運動不足?





「な〜ま〜るぅ〜〜〜」
 散々おやつを食べておきながら、が声を上げる。

「先輩!どうしたんですか?!」
 譲は素直だ。言葉からしてが退屈なだけとわかるのに反応している。
「だってさぁ〜、こんなに剣の修行も、舞のお稽古も、封印もしないのって、初めてだよ?」
 プリンを食べて、また横になっている
 腰痛なのだから、動けなくとも仕方ないのだが。
「んだよ、偶にはいいだろうが。・・・いちおう病人だし。元々じっとなんかしてなかっただろ」
 見た目にわからないが、腰痛も病気である。
「一応じゃないの!ひとりで歩けないし。他はまったく健康なんだけど・・・・・・」
 昼寝をしているらしい式神の頭を撫でる
 知盛が気にするかと思うと、将臣に強くは言い返せない。
「・・・剣の腕前が落ちたら嫌じゃない?」
 あんなに毎日修行をして身につけた花断ちだ。下手になるのは納得がいかない。

「そういや・・・こっちへ来てからしてねぇな?」
 将臣も、が庭で何事かすれば話題になるはずと首を捻る。
「・・・・・・だって。初めくらい可愛い奥さんって思われたかったんだもん。いきなり庭で剣を
振り回しても・・・ね?」
 の言葉に、将臣と譲が顔を見合わせた。

「・・・自覚あったんだ」
「・・・自覚あったんですね」
 
 声に出さなければいいものを、二人は息もピッタリに口にした。
「ちょっと!それじゃ私が後は可愛くないみたいじゃない!」
 が床を叩くと、その手を包む手が伸びてきた。
「・・・・・・手を傷めるだろう?」
 の耳が赤くなる。
「えっと・・・・・・はい」
 目覚めたはずなのに、の背に寄り添うように横になっている知盛。
 自然とを抱える姿勢になる。

「ま!の事も心配だし。明日は知盛に休みをやるから。の看病するんだな」
 膝に手を当てて立ち上がる将臣。
「それと・・・・・・あれ。忘れるなよ?」
 譲の襟元を掴み立たせると、将臣は譲の手を引っ張り泉殿を後にした。
 白龍も急いでおやつの供給源である譲の後をついていってしまった。



「“あれ”って・・・なあに?」
 が後に居るであろう知盛へ質問をする。
「・・・・・・さあ?」
 に知られてもいいのだが、一言、二言は何かを言われそうである。
「・・・・・・言えない内容なのかなぁ〜?」
 知盛に包まれていた手を素早く引き抜くと、知盛の手の甲を抓る。
「・・・・・・話してもいいが・・・・・・面倒・・・・・・・・・・・・」
「面倒でも話して」
 強い口調で言い返され、渋々知盛が口を開く。
「・・・福原の処理を・・・・・・経正たちに任せていて・・・・・・それで・・・・・・・・・・・・」
「敦盛さんも寂しいね、お兄さんが帰ってこないんじゃ。知盛が手伝いに行くって話?」
 溜め息を吐く知盛。
「ああ・・・・・・。将臣だけでいいだろうに・・・・・・どうして俺まで・・・・・・・・・・・・」
「私も行くっ!行きたい」
 よく考えれば、が言いそうな事だ。

(・・・・・・迂闊だったな。大人しくしているわけが無い・・・か・・・・・・・・・・・・)
 知盛が出かけてを置いて行くくらいなら、共に行動していた方が目が行き届く。

「・・・・・・お前の八葉が何人行くかによるな」
 自身がどう考えているかはわからないが、誰もが『龍神の神子』と思っているのは事実。
 まだまだ荒れている土地も多く、危険が無いとはいえない。
「ええっ?!将臣くんと譲くんは数えていいと思うけど・・・・・・。白龍なんて、譲くんにべったり
だから、八葉じゃなくても確実に行くだろうし・・・・・・。後は誰?」
 が指折り数えだす。なりに考えて源氏の八葉の名前は上げないつもりらしい。
「あんまり連れてっちゃうと、留守番の方も心配だもん。先生・・・は、朔の傍にいて欲しいなぁ」
 源氏の兵が梶原邸を警護していようとも、万が一という事もある。
 リズヴァーンならば、一人で千人分はいけるだろう。
「・・・・・・敦盛は内裏での仕事と留守居だから無理だな」
 先回りして、敦盛の同行は無理だと告げる知盛。
「いいじゃん、二人もいるんだしぃ」
 の頬が膨れた。
「その前に。腰を治すんだな?それじゃ馬には乗れない」
「・・・・・・治すもん。福原かぁ。遠い?」
 これには知盛も驚いた。
「・・・場所も知らずに行きたがったのか?生田より先だ」
「ふぅ〜ん。生田かぁ・・・・・・また戦ってみる?」
 くすくすと笑いながらが知盛の手をそっと掴んだ。
「・・・クッ、今度は斬られそうだからいい」
「へ〜んなの!あんなに戦いたがったくせにぃ」
 壇ノ浦での本気を見せつけられたのだ。

