先んじる  ≪景時side≫





 弱みか強みかなんてものは。
 秘密があるかどうかの場合、秘密が秘密でなくなればいい。
 たったそれだけの事。
 ちゃんに可哀想かな〜とか、色々考えはしたけど。
 オレの都合として、彼女はオレの奥さんですと公言したかった。
 だって心配じゃないですか!
 同級生の男の子たちに囲まれてるところを毎日目にしてるのは。
 先生と生徒。
 教える方と教えられる方。
 立場は違えど同じ場所にいるんだし・・・ね。
 
 だいたい、わかってないよな〜。純頼君は。
 ちゃんに対して、そういうやり方は一番嫌われるよ?
 彼女はとても透明で真っ直ぐで正直な子なんだから。
 じわじわと攻めてと思っていたんだろうけれど、そうはいかない。
 ちゃんにだけは触れさせないからね。



「はい!景時さんの定期の申込み書けましたよ」
「ありがと〜。ふ〜ん。こんなに色々書くんだ」
 乗り降りの駅から住所から氏名まで。
 なかなかに面倒なんだね、定期を買うっていうのは。
 窓口に並ぶとすぐに買えた。

「これで毎日一緒だね?」
 買ったばかりの定期を君に見せると微笑まれた。
「そ〜ですね!・・・景時さんは早く行かなくていいの?」
「ちょっとだけ早くなるけど、一緒に学校行きたいな〜」
 生徒は八時半までだけど、先生は八時までに学校に着かないといけない。
 この三十分はちゃんが退屈になっちゃうよね?

「大丈夫!一緒に出ましょう?」
「ほんとに?嬉しいな〜〜〜」
 我ながら現金な奴とは思うけど、これぞ狙い通り!
 後はすべての授業がオレの担当じゃないのが悲しいくらいだね。
 そこまでは贅沢を言ってはいけない。
 ずっと君を見ていたいなんてさ。
 それくらいは我慢するとして。

「明日からお弁当二つ〜〜〜。・・・あっ!景時さんのお弁当箱買わなきゃ!」
「あ、そっか。お弁当か〜〜〜。うん、うん」
 何から何まで嬉しい限り。
 ついつい頬が緩む。今ならもうわかるぞ〜、そういう気持ち。
 帰り道はスーパーの前に雑貨系の店へ寄り道決定。
 楽しそうに選んでいるちゃんの後姿が可愛いな〜と見惚れてた。



「景時さん!これくらい食べる?」
「ちょ〜っと大きいかな?」
 ちゃんの手料理ならいくらでも食べられるけどさ。
 そんなにたくさん作るのは大変だよね?
 その大きさの箱は普通なのかな?
「こっちは?」
「うん。お任せしてもいい?お弁当って、よくわからないんだよね〜」
 ちゃんが大変じゃなければ何でもいい。
 そう言うと叱られちゃうから誤魔化した。

「そう・・・ですよね。じゃあ・・・これとこれにしましょうね」
「二つも買うの?」
 ちゃんの手には、大きな箱と小さな箱。
「そ〜です。こっちの時はご飯も一緒。こっちの時はおにぎりを別にしますね」
「わわわわっ!おにぎり!!!それ、嬉しいね〜〜〜。毎日でもイイッ!!!」
 ちゃんの塩むすびは最高である。
 誰にも食べさせたくないね、あれは。
「大袈裟ですよ?景時さんたら、具ナシがいいっていうしぃ」
「まあ・・・馴染みがあるからね。梅干し以外の具っていうのも楽しいんだけどさ」
 向こうの世界でもお弁当は作ってもらった事がある。
 それが塩むすびなんだけど、これが実に美味かった。
 鎌倉までとか遠くへ行く時に持たせてくれた。
 普通は乾飯だけだから、とても嬉しかったし、有り難かった。

「・・・好きなおかずも言って下さいね?」
「うん。それは何でも好きだから問題な〜し!玉子焼きを時々入れてもらえれば」
 この頃では好きなモノを言うようにしている。
 だってさ───



「もちろんです!景時さん、玉子焼きとかきんぴら好きですよね〜」
「美味しいからね〜〜〜」
 ちゃんがすっごく嬉しそうに笑ってくれるんだよね。
 オレの“美味しい”を言うとさ。
 確かに、相手の好きなモノは知りたいわけで・・・・・・いや。
 ちゃんがオレの好きなモノを知りたいのは嬉しいという事で・・・その。
 いわゆる、惚気です。
 朔に言うと、そろそろ止めてくれって顔される話。



 隠し事がひとつ減って、二人の仲が公になった記念日。
 夕飯は何かな〜と、ちゃんが手に取る野菜を見ながら推理して楽しんだ。






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ

 あとがき:まずは一歩前進。教えるのは授業なのでしたv     (2007.02.13サイト掲載)




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