逢魔が時





「よっ!来たな。伝言と話があるんだ」
 将臣が手を上げて知盛を迎え入れた。
(・・・将臣の用事は本当か・・・・・・)
 頭で考えをまとめながら、将臣の前に腰を下ろす知盛。
「兄上の御呼びなれば・・・参上しないわけには参りますまい」
 心にも無い事をすらすらと述べる知盛に、早くも将臣がギブアップ。
「まった!その口調は勘弁してくれ。こぅ・・・痒くなるっ!」
 将臣が腕だの足だのを掻き出した。
「・・・クッ、失礼だな。一応公式には兄上ってなってるんだしな?多少若返りが激しいが」
 将臣が渋い顔になる。
「そうなんだよな〜、納得いかねえけど」
「・・・不満か?」
「・・・ああ。人格否定されてるっぽくてな。ま、そんな事はいいさ!中宮様が、と話したいそうだ」
 タイミングよく酒が運び込まれた。将臣が盃を知盛に勧める。
「・・・徳子も諦めが悪いな。そう度々内裏へを行かせるつもりは無いんだが」
 勧められるままに盃を取ると、女房に酒を注がれる。
「まあ・・・あれだ。高倉帝も内裏を退かれてしまってるし、帝はあの通り幼い。後宮に話し相手が少ない
のもあるんだろうけどな」
 後宮に人が居ないのは事実。高倉帝の時代の女御は殆どが宮中を退いている。そして、安徳帝と娘の
婚姻を望む貴族はいても、互いに牽制し合い様子見の膠着状態。先の中宮が戻られても、話し相手にな
る姫君は居らず、寂しい事この上ない後宮になっていた。
「・・・悪いが、他を当たってくれ。を後宮に入れるつもりは無い」
 不機嫌な顔で、酒を口に含む知盛。
「そう言うと思ったぜ。まあ・・・もうしばらくは協力してくれよ。帝に何人か姫君が入内すれば変わるだろうし。
今は・・・仕方ないだろ?平氏の勢いも昔の様にはないんだ」
 誰もが平氏と言うだけで頭を下げた。清盛の孫に関白ですら頭を下げた時代があったのだ。
「・・・フンッ、の返事次第だ」
 が否と言う訳も無いのだが、最後の抵抗を見せる知盛。
「じゃ、そういう事で。今は体調が思わしく無いので、直には無理って言ってあるからな」
 将臣がぐいと一息で酒を飲み干した。すっかり諾をもらったつもりのその様子に、今度は知盛が渋い顔。
「そういう顔すんなって。で?どうなんだ、の具合は」
 将臣も心配だったのだろう、話はの体調へと移った。
「・・・熱が少しあるが。原因は風病じゃなさそうだ。景時殿の配慮のおかげで機嫌はいいぜ?」
 本日、早々と知盛が帰宅出来たのは景時のおかげなのでそのまま伝える。
「ふうん?じゃ、あれだな。やっぱ花粉だろ。アレルギーばかりはちょっとなぁ」
 杉の木が近くにあるわけではないのだが、まったく無いわけでもない。
「ああ・・・・・・・・・」
 船の上でゴロゴロしていたを思い出す。
「まあな。桜が散る頃には収まるだろ。薬がなぁ・・・こればかりは弁慶にどう頼んで調合してもらえばいいの
やら検討もつかないぜ」
 花粉症は過度の免疫反応。将臣もわかってはいるが、この時代の薬は薬草を煎じるのが精々。
 何がどう作用するのか、将臣には判断出来ない。
「気が紛れていれば、落ち着いてはいるがな・・・・・・」
 楽しい事をしている時や、集中すべき事がある時は本人も忘れている様子。
 京で取り急ぎ封印をしていた時は、症状がなかった。
「ま、いいさ。・・・・・・例の件は何とかしておけよ?俺も気づかなかったのは悪いと思ってるけど、それこそモトを
正せばオマエの不始末だ」
 女房を解雇するくらい簡単だが、他で騒がれるよりマシと涼風は将臣の対で引き続き働かせていた。
「・・・・・・兄上も何かお心当たりがおありのご様子で?」
 知盛が楽しそうに将臣を見つめる。既に人払いはしてあり、二人で飲んでいるにもかかわらず丁寧な口調。
「・・・・・・そういう勘のイイところは余計だ。・・・寝込みを襲われかけただけだ」
「へえ?未遂ですか・・・・・・もったいない」
 思ってもいない事を言いながら、将臣の盃に酒を足す知盛。
「そう思っていない事がスラスラでる口が嫌味だっつーの!好きでもない女なんて俺はごめんだ」
 生前の重盛には妻子がいた。出家したものの、内裏へ戻ってきた事になっている重盛こと将臣。
 還ったという意味で“還内府”と呼ばれているが、真実戻ったのは将臣であって本人ではない。
 妻であった藤原成親の妹、経子は既に出家の身。北の方の地位を狙うには、将臣は適した人物ともいえよう。
「・・・・・・さっさと妻を娶るんだな。周囲が煩いのはその所為だ」
 過去の自分は棚上げで、将臣に助言する知盛。
 実際は北の方が居ようとも、側室狙いもあるのだから身辺が落ち着くことはない。
 この時代、生活の保障が欲しいのだ。
 大貴族と縁者になれれば安泰。器量良しの娘が居る家は、挙って女房仕えをさせる。
「なんかムカツク物言いだな〜。そう簡単に結婚するかよ!」
 ムカツクと言いながら、大笑いの将臣。
「それよりな〜、譲の貞操の危機だぜ?早いトコなんとかしろ。譲が俺の弟って事は、平氏と思われてんだよ」
「・・・・・・経験積むには手頃だろ?」
「あほ!オマエと譲を一緒にすんな。あいつがそんな経験あるかよ」
 将臣が大きな溜め息を吐いた。
「・・・だからするんだろ、経験を。普通親に用意されるんだがな?」
「ここの基準と一緒にしないでくれ。そう砕けた調子で話せないんだ、俺たちは」
 があまりに大っぴらなので気づかなかったが、今までの将臣の態度を考えるとよく恋愛関係にならなかった
ものだと感心する部分もある。譲に至っては、残念ながら幼すぎて話しにならない。
(まあ、おかげでを妻に出来たといえばそうなんだが・・・・・・)
 考え込む知盛を他所に、将臣が続けた。
「・・・向こうへ帰らないとも限らないだろ?」
 知盛の身体が揺れた。珍しく動揺しているのがわかる反応に、将臣も悪いとは思いながらも続きを述べる。
がどっちに決心したのか・・・するのか・・・まだ聞いちゃいないしな。ま、もしも俺がこっちを去ってもいいように、
しっかり敦盛を扱使ってるからいいんだけどな」
 将臣の視線は知盛の瞳の奥を貫いていた。
「・・・クッ、俺はもう壇ノ浦で決めている。ただ・・・・・・」

