでテスト勉強中とか?」 誰一人・・・といいたいところだが、純頼だけが欠けている。 後は全員が残っている。 「梶原先生だ〜。先生の分はないよ〜?」 「遅いから食べちゃった!」 しっかり食べ終えた空き箱は、女生徒の争奪戦になっていた。 「う、うん。ちょっと遅くなっちゃったんだけど・・・お茶会でもしてるの?」 各自がペットボトルの飲み物を持ち、お菓子を食べながら、ついでに明日のテスト勉強らしき をしている。 「そ!先生の友達の・・・お菓子?他の学校の友達に写メしたよ〜」 「お〜!それはスゴイ。思いつかなかったな。ありがとね〜。何だかお店をやりたいらしいんだ」 景時はさり気なくの隣に用意された椅子に座る。 「で?明日もテストあるんだよね。オレでよければ質問受付中!ただし、どんな問題とかは 聞かれても答えないからね〜」 何人かの視線を感じていた景時は、先に尋ねやすいよう場を整える。 「はいっ!現国とかもいい?」 「たはは。わかればね〜。本を読むのは嫌いじゃないから、なんとなくわかるかもしれないし」 手渡された問題集を手早く読むと、頭の中でポイントをまとめる。 「これはね〜、段落よりも句点読みかな。あんまり段落を意識すると、次の文が何を言いたいのか わかんなくなっちゃうパターンだよね〜」 平易な言葉で解説が始まる。 難しくない、相手に伝えようとする態度が生徒にも人気だ。 (景時さんって、やっぱり優しいんだよね。相手の事を第一に考えてあげるトコとか) とにかく嫌味がない。 すっかり周囲に溶け込んでいる景時を頬杖ついて眺めていた。 「の顔、締りがねぇ・・・し!」 将臣がの額を指で軽く弾く。 「・・・痛いよ、もぉ。いいでしょ。景時さんって、何しても格好イイと思うんだよね〜」 景時との関係は公になっている。 よって、クラスメイトもお決まりのお惚気の流し方を覚えていた。 聞き流しというヤツである。 「ね、。ホントにこれ、もらっていいの?」 「うん。可愛いでしょ?私はね、ハガキとかいれてる〜」 しっかり自分流の空き箱の使い方も宣伝する。 「これも可愛いよね〜」 マスコットを携帯につけた友人もいる。 「でしょ〜!レトロな感じがいいんだよね〜〜〜」 自ら気に入っているものは、相手にもよい意味で知って欲しいものだ。 せっせと宣伝につとめる。 「こんな可愛いお菓子なら、もしもカフェにいけなくても通販で欲しいかも!」 「甘すぎなくていいよな。まあ・・・塩気が足りないけど」 すき放題に言っているクラスメイトの感想をしっかり記憶に刻み込む。 「さぁ〜てと!そろそろ皆帰らないと。明日の勉強した方がいいよ〜?オレは今日の夕飯を 作ってみたいと思っているので、そろそろ失礼したいかな」 景時が質問が途切れたところで立ち上がる。 「梶原先生が料理するの?!」 「もちろん!テレビで男の料理なるものをみてね〜。カレーを作ってみたいと思ってるんだ」 景時がメモしたのであろう、材料が書かれた紙をポケットから取り出す。 「景時さん、いつの間にそんなの・・・・・・」 が目を瞬かせて景時をみた。 「してたんですね〜。ちゃんがお風呂に入っている間に。それにさ、料理ってみてたら 実験ぽくて出来そうな気がしたんだよね」 ここまでやる気を出されては、否とは言えはしない。 「ふぅ。わかりました。お買い物して帰りましょうね」 「やった!時間がかかるかもしれないから、早く帰ろう。すぐに作らないとね」 料理に何時間かけるつもりなのか、景時がの手を取り帰ろうとすると、 「梶原先生、バイバイ!」 クラスメイトたちも口々に二人を早く帰らせようとしてくれる。 「うん。バイバイ。明日でテストは終わりだから、最後のひと踏ん張りしようね〜」 振り返り様に軽く手を振る景時。 「・・・ったく。景時は先生なんだから、バイバイじゃねぇだろ」 頬杖をついて将臣が呟く。 威厳はないが、そのようなモノはなくてもいいのかもしれないと景時を見ていると思って いることは心の中での話。 「俺の周囲は変な大人がそろってるよな〜。さってと。俺も帰ってゲームでもするか」 「有川、それ違う」 素早く直輝からツッコミがくる。 「・・・文系はだるいから嫌いなんだよ。