頼り頼られ





「気づかなかったな・・・・・・」
「そうですわね。知盛殿はの事をよく見ているのね・・・・・・」
 景時の部屋で、話し合う二人。
ちゃんに少し陰陽術の修行してもらうしかないかな。オレが教えればいいし」
「兄上が?それも何だか・・・・・・」
 心配だとは口に出さずに言葉を切った朔。
「まずは出来る事からしないと。解決方法探してもさ、必ず見つかるとは限らないし、
第一にちゃん自身が気づいていないんだから。説明しないとね・・・・・・」
 朔の気持ちはわかるが、何事も始める事が大切とばかりに言い切る。
「そう・・・ですわね・・・・・・弁慶殿に知恵を借りるのは?」
「もちろん。ただ、あまり広めていい内容じゃないからね」
 言い換えれば、龍神の神子の弱点である。朔が項垂れた。
「私が・・・もっと早くに気づいてれば・・・・・・」
 景時が朔の頭を撫でる。
「大丈夫。お兄ちゃんに任せなさいって。しかも知盛殿もいるんだしね。あ〜デキル
弟って便利〜〜〜」
「兄が弟をあてにしてどうするんですか」
 朔が顔を上げる。
「いいんだよ〜、頼りになるものは頼りにするものだって!でもね、今回は知盛殿に
も頼られたってところがね。オレなりに精一杯ちゃんの力の制御方法考えるし」
 景時が立ち上がった。
「兄上?」
「ん〜?少しでも早い方がいいでしょ。ちょっと伝手にあたってくるから。夕飯はとって
おいてね〜」
 景時が部屋を出て行った。
「私も・・・何か探さなくてはね。その前に、夕餉の支度!」
 が起きてご飯がないと、せっかくここまで漕ぎ付けた婚姻が流れかねない。
 立ち上がると、譲を手伝うべく台所へ急いだ。



「・・・ぅ、重い・・・・・・・・・・・・」
 息苦しさで目覚める。ふと胸元を見れば、知盛の腕。
「ありゃ?・・・・・・珍し・・・知盛が寝てる・・・・・・・・・・・・」
 を包み込む様に知盛が転寝をしていた。
「疲れてるんだよね・・・・・・」
 このまま寝させてあげたいが、姿勢は変えたいと考えている内に知盛の瞼が開く。
「・・・・・・起きた・・・のか・・・・・・・・・・・・」
「うん。腕重い」
 に言われて、右腕をよける知盛。が知盛の身体を押して仰向けにさせた。
「・・・っいしょっと!」
 ちゃっかり知盛の上に乗りかかる
「・・・・・・どうした?」
「どうもしないよ。もう少しこうしてよ?」
 目を閉じる
「・・・・・・まだ眠いのか?」
 知盛の手がの頭を撫で、そのまま髪を梳く。
「たぶん・・・知盛がね」
 目を閉じたままで答える
「・・・ハッ!俺は眠くはないがな?」
「それでも。横になってれば、身体は休まるよ?」
 の手が知盛の肩を撫でる。
「よく考えたらさ〜、知盛っていつ眠ってるのかなって思うんだよね。いつ寝てるの?」
 知盛がを抱きしめた。
「お前といる時だけ・・・・・・後は転がっていても意識はあるな・・・・・・」
「え゛!じゃ、寝てないじゃない。どうして言わないかな〜」
 目を開いて、が知盛の上から降りて隣に座る。
「はい、ここ!膝枕してあげるから。ね?」
 知盛が上体を起こしを抱きしめ、そのまま横になる。
「ちょっ!知盛!」
「俺はこっちがいい」
 先程までが眠っていた時の姿勢に戻る。
「何でこれかな〜〜〜、知盛って変なの」
 大人しく知盛に腕枕されたままでいる
「いいんだ・・・これが一番落ち着く・・・・・・」
「ね、どうして寝ないの?」
 知盛の視線に耐えられず、はぐらかされた質問をもう一度する。
「・・・別に。ただ・・・眠りたい場所も眠る意味もなかっただけだな・・・・・・・・・・・・」
 知盛が指での頬をつついた。
「じゃ、今は?」
「今は・・・これからも・・・ここ・・・ここがいい・・・・・・」
 知盛の指がの胸に移動し、数度つついた。
「〜〜〜!どうして、そうえっちなのよぅ!」
 口とは裏腹に、知盛の頬に手を伸ばす
「・・・さあ?」
 知盛が静かに目を閉じたのを見届けて、も目を閉じた。