 しばらく、将臣と知盛は話し込む事になった。



「大分覚えだぞっと!」
 が大の字に寝転がる。
 白湯の用意をしたいのだが、近江も三条も未だに戻らない。
 仕方が無いので常陸は、新参女房である佐保を呼びつけ白湯の用意を命じる。
「・・・知盛、遅いなぁ〜。何の話なのかな?ちょっとだけ・・・・・・」
 いかにもが西の対へ向かいそうな様子で、どうしたものかと常陸が考えていると佐保が戻ってきた。
「失礼いたします。お方様、西の対からお遣いが・・・・・・」
 佐保の後ろには、見知らぬ女房が控えていた。
「え〜っと、何かな?」
 いきなり対の主に声をかけられると予想していなかったのだろう。慌ててその女房が廂でさらに深く平伏す。
「主より、お出で願えとの由にて・・・・・・」
「ふうん?将臣くんが?だったら最初から知盛と一緒に呼んでくれればいいのにね」
 が常陸を振り返ると、常陸が前に進み出た。
「女君を呼び出すのはおかしいですね?確かですか?」
 部屋から女人が出るのはおかしい事なのだ。まして、それを知っていて呼び出すとは考えられない。
「・・・その・・・私も伝言を承っただけですので・・・・・・」
 直接に還内府から命じられた訳ではないため、その女房も言いよどんだ。
「将臣くんだからね〜、大丈夫だよ。行くよ」
 が立ち上がると、常陸も立ち上がる。
「れ?どうしたの?」
「私もご一緒させていただきます」
 やはり、一人で行動をさせるわけにはいかないと思った常陸。
 先方が女房を寄越した時は控えるべきだが、構わず後に続いて西の対へ向かった。



