訂正箇所





 午後は知盛も先行せずに、程よい速度で仲間と共に馬を走らせた。
 午前中の知盛の引張りが功を奏し、かなり時間の短縮をしての宿への到着となった。

「うわ・・・・・・何にもない・・・・・・」
「そう言うな・・・明日、都怒か住吉に寄ればいい」
 を馬から降ろしながら、知盛が休憩予定地の名前を告げた。
「・・・住吉ぃ〜って、なんだっけ?」
 地名ではないもので聞き覚えがある。
「住吉大社に詣でるか?」
「あ!そうだ〜、源氏物語にもあったよね?住吉詣でが、とか・・・・・・」
「・・・クッ、そうだな」
 外である事を気にせずに、知盛はを片手で抱えたまま景時たちの後に続いて宿へ入る。
 は辺りの何も無い様子を、ただ見回していた。



「どうも!うん、そうだなぁ・・・部屋は二つ頼むね〜〜〜」
 宿の者と話しているのは景時。
 すぐに部屋が割り振られ、一度景時たちの部屋に全員が入った。



「さてと。本日はお疲れ様でした〜っと!明日は福原に入れるからね。少し打ち合わせしたら知盛
殿とちゃんの部屋は向こうだから、よろしくね〜」
 景時が隣を指差してから、手早く地図を床へ広げる。
「さて、本日は日が落ちるよりかなり早く宿へ着けたから。明日の準備の買出しはオレがしてくる
からね。皆にはここで休んでもらって〜。明日の行程は、最初の予定通りに一気に生田まで行く?」
 地図上の行程を景時が指で指し示した。
「住吉に寄りたいのだが・・・・・・」
「ああ!そっか。いいね、住吉詣でか〜。じゃ、明日はそこが待ち合わせ場所?」
 明日も知盛が先行するのだろうと、景時が確認を入れる。
「・・・だな。そこから先は団体行動がいい。俺はともかく、景時とはな・・・・・・」
 平氏の間で有名人なのだ。源氏の軍奉行と神子を快く思う者ばかりではない。
「そうだね〜、将臣君が先頭になってくれると助かるな〜。じゃ、そういう事で。夕餉はどうしよ
うか?宿で準備してくれるらしいんだけど、いつ頃がいいかな?」
 予定より早めの到着だったために、食事の準備が出来ていなかったのだ。
「景時さん!俺も買い物についていって、ここの台所借りてもいいですか?明日の弁当も作りたい
し、朝もついでに作りますよ?早く発ちたいでしょう?」
 譲が食事当番を買って出た。
「あ、そう?じゃあ・・・食事はこちらでって頼んでみるね。買出しは馬で少し先へ行くようなん
だけど、大丈夫?すぐだけどね。歩きだと荷物持たなきゃでしょ」
「はい。でも・・・・・・」
 譲が隣に座る白龍を見ると、景時も視線を白龍、そして将臣へと移す。

「・・・ま、危険はないと思うけど。将臣君は女の子が好きでしょ」
 景時が親指を立てて譲に大丈夫のサインを送る。
「そうですよね、冗談です」
 本当は白龍の世話を将臣が出来るかの心配だったのだが、の部屋での話を絡めて誤魔化す二人。

「・・・そこ!何か変な方向に話が行ってねぇか?俺は女好きじゃないぜ?と・・・・・・」
 “知盛と違って”を飲み込む将臣。
 本人的にはセーフのつもりらしいが、言わなかったのは知盛の視線を感じたからに他ならない。

「あらら。将臣君てさ、今までよく無事だったよね。ま、衆道の嫌疑自体が洒落だしさ。留守番、
よろしくっ!」
 景時が立ち上がると、譲も立ち上がり買出しへ出かけた。



「・・・いつからそんな嫌疑があったんだよ、俺に」
 薄目で知盛を睨む将臣。
 最初からや白龍には尋ねるだけ無駄と分かっている。
「・・・クッ、兄上はにぶくていらっしゃる。色で人を例える話をした時・・・ですよ。憧れは白龍
・・・と、そう仰いましたよ?」
 殊更丁寧に将臣にその時の話をする知盛。
「その壊れた頭の中を訂正しておくんだな。よくもそんな冗談考え付くよなぁ〜。つか、饅頭出さな
くていいのかよ?」
 が手に持っている篭を指差す将臣。
「・・・また饅頭って言ったぁ!名前があるんだから、名前で呼びなよ。すっごく失礼だよ」
 ぶちぶち言いながらもは手元の篭を開ける。
 二匹は仲良く眠っていた。
「静かだったから、寝てるかなって思ってたんだぁ・・・・・・」
 再びそっと蓋をする
 暗い方がいいと思うのは人の発想でしかないのだが、式神を大切にしている事には違いない。

「寝てるの?」
 白龍がの傍へ寄る。
「そうだよ。静かにしてね?白龍も、向こうの部屋で一緒に昼寝する?」
「うん!」
 と白龍の間で昼寝が決定してしまった。

「白龍!俺とこっちで遊ぶか?そうだな〜、何がいい?」
 慌てて将臣が知盛の顔色を窺いつつ白龍を呼び戻しにかかるが遅かった。
「久しぶりに私の神子とお昼寝する!」
 勝浦で姿が大きくなって以来、と白龍は別の部屋だったのだ。
 戦いが終わってからはが好きだという小さい姿を好んでとっているが、本来は青年の白龍。
 知盛がに近づけたい訳が無い。

