再会





「その・・・しばらく世話になる」
「うわ〜、九郎どうした?熱でもあるのか?」
 福原に着いた九郎たちを迎えたのは、将臣を先頭にかつての仲間たちだ。
 将臣は九郎の額へ手を当てた。
「うるさい!熱などないっ。兄上の名代としてだな・・・・・・」
 将臣の手を振り払うと、真っ赤になって声を上げる。
「はい、はい。九郎。その辺に。将臣君もですよ?これから僕たちがお世話になるのは
確かですからね。よろしくお願いします」
 弁慶が二人の間に割って入り間を取り持った。

「朔っ!」
「朔〜〜〜!」
。走ったら危ないわ」
 朔に駆け寄る者が二名。内、一名は無視される。
 それは実の兄の方だったりするので、周囲は見て見ぬふりを決め込んだ。
 いい年をした男が涙目で妹を見つめている姿は、哀れすぎて見ていられないのが本音だ。

「あのね、あのね。たくさんおしゃべりしたいんだけど、まずは温泉なの!」
 自分でも温泉に入りたいために、説明もなしにこれからの行動を決め込む
 朔の手を取り、飛び跳ねながらこれからの予定を説明をしているつもりらしいが、
肝心な事は何一つ説明になっていない。
 が、朔の到着を心待ちにしていたのはわかるので、朔も叱れないでいる。
「・・・?まずはこちらでお世話になるご挨拶をしなくては・・・・・・」
「そんなの後、後!まずはお風呂で洗いっこしよ〜〜〜」
 朔の手首を掴むと温泉がある方向へと歩き出す
 小雨が降っていようとも温泉に行くと決めている。
 の中ではすでに決定事項。よって、朔の都合などお構いなしに歩き出す。
 外で濡れたついでとばかりに、朔もそのまま着いて行く。
 二人の後を追うように仲間たちも移動を始めた。


「温泉があるのか?」
「ああ。清盛のじいさんが温泉好きでな〜。九郎も旅の疲れを癒すといいぜ?」
 将臣と九郎が並んで歩く。
「そうか・・・すまないな」
「いや?こっちこそ。に温泉知られてるのは痛かったな。邸に入って寛いでもらう暇も
ありゃしない。すまなかったな」
 客人を邸の庭先へ出迎えただけで、一歩も部屋へ入らないまま温泉へ案内する羽目になったのだ。
 将臣としては苦笑いをするしかない。
「雨の中を旅していましたから嬉しい限りですよ?朔殿の体が心配でしたしね」
 いくら衣を被っていようとも濡れるものは濡れる。
 朔が無理をしているのはわかっていたが、急げばもう福原が目と鼻の先。
 休憩せずに宿から一気にここまで来たのだ。

「でしょ〜?朔ってば無理しちゃうから心配で心配で。・・・まだひと言も言葉を交わして
ないけどさ〜」
 やや不貞腐れ気味の景時。
「まあ、まあ。積もる話もありますしね。僕らは先に入らせてもらうとして・・・交替で
温泉にしましょう。女性は時間がかかるものですからね」
「だな〜。九郎たちが先なら俺たちが後にして。それまでは一応見張り番ってね。それで
いいよな」
 ヒノエがその場をまとめた。





「で、こうなるわけだ」
 九郎、弁慶、敦盛が先に温泉というのはわかるのだが、経正と将臣も先に決まった。
 譲と白龍も先に教経邸へ行き食事の支度をするという理由で先である。
 男同士でなんではあるが、残った者たちは部屋で寛ぐ。
「まあ・・・ねぇ?オレも温泉は久しぶりで楽しみなんだよね〜」
 景時とヒノエは温泉の周囲を一回りしてきた。
 景時は結界の確認と辺りを調べるために、ヒノエはヒノエで部下を数名呼び出し、この後の
警備をさせる指示をするためだ。
 もちろん家長と菊王丸もいるが、二人は部屋の端で控えていた。

「それはそうと・・・但馬守もいいんだよな?」
「そりゃあ兄弟が会うの久しぶりでしょ?」
 何かと言葉が省かれた会話だが、ここにいる者たちには十分だ。

「また仲間が揃うのは楽しいね。楽しい事で集まれるならその方がもっと嬉しいんだけどさ」
「まあな〜。最後は楽しいに決まってるからいいんじゃん」
 景時が知盛を真似て転がれば、ヒノエもそれに倣って転がる。
 リズヴァーンだけが胡坐で腕組みといった姿勢を保っていた。





