決まりをつくる 転がってるだけでも気持ちがいい季節。 本当に眠っているのはだけで、知盛は横になっているが正しい。 の枕という大役を仰せつかっている為だ。 (・・・いつ以来だろうな・・・・・・・・・・・・) 平氏全盛の折には、偽りの平和と言われようとも寛いだ時間を過ごしていた。 それこそ毎日場所さえ違えど一族の誰かの邸で昼間から宴会が行われていた。 (・・・クッ、休ませないと文句を言われそうだしな?) 泉殿でと過ごす時間は、知盛にとっても安らぎになっていた。 「ふあぁ〜〜〜」 大きな欠伸とともに伸びをしながらが目覚めた。 「・・・クッ・・・デカイ口だな・・・・・・」 せめて手で覆うなど何かあるだろうとも思うが、これはこれはでらしくもある。 「ん・・・・・・・でもさ、こう気持ちいいんだよね。顎とかすっきりするし・・・・・・」 今度は小さな欠伸をする。 「まだ眠いのか?」 余りに欠伸を繰り返すので、知盛がの頬をつつく。 「う・・・ん。誰かさんの所為だよ・・・・・・睡眠時間が足りないんだよ・・・・・・よいしょっと」 両手をついてが上体を起こし、そのまま知盛へ乗りかかる。 「・・・抱っこ」 「クッ、・・・マッサージもだろ?」 軽くの腰を叩く。 「うぅ〜うぅ〜うぅ〜あぁ〜〜〜〜。きゃはは!声が面白いよ〜〜〜〜」 振動で震える声が楽しいのか、大人しくマッサージをされている。 「・・・決める事は?」 朝、わざわざ言われたのだ。何かあるのかと気になっている知盛。 「あ、そうだった。部屋に戻らないと・・・・・・」 「・・・わかった」 を片手で子供抱きする知盛。 「う〜ん。これってコドモ扱いだけど、腰が痛くないのはこっちなんだよね〜」 が知盛の首へ腕を回すと、知盛が歩き出す。しっかりの腰を擦るのも忘れない。 「ね〜、毎日ストレッチすればいいんだよ。二人でしようよぉ。体育でね、こう背中あわせに ぐいぐい〜って引張りっこするのとか気持ちよかったなぁ〜」 「・・・クッ、だから。先に意味か内容を説明しろ」 「そっか」 渡殿を歩くを抱えた知盛の姿は、邸の多くの者たちの目に触れていた。 「銀〜、桜〜、おいでっ」 呼べばの許へ来る式神二匹。 「練習ね〜。銀が知盛へのおつかいするんだよ?」 知盛は黙ってのする事を眺めている。 「じゃあね〜、京都守護邸で剣の修行してくるよ〜って伝えられる〜?」 銀、しばし呆然。残念ながら、言葉は理解出来ても発する事は出来ない。 しかし、出来ない事は認めたくない様子。 知盛が助け舟を出した。 「・・・・・・話せないんだろう?・・・筆と紙を」 常陸に用意された紙と筆を使い、さらさらと場所をいくつか書き付ける。 「ほら。銀、伝言場所は?」 銀が紙の上にある文字を眺める。 「・・・文字も・・・無理か?」 知盛が次を考えようとすると、銀が守護邸の文字の上に飛び乗る。 「・・・上出来だな」 「わ〜〜、頭いいよ知盛。銀ったら、文字OKなんだ〜。銀はお利巧さんだ〜」 が手招きすると、銀は戻ってきた。 「桜ちゃんは女の子だから、おつかいは基本的にはナシね!」 二匹を並べて言い聞かせる。 「・・・これか?決める事っていうのは」 「だけじゃないけど。私の行き先を知盛に分かるようにしたいなって。・・・・・・約束した手前、 言わなきゃだし。でも、そんなの起きてから気分で決めるから、知盛いないし」 が起きる時間には、知盛は内裏へ出仕している。 出かける事を知盛へ言うには、文しか手段がない。 「・・・クッ。