「将臣くん、ひとりで寂しいの?だったら、こっちで皆でお昼寝する?」
 知盛の変化に気づかない
 事態はさらに悪化している。
「あ〜、俺は別に眠くはねぇし・・・・・・やる事もあるんだよな。明日の事とか・・・・・・」
 福原京跡に入ってからの事が経正だけでは手が回っていない。
 わずかな期間の御所でありその後は雪御所に移っていたのだが、平氏の主たる武将の邸宅が散らばり、
また、付近の戦で荒れ果てた地の再建が追いついていないのだ。
 通盛や教経も見つかったらしいが、政治の中心となる場所があった規模に対して指導者がわずかとなれば、
人手と指示系統の均衡が取れていない。
 そのための知盛を連れての福原だったのだから、将臣の悩みは深かった。
「じゃ、ちょうどいいよ。将臣くんは一人でココで、こぉ〜んな顔して考えてれば?知盛、行こう!」
 眉間に皺を寄せた顔を将臣へ見せてから、早く連れて行けと知盛の膝を叩く。
「・・・クッ、兄上はとても真面目でいらっしゃるな」
 またも嫌味を残してを抱き上げる知盛。
 軽く白龍の頭を撫でると、白龍が知盛の後を歩く。
 そのまま三人は大部屋を後にした。



「はぁ〜〜〜〜〜っ。こりゃ・・・譲が帰ってきたら煩そうだ」
 白龍の面倒を押し付けた訳ではないのだが、結果として白龍は知盛との部屋へ行ってしまった。
 配慮も何もあったものではない。
「ま、一ヶ月程度の滞在で何とかしねぇとな・・・・・・いいかげん、だらだらしてられねぇ」
 景時の地図をたたむと、福原近辺の詳細な地図を広げる将臣。
「・・・怨霊・・・か・・・・・・どこまでが怨霊で、どこからが精霊なんだ?何が良くて悪いってんだ」
 霊体であると一括りにしてしまうのならば、経正や敦盛、通盛とてそうなのだろう。
 熊野の旅の途中でが封印したモノもある種の霊体である。
「俺には難しすぎて・・・わかんねぇ・・・・・・」
 まずは生きている人間が、生きる場所を作らねばならない。
 経正との書簡で遣り取りして記入した地図の荒地に目を向けた。





「お昼寝、お昼寝〜」
 褥へ転がり、篭をそっとあければ就寝中の式神が二匹。
 の手元を白龍も覗き込む。
「・・・可愛いね!」
「でしょ?さて、お昼寝して、明日も頑張ろう!」
 の隣に白龍も転がると、知盛が二人へ衣をかけた。

「・・・知盛は寝ないの?」
「必要ないだろう・・・将臣を手伝うのもアリだしな・・・・・・」
 を連れているのだから京へ戻るのを急ぐ理由も無いのが、面倒は早く片付けたいとも思う。
「知盛は、お父さん役なんだから、そこ、そこ!あ・・・やっぱり枕欲しいから、こっち!」
 白龍の背の向こうを指していた指が、の背の方向へ変わる。
「・・・誰の父なんだ?俺に覚えは無いが」
 少なくとも、女を孕ませた記憶は無い。
 孕ませる行為と結果は別物で、相手をした女に言われない限りは関係のない事だ。
「家族ごっこしようよ。私が白龍のお母さんで、知盛がお父さん。家族が出来たらこんな感じぃ」
 実際に子供を産もうとか、作るとか深い考えは無いからこその“ごっこ遊び”なのである。
「・・・子供は苦手だ」
 そう言いながらも、知盛の態度は誰にでも変わらなく横柄である。
 白龍に対してもそのままなので、白龍も懐いていたりするのだ。
「いいから、いいから。寝過ごしても誰かが起こしに来てくれるよ。寝よ?」
 仕方なくの背にぴたりと寄り添って転がる知盛。
 しっかり腕を差し出せば、が頭を乗せた。
「くっつき過ぎじゃない?」
 隙間なくという状態で、背中にいる人物が気になる。
「衣はひとつ。人は三人。ま、こういう事だろうな・・・・・・」
「屁理屈くんだ。いいよ。寝ましょ〜っと」
 知盛と白龍に挟まれて、温かく昼寝を始める
 少しばかり無理をしているのは百も承知しているが、以外に封印を出来るものはいない。
 怨霊と戦って勝てたり、追い払えたとしても一時的なものでしかない。
 また、それでは、怨霊の救いにはなっていないのだと教えられたのだ。

(まずは福原からかな?生田もだよね・・・・・・大輪田泊もかな)
 戦で転戦した土地を思い浮かべる
 白龍の力をすべて借りると大きすぎるのはわかっている。
 辛うじて姿を保っているであろう経正や他の平氏一門に連なる者への影響が心配だ。

(景時さんもいるし・・・なんとか・・・なる・・・よね?)


 明日からの事は、将臣でなくとも考えずにはいられないのだ。
 なりに短く結論付けると、眠りの淵に身を委ねる。
 遠ざかる意識の中、知盛の呼吸音だけが規則正しく耳に響いていた。
 しばしの休息───







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 あとがき:お宿で一泊。実際はとても遠い距離なのですが、間を省略したい事情が(汗)←資料がないので。     (2006.03.11サイト掲載)




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