じゃあな」 ほとんど何も入っていない学生鞄を手に取ると、将臣も教室を後にする。 ひとりだけその場にいなかった人物を気にかけつつも、既に父親に言われいてることがある。 (が泣いたんだよな・・・・・・景時といたくて) とにかく意地っ張りで、転んでも泣かない子供だった。 異世界で景時に撃たれることになっても泣かなかった。 そのが、景時と離れて自分たちの世界へ帰る決断が出来ずに泣いたと聞かされた。 (景時もあっさりこっちに来ちまうし。・・・・・・家族と自分の世界を捨てて) たちが駅に向かっているだろうから、将臣は別の道を歩きながら考える。 周囲に気を配りながら歩くのには慣れた。 最近では本家に動きがないのが逆に心配の種である。 (まあ・・・見張り番がいるにはいるみたいだけどな) 今まで見なかった顔は特に注意が必要だ。 ふらふらとしながら家路に着いた。 「じゃあ。ちゃんは勉強しててね〜。オレには強い味方がいるから大丈夫」 景時が軽く自らの胸を叩いて請負う。 「味方って?」 「ん?録画してあるからね。覚えているつもりだけど、もしもの時はみればいいだけだし。 任せて、任せて」 の背中を押して、勉強部屋へと追い立てる。 「景時さん?!・・・・・・もぉ〜。ちゃんと勉強するもん」 「うん。それがイイ。オレの手元見てると心臓に悪いだろうし。出来たら呼ぶね」 あっさり部屋のドアを景時によって閉められてしまい拍子抜けだ。 いつもなら煩いくらいにに付きまとうのに、妙にあっさりしている。 「あ・・・・・・もしかして」 ひとつ思い当たるとすれば、に食事の支度をさせないためだろう。 食べに行っても買ってもあからさますぎる。 「景時さんたら・・・・・・冬はカレーじゃなくてシチューなのに。でも楽しみ」 手早く部屋着に着替えると教科書を取り出して明日の勉強を始めた。 「ふ〜ん。台所って入ったらいかんと思っていたんだけど。案外楽しいなぁ」 包丁片手に鼻歌を歌いながら景時が料理しているのはカレー。 男の料理とはいえ、多少野菜の剥き方が荒かったり、剥かなかったりというだけで、そうそう 妙なモノが作られているわけではない。 「これ・・・カレーになるんだ」 が作ってくれたカレーとは大分違うように思う。 「ちゃんのは・・・優しい味だったよなぁ?」 材料は間違っていない。ただ、辛さが違う。 辛いというのにも案外種類があるものだと納得していた。 「カレーの匂い・・・・・・それに、コーヒーもかな?」 部屋のドアは閉まっている。 が、この二つのモノに関しての香りというものは、どこにいようとわかる。 「・・・見に行っちゃおうかな?ちょっとだけ休憩!」 自ら休む事を机の前で宣言し、キッチンへ向かう。 に気づいた景時が、指で上手くできたと合図をしている。 「上手に出来ました?」 「うん。もうバッチリ!ただねぇ・・・ちゃんのカレーみたいに優しくない味」 景時の表現に疑問を持ったが、味見をしようとガスレンジの前に並んで立つ。 「・・・・・・辛い」 「だよね?」 それなりに辛い。色からして辛そうである。 「でも挑戦したいかも」 「う〜ん。ご飯にかけるから、少しはマシになるかなぁ?」 辛いことだけは確かだ。サラダも作ったが、デザートは考えていなかった。 「うふふ。汗かきながらで楽しいですよ、きっと」 「ええっ?!やっぱり?」 が笑いながら味見をした小皿をシンクへ置いた。 「これ・・・失敗だったかなぁ?」 景時が眉間に皺を寄せて考え込む。 「もう!そういう意味じゃないですよ。う〜んと・・・大人の味!」 も食べたことがない辛さではあるが、小さなジャガイモが丸ごと入っていたりと、どこか 洒落て見えるのだ。 「そう?」 「そ〜です。食べたいけど夕飯にはちょっと早いですよね〜」 時計を見るとまだ夕方である。 いつもなら今から夕飯の支度に取り掛かる時間だ。 「・・・食べちゃおうか。デザートはオレが後でコンビニへ行って買ってくるから」 「え〜〜〜っ。私も行きたいですよ?」 唇を尖らせて抗議する。 「ちゃんは明日のために勉強!オレはコンビニで新製品チェック」 「ますます納得いかないです。私も行くの!」 今日の景時は、どういうわけかと別行動を取りたがる。 「・・・景時さん。