Merry・・・・・・ 中編 「朔〜〜〜!」 「!」 白龍に案内されて着いたのは、京邸の広間。 こちらでは夕餉の支度にとりかかるであろう日暮れ前の時間。 待ち受けていたのは朔。 真っ先に駆け寄る二人。 「朔〜!あのね、たくさんお話があるんだけど・・・・・・」 朔と手を繋いだままで振り返れば、景時がへ手を差し伸べる。 するりとの手が朔から離れ景時の手へと移り、景時はそのまま母親の前へと進み出た。 「お久しぶりです。その・・・無事に妻を娶ることが出来ました」 「です!不束者ですが、よろしくお願いいたします」 深々と頭を下げると、景時の母は涙を浮かべ、 「まあ・・・こんなに可愛らしい方を・・・・・・景時が?」 「母上。よ?一度会っているでしょう?鎌倉で」 朔が説明を加える。 が平泉から鎌倉へ景時を迎えに行った時、わずかながらも面識があったのだ。 「・・・では、神子様?」 「そんな風に呼ばれた事もありましたけど。今は景時さんの・・・・・・」 が景時を見上げる。 「母上。妻のです。紹介が大分遅くなってしまいましたけど・・・・・・」 服装が違うのと、どこか落ち着いた雰囲気を纏っているためとわからなかったらしい。 「まあ!神子様!本当に景時と・・・・・・」 「嫌だわ、母上。私が言ったじゃありませんか。は物好きなのよって」 泣きながら喜んでいる母の肩を支え、朔がさらりと真相を告げる。 「あのぅ・・・お母様にお願いがあって。何かお料理を一品教えて下さい。一度にたくさんは 覚えられないと思うので。向こうに帰ってから作りたいんです」 「・・・景時のために?ありがとうございます。神子様」 の両手をとり、頭を下げる景時の母。 「ですよ?景時さんのお嫁さんなんですから」 「・・・さん?」 「はい!今日の夕餉は普通に作る予定ですよね?先に譲くんたちが来てると思うんですけど」 部屋の中を見回しても、将臣と譲の姿は無い。 いつのまにか白龍の姿も消えている。 「ええ。何でも明日の準備もあるとかで。そう、そう。今日と明日は皆様がお越し下さるとか」 「ですよね〜!私も食事の支度を手伝いますね。その前に・・・着替えてから」 が振り返ると、朔が頷く。 「もちろんよ。ここはの家でもあるのだから。兄上はご自分で着替えて下さいな。お部屋に 用意してございますから」 朔はの手を取り、かつてが使っていた部屋へと案内をする。 取り残された景時は、母親の手を取り頭を下げた。 「ご心配・・・おかけしました。その・・・時々はこうして顔を見せに来ます」 「何だか急に立派になって。お前に嫁いでくれる人がいるなんて、有り難い事です」 両手を合わせて拝まれる。 「いや〜、その〜、なんていうか。ちゃんがですね?オレ・・・をですね?オレでっていうか。 ・・・彼女を追いかけて突然行方不明になり、申し訳ございませんでしたっ!」 細々説明しても仕方がないと、勢いをつけて頭を下げて詫びた。 「・・・うふふ。そんな大きななりをして頭は下げないものよ。頼朝様も貴方を軍奉行のまま 据置にして下さって、禄もそのままなの。おかげでこちらでもこのように暮らせて。朔が届け物が あるということでこちらへ参ったのだけれど、しばらくは舞の稽古をしたいって。そのうち 鎌倉に帰るわね」 「そう・・・でしたか。舞ならば確かにこちらが主流ですからね」 朔が星の一族へ宝珠を届けたのだろう。そのまま京へ滞在しているのだと理由がわかった。 「あんなに可愛らしい娘さんだもの。景時がいなくなった時は驚いたけれど、朔がね?貴方が 初めて自分から言葉にしたことだからと。梶原家は朔が跡を継ぐとまで言ってくれて。結局は 九郎殿が取り成して下さったのと、政子様が景時は嫁を娶りに行ったのだからと頼朝様に仰って 下さったとか。皆様にお礼をなさいね」 「はは・・・参っちゃったなぁ・・・・・・何だか照れくさいですが。頼朝様と政子様には報告と 御礼の文を書かせていただきます。それでは、着替えて参ります」 景時がの世界へ行ってからの出来事がおぼろげながらわかり、軽く息を吐き出すと、慣れ 親しんでいる服に着替えるべく懐かしの自室へと向かった。 「着物も落ち着くなぁ。こう・・・ここがしっかりしてるから」 帯を締めてもらったが腹部を叩くと、なかなかにいい音がする。 「まあ、ったら。昔は苦しがっていたのに」 「それは、それ。こっちでも景時さんの奥さんって紹介してもらえて嬉しくって」 一回りして着物姿を確認する。 思っていたより動けそうだ。 「本当に・・・ありがとう、。先に着いた将臣殿から話は聞いていたけれど、あの兄の事だから、 心配していたの。白龍の言伝は聞いたけれど、こうして二人に逢えるまでは、半分信じられなくて」 「やだな〜、朔ったら。私、あんなに朔に言ってたのに。景時さん以外、考えてなかったもん。 もうね、鎌倉から帰ったら悲しくて。それなのに、将臣くんに呼ばれて行った場所が景時さんのお家で。 玄関開けたら景時さんが立ってたんだよ?!もう、言葉が出なかった。景時さんがいるって思ったら、 飛びついちゃった」 照れながらもその時の様子を親友であり、家族になった朔に報告する。 「・・・そもそも兄上がはっきりしないのが悪かったんだわ。思い出したら腹が立つわね」 朔の片手が拳になる。 「やだ、怒らないで?今ね、毎日すっごく嬉しくて楽しいんだから。朔のお兄ちゃんをとっちゃって、 それだけはごめんなさいなんだけど・・・・・・」 「いいのよ。静かでいいわ、兄上がいないと。