役割分担





 知盛の膝の上で朔の土産の菓子を嬉しそうに頬張る
「・・・・・・はそれが好きなのか?」
 黙々と口を動かす
「うん。何が食べたかったって、甘いお菓子が貴重品って知らなくて。そうしたらね、朔がこれを
お茶と一緒に出してくれたの。こっちの世界で初めて食べた甘いものなんだよね〜」
 
 それは何かといえば『甘納豆』である。
 現代ではそう呼ばれるその食べ物は、のために朔が甘く煮た物で、まだ名前は無い。

「はい!美味しいよ?私と朔の内緒話の思い出の食べ物なんだ〜〜〜」
 一粒指で摘まみ、知盛の口へと入れる。

「黒豆・・・・・・」
「うん、絶妙でしょ?」
 が嬉しそうに食べるのを眺めるのが嬉しい朔。
 
「あ!皆さんもど〜ぞ!これね、とっても美味しいんだよ〜。朔ってお料理も上手なの」
 が控えの女房たちへ勧める。
 その誰よりも早く膳の傍へ近づく影が二つ───


 ぴょんっ!ぴょこり!───


 銀の後に続いて桜も膳に飛び移ると、巧く豆を一粒ずつとり、膳の隅で食べ始める。
「こらっ!」
 三条が膳から銀と桜を下ろす。
「申し訳ございませんでした・・・・・・」
 そのまま朔へと頭を下げた。

「いいえ。銀も桜も兄上の式神ですので・・・私は大丈夫ですわ」
 不快ではない旨を告げると、三条が安心したように再び軽く頭を下げてから座りなおした。
 が、銀が今度は別の動きを見せる。
 常陸が銀を取り押さえた。
「銀。お客様の前では暴れてはなりませんよ」
 手のひらにのせると、銀の額を指で突付いて叱る。

「わ!常陸さん、銀に触れるようになったの?!」
 が目を見開く。

「はい・・・昨日練習しました。近江と二人で」
「わ〜〜〜、嬉しいなっ。これからは皆で遊べるよ〜」
 に喜ばれると、近江と常陸も嬉しくてつい笑顔になる。
 銀だけが激しく動いて何かを主張し続けていた。



「・・・兄上がお越しの様だな・・・・・・」
 知盛が銀の動きから何かを感じ取ったらしい。
「えっ?!知盛ってば、あれで解っちゃうの?」
 答えは知盛の言葉で迎えに出た三条がすぐに戻った事で証明された。



「お邪魔しま〜すっ。朔も来てるんだって?」
 軽く御簾を上げて入室する景時。朔が額を押さえた。
「・・・兄上・・・・・・もう少し礼儀を弁えて下さい。に示しがつきません」
「え〜〜〜、そんなのいいよ。だってさ、ちゃんは妹で〜、知盛殿はそのお婿さんでしょ〜。
家族でそんなのいいよ〜〜」
 朔の隣へ腰を下ろす景時。
「だよね〜、景時さん。でもさぁ、もう少し早く来てくれなきゃ」
 が指で景時に合図を送る。
「へ?遅いって・・・今日こちらへ伺う約束はしてなかったよね?」
 首を傾げつつ、用意された白湯を一口飲む景時。
「だってさ。景時さんいないと、朔に叱られてばっかで大変だったんだよ〜。こんなに静かにしてる
のにぃ・・・・・・もうね、目がこぉ〜んなで怖かった」


 知盛に『抱っこ』されているを眺める景時。
「そう言われてもなぁ・・・・・・ちゃんのその姿勢はさ、場合によっては困ったものだよ?」
「場合によっては?ど〜して?だって、ひとりで座るのが一番大変なんだもん。こうしてるのが楽なん
だよ〜?お客様の前で寝てる方が失礼だよね?」
 の中での常識はそのような基準だ。
「まぁ・・・・・・あれだね。もう少ししたら出来なくなるだろうし・・・・・・今の内にしておくのもいいかもね〜」
 今のならば、まだ手足がすんなりと長く華奢なのでそう華やいでいるわけではない。
 無邪気な行動で済まされるだろう。
 
