新しき道標 昨日の続きが今日である。 けれど、この世界でも夫婦になれたという、景時とにとっては特別な朝。 「おはよう、ちゃん」 「おはよう・・・景時さん」 目は覚めたものの、まだまだ眠いらしいは再びベッドへ潜り込もうとしている。 「ダメだよ!起きて〜、ご飯食べて〜、少しだけデートして。帰ってオレは片付けをしないと本が山盛り。 ちゃんは・・・・・・」 「宿題」 景時が言うまでもなく、即座に返事がある。 「そ!美味しそうなお菓子・・・だっけ?あったら買って帰ろうか〜」 「・・・うん。パパにまた嫌味言われる前に、頑張る」 景時に抱きついてからも起きだした。 のんびり朝食を済ませると、海岸線を散歩する。 とくに何がというわけでもなく、ただ見て歩いているだけだ。 このまま歩けば、自然と中華街へと行ける。 「いいね・・・こういう時間・・・・・・」 空と海、近代的な建物と旧来のもの。時間が重なったまま止まっているかの様な街並みだ。 「毎週する〜?土曜日の朝、近所のお散歩!でも、土曜日はお買い物かも。一週間分!」 今は休みだからいいが、学校が始まれば話は別だ。 一人で全部は厳しいものがある。 「そうだね〜。オレも運転覚えてさ。週末はドライブデートで買い出しがいいね」 景時もわかっている。二人でとなれば、家の仕事は分担すべきだ。 それでなくてもは物事を抱え込む傾向にあるのだ。 ここでは朔が居ない分、景時が注意しないとが過労で倒れてしまうだろう。 「買い出し!それだと、すっごくたくさん買うみたい。そんなに食べないですよ」 「ん〜?食べ物だけじゃなくてさ。色々必要でしょ。洗剤とかもね〜?」 洗濯好きな景時。何気に雑貨類が必要だと気づいていた。 「あ!そっか。そういうのもだ。・・・・・・今までって、本当に楽してたかも・・・・・・」 異世界の京で、何かを買うという行為はめったにしたことがない。 家にそろっているもので食事を作りはしたが、誰かがそろえていてくれたはずだ。 「楽・・・っていうのはなかっただろうケド。二人だからね。何でも二人でしようね」 先に言ってしまえば、もそうは気負わないだろうと景時が言葉にする。 「え〜〜!大丈夫ですよ。便利な機械がたくさんあるし・・・景時さん!分解しちゃダメですからね!」 「あはは・・・しない、しない。・・・ちゃんと勉強してからにするよ」 買い物をしてから鎌倉へ戻り、予定通りに景時は本を片付け、は宿題をして過ごした。 「景時さん!そろそろお茶にしましょ〜!!!」 「そ〜だね〜。オレも・・・疲れたよ・・・・・・」 ある程度予想はしていたものの、本は箱詰めより出す方が難しい。 まして、途中で手にとって読み出してしまうのだ。うっかり作業は進まなくなっていた。 「・・・景時さん・・・片付け・・・・・・」 「あ・・・うん。した・・・つもり・・・なんだけどな〜。あはは!」 まるで朝のままと変わりなく思える景時の本部屋。 「・・・明日、朝一番で本棚が届いてからですね」 「本棚、ガラガラのままになりそう」 本棚があろうとなかろうと、本を読み出してしまいそうなのだ。 「もう!本棚にそろえてから読めばいいのにぃ。なんとなく景時さんが朔に叱られてた理由わかったかも」 「あは、あははは〜。そうなんだよね〜〜〜。止まらなくってさ」 間をおいて目が合う二人。 「景時さんたら〜〜〜」 「いや〜、まいっちゃったな〜。バレちゃった」 頭をかきながら景時がを抱きしめた。 「いいんだ・・・ほんとのオレだから・・・さ」 「うん。いいの、本当の景時さんを見せてくれるのは嬉しいもん。でも!」 今のいい雰囲気はどこへという、突然のの態度。 景時の胸に両手をついて距離を取られた。 「お家は散らかってちゃみんなに来てもらえないから、片付けはしっかりなの!」 「・・・・・・御意〜!お茶しよう」 を抱え上げてリビングを目指す。 「うふふ。景時さんのお部屋にキノコが生えたら責任もって食べてもらわなきゃ」 景時の首にしがみつきながら、さらりと言ってのける。 