・・・起きろ・・・・・・」
 知盛に呼ばれ、徐々に意識が覚醒する
「・・・・・・あれ?寝て・・・た?」
 どこから見てもよく眠っていた
(・・・クッ、眠っていないつもりだったのか?)
 いつも通り額にキスする。
「そろそろお待ちかねの夕餉の時間だ・・・・・・」
「今日は何かな〜〜〜。デザートにさぁ、甘いお菓子とか食べたいよね」
 今回は実に寝起きがいい。起きた早々、もう食べる事しか考えていない。
「そぉ〜だ!今日は皆で食べよ〜」
 が起きて部屋を出て行った。
 
「・・・クッ、わかってない。俺がいたら変なんだよ、普通は」
 笑いが止まらない知盛。
(また景時殿と朔殿が困るだろうな・・・・・・)
 慌てる景時と、を窘める朔を想像し、収まりかけた笑いがまた漏れる。
 一緒に風呂の次が、全員での夕餉。
 家族になってからならいざ知らず、婚儀三日目の晩である。
「姫君が拗ねる前に参りますか・・・・・・」
 のんびり立ち上がり、恐らくがいるであろう部屋へ向かった。



 案の定、部屋の中ではが景時に説得されていた。
「だからね〜、その。こればかりは我慢して欲しいな〜なんて」
「どうして〜?だって、最後のご飯なんだよ?明日からはさ〜、一応これでも平氏さん
の一員になるんだし」
 まさに『一応』の自覚をしているの発言に、またも知盛の笑いが復活する。
(・・・クッ、わかってるのかよ)
 タイミングを計り部屋へ入る知盛。
「景時殿。何でしたら俺抜きでどうぞ。それなら問題はないだろ?」
 いないはずの知盛がいるから話はややこしいのだ。
 知盛が首を傾げ、景時の返事を待つ。
「いや、その・・・そういう問題でも・・・・・・」
「嫌っ!そんなの皆じゃないもん。知盛も一緒なの!」
 頑として譲らない。早くも朔は折れた。
「・・・兄上。別にいいではありませんか。そもそも我が家はそう大層な家柄でもないで
すし。そう仕来りにとらわれなくても・・・・・・」
「朔、ありがと〜」
 朔の手を握り、が飛び跳ねる。
「そうは言っても・・・梶原の問題じゃなくて、事は源氏の・・・・・・」
 九郎の怒り顔が目に浮び、返事を渋る景時にが最後の駄目押しをする。
「景時さんはさ、お嫁に行く前の妹とご飯食べたくないんだ。明日からはね、もうここの
人じゃないんだから。それでもいいんだ〜〜〜。そりゃあ、時々は来ようと思ってるけど
さ〜。ほんとは毎日来ると思うけど。カタチの問題だよ。冷たいなぁ〜〜〜」
 が景時を見上げると、景時の口元が緩んできた。
「あーもぉー!わかった!わかったよ〜、ちゃん。皆で楽しく食べよっか!」
 景時、陥落。の頭をぐりぐりに撫でる。
「やった!」

「あの・・・お話中すいませんけど、俺は帰りますんで」
 夕餉の支度を終えた譲が戸口に立っていた。
「え〜?!譲くん帰っちゃうの?折角だから一緒に食べてから帰りなよ〜」
 景時が譲を引き止める。なんといっても白虎の片割れの弟分である。
「そうしたいのは山々なんですけど。向こうには馬鹿兄貴と、白龍が待ってるんで。二人
とも飯に煩いんですよね〜」
 将臣の煩さは味付け。白龍の煩さは、珍しい料理を食べたい期待感。
「そ、そっか。悪かったね、こっちまで手伝わせて」
「いいえ。先輩と知盛さんのお祝いのお手伝いですから。それじゃ、失礼します」
 軽く頭を下げてから譲が将臣の邸へと帰って行った。
「う〜ん。譲くんって礼儀正しいよね〜。今日は何だろうな〜〜〜」
 の思考は、やはり食欲の方向へ帰結した。
「じゃあさ、座って。いつもみたいにここで食べよう。で、そのまま露顕しをしようね!」
 少々予定が変ったが、景時の仕切りで先に食事を取り始める。

