いつもの事 「うぅ・・・なんかよく寝た・・・・・・」 目を擦りながら手を伸ばすが、そこには何も無い。 「んぅ?またコッチだ」 の腰にある手が、知盛の所在を示している。 そのまま背中側へ身体の向きを変えると、知盛は目覚めていた。 「・・・はよ」 「・・・クッ、随分とスッキリお目覚めだな?」 知盛がの鼻をつまむ。 「んぐぐっ・・・・・・だって、早く寝たみたい・・・あ!あのまま寝ちゃったんだ〜」 朔の膝でおしゃべりをしながら寝た事を思い出した。 「・・・そうだな。北の方様は嘘吐きであらせられる・・・俺が居なくても眠れたようだな?」 深い意味も無く口にすると、軽くの額へキスをする。 「嘘吐き呼ばわりは失礼だよ。知盛の琵琶聴いてて眠くなったんだしぃ・・・・・・」 心外だと主張するかのようにの頬が膨らんだ。 「それは、それは。私の楽は眠くなるほどに退屈との仰せ・・・・・・」 「馬鹿っ!知盛がいるって証拠でしょ〜。意味わかんない。起きる!起こして」 が褥を叩いた。 「・・・仕方ない。ここまでお運びしたのに、感謝もされないとは寂しい事だな」 起き上がると、を抱えて褥の上に座った。 「べ、別に感謝してなくないもん。ただ・・・・・・」 「ただ?」 首を傾げて先を促す。 「知盛以外に運んでくれる人いないから、わかってるもん。態々言わなくたってさ・・・・・・」 が俯いてしまう。 (少々意地悪が過ぎたか・・・・・・) 軽く息を吐き出すと、の頬へ口づけた。 「・・・そう・・・だな。紫の君はよくわかっていらっしゃる」 「えっ?!何で知ってるの?紫・・・・・・」 知盛としては源氏物語の紫の上の話になぞらえたのだが、の驚き様はただ事ではない。 (・・・が俺に知られたくない・・・ああ・・・・・・あったな、そういえば) 昨日、話を無理矢理に終わらせた色と人物を合わせる遊びの話があったのだ。 「・・・紫・・・は・・・お嫌いかな?」 知盛があえて視線を合わせずに呟くと、の肩が一瞬揺れた。 「そんな事ない・・・もん。・・・・・・知盛の瞳・・・きれいなアメジストに見える時あるし」 の頬が赤くなる。 (・・・当たり・・・の様だな) 何か意味があるのだと、まずは知らない言葉を確認する。 「あめじすと・・・とは?」 「あ・・・そうだよね。えっと・・・和名は確か・・・紫水晶だったかな」 二人の決まりごとなので、語彙の説明の時はも抵抗無く“紫”を口にする。 (・・・クッ、また“紫”か。余程縁があるらしい・・・・・・) 瞳の色といわれ、の頬が赤くなる色。そして・・・問題の昨日の内緒話の片鱗。 「・・・クッ、それで俺が紫だと」 知盛をして青の他に紫に譬えたのだろうと推測しただけだったのだ。 しかし、は飛び上がるほどの反応を見せた。 「ななななななななな!どこで聞いたの?え〜〜?朔・・・は言わないよね?将臣くん?!譲くん? どっちがそんな事覚えてたの?信じられない!え゛〜〜〜〜!!!」 知盛から離れようともがくが、しっかりと腰を掴んで支えられているのだ。 手を動かすだけで変化は無い。 そもそも、腰痛のが逃げ切れるはずもない。 「クッ、クッ、クッ・・・・・・遅かれ早かれ・・・そういう事はバレるものだろう?」 わざとの耳元で囁く。上手くすれば、話が聞きだせるとの計算ずくの行動。 「ぎゃ〜!耳はダメってばぁ〜〜〜。もう、いいよ。そ〜だよ。知盛がよかったんだもん。いいでしょ。 それこそ乙女の夢だったんだから。痛くなく済んだしさ。紫はえっちしたい人だもん!悪い?!」 