帰郷





「おう・・・・・・おはようさん」
「おはよう、将臣くん」
 将臣が先に挨拶をするが、返事をしたのはだけ。
 知盛は視線も合わせないでを抱えて座る。

「まぁ〜だ機嫌悪ぃのかよ。面倒な男だなぁ〜、お前は」
 将臣も配慮が足りなかったとは思っているが、全面的に謝る理由もないと考えている。
 指で耳飾をいじりながら言葉を探す将臣。

「ね、譲くんは?」
 景時がまだなのは知っている。白龍は将臣の左手側にいる。
 将臣と白龍だけが庭を見る位置で、将臣の右手の列には知盛がを抱えて座ったためにほぼ同じ
位置の席、その正面に景時の席と、コの字型に席が用意されている。
 食事は用意されているのに譲の膳がなく、譲の姿も見えない。

「ああ。あいつは引き篭もり中。顔・・・見られたくないんだろ。たぶんな」
 誰にといってに見られたくないとは言わないのが最低の礼儀だと、将臣なりに気遣った。
「・・・そんなにヒドイの?手は大丈夫って聞いたのに・・・他の具合は・・・・・・」
「打撲ばっかだから気にすんな。剣道部なら普通にあるだろ。弓道部じゃ打撲はなくてもな。刀傷は
切り傷程度しかないんだ。ラッキーだぜ?」
 隠したいほど酷いらしい打撲が心配だが、刀傷が少ないからラッキーというのは少し違うと思う。
「それなのに、これ・・・・・・」
 海の食材を使った和食である。まさか朝から牡蠣が食べられるとは思わなかった。
「海が近いから貝類はいくらでもあるしな。譲が作りたいんだからいいんじゃねぇの?趣味だし」
 譲が他の人が作ったのでは心配だと将臣に告げた。
 それについてはに知られないようにしなければならない。
「・・・うん。でも、怪我してるのに・・・・・・」
「いいんだって。海の幸を使いたい放題って、メニュー書き付けてたくらいだし」
「ほんとに?筆・・・持てるんだ・・・・・・」
 身を乗り出して話をしていたが、大きく息を吐き出すと知盛に寄りかかった。

「動けるなら・・・よかった・・・・・・」
 まさに動けるだけなのだが、だからこそに見られたくないのだろう。
「ああ。顔なんてついてりゃいいさ」
「そういう問題じゃないでしょ!だって・・・私が譲くんを守れなかったんだし・・・・・・」
 俯く
 将臣が箸で膳の淵を叩いての注意を惹きつけた。
「おい、おい。それ、譲の立場がないから。が守られてやった事にしろ。あんまりだろ」
 弁当持ちで供をしたわけではないのだ。
 譲とてある程度の場数は踏んでいる。
 相手が盗賊の類で喧嘩慣れをしていたというだけで、戦場ならば自分の得意なもので戦えたはずだ。

 知盛は話に加わる風でもなく、を抱えたままその髪に頬を寄せ、将臣がいるのと逆である方向の
庭を見ていた。
 将臣との会話に間が出来ると、を支える左腕は動かさずに右手での髪を除け、その項に
唇を軽く触れさせる。
「うひゃん!・・・知盛?」
 キスというにはあまりに長く、知盛は離れない。



 誰もが動けないでいた時に、景時がやって来た。
「おっはよ〜!遅くなりました。ちゃん、銀だよ〜」
 の膝にいる桜が飛び跳ねて銀を待つ。すぐに銀は桜の隣へ移動した。
「おはよ、銀。お帰り〜と、お仕事お疲れ様だったね。朝ご飯にしようね」
 指で頭を撫でると、小さく頷く銀。
 実際には弱ってしまったので休ませていたので働いてはいない。
 それでも、銀を大切にしているの態度に、景時も知らず知らずに微笑んでしまう。
 部屋の空気が動いたのはこの一瞬だけで、知盛の唇はまだから離れていなかった。