(もう少ししたら・・・・・・出来なくなるどころか、知盛殿が他へは見せたがらないだろうしね)
 何となく寂しいが、朔の婚儀の話があった時もこのような気持ちになったものだ。

(女の子は成長しちゃうんだよねぇ・・・・・・)
 景時、兄を通り越して父親の気持ちになっていた。

「そうだよね〜、私ももう少しくらいは背が伸びると思うし。知盛もこれ以上重いと足が痺れるだろうし」
 まったく真意が伝わらないのがらしく、誰も訂正はしなかった。



「そう、そう!オレが来たのはね、後で将臣君も来ると思うんだけどさ。福原へ行くって話しなんでしょ?
オレもね、九郎が行って来いって言うんだよね〜。皆も行くなら日程合わせようかなってね!」
 調子よく景時が来意を述べた。
「そうなの?!よかったぁ。私もね、行きたいって言ってるのに知盛がね〜、『お前の八葉の数次第だ』
とか言っちゃってさぁ・・・ケチんぼなの!」
「ええっ?!ちゃんも行く気なの?」
 景時が驚きの余り、身を反らした。
!具合も良くないのに、何を考えてるのっ!!!」
 朔も素早い反応を見せる。

「だぁ〜ってさ・・・・・・ちゃんと見届けてきたいっていうかさ・・・・・・知盛がいたトコみたいっていうかさ」
 知盛の袖に隠れる

「・・・クッ、兄上。は言い出したら聞きませんから・・・ぜひご一緒していただけると・・・・・・」
 の髪を梳きながら知盛が景時へ視線を合わせる。
「やった!景時さんも一緒ならいいって。景時さん、いついくの?いつだったら平気?」
 途端に元気になる。反対に朔は深い溜め息を吐く。

「え〜っと?将臣君が言うには、早ければ明後日とかに出かけられたらなぁ〜って」
 午前中に話した事をそのまま口にする景時。
「・・・将臣はこの後こちらへ?」
「うん。敦盛君と引継ぎしてから揃って話そうって。一回で話が済むし、オレはちゃんの具合が気に
なっていたから・・・先に来ちゃったんだけど。その・・・・・・あっ!お見舞いはね、コレ」
 知盛との前に小箱を出す景時。
「なぁ〜に?」
 知盛が小箱を手に取り、へ渡した。

「な・に・か・な〜〜〜」
 箱を縛っている紐を解きながら、が蓋を開けた。

「うわ!これ何?!光ってるよ?」
「でしょ〜?箱を開けると光るんだよね〜〜。花火の応用の応用編!楽しいでしょ?」
 段々と光が失われ、その姿が現れる。光の素は庭にあったであろう花。

「・・・・・・終わっちゃった。夜に開ければよかったなぁ。もったいない事しちゃった」
 残念そうに項垂れる
 景時は立ち上がると、の手から小箱を取り再び術を施す。

「ヨシッ!今度は夜に開けてみてね?ま、ちゃんも覚えたら自分で出来るようになるって!」
 に修行を飽きさせないよう、時々好奇心を刺激する。

 両手を伸ばして笑顔で再び小箱を受け取る
「ありがと!暗くなったら開けてみるぅ」
 間違って蓋が取れたりしないよう、しっかりと紐で結ぶ
 知盛の手の合図で常陸が箱を片付けた。

「今日は時間あるの?・・・皆で遊んでご飯食べてから帰っても大丈夫だよね?」
 景時の方を向く
「あ〜っと・・・・・・その・・・・・・」
 景時が返事を渋っていると、将臣の来意を告げる先導の女房の声がする。

「将臣君も帰って来たみたいだし、福原への打ち合わせをしようか!」
 返事が先延ばしにされたところへ将臣が部屋へ到着した。





〜、具合はどうだ?後から敦盛も来るからな」
 将臣の後からは譲と白龍が顔を見せる。
「先輩。今日は起きてるんですね。よかったです、酷くなくて」
「神子!元気になった?」
 白龍がへ抱きつこうとすると、将臣が白龍を抱え上げた。
「駄目だっての。・・・蹴られるぞ?」
 誰にとは言わないのが将臣らしい。白龍はわかっていないようだが、気にしている様子もなかった。