両目をしっかりと閉じ、耳を抑えて、やけっぱちのように叫ぶ。 「へえ?そういう意味だったのか・・・・・・」 知盛がの唇を掠め取ると、が静かに目を開いた。 「・・・もしかして・・・知ってて言ってたんじゃないの?」 「・・・クッ。・・・まったく知らなかったが?」 「騙されたーーーーーーー!!!」 頭を抱えて大声で叫ぶと珍しく声を上げて笑う知盛の声が寝所の外まで響いていた。 「と、知盛はさ・・・性質悪いよ、そう全部知りたがるのって。コドモみたい。ちょっとは秘密があった方が いい事もあるよ、世の中にはさ」 呼吸を整えながら、段々と落ち着いてきた。 「・・・クッ、そう仰るなら。しっかり隠すんだな」 を立たせて、腰へ布を巻きなおしながら知盛が言い返す。最後に腰へキスをするのも忘れない。 「治ったら・・・紫と評していただいた分、楽しませて差し上げましょう?」 「馬鹿オトコだよ、ホントに。みぃ〜〜〜んだ!」 の前で跪く姿勢の知盛の両耳を引っ張ると、屈んでその髪へキスして返す。 「次は騙されないからね!」 「・・・クッ、精々頑張るんだな」 着替えも済ませ、二人でゆっくりと朝餉を食べた。 「ね。明日だよね、出発は」 「ああ。遅めの朝出になるだろう・・・に合わせてな」 通常は日の出の時間に発つものだが、が起きられるか定かではない。 「起きられるもん。こう見えて、ちゃんと皆と旅してる時は起きてたんだから」 「・・・クッ、朔殿はがなかなか起きなくて大変だったと仰っていたがな?」 壇ノ浦からの帰り道に、すでにの寝起きの悪さは誰もが知るところだったのだ。 「・・・あ、あれ?そうだったっけ?」 が顔を背けた。 「それと・・・の料理はいつ味わえるのだろうな?」 「げっ!そういう事ばっかり、よく覚えてるんだから〜〜〜」 いつものように二人で戯れていると、来客を告げる声がした。 「朔だ!そぉ〜だ。旅支度をしなきゃ。知盛は何を着るの〜?」 「狩衣で十分だ。それに・・・向こうにも無いわけではないだろうしな・・・・・・」 「じゃ〜、私は楽な格好で行こうっと!季節もいいし、ミニスカ・・・・・・」 が手を軽く合わせてそう口にすると、知盛の片眉が上がる。 「・・・脚を出せないようにしてやってもいいんだが?」 知盛が口の端を上げて、何かを思いついたような表情をしている。 の顔が引きつった。 「・・・いい。袴にする」 「・・・クッ、それがいい・・・・・・」 視線を御簾へ向ければ、朔が入ってくるところだった。 「御機嫌よう・・・・・・あら?ったら、コアラは止めたの?」 袖で口元を隠して朔が笑う。 今日のは、知盛の膝に転がっていた。 「うん。知盛がね、ヤキモチ妬いて朝から大変だったんだよ?昨日、知盛の膝で寝なかったからってさ」 朔の目が見開かれ、視線はゆっくりと知盛の方へと移る。 知盛は口元へ人差し指を立てていた。 (知盛殿ったら・・・は知盛殿の膝にいたのに・・・・・・) 笑いたいが、笑えない。 無事に解決しているようだが、それなりに知盛は気にしていたのだろうと思うからだ。 「そうね・・・重かったわ」 「えっ?!重かった?私、重くなってる?」 の顔が青ざめた。 「ええ。子供はね、眠ると重いのよね。白龍も抱っこで寝られてしまうと大変ですもの」 「・・・朔。それって私と白龍は一緒扱い?ひどぉぉぉぉい!もうね、立派に奥さんして・・・する予定!」 流石にしているとはでも言えなかったらしい。 朔は知盛との前に腰を下ろした。 「予定は予定ですものね。早く立派なが見たいわね」 小さな溜息を吐く朔。 「うひぃ〜ん。