「・・・・・・ん?」
 景時が将臣の方を向いて何事なのかと目で尋ねると、将臣が手を上げてわからないという仕種で返す。
 今度はに目で合図をするが、これまたわからないらしく、は少しだけ首を傾けた。
 
 

 微かに渡殿を歩く足音が近づいてきた。
 景時が様子を窺っていると、見知った顔である。
「あれ〜、教経殿だ。あと・・・誰だろう、もうひとりの彼は初めてかも」
 景時が将臣を見ると、これ以上の訪問者の予定はなかったらしく、将臣も中腰になって開けてある御簾
から渡殿を歩いてくる人物の到着を覗き見した。



「おはようございます、還内府殿。こちらに皆様がお揃いとの事で、朝から失礼させていただきました」
 軽く妻戸口で礼をすると、将臣の正面で声が届く程度の距離に教経が座った。

「なんだ。こっちこいよ。え〜っと・・・玉積だったな。教経と菊王丸の分は何かあるか?」
 二人を手招きしながら、端近に控えていた玉積へ朝餉の膳の確認をする将臣。
「はい、すぐに」
 いつも余分に作ってあるので運ぶだけだ。
 急いで台所へ取って返し、新たな二人の膳を整えた。

「じゃ、飯を食いながらにしようぜ。が煩いから」
 軽く手を合わせると箸を手に取り将臣が食べ始める。
「・・・煩くないもん。知盛?食べよ」
 が軽く知盛の頭を撫でるとようやく唇を離し、またも庭の方を向いてしまう。
 これには将臣も根負けし、思い当たる知盛の要求をのむことにした。




「・・・・・・知盛。仕事は休みでいい。お前、今日はの傍にいろ。・・・これは命令だ」
 将臣が箸で知盛を指すと、本日初めて知盛が将臣と目を合わせた。
「・・・そういう大切な事は、始めにお願いしますよ。・・・兄上様?」
 口の端を僅かに上げた後、の肩へ顎をのせる知盛。
「知盛ったら、そうやってサボるの上手なんだから」
 口では嗜めながらも、知盛に自分の箸で食べ物を食べさせてやる
 知盛としては当然今日はと離れない心積もりだったのに、将臣から言葉がないので拗ねていたらしい。
 知盛にあきれ半分、言い出せないの性格を思いやれなかったのが半分で、将臣が苦笑いをした。


「はっはっは!知盛殿は大きな赤子だな。そろそろ私の用件を聞いていただけますか?」
 不穏な空気がなくなったところで教経が箸を置いた。
「なんだ。知盛に用事で来たのか」
 将臣は茶碗を置いて顔を上げる。
 将臣の対へ出向いてきたのだから、将臣に用事だと思っていたのだ。
「いえ。皆様に・・・ですよ。神子様の従者に菊王丸をと思いまして。昨日も、こちらから迎えに行けば
よかったのです。まことに・・・・・・」
「ぎゃーーーーっ!!!ストップ!なし!続きはダメ〜〜〜」
 が箸を放り投げて教経の言葉を遮る。
 朝から昨日の事を蒸し返して謝られたのでは堪らない。
 何も無かったとはならなくても、ここにいる者は誰も悪くないのだ。
 弧を描いて舞ったの箸を、見事に受け止めたのは景時だった。
「上手いな、オレって!は〜い、ちゃん。お箸がないと大好きなご飯が食べられなくなっちゃうよ〜?」
 景時が箸を玉積へ渡すと、静かにへと返された。
 


「・・・っ・・・あはははは!ここは和やかであたたかい。ご挨拶がまだでしたね。・・・教経とお呼び下さい」
 正しく名乗るならば父親の名前と出自からなのだろうが、あえて省いてへ軽く頭を下げた。
「のり・・・つねさん?今度は“つね”シリーズだ〜」
 シリーズも何も、親の名前の一文字をもらうことが多かったこの時代、一門の者ならば似た名前になるのは
普通である。
 案外単純なこの名付け方法をは面白がっている。
 の世界では、子供の名前は他人と違う珍しい名前にしたがるものだからだ。

