因果関係 昨日の看病が効いたのか、が目覚める気配は無かった。 (眠れるくらいに回復したなら・・・あるいは・・・・・・) 痛みによる疲労で寝ているのか、痛みが薄れて気持ちよく寝ているかは判断しかねる。 起きるまでは起こさずにいようと、を抱え込む姿勢のままで知盛は動かずにいた。 「・・・・・・朝?」 の手は何かを探していた。 が、すぐにその動きは止まり、腰に回されている知盛の手に自らの手を重ねる。 「・・・はよ。後にいたんだった。探しちゃった」 首だけを捻り知盛を確認する。当然起きていると思っての行動だ。 「・・・おはよう。具合はどうだ?」 「ん〜・・・・・・ゴロゴロは出来そう・・・かな?」 知盛の方へ身体の向きをかえてみせる。 「・・・クッ、“すとれっち”が効いたか?」 知盛が軽くにキスをした。 「ちっともストレッチじゃなかったよ、昨夜は。気持ち良かったからイイけど。あれだね、ふわふわ〜って 嬉しいと身体にイイのかもね」 知盛の胸元に額をぐりぐり擦りつける。 「・・・適度な運動だろ?」 「お馬鹿っ。ぎゅってして。もう少しこのままがイイ」 知盛の肩を軽く叩くと、が瞳を閉じた。 知盛は言われるままにに腕を提供して抱き締める。 「・・・クッ、今日は寝所から出ないご予定か?」 「・・・・・・煩いなぁ。もう少し幸せ味わってもいいでしょっ」 の口から零れた言葉に、知盛の片眉が動く。 「は・・・幸せか?」 自分らしくない言葉が口をついて出た事に、知盛自身が一番驚いていた。 「うん。こんなにのんびり大好きな旦那様といられるのって、腰痛さえ無ければ最高の贅沢」 「・・・クッ、腰痛・・・ね・・・・・・」 が腰痛にならないように配慮したいが、自分の気持ちに正直に行動すればそれは叶わない。 知盛も瞳を閉じようとすると、の腹が鳴った。 「・・・クッ、クッ、クッ」 「何よ、笑わないでよ。お腹が空いちゃう時間なんだから。もったいないけど起きなきゃかなぁ」 知盛の頬を摘まんだ手を離し、起きようとしたはそのまままの姿勢で固まった。 「・・・やはり無理か」 知盛がを抱き起こし、その背を撫でた。 「大丈夫だもん!も、平気なんだから」 逃れようとするを離さず、撫でていた手を背から腰へと移動させる知盛。 「そう無理するな。痛いんだろう?今日は大人しくするんだな・・・・・・」 「・・・なんかヤダ。誰にも迷惑かけたくないのに・・・・・・」 悔しいのか、は知盛にしがみ付いて顔を隠した。 「いいから。腹は我慢して少し動くな」 しばらくの腰を擦っていた。 「お腹・・・空きすぎだよ・・・・・・」 のお腹が大合唱を始める。 「・・・クッ。そろそろ動けそうか?」 「うん。もうね、お腹の方が限界・・・・・・」 知盛の肩口に頭をのせる。自分で動く気力は残されていないようだ。 知盛が手を叩くと、几帳のすぐ近くまで近江がやって来た。 「朝餉の用意を。には衣を被せるだけにする・・・廂をあまり開けないよう・・・・・・」 「畏まりました」 衣擦れの音が遠ざかると、知盛はへ昨日の自分の直衣を軽く着せ込む。 「うにゅ・・・・・・もうダメ・・・・・・」 知盛にされるがままに袖に腕を通す。 「・・・すぐに食べられる。行くぞ」 の脇へ腕を入れて、抱えたまま歩き出す知盛。 「・・・うん。なんかエネルギー切れ・・・・・・」 大人しく知盛の首に抱きついていた。 「はむ・・・んっ・・・・・はむ・・・・・・んぐっ」 木のしゃもじで勢いよく粥を頬張る。 「・・・そう慌てるな・・・・・・」 知盛がを抱えつつ、その背を擦っている。しかし、は気にしていないようだ。 「・・・んっ・・・だって・・・最後に・・・ご飯、食べたの・・・何時?!