今日も朔ってば、厳しいよぅ・・・・・・」 が知盛の腕に掴まって起き上がる。 「それはそうと。銀と桜は一緒にと、兄上からの言伝ですわ」 「確かに・・・兄上もいらっしゃるが慣れない土地でが迷子になっても・・・・・・」 今度は朔と知盛が顔を見合わせて溜息を吐く。 「ちょっ・・・二人とも!いかにも私が何かをやらかしそうって顔した〜〜〜」 膨れたの頬を知盛がつついた。 「・・・違うのか?」 「むぅぅぅ。少しは・・・何か・・・しちゃうかも・・・だけど・・・さ」 が小さくなり、周囲から笑いが零れた。 「私って信用ない・・・・・・。銀、桜、おいで〜〜〜」 ぴょこぴょこと床を歩きながら二匹がの膝へ収まる。 「いいよぉ〜だ。銀と桜は私の味方だよね?」 銀と桜の頭を撫でる。 「そうね・・・でも。見張り番という意味ではに世話をかけられる側よね?」 朔の言葉に銀が反応して飛び跳ねた。 「裏切り者ぉ!いいよ、もう。桜ちゃんだけだってさ」 桜を手のひらにのせ、頬ずりする。 「・・・クッ、が勝手に出歩かなければ済む話だな」 「うぐっ!知盛までツッコミ担当になったの?そ、それよりさ、旅の支度しなきゃ。知盛は狩衣にするんだって」 話の方向を修正しないと不利とばかりに、本来の用件への転換を試みる。 「そうね・・・たたみ方からかしら。がなさいね。まずはの支度を手伝うから、それで覚える事」 「え〜〜っ?初心者にいきなり自分でしろって言うのぉ」 朔が小さな篭をへと差し出す。 「そうそう。兄上がね?式神たちを還してもいいのだけれど、は一緒がいいっていうだろうからと。これを」 「わ!景時さん、できる〜〜。そうだよね、肩や手の上じゃ落ちちゃったら可哀想だし。・・・じゃなくて!旅支度だね」 篭を手にとって、その上に銀と桜をのせると、話を元へ戻す。 「それでは、の支度を始めましょうか。着物をたたんで、順番に、きっちり入れればいいだけですから」 微笑をたたえている朔の表情が恐ろしく映るのはにだけ。 「では、こちらに衣装箱を・・・・・・」 知盛が手を上げて合図をすると、常陸と近江が衣装箱と旅用の篭を用意してきた。 「・・・・・・こんなに大きいの?いつもはもっと小さかったよ」 篭の大きさに目を丸くする。 「は前と同じ支度は無理よ?お洗濯出来る着物ばかりではないでしょう?だから何枚か持たなくてはね」 衣装箱の中から、着物を広げては組み合わせを考える朔。 「そう、そう。まさかと思うけれど、ミニスカがいいとか、陣羽織とか、変な事は考えていないわよね?移動は馬だから 小袖で楽なものにしてもいいけれど。基本は袿姿まで。福原で公式行事も無いでしょうから、そう華美な用意は無くても いいとは思うけれど・・・・・・」 さっさといくつか組み合わせが出来る色目の着物を決めたようだった。 「・・・クッ、さすがですね。私が今朝注意したばかりですよ」 知盛がを見れば、余計な事を言うなという表情だった。 「・・・・・・。まだ自分がどういう立場かよくわかっていないようね?」 床に流れる冷たい空気が見える様だ。 逃げる準備をする。しかし、腕は知盛に掴まれている。 「っ!」 「はいっ!ごめんなさいっ。気の迷いだったんだってばぁ〜」 小さく蹲ると声を上げて笑う知盛。 知盛の要領の良さにが勝てる日はいつ?─── |
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あとがき:と、いうわけなのでしたv チモの瞳の色からして使いたかったネタをここで☆ (2006.01.28サイト掲載)