(今のお前になら勝てるのかもしれないが・・・・・・)
 腰を痛めているに勝っても自慢にはならない。

(あれは・・・俺のものだ。誰にも見せるつもりはないさ)
 舞うようでいて、激しく相手を斬りつける。
 隙があるのに踏み込ませない空気がある、不可思議な剣の使い方と離せない視線。

「・・・今度は木箱じゃ済まないだろう?」
 の体を自分の方へ向ける知盛。
 向かい合わせに寝転ぶ二人は、お互いの目を見つめて笑った。
「アタリ。勝負となれば何でも使う〜。私が負けたら知盛つまんないでしょ?だから負けない」
 が目を閉じたので、軽く口づける知盛。
「ああ・・・知ってるさ。だから勝負は挑まない・・・・・・」
 の腰を擦る。

「そろそろ日が沈む・・・・・・戻るか?」
「もう少しここにいよ・・・・・・ここ、景色いいよ」
 今のは知盛の方を向いているのだ。庭など見えるわけがない。
「・・・・・・夕日・・・見えないだろう?」
 知盛がの体の向きを変えようとすると止められた。
「知盛に夕日が映ってるの。綺麗だよ」
「・・・クッ、奥方に口説かれるとは思わなかったぜ?」
「どっちがどうでもいいの。知盛は私のモノなんだから」
 知盛に擦り寄ると、が目を閉じる。
 今日は昼寝をしなかったために今から眠るつもりらしい。
 衣を掛けなおし、自分の直衣の袖でを包む知盛。

(・・・・・・腹が減れば起きるだろ)

 構わずにの腰を撫でる。
 気持ちがいいのか、の口元が緩む。
「明日は・・・・・・起きられればいいんだが・・・・・・・・・・・・」
「ん・・・たぶん・・・・・・ちょっとは良くなってるよ・・・・・・」
 


 の眠りを妨げぬよう、静かに銀へ向けて指を動かすと、近くへ寄ってきた。
「・・・・・・三条を呼んで来い。頼むな?」
 ぽふんっと白煙を残して消えた銀。桜はの頭上へ移動してきていた。
「お前は静かにな。銀の使いが終わったら、部屋へ戻っていい・・・・・・・・・・・・」
 ぴょっこりと頷くと、静かに動かないでいる桜。

(・・・・・・景時殿は・・・優秀だな)

 この式神は、元々は戦用にしつけられていたのだとわかる。
 より早く相手の情報を手に入れた方が有利。の遊び相手にはもったいない二匹。
 今でも利用価値は十分にある。
 しかし、それをせずに知盛に手の内を見せている事になる。

(大切な姫神子様をよろしくか・・・・・・)

 景時の顔を思い浮かべる。

(・・・クッ、兄上との勝負は無傷では済まないな)

 普段鷹揚な人物ほど手強い。
 何でもいいように見せているが、その実、何事準備に関しては抜け目が無い。

「・・・・・・詫状でも書くべきか・・・・・・いや、遅いか」
 いつ朔がの腰痛について怒鳴り込んでくるかとも思う。
 
 の髪を手に取ると、口づける。
「・・・・・・初めて姉上に叱られそうだぜ?」
 眠っているには、知盛の声は届いていなかった。





「若君・・・お呼びでしょうか?」
 部屋の入り口に三条が控えていた。
「・・・来たか・・・被るものと・・・こちらの庭の篝火を早めに頼んでくれ。それと・・・・・・」
 知盛が言い終わらないうちに三条が被り物を二人へかけた。
「お食事はこちらへ後でお持ちしましょうか?お風呂はいつもの時間には入れるよう準備して
ございます。庭の警備の者たちには、こちらの近くへは寄らないよう申し付けてあります」
 振り向いた知盛と三条の目が合う。
「・・・クッ、随分と用意がいいな?」
「神子様が過ごしやすい様にするのが仕事ですから」
 知盛はすぐに首を元に戻すと、再びの腰を擦り始める。

「・・・・・・半時後でいい。それまでは誰も近づけるな」
「はい」
 すぐに静かに立ち上がると、三条はその場を去った。



「・・・・・・クッ、口を開けて寝るなよ」
 普段ならどうという事でもないが、おしゃべりが思ったより疲れたらしい。
 は軽く口を開けて眠っている。
 唇を啄ばんでは様子を窺うが、起きる気配はまったくなかった。

「悪い女・・・・・・」
 そのまま気が向いた時にの唇を啄ばんでは、庭が篝火で明るくなって行くのを眺める。

「・・・クッ、俺を放っておく女は初めてだ・・・・・・・・・・・・」
 隣に知盛がいても寝る時は寝る、自分のしたい事が最優先の



 『知盛が温かくてよかった───』



 が知盛に言った言葉を思い出す。
「俺も・・・お前が温かければいいんだ・・・・・・・・・・・・」



 温かさとは、生命に繋がるもの───






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 あとがき:そろそろ何か起きないと、つまんないな〜って。氷輪が(笑)     (2005.11.3サイト掲載)




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