まぁ・・・“誰のところへ”でもいいんじゃないか?場所だけじゃなくてもな。コイツが 俺の所にいるなら、桜の居場所を探させればいいんだろ?」 と知盛の視線が銀と桜に注がれると、二匹がしっかり頷いた。 「きゃあ〜〜〜、可愛いよこの子たち!どぉ〜しよ。お使いまで出来ちゃうし。あれだ〜、お家 ちゃんと作らないと駄目かな〜」 が知盛の膝へ横になった。 「ね、ど〜かな?箱庭じゃ狭くないかな?」 土敷半分程の箱庭が小さいとも思えない。視線を箱庭から、膝へ転がるへ戻す。 「あれで十分だ。あまり大きくしないで、休む場所だけにしてやればいいだろう?」 「あ゛・・・・・・」 が一気に脱力した。 「・・・そうかも。ごめんね〜、銀、桜ちゃ〜ん。お庭の分はなくてもいっか!」 伸ばした手に、桜が乗る。 「えっと、ラブラブクッション作ってあげるから。お布団はアレでいいよね〜。冬はちゃんとふか ふかのも作ってあげるからね」 が桜を胸に乗せて可愛がると、銀も勝手に同じ場所へ移動した。 「ありゃ?銀も来たなぁ〜?やっぱり桜ちゃんを好きなんでしょ」 生きているわけではない式神。ぬるぬるする事もない、ふにふにの二匹を撫でて遊ぶ。 「・・・二匹とも、そこは俺の場所だ」 「変なヤキモチ妬いてるぅ〜。じゃ、知盛に可愛がってもらうといいよ〜」 が声をかけると、二匹は知盛の肩へと移動した。 「さてとっ。お勉強しなきゃだよ。知盛、暦の続き教えて〜」 「・・・クッ、覚えていたのか」 話に上がらなかったため忘れているのかと思えば、続きをせがまれる。 「うん。封印のお仕事が来る前に多少は腕前上げないとねっ」 三条に文机を用意され、真剣に机に向かう。 文机の端には二匹の式神。の後ろで知盛がのんびりと勉強の様子を見守っていた。 「よぉ〜し!イイ感じだよね。書けないけど全部言えるぞぉ〜」 「・・・クッ、半分あやしいけどな」 くるりと振り向いたが知盛の両頬をつまむ。 「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!頭の出来が違うって言いませんでした?言ったよね?」 ようやく勉強が終わったので、安心してを抱き寄せる知盛。 「・・・クッ、覚えてない」 膝立ちのを抱き寄せたのだ。知盛に都合の良い事づくし。 「・・・・・・ちょっと。どこ触ってんのよ」 知盛が撫でているのはの腰ではなく、さらにその下。 「・・・マッサージ」 悪びれもせず言い切った。 「お馬鹿っ!そこはいいの、触らなくて。するならもっと上!」 「へえ?上・・・ね」 さわさわとと知盛の手が上へと移動した。 が、突然の背中から胸へ移動して、わしわしと膨らみを持ち上げる。 「・・・・・・そこが知盛の思う“上”なのかな〜?」 の眉間に皺が寄ってくる。 「上・・・だろ。もっと上がいいのか?」 の頬に手を添えると、しっかりと口づける。 「んっ。こっちは許可!」 知盛の首にの腕が回され、キスされる。 「・・・クッ。が誘うのが悪いって言わなかったか?」 「知らない、そんなの」 またもがキスをする。 部屋に控える者達はもう慣れたのか、視線をそらすのが上手くなっていた。 「・・・人前は駄目なんじゃなかったのか?」 「ここは私の部屋だも〜ん。そろそろご飯だ〜、今日は何かなっ」 知盛の腕をすり抜け、いつもの顔に戻ってしまう。 (俺より酷いだろ、これは・・・・・・) 捕まえたと思うとすり抜ける。 