「いや〜、さすがにそこまではまだしたことないよ?弁慶じゃあるまいし」 「ええっ?!弁慶さんが?」 にしてみれば、弁慶はしっかり者と思っていたのだ。 旅の時も細々としたものをきれいに整えており、薬もすぐに出てくるほどだ。 「そ!弁慶ってね、自分の家がいっぱいになっちゃって。家も一部屋物置代わりに貸してたくらい」 「知らなかった〜。・・・キノコ・・・・・・」 キノコが生える部屋とは、漫画で見た冗談のつもりで言ってみただけである。 「生薬の置き場所とかだったからねぇ。噂じゃ弁慶の家にはキノコがあったって。オレも見たわけじゃ なくってさ。怖くて門の向こうへ行った事がないんだ〜」 「ふ〜〜ん。意外・・・・・・」 仲間の思い出話をしながら、穏やかに時を過ごして一日が終わった。 数日が過ぎ、いよいよの学校の始業式だ。 「景時さんは?帰りは何時?」 「ん〜?オレは有川家に行かないとわからないな〜。ケイタイ持ってるからメールするよ」 は靴を履きながら、景時はそれを眺めている。 「・・・うん。今日からお仕事って事はないよね」 「たぶんね。あっても大丈夫」 名残惜しいのか、ついを抱きしめる。 「えっと・・・私の帰りは早いんだ。今日はね、おやつの頃には帰れるの」 「そっか。もしもの時は、向こうにいるし。学校には将臣君もいるよね?」 「わかんない。将臣くん、バイト命だし」 事実、学校のサボリの時はバイト、夏ならばダイビングなのだ。 「じゃあ。オレの帰りが早い時は学校まで迎えに行こうかな」 「ほんと?!」 「もちろん。そろそろ時間だね」 「あ・・・うん。行ってきます」 景時にキスされ、ようやくドアノブへ手をかけた。 「いってらっしゃい。今までと逆だね。オレが見送る側って」 手を振りながら微笑む景時を見て安心したが、大きく頷いて手を振り返す。 「たまには・・・いいかも!待ち遠しいのわかりますよ。行ってきます」 今度こそドアの閉まる音がして、が出かけた。 「ふぅ・・・学校まで送りたくなっちゃうよなぁ。それは・・・ね」 にはの生活がある。 景時が踏み込むべき場所ではないのだ。 「さぁ〜てと。オレも出かける準備しないと。行成さんの用事ってなんだろ〜」 昨日、電話があっただけで用件は聞かされていない。 雅幸ではなく、行成の呼び出しなのだ。 「練習の成果を見せに行こ〜っと」 ここ数日、教習場へ練習に行っていたのだ。 どこでどうなっているのか、国際ライセンスの書き換えという名目になっており、道路交通 事情に対する講習と、構内で一時間運転の練習後、その日からいきなり路上教習。 景時には堂々と車が乗れる資格が与えられている状態だ。 初の一人での行き先が有川家となった。 「おはようございま〜す。車で来てみました」 「おはようございます。書斎で旦那様がお待ちですよ」 盛子が景時を出迎えてくれた。 「わかりました。ありがとうございます」 案内されずとも場所はわかっている。部屋の前に立つとノックをしてから中へ入った。 「・・・・そう。もう車に乗れるのかい。それはよかった」 「機械は作るのも使うのも楽しくて。向いてるみたいです」 報告をしながら行成が話を切り出すのを待った。 「景時君の仕事なんだが・・・しばらくは掛け持ちでお願いするようになるんだ」 「は?仕事が二つって事ですか?」 初心者の景時に二種類の仕事らしい。それはそれでいいのだが─── 「ああ。時間については心配ないよ。一日中寝ないで働けというものではなくてね。在籍と 職場の数が違うってことさ」 軽くウインクをされ、その内容を聞かされた景時は大喜びだ。 その後、最終の細かい話をした。 「それじゃ・・・これで。オレ、もう少し運転の練習してから、学校までちゃんを迎えに 行こうかな〜って思ってたんです」 「そうだね。明日は会社だしね。将臣と譲にはこの件は話してある。景時君も明後日までは 内密に頼むよ」 「はい。ご配慮いただき、ありがとうございました!」 立ち上がると、深くお辞儀をする景時。 