家も散らからないし」 「そんな事言って〜。時々帰ってくるから。だから・・・・・・」 が朔を抱き締める。 「ええ。大丈夫。離れていても家族ですもの。少し遠い場所と思えば、それで」 「ありがと、朔。・・・・・・さ〜て!梶原家の嫁ですから。何か梶原家のお料理を覚えなきゃ。 煮物がいいかな?汁物かな?旦那様の実家の味付けを覚えるのは基本だよね!」 たすきがけで食事の準備を始める支度を整える。 「そんなに気合を入れるほどの料理もないのだけれど。行きましょうか」 「うん!色々教えて下さい」 こちらは台所で奮戦する譲に合流した。 「九郎がこっちにいるってことは、弁慶もいて。新年の奏上を頼朝様の代理でするのに来てるのかな」 着替えた景時は簀子へ出ると、欄干に腰かけた。 庭はすっかり冬景色で、初めてと会った時を思い出させる。 「そんなトコ。将臣から先に使いがあったんだ。日にちは合わせたんだよ、姫君のご要望に」 庭から現れたのはヒノエ。 「ヒノエ君!久しぶり〜〜〜。その・・・その節は・・・・・・」 すぐに立ち上がり、今にも詫びを入れそうな景時をヒノエは片手を上げて制した。 「それはナシ。誰も望んでいない。姫君の笑顔が拝めるならチャラ。俺様は平泉で役得もあった事だし」 「平泉って・・・・・・」 平泉での出来事はそれなりに部下から報告を受けていたので、知っているつもりになっていた。 重衡の件の方が気になり、に細かな質問をしたことはない。 「アンタがさっさと迎えに来ないから、泣いている姫君をお慰めした・・・ってワケ。それぐらい いいだろ?そうでもなきゃ船を鎌倉まで出さないって。この俺様が褒美もなしに動くと思うかい?」 簀子に上がってきたヒノエに眉間辺りを指差される景時。 大きく深呼吸をすると、 「ありがとう、ヒノエ君。おかげで目が覚めたんだ。オレ、ちゃんを追いかけられた」 「へえ?いいね、礼を言われるのって。謝罪よりいい感じだぜ?そんじゃ、上がらせてもらうか。 姫君も来てるんだろう?」 もう上がっていたにもかかわらず、主より先に客間へと足を向けているヒノエ。 「もちろん。台所で張り切って母上と朔に料理を習っていると思うよ。梶原家の味を覚えるんだとか」 「・・・言ってろ。ちぇ〜っ。やだね、新婚さんは」 軽く景時の背中を叩くと、二人は目を合わせて笑い出す。 「覚悟して?まだまだ惚気るから」 「まあ・・・姫君の笑顔付なら倍までは耐えられるかもな?」 「じゃ、三倍しゃべろう!」 ふざけあいながら客間へ行けば、将臣が敦盛を伴って戻っていた。 「敦盛君!」 「お久しぶりです、景時殿。お変わりなく」 やはり一年以上経っているのだ。 敦盛もどことなく落ち着いている。 「変わらない・・・か。よかった。着替えた甲斐があるよ」 その場で回ってみせる景時。 「ほんと、まんまだな。あ、着物借りたから」 将臣が事後承諾とばかりに景時に告げる。 「いいって、そんなのは。こっちで出かけるのには着替えないと目立っちゃうしね〜」 将臣が仲間のところへ回ってくれたのだろう。 敦盛はそのまま将臣とこちらへ来てくれたようだ。 「九郎たちもすぐに来るぜ?今じゃ平氏の奴らも呼び戻されててさ、しっかり京で働いてんだとよ。 ついでに挨拶してきた。経正も来るかって誘ったんだけど、遠慮しやがった。ただし!」 将臣が人差し指を景時へ向ける。 「・・・お前がどう思うかは自由だが、銀も来る。以上」 「銀って・・・重衡殿が?!じゃ・・・・・・」 重衡として内裏へ出仕をしているのだろうか。 「いや。泰衡が貸し出ししてくれた。試しに文を先月送ったんだよ、なんとなく。・・・で、考えた計画 だったんだけど。実現するとはな〜、こっちでクリスマス。銀は平泉と鎌倉と京を結ぶ使いっパシリしてん だってさ。考えてみりゃ、アイツ地理詳しかったよな〜。俺たちを平泉まで案内した時。それで」 将臣がごろりと横になったと同時に、先に酒を運んできた召使が妻戸を開ける。 「皆様が集まるまで・・・こちらをお先にと朔様より申し付かってございます」 「わ・・・朔ってば気が利くね〜。寒かったでしょ?まずは温まってよ」 景時がそそくさと盃を配り始める。 「主自らとは・・・・・・」 ヒノエがふざけて盃を受け取れば、 「いや、いや、いや。再会記念ってことで。あ、リズ先生。いらっしゃい。丁度いいところへ・・・・・・」 景時の手が、リズヴァーンの後ろの人物を見た事により止まった。 「ようこそお越し下さいました。重衡殿・・・・・・」 「銀にございます、梶原殿。私は・・・こちらではそのように」 「畏まりました」 丁寧に挨拶を交わす二人に、将臣が割って入った。 「そこ。そういう痒くなるのナシにしろ。な?景時もさ、あんまり面識ないだろうけど、これ。銀でいいから」 親指で銀を指せば、重衡も頷いている。 「銀もだ。景時はの旦那で俺たちの仲間。畏まる相手じゃないっての。ほら、座って飲め。よっ!リズ先生。 先生も変わんないな〜。外、寒かっただろ?まずは酒。酒だな!」 将臣らしい気配りに、男ばかりの集まりに和んだ空気が戻る。 そこへ偶然にもが追加の酒を持ってきた。 「あの・・・もうみんな来てるの?銀?!」 が手紙を書いたのは八葉の仲間だけだ。 銀が将臣と景時の間に座っている光景に瞳を瞬かせる。 「驚いただろ〜。お前が計画言った時に、ついでに思いついた」 将臣が肘で銀の腕をつつく。 「わわわ!もしかして、わざわざ来てくれたんですか?」 が景時と銀の正面に正座する。 