もう・・・無理ぃ・・・・・・」 知盛の前でも気取らず食事をする。 「・・・・・・クッ、クッ、クッ。少しは恥らって欲しいものだな」 口は悪いが、本当にが恥らったら慌てるのは知盛の方だろう。 (まぁ・・・・・・かまわんさ・・・・・・) はいつも変わらない。 どちらかといえば、仲間にさえ痛いと言わない性格なのだから、知盛の前では正直とも言える。 「・・・・・・んぐうぅ!・・・・・・お、お湯ぅ・・・・・・・・・」 白湯が入った碗をへ差し出す知盛。 「・・・けふっ・・・・・・はぁ〜〜〜。窒息するかと思った!ありがと」 食べ始めてから、初めて茶碗を膳に置いた。 「・・・・・・さて。落ち着いて食べようっと」 膳の上の小鉢を手に取る。茶碗へ近江が追加で粥を入れた。 「・・・まだ食うのか?」 「食べるよ?知盛に付き合うとお腹空くんだもん。はい!知盛も食べて」 ようやく振り向いたかと思うと、知盛へ玉子焼きを箸で差し出す。 知盛は黙って口へ入れる。 ようやく新婚らしい朝餉の風景になった。 を支えつつも、知盛も食事を済ませる。 はといえば、朝から菓子を所望中だ。 「甘いものって疲れがとれるんだよね〜〜〜」 ぱっかり口を開けて、唐菓子を半分齧る。 「・・・クッ、朝からお疲れですか?」 素早く知盛の言葉に反応する。 「知盛の所為なんだからね!」 「・・・だったら・・・・・・」 『あれだけ食べたんだ。今夜も付き合えよ?』 知盛に耳元で囁かれ、が傍目にもわかる程に赤面した。 「・・・・・・知盛の・・・お馬鹿ぁぁぁ!!!朝から何言ってんのよぉぉぉぉぉぉ!耳!耳元禁止!!!」 が両手で両耳を押さえた。 「・・・クッ、クッ、クッ・・・大袈裟だな・・・・・・着替えるぞ。今日は大変でも袴に袿だ」 の脇へ手を入れ、抱える知盛。 「どぉ〜して?昨日みたく知盛の直衣のままがいいなぁ。・・・いい匂いだし・・・・・・」 知盛の香が焚き染めてある。にとっては心地よい香りだ。 「客が来るかもしれないからだ・・・それに・・・・・・袴の方が動けるだろう?」 少し窮屈でも、腰が安定する。さらに、今日は少しでもが動きたがるのは目に見えている。 も知盛の意見に素直に頷いた。 「うん。福原行かなきゃだもんね。早く治さないと。まきまきしてれば馬に乗れるかな〜」 大人しく抱えられたまま寝所で着付けられる。 ただし、の腰へ布を巻き、着付けをしたのは知盛だった。 「ね、ね!抱っこが楽な気がする。コアラなポーズさせて?」 「・・・・・・“こあら”?」 足を伸ばして座るの背を包むように立ち膝で支えて座っていた知盛。 「う〜んとね、木にこう・・・くっついてる生き物なの。知盛が木のかわり?」 身振り手振りでコアラの姿勢を知盛へ伝える。 「・・・俺はかまわないが・・・・・・随分とまぁ・・・刺激的な事で・・・・・・」 袿の下は袴なので、を膝へ跨らせて座らせる事には異存はない。 軽く抱えると、の希望通りに向かい合う姿勢で抱えた。 「むきゅっ!楽々〜〜〜・・・・・・背中撫でて・・・・・・」 知盛に抱きついて目を閉じる。 「・・・クッ・・・楽ねぇ・・・・・・」 腰を擦る手が、するりと下へ降りた。 「・・・お尻は触らなくていいし」 が知盛を見上げる。 「・・・俺はこの場所が楽・・・・・・・・・・・・袿が邪魔だが・・・・・・」 さらに手を進める前に、背中をに抓られた。 「お母さんがコドモを抱えてるポーズだよ?どうしてすぐにそっちかなぁ・・・・・・」 大きな溜め息を吐く。 「・・・さあ?記憶に無い・・・・・・・・・」 「無いの?按察使さんには?」 母親とは別に生活するものなのだろうと、乳母の存在を思い出す。 