「私ではなく、考えたのは雅幸さんなんだ。あまりに先方が読み通りにくるもので、拍子抜け なんだけれどね」 「あは・・・まあ・・・オレも少し考えていたんです。毎日送り迎えしなきゃかな〜と」 京都での別れ方が気になっていたのだ。 藤原家の会長はいいが、現総領の晴純の納得いっていない様子が繰り返し思い出される。 「心配は心配なのだけれどね。・・・あのお人も悪い人ではないんだが・・・・・・」 紫子の兄なのだから、そう悪くは言いたくはない。 けれど、今回の件だけは譲れない。 「あの・・・紫子さんは?」 「ああ。退屈すぎて遊びに行ってしまったよ。と、言っても、横浜の兄上のところだがね」 朝から紫子が出かけた先は横浜である。 純忠の電話で呼び出されて行ったのだが、内容はわかっていたので放っておいたのだ。 「オレの所為で何か・・・・・・」 「いや。こちらの予想の範囲内だからね。あまり紫子には話していないんだ。気にするだろう?」 紫子と藤原家を絶縁させたいわけではないのだ。 意見の食い違いを何とか出来ないかと考えている行成としては、紫子に負担をかけたくはない。 「すみません・・・オレが・・・・・・」 「景時君が謝る事ではないよ。私にとって紫子が大切だという、それだけの事なんだから」 照れくさそうではあるが、きっぱりと言い切った行成。景時が頷いた。 「オレ、最近思うんです。周囲の人が笑っているから・・・オレも嬉しいんだって。それって ちゃんに教わったんですけどね。ちゃんが一番大切なのは変らないけど、家族も仲間も すべてが大切な事には変らなくて。だから・・・・・・」 景時の向かいに座っていた行成が身を乗り出した。 「それで?私たちは景時君にとって、家族にしてもらえているのかな?」 「もちろんです。オレの・・・実家なんですよね?」 景時が足元を指差す。それは、家を指差している事は間違いない。 「・・・はっはっは!これは、これは。雅幸さんには大切な息子を婿に出したと言ってやろう」 茶目っ気たっぷりに顎を撫でている行成の表情が面白い。 「久しぶりにこちらで一緒に昼を食べて行くのはどうだい?紫子も昼には戻るから」 「はい。それと・・・ご迷惑でなければ、夕食もいいですか?ちゃん、今日は早いって 言ってたんです」 「ほう・・・それは助かるね。紫子の機嫌がどんなに斜めでも元通りだ」 大袈裟に両手を開いてその効果に感謝して見せた。 「あはは!紫子さんが帰ってきたら先に言った方が得策ですね」 その後、昼を少し過ぎて帰宅した紫子。 不機嫌ですという表情だったが、予定通りにひと言で気分も好転。 昼食の後、を迎えに行く景時を元気よく送り出してくれた。 「さあ〜てと。校門の前は目立っちゃったからね。今度は慎重に・・・・・・」 学校から少し離れた場所のコンビニの駐車場にてコーヒーを飲みながら待ち受ける。 にはメールを送ったので、もう直ぐ景時を見つけてくれる予定だ。 「同じ服でも違うよなぁ・・・・・・」 歩道に連なる下校中の学生を眺める。自転車だったり、歩きだったり。 どうやら、運動部の生徒は今日も練習らしく、ジャージ姿で走っている。 「一番ちゃんが似合うかな〜」 「私がなあに?」 「ちゃん?!どこから・・・・・・」 後ろから声をかけられ、肩を揺らして振り返る。 「え?こっちの道。ほら。帰りって、自転車の人が飛ばすから」 「な〜るほど。うっかりしたな〜」 幸いコーヒーは飲みきっていたので、零さずに済んだ。 「景時さん!駅はあっちなのに・・・・・・車だ〜」 景時の後ろの車に気づいたの目が輝きだす。 「そ!初ドライブで有川家はどう?すっごい美味しいデザートを用意して待ってるって 紫子さんが張り切ってたよ」 「ほんとに!今日ね、将臣くんたら掃除しないで帰ったんだよ〜。言っちゃお〜っと」 「あらら。どうしたんだろうね?」 将臣らしいといえばらしいのだが、気にかかる。 ただし、素振りは見せずに話しを流すしかない。 「宿題全部終わってなかったからだよ。