「ありがと、大分いいんだ。白龍、今日は何して遊んだの?」
 白龍はといえば、将臣から逃れて朔の膝へと移動している。
「うん!譲とお料理をしたよ。後で見せるね」
「そうなんだ〜、楽しみにしてるね!」

 が知盛に抱きつく姿勢で座っている事に触れないのは流石としかいいようがない。
 有川兄弟は確実に学習の成果が上がっていた。

「え〜っと、それでだ。マジでは福原まで行くつもりか?馬でも数日かかるぞ?」
 将臣が本題へ入る。
「行くよ〜?もちろん!馬は・・・・・・アレ!景時さんが生田でしてくれたみたいに走るなら、早いからそう
長く座っていなくて平気そうなんだけどなぁ〜」
 が迷子になった時、単身助けに戻ったのは景時だったのだ。
「意味不明。アレでわかるかよ。景時は何したんだ?」
 将臣は景時に向かって話せとばかりに顎を杓った。
 

 知盛の冷たい視線を感じながら、景時がもごもごと話し出す。
「そ、その・・・ちゃんが転進のときにはぐれちゃってさ・・・・・・平氏に囲まれている中へ馬で蹴散らし
て・・・こんな感じで抱えて走り去るっていうか・・・・・・」
 出来るだけ脚色無しで簡単に話したのだが、その苦労はに打ち砕かれた。

「そ〜なの!景時さんってば、すっごいカッコイイんだよ〜!こうね、片手で抱えてくれてね?来てくれるの
信じてたけど、あんな派手な登場とは予想出来なかったなぁ〜〜〜」
 と白龍以外は知盛の様子を窺っている。
 白龍に関しては、朔がさりげなく口を手で封じていた。


(ここ・・・寒くねぇ?)
(・・・・・・目が笑ってません、知盛さん)
(オレ・・・ものすごくヤバイ気が・・・・・・)
(白龍!黙ってなさい!!!怖いとか言いかけたわね?)


 各自の心中は察して余りある。からは知盛の視線が見えない。
「だからね、だだだぁ〜って馬を走らせて、休憩をちょい長めに取ってくれた方が断然楽だと思うんだよね。
ほら、速度がある乗り物に関していうならジェットコースターで慣れてるし」
 賛同を得るべく、が将臣と譲を見る。
「・・・
 知盛に名前を呼ばれ、が知盛を見上げる。
「あっとね・・・“ジェットコースター”って言ってね、ただ乗って速さを楽しむだけの乗り物があるの。馬の何倍
速いかなぁ?もうね、速すぎて風が顔にバンバン当たる乗り物があるから、速いのは慣れてるんだ!」
 が言葉の説明を加えた。
 知盛が何でも知ろうとしてくれているのは嬉しいので、出来るだけその場で話す様にしているのだ。

「・・・クッ、俺が乗せるんだ。速いぜ?・・・・・・泣くなよ?」
 の額を軽く指で突付く。
「泣かないもん!知盛の方がね、大変だよ?」
 

・・・・・・セーフティー機能無し状態なのわかってんのか?)
(どうしてそう何でも簡単に決めちゃうんだろう、先輩は)
ちゃん・・・たぶん知盛殿とオレの時の馬の速さは比較にならないと思う)


 大変なのはこっちだといいたい者、数名。
 しかし、知盛によって話をまとめられてしまう。
「では、その様に。出立は明後日・・・私は明日、休みを頂戴致しますよ」
 知盛、しっかり休みまで確保。
「えっとぉ、旅の支度しなきゃだよね。朔ぅ、明日手伝いに来て?あのね、前の時みたいに篭に詰めて!」
「そうね・・・・・・でも、こちらでご用意していただきましょう。そうしないと、はずっと覚えないでしょう?」
「げ!・・・・・・朔ぅ・・・・・・」
 朔に見放され、が青ざめる。
は北の方様なのよ?そろそろ教えたり、知盛殿の支度を整える側にならなくてはいけないわ」
 ぴしゃりと言われて、は言い返せなかった。

「すぐに全部なんて無理だもん。そんな女の子らしいことしなかったし・・・・・・・・・」
 幼馴染が将臣と譲なのだ。幼い頃は、どちらかといえば男の子に混じった遊びしかしていない。
 菫に折り紙などは教わったとしても、そう大人しく家の中ばかりにはいなかった。
 よって家事全般、どちらかと言えば苦手な部類である。