 すっかり話し込んでしまい、外は逢魔が時。夕暮れのグラデーションが池に映る。
と観るには、少々暗くなりすぎだな・・・・・・)
 渡殿で止めた足を再び動かそうとすると、知盛の前に立ちはだかる者があった。
 涼風が笑みを湛えて知盛へ近づく。
「京で一番の話題ですものね、知盛様と神子様は。・・・私の事、お忘れではございませんでしょう?」
 知盛の袖を取る涼風の手を払いのける。
「さあ?・・・・・・戦より前の事は生憎と覚えがない・・・・・・」
「構いませんわ。これから覚えていただきますから・・・・・・」
 今度は、知盛の左腕を両手で掴む涼風。
(この野心的な眼は嫌いじゃなかったが・・・・・・)
 勝手に来るから拒まなかっただけの事。
(庭にでも突き飛ばすかな・・・・・・)
 それでは根本的な解決にならないのだが、やや面倒な気持ちになっていた為、行動が遅れた。
 顔を上げれば、渡殿へ繋がる簀子でと常陸が立っていた。
(いかにも分かり易い事で・・・・・・)
 ここでが短気を起こせば、この邸くらいは軽く吹っ飛ぶだろうと想像する。
 つい笑みが零れてしまう知盛。
「何笑ってるのよ〜〜!」
 物凄い勢いでがズカズカと渡殿へ来た。早足というより、駆け足。
「・・・クッ、いや。随分とタイミングがいいなとか・・・な」
 戦の時以来の、の闘志溢れる瞳をうっとりと見つめる知盛。
(この瞳だ・・・いい眼をしてやがる・・・・・・)
 涼風の存在を無視して、ただ只管にだけを見つめていた。
「ちょっと、ちょっとぉ!知盛を全部くれるって言ったじゃない。ど〜いうことなの?」
 腰に手を当てて、知盛と涼風の前に仁王立ちの
 
 あまりのの足の速さに、遅れて常陸も渡殿の一角にたどり着いた。
 騒ぎを聞きつけた女房達が集まる陰に、遅れて走ってきた三条の姿があった。
(ま、間に合わなかった!)
 涼風によって北の対の奥へ閉じ込められていた三条。
 ここまでの騒ぎになっては、見守るしか手立ては残されていなかった。