逃げたんだよ〜、きっと」 楽しそうに学校での出来事を話すに、袋を手渡す景時。 「あ!これ・・・私の分?お菓子付だ」 「そう。何か欲しいかなって思ってね。少しだけ遠回りして行こう。練習付き合ってね」 「もちろん!嬉しいな〜。ドライブ、ドライブ」 素早く助手席に乗り込む。 「よしっ!しゅっぱ〜つ!!!」 来た時とは別の道を有川家を目指して車を走らせた。 「えへへ。得しちゃった!景時さん、もうこんなに運転できるなんて、すご〜い!」 有川家に到着し、が景時と並んで玄関に立つ。 「いや〜、なんとなく出来ちゃった・・・かな?」 二人で話していたのが聞えたのか、中から扉が開けられた。 「お帰りなさいかしら?いらっしゃいかしら?寒かったでしょう?すぐにお茶にしましょう」 「こんにちは〜。おやつの噂を聞いて、急いで来ちゃいました」 紫子に手を引かれながらが中へ入る。その後から景時も中へ入った。 紅茶にシュークリームという、豪華なお茶会が始まる。 「・・・こんなにたくさん・・・・・・」 「そうなの!中のクリームが違うのよ」 標準サイズのシュークリームより小さいそれは、かなりの数が並んでいる。 「いただきま〜す!あ、そうだ。おばさま、将臣くんがね・・・・・・」 の話し声が耳に心地よい。 景時は黙ってシュークリームを食べながら、せっせと学校での出来事を話すの声に 耳を傾ける。 それは行成も同じ様で、時々小さなシュークリームを食べては二人を眺めている。 と紫子の会話の内容はどうでもいいのだ。 ただ、楽しそうな声を楽しむ時間。 (あ〜・・・朔とちゃんが、いつもこうだったよな・・・・・・) 聞き耳を立てるつもりもなく、その場の空気に参加しているのが楽しい。 景時がこの世界に来るまでの時間に想いを馳せていた。 「こんにちは。お茶会に間に合ったかしら?」 「ママ?!」 花奈の声に、が振り返る。 「いらっしゃい。間に合ったみたいよ?」 の隣の席を勧められ、花奈が座る。 「遅くなってしまって、ごめんなさい。お買い物が長引いてしまって」 紫子が淹れてくれた紅茶を一口含む。 「雅幸さんは?」 「わからないのよね。メールはしてみたんだけれど。考えたら、今朝は手ぶらだったわ」 会社に持っていく鞄を持たずに家を出たのだ。会社へは行っていないのだろう。 「パパ・・・一人で遊びに行ったみたい?」 「スーツは着てたのよねぇ・・・・・・」 頬に手を当て思い出しながら返事をする花奈。 「・・・ママ・・・朝、気づこうよ」 いつもながら母親のペースが掴みきれない。 「あなた・・・・・・」 「残念だけれど、私も聞いていないな」 紫子が行成を見たが、行成も聞いていないらしい。 「大丈夫ですよ、お父さんなら」 「私がどうかしたかい?」 全員が雅幸を注視する。その手にはしっかりと大きな紙袋がある。 「あなたが今朝、手ぶらで出かけたわね〜って思っただけよ?」 「ふうん?写真とお土産なんですが。いかがですか?」 大きな紙袋を紫子へ手渡す雅幸。もうひとつはの手に渡された。 「ありがとうございます・・・もしかして!!!」 紫子がテーブルに写真が入ったブックレットを開いて見せた。 「わわわ!この前の結婚式のだぁ・・・・・・」 「よく撮れてるわね」 各々が覗き込んでいるのは、集合写真である。 「横浜まで受け取りに行って。ついでに散歩もしてきたんだ。どうにも休み明けは働きたく なくてねぇ。会社は追加で休んでしまったな」 雅幸は写真を先に見ていたらしく、興味なさそうに紅茶を飲んでいる。 「パパ・・・これ・・・・・・」 「そう。景時君とも欲しいだろう?家の分は家にあるから」 だから有川家の分は持参したという事だろう。 「雅幸さん、夕飯はこちらでいただくことになったってメールはみたの?」 「ああ。だから来たんだよ」 「返事くらいして。雅幸さん、ひとりでどこへ遊びに行ってしまったのかと思ったわ」 微妙に焦点がずれているのが花奈のいいところだろう。 あまり深刻すぎても暗くなるだけだからだ。 