 知盛がの背を撫でた。
「・・・按察使もいるし、朔殿だってが尋ねれば教えてくれるだろう?」
「うん・・・・・・少しずつ頑張るね。知盛に恥かかせちゃったら悪いよね」
「俺の事は考えなくていい・・・・・・」
 人前でも気にせずにの額へ、頬へとキスをする知盛。
「うにゅっ。知盛っ!だからぁ、人前は恥かしいんだってば!!!」
 腕を突っ張って逃れようとしたが失敗に終わる
「・・・クッ、は俺にするのにか?」
「私のはぁ!知盛をとられない様にだからいいのっ!」
 


「あ〜〜、ソコの二人。俺たちの存在を無視しないように」
 仕方が無いので将臣が割り込んだ。
「・・・・・・無粋だな、兄上は」
「ウルサイ。兄上って呼ぶな!」
 将臣が腕組みをして顔を背けた。

「将臣くん・・・怒らないでよぅ・・・・・・そのぅ・・・心配なんだってば・・・わかるでしょ!わかってよ!」
 始めは小さかった声も、最後はいつものに戻っていた。

「・・・・・・まあな。この前の件もあるし?」
 将臣が鼻を鳴らす。もちろんこの前の騒動について言っているのだ。
「兄さん!」
 譲が将臣の口を塞いだ。

「・・・フンッ。煩いぜ?あ・に・う・え」
「知盛も。そうやって将臣くんを挑発しないの!・・・ね、皆でおしゃべりしようよ!でね、ご飯もこっちで食べて
いけば?楽しいよ〜〜〜」
 が嬉しそうに提案をしたのに、将臣が水を差す。
「二人の邪魔をするような野暮はしないぜ?じゃあ・・・・・・・・・・・・」
「・・・クッ、が択び難い言い方をするなよ・・・・・・」
 立ち上がりかけた将臣を知盛が睨む。

「あ〜〜〜ったく!どっちなんだよ、知盛は!無粋だの、何だのと!」
「決まってるだろう?が一番嬉しい事が俺の選択肢だ」
 白々しく言い放つと、またもの顔へ唇を寄せて見せ付ける。

「はい、はい、はいっと。譲!美味いもの作れよ。お前はここにいると教育上よくない。ついでに白龍も連れて行け」
 すでに真っ赤になって俯いている譲に向かって、手で払う仕種をする将臣。
 譲は返事もせずにフラフラと部屋を出て行った。



「は〜〜〜っ。トモモリサン。家の純情な弟に少しは気を遣え!」
 肘枕でゴロリと横になる将臣。
「いやぁ・・・譲君じゃなくてもねぇ・・・・・・いやいや!ちゃんが幸せなんだから、文句はないんだけどね!」
 景時は笑いながら首を傾げた。

「う、うん。幸せ・・・だよ?だから・・・安心してね?景時お兄ちゃん!それに、福原行き、よろしくお願いします」
 が頭を下げる。
「・・・うわ。が素直なの不気味。何の冗談なんだか。ふぁ〜〜〜〜あ!」
 大欠伸の将臣。
「べ〜だ。何話そうね?朔。腰痛じゃなかったら、毎日お家に行くつもりだったのにぃ・・・・・・」
・・・毎日は少し問題が・・・・・・」
 どんな噂が立つやらと、心配顔の朔。

「かまいませんよ、毎日梶原殿のお邸へ行こうとも。ここへ帰って来るのですから。話題はそうですね・・・・・・朔殿と
の内緒話の内容など・・・いかがですか?」
 知盛が口の端を上げる。
「うきゃっ?!ど、どうしてそんなの知ってるの?」
 軽く首を傾げる知盛。
「・・・クッ、が朔殿手作りの菓子を食べた時に言ったと思うが?」
「・・・・・・げげっ!そ、そんなの秘密だよ!秘密なのぉぉぉぉ」





 秘密は『秘密がある』と言ってしまった時点で、ほぼ秘密ではなくなる運命───






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 あとがき:秘密はヒミツじゃないんだな〜と思うことしばし(笑)     (2005.12.31サイト掲載)




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