 睨み合いの中、が次にとった行動は、涼風の手を知盛の腕から払いのける事だった。
「えっと。貴女はどなた?私は知盛の妻の
 初めての時と違って、堂々たる自己紹介にまたも知盛が笑いを零す。
「・・・失礼いたしました。私は涼風と呼ばれております。知盛様とは古いお付き合いですの」
 涼風的には優位に立ちたくて言った言葉だったが、には通用しなかった。
「なんだ。じゃいいや。もうね、知盛は私のだから諦めてね?」
 しっかりと知盛と涼風の間に立つと、パタパタと知盛の袖を叩き始める。
「・・・何をしている?」
「え?ばい菌はやだな〜とか?」
 “ばい菌”の意味がわからない知盛は、されるがままになっていた。
「・・・私、知盛様の恋のお相手を務めていたと申し上げたつもりなんですが」
 すっかり無視をされてしまった涼風は、なおもに食って掛る。
「うん。そういう意味だってわかってるよ?それで?」
 仕上げとばかりに、知盛の腰に抱きつく。消毒完了といったところ。
 意味のない行動だったのだが、それを、見せ付けられたと感じた涼風は、さらに言葉を並べる。
「・・・数多く共に夜を過ごさせていただきました。これからは、また平和な世になりましたことですし。
昔のようにと思いまして・・・・・・」
 が首だけを涼風の方へ向ける。腕は知盛に回したままの姿勢。
「数えた事ある?たぶんね、これからの知盛は全部私のものだから、今は数では負けてるかもだ
けど。すぐに数なら追い抜いちゃうし。いいよ、別に。それより、あんまり変な事しないでくれる?そ
ういう回りくどく周囲を巻き込まないで、最初から直接私の所へくればよかったのに。よくないよ、そ
ういうの」
 そのままプイと知盛の方へ向きなおり、知盛の胸に額を押し当てる
「私は、一番多く共に過ごしたと自負して・・・・・・」
「だから!貴女は数の話しかしてないじゃない。わからない?」
 見た目は冷静だが、いよいよ怒ったが知盛から離れて涼風の正面に対峙した。
「あのね、じゃわかるように計算してあげちゃう。貴女が知盛と付き合ったのは何年?」
 の勢いに押されて、これまた正直に涼風の口から真実が語られる。
「二年になりますかしら」
「二年ね。すっごいおまけして、毎日として一年が三百六十五日で、その倍だから七百三十日。貴女
の言葉に合わせるなら、七百三十回。ど?納得?」
 計算の根拠が今ひとつりかい出来ないが、その数の多さに涼風は満足して頷いた。
「でね、私はこれから知盛か私が死ぬまで一緒のつもりだから。単純に計算しても、二年で貴女の言
う処の回数って超えられるよ。三年一緒なら千九十五回。それだけの話。数っていうなら、貴女の唯一の
拠所の数は問題じゃないんだよね〜。ご理解いただけた?」
 早口で捲し立てつつも、一応相手の理解を気遣う
「・・・今後も続きますわ!」
「どうかな〜?知盛にも決める権利あるよ?貴女が知盛がいいと思うように、知盛だって選びたいよね」
 が人には意思があるという事をそのままに述べる。
 涼風の顔が瞬時に赤くなる。
「なっ、わ、私は!」
「後はさ、知盛に聞きなよね。・・・っと、将臣くんが用事あったのか、いちおう確認しなきゃ」
 将臣の所へ向かおうとするの腕を知盛が掴んだ。
「その必要はない。俺と話していた時に、を呼ぶとは言ってなかった」
 を抱き寄せると、そのまま口づける。

「・・・怒ってるのか?」
 に囁きかける。
「うん、怒ってるよ」
 の返事に、知盛の眼が見開かれた。
「こんなに大勢の前で、何してるのよ?」
 言われて顔を上げれば、悲鳴を上げる女房たちに、庭には雑色が多数。
 放心する者、手で目の辺りを隠しながらも隙間から窺う者、真っ赤になる者、反応は様々だ。
 渡殿近辺の人の密集度は凄まじかった。
「・・・クッ、いつも怒らないのに?」
「そういう事を言うのは、この口かな〜〜〜?」
 知盛の頬を軽く抓ると、直に手を離す
「暦覚えて、明日遊びに行くんだった〜。戻ろっと」
 さっさとが東の対へ向かって歩き出す。
 
 人込みを掻き分けて、三条がの前に進み出た。
「お方様、御前を離れて失礼しました・・・・・・」
「ありゃりゃ?どうしたの、三条さん。・・・くたびれてるよ?」
 三条の装束は、閉じ込められた部屋で暴れて、その後ここまで走ったために少々乱れていた。
「そ、その・・・色々ございまして。お部屋へ戻りましょう」
「・・・・・・ちょっと待った。近江さんもしばらく見てなかったし。あの誰だっけ?もう一人、どこ行ったの?」
 常陸がの前に進み出た。
「近江は・・・かなり前から戻ってません。先の女房は・・・・・・振り返った時にはもう居りませんでした」
「ふうん。どこ行っちゃったのかな?まずは近江さん探さないとね」
 このままだと、邸中をが捜し歩きかねないと常陸がの着物の裾を掴もうとした時、按察使が
近江を連れてこちらの対へ渡ってくるのが見えた。
「お方様、少々不心得者がいたようで・・・・・・近江は無事でございます」
 人垣が左右に分かれた真ん中を、堂々と按察使と近江が歩いてきた。
「わ〜、よかった!すいませんでした、気がつかなくて。後でた〜っぷり知盛からお給金はずんでもらい
ますから」
 が近江の手を取って喜ぶ。
「消えちゃった人は知らない人だからいっかな!私することあるし。お部屋に戻ります。あの・・・お騒がせ
しましたっ!」
 周囲に向かって大声で一礼すると、は部屋の女房達を引き連れて戻っていった。