かと思えば、真っ先に伸ばされるその手に振り回され─── 「・・・クッ、俺より飯だろうさ」 笑いながら知盛も立ち上がると、膳の用意された褥に座る。 「なぁ〜に?何か言ったでしょ」 「俺より飯じゃないかって・・・な」 の前に整えられた膳を指差す。 「う〜ん。だから、比べる対象が違うって。気になるなら・・・・・・どっちも一番だよ」 「・・・・・・どっちも・・・って・・・・・・・・・・・・クッ、クッ、クッ」 知盛が額を抱えて笑い出す。 「何よぅ、不満なの?」 大きな口で、本日の夕餉であるお好み焼きを頬張る。 「いや?俺の一番はなんだがな?」 さり気なく告白及び主張をする知盛。しかし、あっさりかわされた。 「知盛なんて、何が好きか嫌いかもわかってなかったじゃ〜ん。一番というより、好きなモノ がまだ一個しかないでしょ?」 お好み焼きを刺した箸を目の前に出され、素直に食べる知盛。 「でもね、ず〜っと知盛の一番キープしちゃうくらい引っ掻き回してやるからね!覚悟して」 楽しそうに向かいで食事をする。 「・・・・・・クッ、もう掻き回されてるさ」 「ええっ?!まだ何もしてないよ?」 二人の間に、お互いの感覚がかみ合っていなかったという空気が流れる。 先に笑ったのは知盛だった。 「クッ、お手柔らかに頼む」 盃をとって酒を口に含み、口の端を上げた。 「・・・・・・何もしないうちにそう言われてるって、私ってどう思われてるんだろ」 、自分の行動を振り返り項垂れの図。 「も、だめ。落ち込んだから、知盛が当番」 「当番?」 眉を軽く上げ、当番の意味を尋ねる知盛。 「知盛が髪洗って〜〜〜」 「ああ。そういう当番なら歓迎するぜ?」 「うん!今日はちゃんと二人で入ろ〜」 本日、式神は別とから言われて知盛の機嫌は静かに上昇していた。 知盛の悪戯がなかったおかげで、手早く入浴を済ませた二人。 「お風呂の後にさぁ〜、こう髪をぱふぱふって叩いて拭いてもらうの気持ちいいんだよね〜」 は常陸に髪を拭いてもらっている。 「・・・・・・で?」 「ん〜?知盛の髪はサラサラだから拭くの楽しいよね〜」 が膝立ちで知盛の髪を拭き、その後ろに常陸。 この対に勤める女房ならば、すべき仕事と主の性格を読まねばならない。 必要以上の人員は邪魔にしかならないので、廂等遠くで控える。 「知盛の髪はおしま〜い!ね、暑いから扇いで」 足を伸ばして座ったの正面へ向き直った知盛が、団扇でに風を送る。 「ん〜〜〜涼しぃ。しばらくすると丁度いいんだけどな〜」 が目を閉じたのを見ると、知盛が静かに動く。 の唇を軽く啄ばむと、何事もなかったかのように隣に腰を下ろして扇ぎ続ける。 「・・・・・・知盛ぃ、そういうの反則ぅ。でもいいや。キスするの好き」 足をパタパタさせて首を振る。後ろでは常陸が櫛で仕上げに梳き始めた。 「神子様、式神を洗ってまいりました」 三条が手拭に二匹を乗せて部屋へ戻ってきた。 「わ!ありがとうございました〜。知盛が拗ねちゃうから・・・ね?」 が隣の知盛を見ると、涼しい顔をして三条から二匹をもらい受け、の膝へ乗せる。 「どうしちゃったの?」 知盛が二匹へ理解を示した行動をとったのが意外だったのだ。 「・・・大切な使いをしてくれる式神だからな?」 「うん!お手数だけど、三条さんが居るときはお願いしますね?それ以外の時は、一緒だから ね!いいでしょ?」 三条へしっかり頼み、知盛へは約束を取り付けるべく念を押す。 「・・・クッ、わかったよ。俺も二匹を洗ったりすればいいんだろ?」 降参というかのように軽く両手を上げる知盛。 