「いえ・・・頼朝公への文使いの後に、こちらへも寄るようにと主が」 「そうだったんですか〜。お礼も半端で帰っちゃったから、気になってはいたんですよね。はい!」 銀の盃へと酒を注ぐ。 次いで景時の盃には少しだけ酒が足された。 仲間と同じペースでは、景時が先につぶれてしまう。 そう大量に飲まない景時への気遣いを見せる。それは景時にも伝わった。 「景時さんもビックリ?私ね、銀に助けてもらって平泉まで行けたんです。平泉の領内も案内してもらったり」 六波羅での出来事は、昨年話してある。 今必要なのは、銀とどう過ごしたかの方だろうと、掻い摘んで説明する。 「うん。今、将臣君に聞いてた。それより、ご挨拶がまだなんだけど?」 景時に手を取られて振り返れば、懐かしの顔が揃っている。 「梶原景時、嫁を娶ることが出来ました!妻のです。二人をよろしく〜〜〜」 ふざけた口調でありながら、しっかりと宣言する景時。 も景時にならって頭を下げる。 「そうか。お前に嫁いでくれる女がいてよかったな。・・・大切にするんだぞ?」 九郎が妻戸で景時とに向かって、ついでとばかりに祝辞を述べる。 「九郎さん!弁慶さんも!!!」 声に反応して面を上げたが、懐かしい仲間の名を呼ぶ。 「こんばんは、さん。ご招待をありがとうございます、景時」 弁慶はまるで変わらぬ態度でヒノエの隣に座り込む。 「うわ〜〜〜、すごい、すごい、すごいかも〜!全員集まってくれるなんて」 が景時の膝を叩くと、景時は黙って頷く。 「先輩。俺と白龍を数えてないでしょう?まったく・・・・・・」 白龍が小走りに譲の隣をすり抜け、の膝へと転がり込んだ。 「神子!譲がけえきくれない。譲が意地悪」 「白龍。私よりケーキなの?じゃあ・・・白龍にはとっておきのチョコレートあげる」 田原がのためと買ってくれたチョコレート。 白龍がチョコレート好きなのを思い出して出掛けに持ってきたのだ。 「はい!これは、今だけしか買えない美味しいチョコなんだよ〜〜〜」 明日のためのケーキは食べられては困る。 さりげなく白龍を食べ物で釣る。 「チョコ!甘くて美味しい!!!」 まんまとチョコレートに釣られた白龍をみて、再び仲間が笑い出す。 「で?用意できたんだ?」 将臣が譲に尋ねる。 「ええ。今日は普通に集まったのですから。先輩も手伝って下さい」 「は〜い!夕ご飯、運びますね」 は景時の頬へキスすると、譲と共に部屋を去る。 この瞬間鎮まってしまった部屋の空気。 「え〜〜っと。・・・いつもこんな感じで、楽しく暮らしてます?」 語尾を上げて周囲の様子を窺えば、瞬時に笑いが起きた。 「うざ〜〜っ!こんなんだから景時の家に遊びに行きにくいんだって。隣に住んでいる俺を労わって」 ころころと転がり、銀の膝へ頭をのせる将臣。 「・・・還内府殿は・・・お変わりありませんね?」 銀は将臣の肩を掴んで、その身を起こさせる。 「そうそう変わってたまるかっての。せっかく集まったんだ。楽しもうぜ?」 「もちろん!ただし、飲みすぎるなよ?姫君が拗ねるから」 男同士で盛り上がりすぎて、が拗ねたことがある。 別にを仲間はずれにしたものでもないのだが、酒が飲めないにはつまらなかったのだろう。 譲は酒の肴を作るのに忙しく、朔はさっさと就寝してしまった平泉の夜。 白龍はしっかり青年に戻って飲んでいた。元来、神は酒好きだ。 「程よく飲めばいい」 「そ。飲むより姫君の話の方が楽しいだろうしね」 わざわざ熊野から酒を飲みに来たのではない。 年に一度集まれるかどうかという仲間との再会を楽しむためだ。 「の話・・・・・・」 九郎にしてみれば、何の話があるのだろうと首を傾げる。 こうして景時の妻となった報告を受けたからには、他には何もない。 鎌倉から景時が姿を消し、その景時はを妻とし、伴って仲間に会いに来た。 互いの消息はすべてわかったのだ。 「九郎。僕たちのその後を話したり、景時のその後の処遇話など色々ありますよ」 景時の幸せそうな笑顔を見るにつけ、将臣と譲に感謝せねばならない。 正直、が帰ってしまった時に弁慶は諦めていた。 ただ、残された宝珠から何かつかめないかと情報を集めてはいたが、梶原邸へ出向いた時にはすべてが終っていた。 「長い・・・夜になりそうだな」 九郎の口元が笑む。 「ええ。長いですよ?語り明かすのですから」 盃を酌み交わすと、タイミングよく食事の膳が運ばれてきた。 「今日は〜!私もちょっぴり手伝いました」 の宣言はともかく、腹が空いてはなんとやらで食事が始まる。 は景時が里芋を食べるのを真剣に見つめており、それこそがが作ったものだと誰の眼にも明らか。 「・・・美味しいよ?これ。すっごく知ってる味がする」 やはり家の味は舌が記憶しているらしい。 それを覚えて作ってくれたには感謝せねばなるまい。 「ほんとに?!やった〜。お母様のお墨付きだったけど、ちょっと心配だったの」 朔にも褒められたが、なんといっても景時の評価次第。 ようやくも食事に手をつけた。 「にしても・・・なんだかこうしてると変わんなくてな〜。あ、変わったか。な〜、譲君」 わざとらしく将臣が話題をふった。 「何だよ、もったいぶって。・・・さては!」 ヒノエが片膝立ちになり、譲を指差す。 「いいから!大人しく食べろよ、ヒノエ!」 冷やかされて照れている様では、言わずとも言ってしまったようなものだ。 「譲君には素敵な方がいらっしゃるというわけですね?そうでしたか。九郎も見習って欲しいですよ」 わざとらしく大きな溜息を九郎の隣で吐くのは弁慶。 「煩い!