「パパってさ〜、美味しいもののニオイがわかるのかな?」 「ほどじゃないさ。景時君は車なんだね?」 有川家の客用駐車場にあった車は、誰の物かわかっているのだ。 「はい。運転、思っていたより簡単で。とはいっても、今日が初乗りなんですけどね」 「そ〜なの。景時さんに学校まで迎えに来てもらったんだ〜。いいでしょ。ね?」 景時の手を取って、嬉しそうにが首を揺らしている。 「今日は寒いからね。それなら安心だ」 「ありがとうございました」 景時がお礼を述べると、雅幸が微笑みながら頷いてくれた。 (・・・やっぱり来るのか。それでかな?) 藤原の家の者が鎌倉へ来るのが確定なのだろう。 雅幸の空白の行動はその証拠の様な気がする。 (明日から・・・気が抜けないね、こりゃ) には笑っていて欲しい。 そのためならば─── 軽く右手を拳にして、決意も新たに景時が気合を入れていると、誰かが帰宅した。 「親父いるのか〜?珍し・・・・・・何だよ、こんなにそろって。こんばんは?」 冬の日暮れは早いので、普通ならばこんにちはと言いたいのだが、外の気配には合わない。 迷いながら晩の挨拶をした将臣。 「こんばんは」 挨拶が返ってきたまではよかったが、紫子に手招きされる将臣。 「んだよ。何?」 「どうしてこんなに遅いのかしら?ちゃんは早かったわよ」 「んあ?ああ・・・それは・・・・・・」 やたらと視線を彷徨わせ、窓のカーテンの方へ顔を背けた。 「お掃除当番、さぼりですって?」 「・・・だな?犯人は」 「将臣!あなたが悪いんでしょう」 紫子の隣に立つと、立ったままで紅茶のカップを片手で持って飲み始める将臣。 「まあ・・・あれだ。ちょいと男の事情ってやつ?今日はバイトじゃねぇよ。着替えてくる」 上手くかわして将臣はその場を退散した。 「事情って・・・本当にあの子はほとんど家にもいないんだから・・・・・・」 「男の子は頼もしくていいじゃないですか。ね?」 珍しく雅幸がフォローしている。 「まあ・・・あいつは少しフラフラしてますから・・・ね」 責任感が強いのはいいのだが、自分のやりたい事を諦めるタイプではない。 「私より、雅幸さんに近いですね。休んだり、サボったり」 「おや?言うね、行成。私は写真を受け取りにいったんだ。とても大切な用事だよ?」 素知らぬ顔でシュークリームを頬張っている。 これ以上言葉を発するつもりがないというアピールなのだろう。 「やれ、やれ。夕食にはまだ時間があるから・・・・・・」 「そうよね!ちゃんは私のお部屋でお洋服に着替えましょう?花奈さんも」 ここぞとばかりに紫子がを着せ替えするために誘う。 「それでは男性陣は私の部屋でというのはいかがですか?今度はコーヒーで」 「賛成。景時君も一緒にね」 こちらも立ち上がると、すかさずが雅幸の肩を叩く。 「パパ。景時さんに迷惑かけないでね?」 「・・・こちらにも信用がないらしい。困った事だ」 軽く肩を竦めると、部屋の主よりも先に行成の書斎へ向かう雅幸。 「大丈夫だよ、ちゃん。お父さんに新車の乗り心地も報告したいしさ!」 「うん。それは・・・そうなんだけどね。景時さんがいいならいいよ。ご飯の時にね!」 食事の時間まで解放されないことは、自身が一番よくわかっている。 「制服、忘れないように。明日も学校だよね?」 「あ!そうだ。気をつける!」 紫子の部屋へ向かうを見送ると、表情を引き締める景時。 「それじゃ、行こうか。景時君はこちらへどうぞ」 「はい」 行成も雅幸が遊びで横浜へ行ったとは思っていない。 話があるのだろうと腹を括った。 景時の本当の仕事は何?─── |
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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→現代へ
あとがき:望美ちゃんのパパは策略家なのでありました。単に負けず嫌い(笑) (2006.10.24サイト掲載)