「しり・・・いず?」
 が喜んでいる理由がわからず、教経は将臣を見る。

「あれだ。名前の一文字。今まで“盛”が多かったからな。にとっちゃ面白いんだろ」
「なるほど。一定の何かが同じものの集まり・・・と、いうところでしょうか?」
 妙な語彙には将臣で慣れているのだ。
 新たな語彙が使われれば意味を尋ねて覚えるようにしていた者は多い。
「ま、そんな感じだな。経正と同じって思ったんだろうよ。菊王丸はいいのか?コイツの世話は面倒だぞ〜」
 と変わらぬ年齢の菊王丸に、一般的な姫の枠に入らないの従者は酷に思える。
 ひとりだけ端で控える菊王丸を見ると食事の膳に手をつけていない。

(コイツ真面目だからな〜・・・・・・大丈夫か?)
将臣の心配をよそに、知盛が顔を上げて菊王丸を見ると、もつられて廂に近い場所に座っている人物へ
視線を移す。

「あーーーっ!ご飯食べてないっ。すっごく美味しいのに、食べないと損ですよ?」
 の声に驚いた菊王丸の肩が揺れた。
 主人と一緒に参ろうとも、普通は簀子までしか上がれない。
 教経は常に菊王丸を廂まで呼び上げてしまうので困っていたが、今日はよりにもよって一族の総領である将臣に、
将臣の部屋の母屋まで呼ばれてしまい緊張していたのだ。
 室内にいるのは還内府を筆頭に官位が高いものばかり。
 食事の膳まで用意されては、どうしていいかわからないでいた。

「将臣くんがちゃんと言わないから、あんな隅っこのままで食べてないんだよ!気が利かないなぁ」
 将臣からは中腰でオロオロしている菊王丸と、それに気づかないが見える。
 確かにもうひと言添えた方かよかったとは思うが、いくら何でもに指摘されるとは思わなかったのだ。

「・・・お前、食い物に関してだけ細かいよ。見ろ、菊王丸が困ってるから」
 僅かな期間でも都があった福原だ。
 内裏と同じく、官位や身分にいまだこだわっているのは仕方がないとも思われる。

「・・・菊王丸・・・膳を持ってここへ来い」
 知盛がと自分の隣辺りの床を指差す。

「はっ。・・・その・・・・・・」
 主である教経より上座になってしまうのだ。

「来い・・・と言ったんだが?教経は向こうへ行けよ」
 景時の隣を指差し、知盛は再びの肩へ顎を置いてしまう。


「・・・菊王丸、こちらへ。私は梶原殿の隣にお邪魔させていただく」
 教経が先に立ち上がると、女房が席を設える。
 のろのろと菊王丸も立ち上がり、用意されてしまった席に座った。



「・・・早く食えよ」
 俯く菊王丸に、知盛が声をかける。
「知盛もだよ。自分で食べなよ。えっと・・・気にしないで食べて下さいね?それとも、嫌いなモノでした?」
 嫌いな食べ物だとしたら、とても悪い事をしたなとが様子を窺う。
「いえ・・・その・・・・・・頂戴いたします」
 頭を下げてから箸を手に取り食べ始めると、今まで食べたことがない料理と味付けだった。





 もうすぐ食事も済もうという時に、白龍が庭の方を指差して立ち上がる。
「地の玄武がいるよ。・・・・・・ううん、もうすぐ来る」
「はぁ?地の玄武って・・・・・・」
 将臣が景時を見るが、景時も覚えがないらしい。
 すぐに首を左右に振られてしまう。
「なんだぁ?リズ先生、こっちに遊びに・・・・・・」
「そんな事ない!だって、私が朔についてて下さいって頼んだもの」
 不安げな瞳で、すぐさまでもないと告げられる。

 も呼んでいないとなれば、残すところ譲しかいない。
 譲が連絡を取ったとも考え難く、
「ってことは・・・勝手に来たって事だよなぁ?京で何かあったとか・・・・・・」
 考えたくはないがリズヴァーンが福原を尋ねる理由が思い当たらず、将臣が立ち上がろうとすると、簀子を走る
足音が響いた。