誰かと比較するものでもないっ」 真っ赤になってご飯をかき込む。それなりに気にしてはいるらしい。 「で?将臣はいねぇの?」 「ああ。俺は本気で働いているからな」 働くとは聞こえがいいが、バイトである。 「そうなんだよ〜。将臣くんたら、学校にも来ないでバイトばっかで。少しは私の苦労を知って欲しいよ」 の頬が膨れる。 偶然というよりは、必然的に同じ大学に在籍中だ。家から近い大学が乱立しているわけがない。 学部こそ違うが、必修科目がいくつか被っているのノートをあてにしている将臣。 「へえ?学校って、勉強するとこだったよな?も行ってるんだ」 ヒノエが興味を示すと、 「そ〜だよ。だって、いきなり主婦業とお仕事なんて無理だもの。それに、パパが、私の頭でいけるならとか バカにしてさ〜。悔しいからしっかり受験生して。卒業と同時に景時さんのお嫁さんになって、そのまま学生。 友だちビックリしてたんだ〜。入学式で私の名字が違うから」 その時を思い出したのか、が楽しそうに笑っている。 「姫君は相変わらずそうやって驚かせるのが上手いんだ?」 「ヒノエくんほどじゃありませ〜んだ。私のなんて可愛いイタズラだもん」 が景時に寄りかかると、 「・・・でもさ、オレ、さっきだよ?こっちへ戻るの教えてもらったの」 「それは、それ。ちゃんと秘密を打ち明けますって宣言しましたよ?」 さらりと景時の追撃をかわす。 「・・・それ、俺より酷いから。予告くらいしてやれって」 ヒノエが哀れみの視線を景時へ送れば、 「だって。それがクリスマスなんだよ?特大の特別のプレゼントをするっていうのが」 またもは上手くかわした。 「オレにとっての特大の特別はちゃんだからね〜、プレゼントはちゃんにしてね」 しっかりを抱え込み、膝上に座らせる景時。 「やっ、その・・・私はモノではありませんっていうか・・・・・・おバカ」 大人しくなったが景時の肩口を叩くが、触れる程度でしかなかった。 時々大胆な行動に出るを景時が見守っているのだろうと思わせる二人の遣り取り。 どんなにが隠し事をしようが、景時にとっては問題でないのだろう。 「お二人が仲睦まじく、安心いたしました」 敦盛にとって景時との絆は憧れ。 さすがにどうにもならない思いもあるのだと、二人の仲を敦盛の方が諦めていた。 それを覆したのは、仲間の協力と思いやり、最後は景時自身の行動力。 以来、何事も努めて出来うる限り力を尽くすようにしている。 「待て。景時に嫁がいて、譲に女ができて?俺様にいないのはおかしい。おかしくないか?!」 ヒノエが顎に手をあて考え込む。 「ヒノエには心がないからな。すべてお友だちなのだろう?」 敦盛に言わせれば、誰でも同じ様に相手をしている。 たった一つが存在しているようには見えない事による苦言。 「そうですねぇ?心を預けられるくらい大切な誰かを見つけなくては・・・ね?」 弁慶にしても、どこか臆病で自分をさらけ出せないヒノエを知っているからこそである。 敦盛と弁慶に止めを刺されるヒノエ。 「やってらんねー。飲むぞー、将臣」 「ば〜か。俺を同類にするな。が、飲むのは賛成だ」 何のかんのと話題はそれつつ、戻りつつ、楽しいひと時を過ごした。 「何か手伝おうか?」 「もう終ります。景時さんこそ、お疲れ様でした」 酔いつぶれた仲間たちをそれぞれに用意した部屋へと運んだのは景時だ。 朔と、譲の三人は、再会の宴の後片付けをしていた。 「明日の準備もしてありますし、私は先に休みますね」 「朔!今日は朔のトコお邪魔していい?もう少しお話しよ〜」 が朔に飛びついた。 「先輩。明日は外出の予定ですよね?」 「うん。私と景時さんはデート。皆はお仕事なんだって。また夕方から、今度はクリスマスパーティー。 ちょっと早いけど、景時さんは二十五日からお仕事だから。二十三日にして二十四日の朝には向こうへ 帰らなきゃ」 今後の予定はきまっているらしい。 景時が笑いながらの頭を軽く二度叩く。 「おやすみ。朔と譲君もおやすみ〜。明日は少しくらい寝坊しようよね?皆もそのつもりだよ、きっと」 「おやすみなさい!景時さん」 客間を出て行く背中を見送る。 いつかの景時の背を見送るのとは違う。 (おやすみなさい・・・景時さん・・・・・・) 「じゃ、譲くんも。今日はありがと。明日の朝ご飯作る時に!朔〜、私たちも休もう!」 「ええ。おやすみなさい。白龍にみつからないようケーキも隠したから問題ないでしょう」 スポンジだけ今日焼き上げたのだ。 白龍は今日たべられると思っていたようで、のチョコレートがなければ危なかった。 譲も明かりを消して客間から白龍が先に眠っているだろう部屋へと戻った。 「でね?景時さんが・・・・・・」 「。もう眠いのではなくて?」 目蓋を擦りながら、景時との出来事を話して聞かせるの頬を撫でる。 「だいじょ・・・ぶ。だって・・・・・・」 「それに。兄上の部屋は前のままよ?無理しないで、兄上のところへ。ね?」 の意識がどこにあるかなどお見通しだ。 「・・・ごめん、朔。やっばり、景時さんがひとりで起きてる気がするの。ごめんね?」 上着を羽織ると、は景時の寝所を目指した。 「眠いのに無理をして。・・・兄上、後は任せました」 衾を被り直し、目蓋を閉じる。 封印をしながら旅をしていた頃は、朔とは常に並んで眠っていた。 その存在がない寂しさにはもう慣れた。それだけの月日が流れている。 星の一族へ宝珠を返しに行った時、祭壇へは朔の手で宝珠を置いた。 置いたと同時に輝きを放つと、もとの鈍い乳白色の珠に戻ってしまった。 (もう・・・龍神の神子の役目はお終い・・・・・・後は・・・・・・) 白龍の存在理由が不明である。 ただ、あれだけ小さくなってしまい、記憶も知識も欠落していた白龍のことだ。 居たい場所にいるというのが大方の理由なのだろう。 (兄上。よかったですわね) 面と向かっては言えはしない。 毎夜、あの鎌倉での出来事を思い出していた。 光の中に消え行く親友。 それを追って庭から一陣の風と共に姿を消した景時の後姿。 景時が堂々とを妻と紹介した時点で、不安の呪縛からは解放された。 が楽しそうに景時が覚えたこと、してくれたことを話して聞かせてくれた。 それは、景時が向こうで頑張ってる報告でもあり、景時の傍らにいつもがいる証。 「ほんとうに・・・は物好きよね?」 ひと言呟くと、今度こそ眠るべく意識を手放した。 景時は単の上に羽織を着て、と出会った庭を簀子から眺めている。 すぐ傍の階は、ちょうどと話をしていた場所だ。 少し視線を移せば、と日向ぼっこをしようといった簀子がある対も見える。 「ここは・・・想い出がありすぎるなぁ・・・・・・」 「へえ?その割には随分と俺たちを騙してくれたよな」 将臣が景時の隣に座りこむ。 「起きたんだ?」 「まあ・・・あの客間が暖かくて寝ちまっただけで。やっぱこっちは寒いな」 将臣の足元をみれば靴下履きである。 「本当に寒いのはこれからだけどね。確かに向こうと比べたら暖房もなくて。・・・大変だったよね」 京だけの話ではない。 ここより寒い平泉でどうしていたのだろうと思う。 「神子様はいつも笑っていらっしゃいましたよ。私が貴方より先に神子様に出会えていたのならと、 何度も思いました。気づけばいつも鎌倉の方角の空を眺めておいででした」 銀は酔いつぶれた仲間たちを運ぶのを手伝ってくれた方だ。 隣の将臣が起き出したのでここへ来たのだろう。 「・・・うん。オレ、ちゃんが生きていてくれるなら、何もいらないって。二人で生きる方法を 探す努力を怠った。それは今だから言えるんだけど、あの時のオレは、そんな選択肢、思いつかなかった。 オレがしていた事こそが、一番彼女を傷つけていたのにね。ほ〜んとおバカさんで、オレって」 最後は軽く額を叩いて誤魔化した。 は多くを景時に語りはしなかったが、毎日仲間に覚られないよう泣いていたのだろう。 (そういう・・・自分より周囲を大切にしてしまう彼女だから・・・オレの過ちを赦してくれた) 「ま、わかってりゃいい。で?今夜は妹に新妻とられたか?」 将臣が景時の背を叩く。 「う〜ん。とられたっていうか。朔に何を話しているのかねぇ?怖いな・・・・・・」 あと数日で満月という月を三人で見上げる。 「神子様はもう月に隠れはしませんよ。ほら」 銀が手のひらで示した先には、衣を肩からかけて小走りにやってくるがいた。 「ちゃん?!そんな薄着でダメだよ。風邪ひくって」 自分の羽織を脱ぎながらへと駆け寄る景時。 すぐにその羽織でを包んで抱き締めた。 「えへへ。朔のトコ、寝相が悪くて追い出されちゃって。景時さんのトコ行こうかな〜って。将臣くんたちと お月見してたんですか?」 白い息を吐きながらも夜空を見上げた。 「まあね。明日はどこへ行こうか?将臣君は平氏のお邸に行くんだって。銀は家のお手伝い」 「うふふ。景時さんも銀になってる〜。仲良しさん?」 が景時の肩越しに銀を見る。 「仲良しも何も、私もお仲間にいれていただいたのですから。ね?景時殿」 「いいね〜、仲間って響き。これからもよろしく〜〜〜。それじゃ、おやすみ。ありがとね」 の足が冷えないよう抱き上げると、自室へ向かって簀子を歩き出す景時。 やはり景時にとってはあまり寒くないようで、その足元は素足だった。 「・・・寒くねぇ?」 将臣が銀の素足に触れる。 「私にとっては・・・まだまだです。私は平泉の者ですよ?」 「だな。お前、後悔してねぇか?まだ重衡に戻れるだろうに・・・・・・」 将臣が重衡を見ると、静かに首を横に振られる。 「私はあの雪深い地で浄化されたのです。あの地でなければ、あのまっさらな雪野原がなければならなかった。 神子様との想い出は、自分を思い出すための龍神様の思し召しだったのです。私は罪を償う身。逃げはいたしません」 「ははっ。それでいいならいいさ。お前の人生だ。俺も・・・そろそろ吹っ切らねぇと。譲にゃ負けられねぇ」 将臣が立ち上がる。 「と、いうわけで。もう少しこれに付き合え。どうせまだ寝ないだろう?」 盃で飲む仕種をして見せると、 「そう思いまして。先ほど用意をお願いしてあります。向こうの対で月見といたしましょう」 「・・・ザルだったな、重衡は」 「何のことでございましょう?こちらにはいない主の分までお付き合いさせていただくだけでございます」 とぼけた銀と共に、月見酒としゃれ込んだ。 「ちゃんは、いつから寝相が悪くなったのかな?」 半分眠りかけているを褥に寝かせると、その髪を丁寧に梳いて除けてやる。 「・・・ん、きょ・・・から。・・・・・・さく・・・が・・・・・・」 温かい空気が逃げないようにかけた衣はそのままに、その上から二人に上手く衾をかける。 を抱き寄せれば、自然といつものように景時の腕に頭をのせて眠る姿勢を整えている。 「寝相っていうのは、寝た後なんだから・・・・・・ね?ちゃん」 ふわりともう片方の腕で包み込む。 はとっくに夢の世界の住人だ。 (ゆうべ夜更かししたんだ。起きているの、大変だったろうに・・・・・・) おしゃべりというよりは、朔に報告していたのだろう。 