「ね、景時さん。食べたら何するの?」
 が最後のデザートを頬張りながら景時に質問する。
「あ・・・えっとね。普通だったら、もう少ししたら婿殿がちゃんの部屋へ来るでしょ?
そうしたら、三日夜餅を食べてもらって婚儀が成立するんだ。露顕しといってね、知盛殿
ちゃんが結婚したって皆に知ってもらうんだ」
「ふ〜ん。お餅好きぃ」
 が嬉しそうにしていると、朔が三日夜餅の入った箱を持って二人へ取り分けた。
「さ、どうぞ。形式の問題だから、無理に全部食べなくてもいいのよ?」
 なら食べられるだろうが、無理をしないよう念のために言い置く朔。
「食べるもん」
 知盛が餅の皿を取りの前に出すと、がひとつを口へ入れた。
「・・・こういう味なの?」
 大きさにしてお団子のような白くて丸い小さな餅。
「・・・・・・どういう餅の味があるんだ?」
 知盛の方がの言う意味がわからない。もちろん景時も朔も同様であった。
「う〜んと。焼いてからお醤油つけたら美味しいよ?これって単なる白玉団子だよ」
 餅を指で摘まみ、知盛の口へ入れる
「・・・こんなもんだろ、餅は」
 肩を竦める知盛。
「もぉ〜、どうせなら美味しく食べたいなぁ〜〜」
 文句を言いながらも、すべての餅を平らげる
 景時と朔が見守る中、露顕しも無事に終った。



 今日も当然とばかりに知盛と風呂に入った
 のんびりとは寛ぎ、何故か知盛がの髪を拭いていた。
 正しくは、少量の髪を取り、布に挟んでは叩くという作業の繰り返し。
「うぅ〜気持ちいぃ〜〜〜」
 足を動かしながら、髪が乾くのを待っている。
「はい、交替しよ?」
 今度はが知盛の髪を拭く。しかし、もう粗方乾いてしまっていた。
「あれ〜?知盛の髪、乾くの早い〜」
「・・・出たとき、大体拭いたからな・・・・・・」
 知盛が首をふると、髪が乾いた音を立てた。
「じゃ、梳かさなきゃね」
 箱から櫛を取り出して、知盛の髪を整える
「ね、少し遊んでもいい?」
 駄目といってもするに決まっているに、否を言うつもりはない知盛。
「・・・・・・元に戻せるならな」
「うん!」
 知盛の髪型を変えてが遊び始めた。
「ぴょ〜んってはならないんだね。すっごいストレートなんだ〜」
 オールバックにしたり、分け目を変えたり、散々遊んで諦めがついた様子の
「・・・・・・ほら。の髪、梳かすぞ」
 櫛を知盛に手渡すと、知盛の前に座る
 黙って丁寧に一束、一束髪を梳く知盛。
「ね、こういうのって嫌じゃないの?」
 振り返って知盛を窺う。
「・・・・・・の髪は好きだからな」
 軽く眉を上げるだけで、手は休めずに動かす知盛。
「ふ〜ん」
(髪・・・伸ばしててよかった〜。好きだって!)
 の耳は赤くなっていた。





 朝の光が眩しい。
 流石に今朝ばかりは景時が来るのでを起こさないわけにはいかない。
・・・・・・」
 抱きかかえて、深く口づける。
 の身体が揺れて、手が知盛の腕を掴んだのを見計らい唇を離した。
「ぷはぁ〜!どうしてそう、強引に起こすのよぉ〜。優しく起こしてって言ったのにぃ」
 の頬が膨らむが、気にせず額にキスをする知盛。
「おはよう。今朝は親代わりの景時殿が来るんだ。今日だけは我慢しろ」
 の頭を軽く叩くと、立ち上がる知盛。
 寝所の戸を開ければ、支度をするために待ち構えていた朔と使用人数名。
「すまないが・・・は起こしたから・・・・・・」
「それでは、お支度の手伝いをさせていただきます」
 朔が頭を下げると、それに倣い使用人も知盛に礼をする。
 使用人たちはそのまま寝所への着付けを整えに入っていった。
「・・・俺も着替えるか」
 知盛が振り返ると、朔が知盛の支度一式を用意していた。
「知盛殿はこちらへ着替えてくださいな。・・・お手伝いしますか?」
 朔の気遣いに、軽く手を上げて辞退の意を示す知盛。
「・・・の方を頼む。まだ起きたばかりで機嫌が悪い」
 袖で口元を隠して朔が笑った。
「知盛殿が強引に起こしたのでしょう?の声がここまで聞こえましたわ」
「・・・クッ、まあ・・・口を塞ぐのが一番確実だからな?」
 知盛が口の端を上げて笑うのを見て、朔が目を丸くした。
 知盛にしか許されないの起こし方である。
「・・・・・・それなら。すぐに機嫌も直りますわね」
 笑いながら朔は寝所へ入っていった。
 誰もいなくなったのを確認して、知盛は新しい直衣に着替え始める。
「長い一日が始まるな・・・・・・」

 晴れの日に、居を移す源氏の神子。
 今日からは平氏の仲間入り。
 神子は源氏と平氏の和議を取り持つ存在。

(そんな事はどうでもいい・・・が居れば退屈はないしな・・・・・・)
 円座に腰を下ろし、の支度を待つ、朝のひと時───






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 あとがき:髪を触られるのはキモチイイから好きですvもっと撫でてクレ(笑)




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