 取り残されたのは、知盛と涼風。野次馬と、騒ぎを聞きつけて遅れて駆けつけた将臣と敦盛。
「・・・・・・さて。随分と悪さをしてくれたようで?の機嫌が悪くなると困るのは俺なんだが」
 涼風を冷たく一瞥すると、将臣の方を見る知盛。
「派手に騒いでくれたもんだな、知盛。で、その消えた女房はどこだ?」
 将臣が人垣を見回すと、自然と一人の女に視線が集まった。を先導した女房だった。
「ふう。あんたか、を連れて来たのは」
 将臣が嫌そうにその背を柱に預けて立つと、敦盛が前へ進み出た。
 自然とその女房が敦盛の前に突き出される形になる。
「わ、私はただ、言伝をそのまま・・・・・・」
「変だろ、それ」
 冷たく将臣に遮られた。
「そっちの・・・涼風だったな?仲間は何人だ?と、いっても、こいつだけだな。アンタ嫌われてそうだし」
 将臣の部屋の様子と、の部屋の様子を知るものが居なければこの計画は成り立たないが、それには
二人いれば十分なのだ。
「知盛。オマエの責任だ。何とかしろ」
 将臣が腕組をしたまま知盛に向かって顎を杓った。
「・・・クッ、兄上は厳しくていらっしゃる。俺の何とかなんて、ひとつしかないんだが?」
 知盛の返事に将臣が額を押さえた。
「待て!ダメだ、斬るのは。そう何でもサックリ斬って解決っていうのはヤメロ。後で俺がに当たられる!」
 涼風は、もうその場に座り込んで震えていた。
「・・・兄上が何とかしてくれよ?俺は部屋へ戻らせてもらう。に家出されたらかなわん」
 都合のいい時だけ兄上頼みと、さっさと知盛は簀子を東の対へ向かって歩き出していた。

「・・・敦盛。どうして面倒だけが俺に残るんだ?」
 しゃがみこんで頭をバリバリ掻き毟る将臣。
「恐らく・・・相手が知盛殿と神子殿だからでしょう」
 笑みを零しながらも、しっかりと警護の者に罪人を引き渡す。
 涼風に利用された女房の罪は軽いとしても、涼風がこの邸を騒がせたのは事実だ。
 目撃者は大勢居るし、今夜にも京中に新たな噂が流れるだろう。
が計算してとも思えねえけどな〜。結局都合よく収まってんだよな。ご機嫌取りくらい苦労しろって」
 将臣がぶつぶつ呟きながら、その場には居ない知盛に文句を言いながら立ち上がると、敦盛も頷く。
 涼風はもう京には居られないだろう。故郷に戻って大人しく暮らすしかない。
 これだけの騒ぎを起こした女房を雇う邸があるわけがない。
 敦盛も、あの知盛がどうの機嫌をとるのかと想像するのは楽しいが、少し手伝いたい気持ちもある。
「今宵は・・・庭で笛を奏でてもよいでしょうか・・・・・・」
 将臣が顔を上げる。
「あ゛〜?んなに、気を遣うなよ。ほっとけ!・・・・・・と、言いたいところだが。敦盛の笛で月見酒はいいな」
 将臣が盃で飲む仕種をすると、敦盛が空を見上げた。
「譲も誘いましょう。彼は今頃夕餉の支度で、騒ぎの顛末を知らないでしょうから」
「あ〜、まあな。噂で聞いたんじゃ可哀想だし、必要なとこだけ話すか」
 すっかり日が沈んでしまった渡殿を後にする二人。



 逢魔が時に魅入られたのは、誰?───
 





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 あとがき:さて、望美ちゃんはどうしているのか。     (2005.8.5サイト掲載)




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