眠いのに寝ないを気遣って、朔が追い出したとしか思えない。 「ちゃんの寝相がいいのは、オレの保証つきなのにね?」 景時の体温が気持ちいいらしい。 エアコンの温度を景時に合わせると、には寒いのか夏でも擦り寄ってくる。 「こんなに寒がりの君が、平泉で冬を越して・・・ごめんね」 に謝るなと言われているので、面と向かって言う事は出来ない。 「明日はどこへ行こうか?とりあえず神泉苑かな。デートしようね?」 景時も目蓋を閉じる。眠りはすぐに訪れた。 翌日になり、景時とは近場を歩いてまわる。 景時と歩きたかった場所を、今、二人きりで歩く、それだけの時間。 「景時さん、私と歩いてくれなかったから。こうして歩いてみたかったの」 「ははっ。それ言われると・・・オレも歩きたかったよ。・・・うん。ほんとに。二人で」 と二人きりにならないよう、必死に距離をとっていた過去。 の瞳をみれば、何を言おうとしているのかわかってしまう。 景時の思いを引き出されそうで、あえて距離を置くことで平静を保っていた日々。 「今夜の用意は任せてあるから、夕方まで時間があるね。とりあえず神泉苑かな〜」 「はい!」 景時から手を繋ぎ、歩をゆるめてのんびりと歩き出した。 あたりを見回しても、花が咲く季節ではないため、どこもかしこも冬景色。 「宇治から帰って来た時は、もっと、こう・・・何もないって感じだったのに。お家が出来てたり」 「そうだね。九郎たちが・・・頑張ってるんだ」 枯れ木色の中にも活気がある。 新しい年を迎える特有の浮き足立った空気が町に溢れていた。 「次は、どこがいい?」 神泉苑で冬特有の藻で濁った水面を見つめながら、景時が隣に座るに尋ねる。 「ん〜〜〜、どこかなぁ?景時さんの好きなトコ」 「ははっ。そんなの・・・ちゃんとこうしていられるならどこでも同じ。ただ、もう少し寒くない場所が いいかもねぇ?」 両手での頬を包めば、冷やりと冷たい感触がする。 「景時さんの手、あったかぁ〜い!」 景時の手に手を重ねる。 の指先も冷たい。 「ちゃん、手袋は?」 「置いてきちゃいました」 堂々と言い切る。わざとである。 景時と直接手を繋ぎたいがために、わざと置いてきた。 「・・・そういう事言うと。抱っこしかないねぇ?」 「嫌です。そんなの子供みたい。歩けます〜だ!」 景時に捕まらないよう、その腕をすり抜けてが走り去る。 「べ〜〜〜だ!」 振り返り様、景時に挑むように舌を出す。 「いや・・・もう・・・なんていうか。追いかけろってことですかね?本気だしちゃうよ?」 前髪をかきあげながら、との距離を目測する。 を抱えて馬まで走り、そのまま下鴨神社を目指せば甘味処がある。 「よしっ!行きますか」 本気で走ればすぐに追いつく。 「きゃっ!」 「あはは!このまま下鴨神社へご招待。ね?」 を抱えてすぐさま馬に乗る。 この方が一見寒そうでも景時がを包んで温められる。 「・・・朔と舞を練習してたトコ」 「そう。それに・・・少しだけ休憩にはいい場所があるんだ」 「知ってるかも。朔と寄り道しましたもん。それに、こっちの方が嬉しいな」 馬上は堂々と景時に抱きつける。 「オレもそう思って。行くよ?掴まっててね」 手綱を引くと、人通りが少ない道を選んで目的地を目指した。 「ただいま〜!先におやつにしましょう?ケーキが最後だと食べられなくなっちゃう。コーヒーは 景時さんが淹れてくれるから」 早々と集まってくれた仲間のために、コーヒーを用意する景時。 きちんと人数分のコーヒーカップも揃っており、本当にここでカフェが開けそうだ。 「兄上・・・・・・」 「そういう顔しないで飲んでみてよ。そりゃあ、黒くて見た目はどうなの?って感じだけどさ〜」 一応砂糖とミルクも用意してある。 が手本にミルクを入れて飲んで見せた。 「ふぅ〜っ。これがケーキとピッタリなの。甘いものと苦いもの。ケーキがたくさん食べられちゃう」 「・・・不思議な味ですこと」 不味くはないのかもしれない。けれど、特別美味でもない。 「朔は正直者だなぁ。私も初めてパパのコーヒーを飲ませてもらった時は、そう思ったんだ。じゃ、 ケーキ食べよう?ケーキは譲くんのスペシャル二段重ねだから!」 「私も!私もケーキがいい」 「はい、はい。白龍に一番に切り分けてあげるから」 がケーキの担当になり、甘党が集まる。 「つか、これかなり美味いけど。どうよ?」 将臣が九郎を見れば、眉間に皺を寄せている。 「・・・・・・わからん」 「わかんないか〜。あれだ。苦味ってのは大人になって覚える味覚らしいしな」 空のカップを景時に差し出す将臣。 普段飲みなれているので、別段わからない味ではない。 景時は将臣のカップにコーヒーを注いで返した。 九郎は悔しいのか、負けじとカップを景時に向かって突き出す。 景時は少しばかり砂糖をいれ、ミルクを注いでからコーヒーを差し出す。 それには九郎がよい反応を示していた。 「僕は美味しいと思いますよ。薬湯よりは苦味もないですし」 「ええっ?!そんな基準?!これは飲み物で薬じゃないよ〜〜〜」 景時の首が項垂れる。 ところが、黙々と気に入って飲んでいる人物もいた。 「・・・リズ先生は気に入ったみたいですよ。敦盛もか?」 譲が話し掛けると、 「ええ。これは香りがよい飲み物ですね」 「景時さんの淹れ方が上手いから。時間が経つと香りは消えてしまうんだ」 敦盛へ向かって譲が説明を始める。 「景時って変なの好きだよな〜。これは道具も面白そうで。