女の子の秘密





「だからぁ。知盛が悪いんだってば。知盛がね〜?生田で私をナンパした。それにわかるもん。
この人だってわかったの」


 ここまでの話をまとめるならば、知盛に『美しい』と言われたからその気になったらしい
 その前に、知盛の顔が好きだった事は白状している。


ちゃん・・・それ・・・だけ?」
 景時にしてみれば、ほんとうに一目惚れだったのかと驚くしかない。

「・・・・・・俺が一の谷でテンパッてた時、ほけほけとナンパしてたのか!オマエはっ」
 将臣にすれば戦っている時に褒める暇があったのかとも思う。けれど、続きも知っていた。

(“獣”扱いだぞ、───)
 将臣、森の珍獣の類しか思い浮かばずを見て大笑い。

「なっ、何笑ってるのよっ。いいじゃない、だって・・・そんなの初めて言われたし・・・・・・」
 潤んだ瞳で知盛にしがみ付く。
 自分の姿を、自分で美しいとまで思える人間はそうそういない。

「・・・兄上。その壊れたお口を止めるのを手伝いましょうか?」
 知盛は片眉を上げ、不愉快そうに将臣を睨む。
「いいっ!止まった。笑ってないっ!そうじゃないんだって・・・もそうやって知盛のトコへ
逃げ込むなよ〜〜〜。俺の首が危ないっての」
 片手で首の辺りを撫でながら、が振り向くのを待つ将臣。

「いいよ。どうせ私は美人さんじゃない自覚あるもん。知盛だって、珍しい生き物見つけたって
思ってんだよね?ふ〜んだ」
 すっかり拗ねてしまった。将臣は頭をかきながら次の言葉を探した。





「・・・・・・目だ。の目に惹き込まれた」
 が声の主を見上げる。

「・・・クッ、この目は・・・俺のものだ」
 の目蓋へと軽くキスをする知盛。
「えへへ。許してあげる〜。私は知盛の顔好きなんだ」
 知盛が口の端を上げて笑った。
「それは、それは。さして顔など気にした事もなかったが・・・源氏の神子様が手に入るならば、
少しは役立つものだな・・・・・・」
 軽くを抱き締め、その背を撫でる知盛。
 知盛の表情はだけに見えない。視線は将臣に注がれていた。

(これ以上は・・・・・・クッ、考えるだけ無駄か・・・・・・)
 知盛は将臣を黙らせる事を断念した。


。今頃言ってもなんだけど・・・ソイツもの事、気になってたんだぜ?壇ノ浦だって、
わざわざ自分から出向いて行ったんだ。ただなぁ・・・・・・珍しい生き物は正しい」
 視線の意味を取り違えた将臣。またも余計な事を言ってしまった。

「・・・・・・珍しい・・・あっ、そ。いいの、別に。いいもん」
 いよいよ顔を隠して見せなくなった。

 知盛の額に皺が寄り、一瞬不穏な空気が過ぎる。

「そうそう。!あの話は?知盛殿に何を着ていただきたいのでしたっけ?」
 さり気なく朔が、元々の『内緒話』の内容へと軌道修正をかける。
「・・・・・・も、いい。秘密だもん。きっと皆にはつまんないよ」
 知盛の体に腕を回して、益々顔を隠す



「・・・将臣の口は軽すぎだ。それに・・・正しく伝えてくれよ?。そう拗ねるな。内緒話・・・という
程のものではないが・・・確かに俺は将臣にお前の事を『獣のような』と評した」
 が唇を尖らせて顔を上げる。
「やっぱり!珍しい生き物じゃない、それじゃ!」
「最後まで聞け。“媚びない”という意味で言ったんだ・・・・・・」
 衣擦れの音がして、が動くのがわかる。

「媚びるって何?偉い人にペコペコ?」
 、語彙不足。素直に質問をしたつもりが、笑いを誘う。

「ぶわははははは!、相変わらずとばしてくれるな〜〜〜。よりにもよって、ペコペコ?」
 床を叩いて喜ぶ将臣。
「ん〜とね、この場合は、好きな人に好かれようとして色仕掛けを・・・あいたっ!」
 説明をしようとした景時は朔に膝を抓られた。
「・・・こほん。。貴女の言葉でいうならば、自分を飾って気に入られようとするという事かしら」
 姿勢を正して朔が簡潔に述べる。

「ふ〜ん。だって、最初が生田だもん。剣握ってるのに、突然女の子らしく出来ないよ。そんなの私じゃない
し。だったら、倒してでも手に入れる!」

 の堂々とした宣言に、知盛が頷く。
「・・・クッ、それでいいんだ」
「あれ?何だか美しくないような・・・・・・」
 首を傾げるの耳元で知盛が囁いた。


 『戦女神が俺を迎えに来たんだ───そう・・・だろう?』


「うん!迎えに来たんだよ。でね、朔とね、知盛はおしゃれさんだから何が似合うかな〜って話をしてね?」
 の機嫌も上向き、朔と話した続きを知盛にしゃべりだした。
「・・・それで?」
「何を着ても似合いそうだからつまらないけど、景時さんみたいな格好はどうなんだろうって」
 景時が身を乗り出す。
「そ、それって・・・オレ、褒められて無いよね?」
「そうですわね」
 朔が静かに微笑む。景時の首は、これ以上無理なくらいに項垂れた。