「そうだね〜。泳ぐの見てるのも可愛いんだけど。銀はさ、知盛へのお使いしてくれるんだから、 知盛が感謝して洗うくらい普通だよ」 の膝へ手を伸ばす知盛。銀が知盛の手のひらへ飛び移った。 「・・・・・・そもそも式神に風呂っていうのがな?まあ兄上の式神だし。飼い主がじゃな」 銀の小さな前足を指でつまみ、握手する知盛。 「の使いは大変だろうが・・・頼むな?」 軽く飛び跳ねると、気を利かせたのか姿を消す。 「わ・・・銀が消えた・・・・・・」 が手元を見れば、桜も後を追いたそうにウロウロしている。 「いいよ、桜ちゃん!おやすみ。また明日ね」 背を撫でられてから、桜も姿を消す。 「ね、ね!二匹はちゃんとお家にいるのかな?」 「・・・さあ?朝までには戻って来るだろ。あいつ等も夜は忙しいだろうしな?」 知盛の意味ありげな視線に、の片頬が引きつる。 「・・・どうしてそっちに話をもっていきたいかな〜」 「・・・クッ、だから。夫婦がそろっていたら、する事は決まってるって言ってるだろう・・・・・・」 仕事を終えた常陸が礼をして控えると同時に、を抱き上げる知盛。 「風呂で大人しくしたんだから。その分もだな・・・・・・」 「そんなの最初から数に入ってないよぉぉぉぉ!お馬鹿ぁ」 の叫びが空しく響く部屋で、残された三条と常陸は笑うしかない。 「・・・・・・近江はいつ来るかしら?」 「今日はまだ早い刻限だから・・・・・・近江は半時後かしら」 呼ばれれば分かるよう廂近くへ控える二人。 視線を庭へ向ければ、月が顔を出している静かな夜。 「・・・・・・噂、神子様には言わない方がいいわよね?」 常陸が三条の方を向く。 「若君が今までどこで夜を過ごしているのかわかり難かっただけなのよ。一度もこちら以外で 休んだ事などなかったのに・・・・・・」 が嫁いで数日、知盛の気配がどこにも感じられなかった。 そのため早速の夜歩きという噂が流れ、続いて涼風の騒ぎ。 元々、浮いた噂だらけの知盛だ。一部では好き放題に言われていた。 源氏の神子との政略結婚説の復活─── 「神子様・・・お声が漏れていると知ったらお怒りよね・・・・・・」 この対の者が漏らさずとも、庭に居る警備の者や、近くの対に仕える女房の口は塞げない。 一気に政略結婚説は吹き飛ばされたものの次なる噂が広まる。 「・・・・・・神子様に夢中で片時も傍を離れない中納言様って話?でもねぇ・・・・・・」 実際、が梶原邸へ行くのにも知盛は同行している。 三条も、式神にまでヤキモチを妬いている知盛が見られ、それなりに楽しんでいたりするのだ。 「桜の宴の話もある事だし・・・・・・仲が良いという噂はいいんじゃないかしら?」 安心したように常陸が頷く。 「お優しい神子様がご不快な思いをしたら嫌ですもの」 「そんなの・・・きっちり陰で仕返しに決まってるわ」 三条があまりにはっきり言うので常陸の目が見開かれる。 「だって・・・大切な主を見つけたんですもの。私、神子様の対で働けるのが嬉しいの」 「そうね。北の方様をお守りしなくては。私もよい主に出会えてよかった・・・・・・」 按察使を筆頭に、誰もがと知盛の夢物語の続きを願う西の対の使用人たち。 その輪は、段々と邸中に広まる─── |
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あとがき:条約締結(笑)どうしても知盛くんは小出しに悪戯しそうな気がする。 (2005.9.8サイト掲載)