悪くないね」 新しいもの好きのヒノエらしく、理解を示す。 「でしょ〜。向こうにあるけど、豆が違うと味も違うんだよ。お茶といっしょ。これが中々に楽しくて」 「私にも教えていただけますか?御館がお気に召しそうです」 まさに新しいもの好きの御館が興味を示しそうだ。 「いくらでも!道具もいくつかあるから。家じゃ朔がしないと飲まなさそうだし。ヒノエ君と銀はお土産に 向こうの開けてないの持っていくといいよ。まずは豆の挽き方から!」 こちらでは景時が先生になり、コーヒーの淹れ方講義が始まっていた。 食事も済んで、再び談話の時間となる。 シャンパンはあっさりしすぎていて、ワインに変わったのは自然な流れだろう。 と朔は紅茶とチョコレートを楽しんでいる。 「そぉ〜だ!皆にプレゼントがあったんだ。景時さんがサンタさんなんですけど」 が手招きをすると、譲が隣の部屋からプレゼントを運ぶ手伝いをする。 「これが・・・皆に。将臣くんと譲くんが選んでくれたの」 紙袋ひとつが一人分らしい。 開けてみれば、それぞれに似合う色のフリース、マフラー、手袋がセットになっていた。 「へえ?いいじゃん。ちゃんと銀のもあるんだな」 「泰衡と御館のも。向こうじゃ世話になったからな〜」 将臣が銀へさらに二人分の紙袋を手渡す。 「御館と泰衡様への贈り物まで。ありがとうございます」 「い、いいんだよ。だって、これって景時さんのボーナスで買ったんだもん」 が景時を振り返る。 「・・・あはは!ちゃんが欲しかったモノって、こういうことか。別にいいのに」 賞与で欲しいモノがあるといわれたのだ。 景時にとってはと暮らせる収入があればそれだけでいい。 家計はに任せていた。 「朔とお母様にはこれ!昼間着てるのはこっちが楽かな〜って。カーディガンを色違いにしたの。それで、 お母様には食器なんだ〜。ガラスって夏に涼しそうだから。朔にはお出かけ用にコート。可愛いでしょ」 真っ白でファー付のコート。 朔が目を瞬かせて眺めている。 「これは〜、こうして、こうしてこう!このように着るものです。暖かいでしょ?」 が着せてやると、朔は両手を広げて己の姿を想像しているらしい。 「ヒノエくん。褒めるトコだよ。しっかりしてよ〜」 「あまりに似合うから言葉がでなかっただけさ。朔ちゃん、すごく似合うよ?そうだな、天上に住むという 女神のよう・・・・・・」 「はい、はい、はい、はい〜っと。あんまりうちの妹に近づかないように!」 ヒノエが朔の手をとる前に景時が割って入った。 「・・・ま、景時が居ない時に頑張ればいいし?」 「ヒノエくん!冗談でもそういうこと言わないで。・・・って、いうか、まったく相手にされてないから」 が朔をみれば、朔が披露している相手は母親だ。 も二人の仲間に加わる。 「お母様もカーディガンを着てみて下さい。春色グリーン、探したんですよ」 「優しい色・・・さんがこれを?」 「はい!この色がいいって思って。あ、これはごしごし洗濯してはダメなんですよ?」 が洗濯の仕方を説明する。 こちらでは手洗いしかないのだ。問題は洗い方と干し方になってくる。 なりに手入れの方法を朔と母親、二人へ説明を始めた。 「アイツいるだけでまったりするな〜」 将臣がワインを含む。 「神子様・・・ですか?」 「そ。しっかり嫁してるし。景時の顔、見てみろよ」 自分の家族を大切にしてもらって嫌な顔をするわけがない。 景時も輪に加わり、朔に叱られているいつもの風景。 「笑える!迎えに来た時の景時の顔ったらなかったぜ〜?顔面蒼白、どこの重病人かよってくらい。熱は あったらしいけどな〜。想像つかないだろ?」 譲の膝を叩く将臣。 「兄さんがふざけて時間をずらしたりしなければ、俺ももう少し穏やかな顔で待てたんですが」 「まあ、そう言うなって。いい・・・年越しになりそうだ。で?九郎はどうするんだ?」 将臣が九郎のグラスにワインを注ぐ。 「俺は兄上の名代でこちらへ来ている。鎌倉へ戻る・・・予定だったんだが」 「しばらく滞在になりそうです。頼朝様は鎌倉を離れられないですから。・・・西の見張り番を兼ねて」 弁慶が今朝方届いた文の内容を明かす。 「そっか。また・・・集まれたらいいな。花見でも出来たら・・・な」 「ああ。また・・・集まれるといいな」 九郎もワインを飲む。 クリスマスが仲間にどう伝わったかは問題ではない。 みんなが集まり、近況を話し、和やかな時を過ごして別れる。 次の約束をして─── 「忙しいだろうに、悪かったね」 「ついでだ。気にするな」 九郎らしい言い方に、景時は言い返さずにただ握手をする。 「オレの事、無理しなくていいから。いない奴に職があるのもね」 「俺ではない。兄上が決められたこと。文句があるなら兄上に直接言うんだな」 過去には色々あったが、頼朝は最初に目指した国づくりを行おうとしているらしい。 「そう・・・だね。鎌倉で・・・きちんとご挨拶したいから。それまでは甘えさせてもらおうかな」 「ああ。勝手にしろ。俺はしらん」 実際、頼朝の厚意がなければ、景時の家族、梶原家の存続は危ういものだ。 (けれど。頼朝様が・・・すべて九郎に預けたんだろうな・・・・・・そうでなければ) 朔たちが京へ来られるわけがない。 鎌倉から離れるのは、離反を意味するととられても言い訳できない状況なのだ。 なんといっても、景時は現実にいないのだし、主不在の家人を自由にさせておくのは前例がない。 「明日・・・向こうへ戻るけど、頼朝様と政子様への文は昨日弁慶に預けてあるからさ」 「知っている。