「知盛殿。は・・・知盛殿にとてもよく晴れた日の空色と銀のお召し物を着ていただきたいそうですよ?」
 が言わないので、朔しっかりと告げる。

「朔〜っ!そっちは言っちゃ駄目っ!」
「・・・空色?」
 暴れそうなを押さえつける知盛。しっかりと片手での口も塞いでいる。

 朔は、もう時効とばかりに続きを話し出す。
「何でも・・・の世界では色に人を当てはめる遊びがあるらしいんですの。空色は・・・・・・恋しい人だとか」
「あ〜〜〜、心理ゲームな。よくやってたな、女どもが」
 将臣が同意した。

「遊び・・・?」
 知盛が将臣を見た。
 は口を塞がれていようとも、続きを聞かれるわけにはいかず必死に暴れるが知盛は動じない。

「んあ?ああ。色をな・・・なんだったかな・・・こう並べて。そこに思い浮かぶ人の名前を書くんだよ。それが、
実は自分でも気づかない内にその人をどう思ってるかっていう・・・遊びっつうか、試すっつうか。茶色に書かれ
たら悲惨って感じ?嫌いな人だったような・・・・・・」
 床にカルタでも並べるように指で心理ゲームのテストの仕方を教える将臣。

「へぇ・・・青は恋しいのに土色は厭わしいのか・・・・・・」
 の口元から手を離すと、その瞳を覗き込む。
「では・・・・・・白はいかがかな?」
 既に赤くなっていたの顔が、更に赤くなる。
「ど〜して白なのよ。誰が白って思ったの?」
 半ば詰問するかのように、知盛の直衣を掴む。
「・・・クッ、だ。他に誰が?何故というなら・・・・・・ミニスカ」
「意味わかんない。知らないっ!」
 耳まで赤くして、がまた顔を隠した。

「緑色なら友達だったような・・・・・・白は何だったかな?」
 覚えていないらしく、将臣が首を捻る。
「え〜!そこ重要だよ。思い出そうよ、将臣君。・・・譲君は覚えていないかなぁ?」
 景時が将臣の背中を叩いて急かす。


「───憧れの人ですわ」
 間が空いた頃に、朔が記憶を頼りに判定結果を告げる。


「朔っ!どぉ〜してそういうの覚えてるのよぉぉぉぉ!」
 慌てるに対して、軽く目頭を上げる知盛。
 ほぼ知盛の予想通りであったとも取れる仕種に、朔は静かに微笑む。

(わかっていらしたみたいね・・・・・・それでも。白と思われたのは真───)
。あれも言ってもいいかしら?」
 朔が扇で口元を隠しながら楽しそうにを見つめる。


「・・・・・・いやぁぁぁ!だめぇぇぇぇぇ!!!」
 逃げ出そうにも逃げ出せず、は知盛に抱えられたまま叫ぶ。
「・・・クッ、静かにした方がいいな?」
 知盛が視線で朔の存在をに思い出させる。
「うきゃっ!で、でも!おしとやかと、それとこれとは別っていうか・・・とにかく、やだぁぁぁ!」
 まだ叫ぶを抱えたまま、知盛が軽く息を吐き出した。

「・・・・・・何を俺に聞かれたくない?」
 が嫌がる理由を探る。
「そっ、そんな事ないよ?別に・・・そうじゃないもん」
 顔を背けられた事により、考えの正しさを確信する。

「まぁ・・・この件に関しては、これくらいにいたしましょう。そろそろ料理も出来たようですし」
 知盛がを抱えて、食事がしやすいよう向きを変えた。

 人の気配が近づいてくるのを確認した常陸と近江が座を整え始める。

「白・・・か。そうだなぁ・・・確かにちゃんは白だよね」
 景時が封印する時のの姿を思い出し、ぽつりと口にする。
「そうね。は・・・真っ白だから・・・・・・時々こう・・・注意しなければいけない事が多いのよね」
 純真さは、自分に一番正直。それは時に周囲を振り回す。


「え〜〜?白なの?私、皆に憧れられちゃってる?」
 調子に乗ったが嬉しそうに知盛の膝を叩いた。

「そんなの・・・白龍の神子だから“白”なんじゃねぇの?白は白龍だろ?あれが白だな!」
 他意は無く言ったのであろう将臣。
 が、周囲の反応は強張ったものだった。


「・・・クッ、兄上はそちらの趣味が?それは、それは」
 わざと将臣に見せ付けるようにの耳朶を甘噛みしてみせる知盛。

「将臣君はそっちかぁ・・・これからは旅の時は部屋を分けないと危ないなぁ〜?」
「そっちってどっちなんだよ?景時!」
 転がっていた将臣が起き上がる。

「どっちってそっち。あ〜、ちなみにオレはそっちじゃないから。うん、普通に女の子がイイ」
 景時の後頭部へ朔の平手が飛んだ。
「兄上の好みはどうでもいいのです。将臣殿?そう堂々と宣言されると大変ですわよ?お気をつけ
あそばぜ・・・・・・」
 朔の口元が少しだけ笑っている。

「・・・わっかんねぇ〜の。ま!いいや。メシが先だ」
「賛成〜!ご飯は何かなぁ〜」
 手を上げる


「失礼します。遅くなりまして・・・・・・」
 敦盛が先頭で部屋へ入る。その後から譲たちが食事を運びこみ、一気に賑わい出す。
 久しぶりに大人数での食事となった。



 まだまだ夕刻───






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 あとがき:オチは予想通りかと。この心理テスト流行りましたよね?←ちょっと自信ナシ(汗)     (2006.01.04サイト掲載)




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