・・・あのぅ・・・私に言いたいこととかないですか?」 景時の気に触ることを無意識にしてしまったのだろうかと様子を窺う。 「・・・これ、辛くて初めての味だよな〜・・・とか?」 「違います!食べ物のことからは離れて下さい。そうじゃなくて・・・・・・」 景時の服を掴みそのまま見上げると、 「うん。でもさ、あと一日だから。向こうの世界へ行っちゃって勉強遅れてるかな〜とか。 年末年始にドタバタと生活環境が変わってしまって悪かったな〜とか。オレね、なんとなく 何かしたくて、できなくて。何げに譲君がくれた本を読んでいたら、家事って時間がかかる んだろうなってやっとわかったっていうか・・・任せきりで悪かったなと反省したトコ」 の視線を受け止めて、案外すんなり白状した。 「そんなの平気なのに・・・だって・・・してみたら・・・嬉しくなかったですか?」 景時に抱きつくと、いつも自分が思っている事を口にする。 「そうなんだよね〜。君がどんな顔をするかな〜とか想像すると楽しくて。こういう嬉しいも あるんだなって」 そろりとを抱きしめ返すと、その髪へ唇を落とす。 「そうなんです。私もね、いつも嬉しくて。喜んでくれるかなとか。驚くかなって」 「そうだね。これからは時々料理してもイイ?ほんっと危うくて楽しい」 材料を投入した結果がどうなるかというのは、やはり実験ににていなくもない。 「はい?」 「あいてっ」 景時の言葉にが思い切り頭を上げたため、景時の顎に当たってしまった。 「ご・・・ごめんなさい。だって、危ういって・・・・・・」 「いや〜〜〜、これ、水だったんだよ?不思議じゃない?」 顎を擦りながらカレーの鍋を指差す景時。 言われて鍋へ視線を移す。 「・・・・・・・・・あははははっ。やだ〜、景時さんたら。そんなこと考えていたんですか?」 「そ。水なのに・・・とろみがつくなんてどういう事なんだろうとか。真剣に鍋の中を見て いたんだけどさ、わからなくて」 そんな事をいちいち考えていては料理をする時間が何時間あっても足りはしない。 「ご飯がおかゆになるみたいなものなんですから。ほんっと知りたがりさんですね〜」 「そうかな〜?かも〜〜〜。う〜〜ん」 景時に回していた腕を解き、がカレー用の皿を棚から取り出す。 自然に景時も食事の支度にとりかかった。 予定通り少し早めの夕食。 そして、予定通りに二人でコンビニでデザートを調達。 予定外に─── 「こんなに早い時間にのんびりコーヒーを飲みながらデザートって贅沢ですよねっ」 が選んだのはシュークリームだ。 「そうだね〜。二人でいられるなら何でもイイけどね」 いつもの景時に戻ってしまい、の隣にぴたりと座ってコーヒーを飲んでいる。 「へ〜んな景時さん。あんなに私に勉強させようとしていたのに」 が口を開けば、景時からアイスがのったスプーンが差し出される。 「わ!そのアイス美味しいぃ〜。それ、何ですか?」 景時のデザートはアイスだ。 “新”とつく文字に滅法弱い景時がコンビニで購入した一品。 「アズキ。アズキと抹茶」 景時も同じスプーンでアイスを頬張る。 「和ものがブームなのかな」 「だとしたら、洋二にとってはいいことだよね」 先日のお菓子は和風創作とでもいう部類だろう。 完全に和ではないが、和を感じさせる菓子。 「みんなの感想をたくさんメールに書かなきゃですよね〜。男の子が塩気が足りないって いってたし」 塩気の意味がわからないものの、感想は感想だ。 意見として伝えなければと考えている。 「まあ・・・甘いものだけだと飽きるしね。塩気といえばお煎餅」 こちらの世界でに感化され、すっかり菓子に詳しくなった景時。 「あ・・・そういう意味ですか?じゃあ・・・あれですね。お煎餅なら高台寺のところで」 「うん。焼きたて買ったね」 京都で食べ歩きしたことを思い出す。 「食べたくなっちゃった。日本茶、淹れてきますね」 「ありがと〜」 洋風お茶会から和風お茶会へ。 テスト勉強は無理をしない程度に詰め込んだ。 |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:望美ちゃんは楽しい女の子ですね〜。お茶会しちゃうんです(笑) (2007.07.24サイト掲載)