「・・・・・・赤子の時ならばそれもあるだろうが・・・・・・俺の記憶がある辺りからでは無い・・・な・・・・・・」 知盛に回されたの腕に力が入る。 「んとね、知盛を膝にのせたら重すぎだし。気分だけでも味わってみて?こんな感じで背中をゆっくり 軽くとんとんってされてると、眠くなって気持ちイイんだよ?」 傍からみれば知盛がを抱えているのだが、知盛はしばらく大人しくに抱えられていた。 「・・・式神は・・・いいのか?」 「ん。せっかく知盛が居るし・・・・・・銀も桜も二匹で遊んでるよ、きっと」 少しだけ優越感に浸る知盛。の中での順位は、式神たちより知盛が上という事だ。 は意識してはいないのか、知盛を抱き締めるのを止めて、また直衣にしがみつく。 「知盛ってさ・・・見た目細くて詐欺だよね」 「・・・クッ、今度は何だ?」 思いついた事を突然が話し出すのには慣れている。 何を言うか予想がつかない分、楽しみなのだ。 「だってさ・・・・・・渡殿とか歩いてるの見ると風が吹いたら倒れそうじゃない?でも、こう腕を回すと大変 だしぃ・・・・・・しっかり筋肉質だったりするよね。あれだよね、将臣くんはね、ひょろろ〜んってしてたんだ けど、こっちで三年過ごしてる分がっしりしたよね〜。譲くんはまだひょろひょろりんだけど」 なんとなく知盛は大人だと思っていた答えが見つかった。 それは、見た目の優雅さだけではなく、肩幅が広い所為もあるのだと。 知盛の眉が上がる。 「・・・・・・いつ・・・そんな事を確認したんだ?」 「へ?いつって?」 声の感じからして、知盛には面白くない内容だったらしい。しばし思案する。 「知盛に・・・そのぅ・・・ぎゅってしてもらった時?すっごい安心だなぁ〜って・・・・・・」 壇ノ浦の帰路での出来事だ。にとってはようやく手に入れた想い人。 (時空を越えてまで知盛を振り向かせようとしたんだから!頑張ったよね〜、私って) 嬉しさのあまり、ひとり笑う。 反して知盛は冷ややかな反応。 「・・・俺じゃない。有川の話だ」 「将臣くんの?将臣くんも譲くんも幼馴染だし。こっちに来るまではいつも一緒だったし。手を繋いで歩くの なんて、よくある事だったよ?だから、肩とかね、身長差がついた時にやっぱり男の子だなぁ〜とか・・・・・・」 理由がわかればわかったで、余計に面白くない知盛。 「・・・身長・・・ね。フン・・・・・・・・・・・・」 を抱えている手はそのままだが、首を背ける。 「なっ!そんな事くらいで拗ねないでよ。私の方が大変だったでしょー!どうなの?手だけじゃないのは」 さり気なく涼風の件を仄めかす。 肩を竦めると、に向き合い額へキスした。 「・・・そう・・・だな。いいさ・・・・・・手ぐらい・・・・・・」 心の中では手すら許す気は無いのだが、口では余裕をみせる知盛。 「もぉ!知盛はコドモなんだから〜〜〜。あのね、小さい頃の事なんて、通過しちゃってるんだから。今、ここ にいる私を大切にしてよ。髪!髪撫でて。知盛の手、好きぃ〜」 知盛に寄りかかり目を閉じる。 多少は身動きできる位に、最初の腰の痛みよりは治まっている。 「・・・クッ、畏まりましたよ・・・・・・お方様」 手をの頭部へ添えて、髪を梳く。 「・・・んふふ。寝ちゃいそう・・・かも・・・・・・・・・」 「クッ・・・かまわんさ・・・・・・」 遅い朝は昼をすっかり過ぎ、そろそろ来客の予感─── |
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あとがき:知盛くんは、望美ちゃんの我侭が楽しいらしい(笑) (2005.12.19サイト掲載)