・・・お前は、お前のあるべき場所をみつけたのだろう。それでいい」 九郎が酔いつぶれる前に礼をと考えたのだが、存外に九郎は酔っていなかった。 「ありがとう、九郎。また来るから」 「ああ。出来れば事前に知らせてくれ。・・・次は俺たちがお前を驚かせてやる」 「九郎がか〜?!その前に、こっちも飲んでみろ。酒だけは買い込んできてよかったよな〜。ビールうまっ」 どう考えても未成年の将臣。 しかしながら、こちらでは三年多く過ごした所為で、実質二十歳以上ともいえる。 景時もこちらの世界での将臣の振る舞いは黙認していた。 「よしっ!オレも飲んじゃお〜っと。ビールって不思議な味だよね〜」 「よっしゃー!景時も飲むか〜。ほら、ほら。リズ先生もちびちびすんなっ。飲めっ!」 ヒノエと将臣はやや酔いが回っているらしい。 声が大きくなっているのもわかっていないのだろう。 次々と仲間のグラスに酒を注ぎまくり、いつしか大騒ぎの輪が出来上がっていた。 「・・・始まっちゃった」 「うふふ。そうね。母上はどうなさいますか?」 朔とが振り返る。 「私は先に休ませていただきますよ。もう若くはないのだから、朝までは無理よ」 が景時の母に近づき、その手を取ると挨拶をする。 「あの・・・突然押しかけてしまって。それに・・・こんなに騒いでしまって、すみません」 「いいのよ、さん。いつもは静か過ぎて。それに、あの子が羽目を外すなんて、さんのおかげ。 とてもいい一年の締めくくりになったわ。申し訳ないけれど、先に休みますね?」 人差し指を口へ立てて、静かに妻戸から身を滑らせる景時の母。 その茶目っ気たっぷりな仕種が、なんとなく景時と重なり、小さく手を振って見送る。 「やっぱり景時さんのお母さんだ。似てる」 「そう?母上が聞いたら嫌がりそう。あんなに騒々しいのかって」 「こう和んじゃう仕種の方!・・・ちょびっとだけだよ、煩いのは。偶にしかしないからいいのっ」 少しばかりオーバーかと思える景時の愛情表現。 今日二人で京の町へと外出して感じたのは、が告白した時は必死に気持ちを隠していたらしい。 「景時さんって可愛いんだ」 「そんな事を言うのはぐらいよ?あんな・・・調子ばかりよくて騒々しい兄上に」 可愛いというには大きすぎる。しかも、落ち着きがない。 朔にしてみれば、は本当に物好きだ。 ただ、兄の優しさに気づいてくれた。 景時の闇と寂しさにも気づいてくれた親友は、どこまでも真っ直ぐな視線を景時に向けている。 「そんなことないよ。とっても物知りで、勉強家で。私の事、待っててくれる。絶対に見つけてくれるの」 「・・・待たせていたのは兄上の方なのだけれど。私の大切な親友を」 壇ノ浦から平泉まで近いとはいえない距離を、お尋ね者扱いをされながら隠れるように旅したのだ。 その間、は景時を非難したことはない。 平泉での決戦前日、景時を訪ねた時もだ。 「待ってた・・・かなぁ?でも・・・考えたら、景時さんの気持ちはもう貰ってた気がする。だから待てた。 それなのに、私ってばお迎えに行っちゃって。信じていたつもりなんだけどなぁ・・・・・・」 はしゃぐ仲間の輪を遠巻きに見つめている二人。 それでもの視線は景時だけを追いかけている。 「あら。信じていなければ、あの兄上が貴女を追いかけるはずがないでしょう?臆病者の兄上が」 景時は何を思って将臣についていったのかわからない。 一度は諦めた手を求めて、僅かな時間で決断した景時の心の内は朔にもわからなかった。 ただ、戻ってきた白龍の言伝だけが、朔の心を温かくした。 「ん〜。やっぱりサンタさんは景時さんだ。・・・とっておきのプレゼントもらっちゃった」 景時が時空を越えた年のクリスマスは出来なかった。 翌年は受験生ながらも、景時の家でクリスマスをした。 今年はこちらでと心密かに決めたのは、もう去年のクリスマスという事になる。 「どうしたの?二人は先に休んでもいいよ?もうヒノエ君なんか止まらなさそうだしね」 景時が輪から抜け出し、二人の前にしゃがみ込む。 「・・・兄上はどうなさいますの?」 「そりゃあ招待したんだから、最後まで付き合いますよ〜。こっそりコレ飲んでるし」 景時のグラスはいつすり替えたのか水らしい。 「皆が集まってくれて。出来るだけ一緒に馬鹿騒ぎしたいしね。と、いうわけで。ちゃんをよろしく〜」 朔の頭を軽く撫でる景時。 「景時さん!」 が飛びついて景時の頬へキスをする。 「え〜っと・・・・・・」 「朔のお部屋にいますね。たぶん先に寝ちゃうから。おやすみなさいの・・・なの!」 「あはは。そうだった。おやすみ、ちゃん」 景時はの髪に触れると輪の中へ戻る。 「兄上がこんなにしっかりしているなんて」 「もともとだよ?景時さん、優しいんだ〜。じゃ、朔のお部屋にお邪魔しま〜す。ここ、お酒臭いから」 先に立ち上がると、朔の手を引いて立たせる。 「そうね。この分では・・・みなさまこちらでお休みでしょうし」 いわゆる雑魚寝というやつだ。 旅の時はよくあった事で、宿の部屋がとれない時は、と朔だけが宿で、他はどうしていたのか今ならわかる。 が、今宵だけは小言は無し。 まだまだ馬鹿騒ぎの客間の妻戸を静かに閉めた。 こうして二十三日は幕を閉じ、二十四日の朝を迎える─── |
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『十六夜記』景時蜜月ED 望美ちゃん大学生!
あとがき:こんな感じで京へ・・・なんて!☆ (2008.01.14サイト掲載)