「申し上げます!馬にて邸内へ乱入者が・・・・・・源氏軍にいた鬼だと思われます!」
 簀子で膝をついて報告の者が告げ終わるとすぐに、将臣の対の庭の方で蹄の音がする。
「あ〜っと、あれだ。敵じゃねぇんだから、そう構えるな。刀は鞘へ戻させろ」
 足音を立てながら簀子へ出る将臣。
 続いて部屋にいた者たち全員が簀子で馬上の人物を確認すべく立ち上がる。



「あ〜らら。ほんとにリズ先生だ」
 景時が片手をかざしながら声を上げる。

 リズヴァーンは警備の兵に取り囲まれた中で庭へ降り立つと、もうひとりの人物を馬から降ろした。
「あれは・・・・・・」
 見覚えのある者だ。
 将臣が階へ回ろうとするより早く、庭から経正が駆けつけた。

「侵入者とは・・・・・・按察使?」
 リズヴァーンが連れて来た人は按察使だった。
「お久しゅうございます、経正様。・・・・・・皆様、貴人がそのように端近に出るものではございませんよ」
 さらりと言いのけると、真っ直ぐ背筋を伸ばして立っていた。





「その・・・こちらへは・・・・・・」
「ええ。若君と神子様のお世話を申し上げたく参りました。よく考えましたら、こちらには年若い者ばかりで、
何かと不都合もございましょうから・・・・・・」
 何となく経正と按察使の会話を簀子で見守る様になってしまった面々。

「そうでしたか・・・それは心強い事です」
 物腰の柔らかい経正の事、否を唱える事無くすんなり了承する。
「つきましては、若君の対の女房と顔合わせをさせていただきます。案内はなくとも、邸内についてはすべて存じて
おりますゆえ・・・・・・」
 経正の顔色が変わったのを、按察使は見逃さなかった。

「・・・若君の対の筆頭はどなたなのでしょうか?」
 気まずそうに口元を扇で隠す経正。
 一門に仕えている按察使の方が経正を押しているのが不思議でならない

「・・・・・・多岐ですよ。元々いた女房を出来るだけ振り当てましたので」
 今回雇い入れた者を知盛の対へあてるのは、知盛に慣れていないだけに大変かとわざと外したのだ。
 按察使の目蓋の片方だけが僅かに動いた。

「・・・そうですか。あまり奥向きがよい状態とはいえないですね。すべてお任せいただいても?」
 今となっては妻を娶った知盛の対に、多岐の様な野心家の女房が揃えられているのは邪魔でしかない。

(一日も早く若君のおややを見たいと思って、京では楽しみにお仕えさせていただいているのに・・・・・・・)
 按察使には按察使なりの野望があるらしく、経正を睨みつけている。

「そ・・・それは・・・・・・」
 口篭る経正の視線を感じた将臣が、簀子から按察使を手招きする。
「よっ!久しぶりだな。ここさ、俺も色々困ってるんだ。任せてもいいか?話もあるし、まずはこっちへ上がってくれ」

 景時も荷物を持ちっぱなしのリズヴァーンに声をかける。
 リズヴァーンが持っていると軽そうに見えるが、持っているのは葛籠なのだ。
「リズ先生!朝ご飯は〜?リズ先生もこっち、こっち」
 将臣の部屋に人が集まる中で、と知盛だけが泉殿へ追い出された。
 



 将臣の部屋での話は至って簡単。
 昨日の事件のあらましと、邸の内向きの仕事についてだけだ。
 話が進むにつれて、按察使のこめかみに筋が走る。
 リズヴァーンは目を閉じたままでまったく動かないが、それこそが怒りを我慢していると見えなくもない。

「・・・ってわけで。俺としても、按察使に迷惑かけるかもしれねぇが、色々任せたい。頼めるか?」
「もったいないお言葉を・・・皆様が福原へ向かわれた翌日、梶原殿の妹君が嫌な予感がすると邸を来訪されたので、こち
らに慣れている私が先に参ったのです。後から義経様以下、皆様そろってお出でになるとの言伝、確かにお伝えしました」
 話が大きくなってきて、その場に居た者全員が将臣へ視線を注ぐ。