「出たぞ〜。俺たちは先に教経の邸へと思ったけど、ここで待つかな。雨、止みそうだぜ?」
 将臣が頭へ手拭をのせたままで、わざと寝転んでいる知盛の背に寄りかかって座り込む。
「・・・ウザイ」
「お前はちっとも働いてないんだから、背もたれになるぐらいしろ」
 将臣が知盛の頭を軽く叩く。
「あはは。先でも後でもどっちでもイイよ?もしも先に行くにしてもヒノエ君の部下の人たちが
いるし。オレも結界確認してきたからね」
 景時が立ち上がる。
「そうか?だったら・・・そうだな。やっぱり一足先にするか。敦盛たちが出てきたら先に
行かせてもらう。おら!知盛も風呂入って来い」
 今度は知盛の背を叩き、起きるよう促がす。
 肘枕で横になっていた知盛が、のろのろと起き上がった。
「ま!その辺りは適当にってことで。オレも入ってこよ〜っと。綺麗にしないと朔に嫌われ
ちゃうからね」
 朔の姿を見られて安心はしたのだが、まだ言葉を交わしてはいない。
 叱られる行動だけは避けねばならず、景時はせっせと支度を始めた。

「姫君たちのおしゃべりは聞えたかい?」
 同じく立ち上がったヒノエが将臣を振り返る。
「んあ?ああ。聞えちまうよな〜、あれじゃ。の一方的な惚気話だけどな」
 それこそ毎日聞かされている内容となんら変わらない。
 将臣が肩を竦めると、察したヒノエがつまらなさそうに視線を天井へと向ける。
「俺様の名前ぐらいあってもいいだろうに・・・つれないことで」
 将臣たちと入れ替わりに景時たちも温泉へと入った。





「でね〜?偶然もらえちゃったの」
「そう。よかったわね」
 が福原にきてからの出来事を、時系列無視で楽しいことだけ朔へと報告する。
 今の話題は今朝方もらった指輪についてだ。
 もともとは魔除の護符としてなのだが、にとって指輪の意味は違う。
 元の世界での指輪の意味から朔へ説明をしていたところだ。
「うん!朔に護符になるヘンプ作ったから、後であげるね。トップの石はね、ヒノエくんが
くれたんだよ。黒水晶っていってたかな〜。それとね、私とおそろいの扇もあるの。こう透かしの
涼しそうで可愛いの〜」
 身振り手振りで朔に話しかける
 朔が静かにを抱きしめた。

「そんなに無理に元気に話さなくていいのよ?私には。・・・・・・何があったかは知ってるの。
だから・・・・・・無理に笑わないで」
「朔・・・・・・あの・・・えっと・・・・・・髪、洗って?最近ね、自分で洗わないから
面倒っていうか・・・その・・・えっと・・・・・・」
 が話したくないのならばと朔は黙って頷く。
「もう!ったら、いつもはどうしているの?まさか、知盛殿にしていただいているとか?」
「だってぇ・・・・・・私も知盛の髪、洗ってあげてるもん」
 どう考えても知盛の方が不利に思える。
「仕方ないわね。あまりのんびりと温泉に入っていると皆様を待たせすぎてしまうし。ほら」
「うん」
 朔に背中を向けて座ったがポツリと呟く。


「・・・ありがと」


「なあに?ひとりで全部出来る様になっているはずではなかったのかしら?」
 わざとその謝意の真の意味に気づかないふりを決め込む。
「あわわわわ!あっ、あの・・・それはですね?え〜っと・・・・・・」
 両手を忙しく動かしながらが朔に知られてはならないあれこれを思い出し慌て始める。
「そう・・・そういう事なの。よ〜くわかったから」
「朔ぅ・・・・・・まだそんなに何もしてないってば・・・あっ!」
 慌てて両手で口を塞ぐが、自らバラしてしまったようなものだ。
「まだそんなに・・・の辺りのお話を、後でじっくり伺わせていただこうかしら・・・ね?」
 久しぶりの朔の小言。
 本来はいただいてはいけないものなのだが、どこか懐かしく安心する。
「大丈夫!まだ何も壊してないから!」
・・・・・・」
 相変わらず二人そろえば話は行きつ戻りつ雑談ばかり。
 これこそがおしゃべりという時間を過ごす二人だった。





「皆様、お待たせいたしました」
 朔が丁寧に仲間へ頭を下げる。
「いや?女の子を待つのは苦にならないよ。それに、雨も上がったから丁度イイしね」
 ヒノエが軽く指で合図をすると、菊王丸を案内に歩き始める一行。
 は朔にまとわりつき、とにかくよくしゃべる。
 景時は何となく間に入れないでいたが、朔の真意に気づいて歩みを緩め、知盛に並んだ。

「あれだね〜。顔を打たれる代わりにこうキタッ!て感じ〜?」
 朔が知盛に平手をするだろうと予想していたが、それよりも心理戦に出たのだとわかったのだ。
「・・・クッ・・・姉上には敵わないからな」
 知盛も早々とそれに気づいており、だからこそ距離をとっていた。
「あ、そう。オレは単に無視されてるんだけどね?」
 景時を詰ることなく無視している朔。叱られた方がマシである。
「単に今だけ・・・だろう。軽い牽制でしかないのはわかっている」
「あらら。わかっちゃってるんだ〜、朔のことまで。朔はねぇ・・・可愛いんだよ、ほんとに。
ちゃんも可愛くて、もう二人が並んでいるとこう・・・ぎゅ〜〜ってしたいよね」
 手を拳にして力説する景時。
「・・・シスコン」
「は?」
 ひと言だけ言い放つと、知盛は足を速める。
「それって新しい言葉?どういう意味?ね〜、知盛〜〜〜」
 こちらはこちらでじゃれ合っていた。





「ようこそお出で下さいました。狭い邸ですが、どうぞお寛ぎ下さい」
 先に案内されている将臣たちがいる広間へ通されたたち。
 教経に迎えられ、適当に場所を決めて各自が座り込む。
「さて。珍しき菓子を譲殿が作って下さいましたし、まずはいただくとしましょうか」
 いわれてみればもうそのような時間になっている。
 は着いた早々にデザートが食べられて上機嫌だ。
「美味し〜〜。譲くんってば天才だよね〜」
 があまりに素直に褒めるから、譲は照れくささに頬を染めて俯いた。
「わかりやす〜いよ、譲クン」
 将臣が譲の頬をつついてからかう。
「うるさいな!兄さんも少しは大人の振る舞いをしたらどうなんだよ」
「そうは言ってもな〜。イイ大人の見本が・・・・・・経正がいたか」
 いないと言いたかったのだが、誰もが首を縦に振るだろう完璧な公達で大人の見本が隣にいたのだ。
「還内府殿。そう見つめられますと・・・・・・」
 将臣の視線を面倒そうに扇で受け流す経正。
 比較されても困るといった風情に周囲が笑い出した。
「だよな〜。見ただけで真似られるなら、も相当しとやかになった事だろうし?」
「そこで私を引き合いに出さなくてもいいでしょ!そりゃあ・・・朔みたいに女の子らしく
ないけどさ・・・・・・」
 珍しく気にしたらしいが俯いた。
 朔と並んで座ると距離を置いていた知盛が立ち上がり、
「そう気にするものでもないだろう?アレが言うことなど・・・戯言だ」
 の背後にを包むように座ると、その口元へ匙でデザートをすくって差し出す。

「ほら。まだ残っている」
「ん・・・食べる・・・・・・」
 大きく口を開いて素直に口へ含むと甘味が広がる。
「あま〜い」
 常の如く知盛がを世話をし始めた。


「俺はアレ扱いか?」
 将臣が隣を見れば頷かれる。
「無視されていないだけ存在を認められてると思えよな」
 知盛に憧れを抱いている譲としては、将臣の態度に優美さがないのが不満だ。


「いつも本当に楽しそうですね、皆様は」
 教経と経正が笑いながら白湯を口へ含む。
 この白湯こそが教経が行動を起こす切欠となったもの。
 そして───



「一応の名目は遠路遥々お出でいただいた皆様の仮の宿ということでしょうが・・・真意は
ここで大切なお話をされたいと・・・その様に受け取らせていただきました」
 姿勢を正した教経が、まずは確認とばかりにそこに集まる者たちの顔色を伺う。

「その前に・・・知盛殿の問いに答えねばと思うのですが・・・皆様のご都合はいかがな
ものでしょうか?」
「さっさとしろよ・・・・・・もったいぶる程の時間はない。明日の晩には宴が再び
開かれる・・・・・・今度はいつ事が起きるかわからないぜ?」
 普段、人を急かす事などない、自らも急ぐという事がない知盛が口を開いたのだ。
 周囲の視線を一気に集め、ここに集まったのは清らかな場所という意味だけではないのだと
先に福原にいた者たちは緊張する。
 後から着いたばかりの九郎たちにしても、何かを感じたからここまで足を運んだのだ。
 誰もが居住まいを出す中、だけが朔の膝へと転がった。


「・・・
「だって・・・起きてるのだるいし、大切なお話は聞かなきゃだし。でも長そうだし」
 朔のこめかみが怒りで一瞬動いたが、の体調が悪いことも聞き及んでいる。

「・・・ふぅ。仕方ないわね。その代わり、居眠りしたらだめよ?」
「は〜い」
 またもは知盛から離れてしまう。
 に離れられたために温もりが遠ざかる。
 知盛の機嫌がやや傾いた。
 微妙な空気の中、教経の昔語りが始まった。





 曇り空が何かを包み隠す。太陽はその姿を見せないまま───










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 あとがき:まず揃ってもらわないと(笑)で?     (2007.11.24サイト掲載)




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