「なあ、景時。朔の力って・・・・・・」
「そうだね・・・鎮める力だ・・・つまり、目覚めたモノがあるって事・・・・・・知盛殿の予感はアタリかな」
 景時が結界を二重に張る。ここから先は誰にも聞かれてはならない。
「知盛とはどうする?」
「・・・・・・もう少し目星がついたら・・・・・・ちゃんの力が必要な事態になりそうなのは確実だしね」
 の体調と精神的な事を考えれば、出来るだけ休ませてあげたい。
 誰もが景時の意見に賛成をし、景時の調べた事に耳を傾けた。





「知盛〜。どうして二人だけこっちにいろって言われちゃったの?経正さん・・・按察使さんに叱られちゃうの?」
 知盛を背もたれ代わりに池を眺める場所いる。
 人払いをされているらしく、二人の他は遠く庭にいる警備の雑色しか見えない。
「・・・クッ・・・但馬守は按察使に頭が上がらないんだ。按察使は・・・添い臥しを務めたらしいからな・・・・・・」
「・・・そいぶし〜?按察使さんって、いつから働いてるの?」
 知盛の乳母というからには、知盛が生まれる前にはどうしていたのだろうと思っていた。
「母上のところの女房だった。こちらに夫と息子もいる・・・・・・」
「ええっ?!按察使さんって、結婚してるの?それはそうだよね・・・三条さんに兄弟も?」
 ますますの好奇心が刺激される。
「ああ・・・煩い男だ、三条の兄・・・家長は・・・・・・夫君は福原の近くで受領をしている」
「・・・按察使さんって、働かなくてもいいんじゃ・・・・・・」
 拙い知識でも、受領が地方の役人というのはわかる
 いわば、役人の婦人ともなれば他家で働かなくとも暮らし向きは困らないはずだ。
「母上がお気に入りで辞めさせなかったからな・・・・・・」

 
 二位の尼君である時子が清盛に嫁いで、知盛を身ごもった時から働いている按察使。
 乳母を探していたのだ。
 三条を生んだはかりの下流貴族出の按察使に白羽の矢が立ったと言ってもいい。
 知盛が生まれてからは乳母として知盛に仕えていた。
 その縁で参議である経盛の邸へしばし貸し出されたのだ。
 
 『経正の元服の添い臥しの娘がどれも役に立たない。どこかに適当な女房はいないか?』

 添い臥しを務め上げて、再び知盛付の女房に戻った按察使。
 経正と按察使の間に何があったかなど、当時、元服前の知盛には興味がない事だった。


「ふ〜ん。だから按察使さんらしくなく、あんなにきっぱりはっきり・・・・・・」
「いや・・・もともと礼儀には煩く言う方だったが・・・今回の意見は・・・のためだろうな」
「私の?」
 朔に頼まれて心配で真っ先に駆けつけてみれば、いかにもに風当たりが行きそうな者ばかりが知盛の部屋付なのだ。
 経正を黙らせる事ができる強みを活かさないわけがない。

「ああ。按察使はが大切なんだろうさ・・・・・・育てた若君よりも」
 わからないことは何でも素直に尋ねるし、按察使に知盛の幼少の話をねだるを嫌いなわけがない。
「そっかな・・・知盛よりもって事はなだろうけど、私も按察使さん大好きなんだ。すっごく安心するの」

 ふとが知盛の表情を窺う。
「あのさ・・・知盛」
「ん?」

 ふわりと風が吹きぬけ、渡殿に景時と按察使が見える。
 は話のきっかけを無くしてしまった。
 髪紐を探しに行きたいという、にとってはとても大切な話のきっかけ。





 太陽はその姿を隠し、厚めの雲が空を覆い始めていた───






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 あとがき:こうして福原に呼び寄せるわけです(笑)     (2006.11.05サイト掲載)




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