するべき事をする 譲と白龍が梶原邸の玄関に現れる。 「いらっしゃ〜い。待ってたよ。白龍は、朔の事よろしくね?」 景時が白龍の頭を撫でると、元気な返事が返ってきた。 「うん!ちゃんと朔といるよ」 朔と手を繋ぐ白龍。 「それじゃ、さくっとパパッと片付けに行こぉー!」 の号令で出発する三人と、それを見送る朔と白龍。 「大丈夫かしら・・・・・・」 が張り切ると、往々にして破壊活動に繋がる。 「景時と譲がいるよ?大丈夫!」 朔と目を合わせ断言する白龍。 (・・・・・・そうじゃないのよ、白龍) も心配だが、朔の心配はの破壊活動にある。 白龍の心配はの安否。 (まあ・・・兄上がいらっしゃるし。精々謝り役をしていただきましょう) 「じゃあ白龍。今日は何して遊びましょうか?」 朔と白龍は、午前中はのんびりする事に決めた様だった。 本日の龍神の神子一行の仕事は、洛北の怨霊の封印。 北山、上賀茂神社など、先の戦では訪れなかった地域をまわる。 「うひゃ〜昼間なのに暗いぃ〜」 北山でが木々の隙間から空を見上げた。 「この辺りは山奥だしね。足元気をつけてね〜」 景時が返事をする。が返事をする間もなく怨霊が現れた。 久しぶりの人間だ─── 直接頭に響く声がする。 景時と譲が身構えると、だけが飛び跳ねた。 「やった!探す手間が省けちゃった〜♪」 景時が銃を構える前に。 譲が弓を構える前に。 勝負はついてしまった。 「ん〜、手ごたえないなぁ。さ、次、次!」 さっさと山を下り始める。 の腕前が上がったのか。白龍が応龍の力を取り戻したおかげか。 その一歩間違えば山すら吹き飛ばしそうな力に、景時と譲は自分たちの 思い違いを正す。 (弁慶はぁ〜。暴走を止めるのにオレと譲くんを指名したなぁ〜〜) (先輩、素敵です!でも、物を壊しては破壊神ですよぉ〜〜) の力を止める担当の二人は、慌てての後を追いかけた。 そんなこんなで、船岡山、上賀茂神社、糺の森と怨霊を封印してまわる。 京の町の人を巻き込まない、建物を破壊しない、自然を荒らさないを合言 葉に、景時と譲がせっせとの援護をする。 (ちゃん、手加減してよ〜〜〜) (中々大変な仕事ですね、これは) まだ太陽が空にあるうちに仕事が片付いた。 「景時さん!ここから内裏ってすぐ?」 「向こうに見えるのは大内裏の壁だよ〜」 壁である。ずーっと壁。何処までも壁。 「・・・・・・広いですね、内裏って」 またもこの世界の住宅事情に溜息を吐くと譲。 (基本的に、人に対して土地余ってるんだね・・・・・・) お互いの考えをなんとなく察し、大内裏の門を目指して歩き出すと譲。 「ちょっ!オレを置いて行かないで〜〜」 景時が二人を追いかけた。 帝が居る場所が内裏である。 そんな事はお構いなしでは突き進み、清涼殿の戸を勢いよく開ける。 「知盛〜〜〜 ![]() 知盛の姿を見つけ、抱きつく。 「?!」 ここにがいる理由がわからず、呆然とする将臣以下八葉の面々。 知盛だけが冷静にを抱きとめ、額にキスしていた。 「・・・封印終ったのか?」 「そ〜だよ。会いたかったよ〜!」 に遅れることしばし、後から景時と譲が部屋に入ってきた。 「わ〜、皆どうしたの?固まってるし」 景時の予想通りの反応を示してくれたのは、八葉の仲間だけ。 せめて一矢報いるべく弁慶に話し掛ける。 「あ、そうそう。すごい大役をどうもぉ〜。北山が無くなるところだったよ?」 弁慶が溜息と共に動き出す。 「景時。・・・・・・少々悪戯が過ぎますね?花嫁が花婿に会いに来るとは」 「いいじゃないの!まあ、一番驚いて欲しかった人物は驚いていないケド」 景時が知盛とに視線を移す。 「が〜っかり!知盛殿の驚き顔見たかったのになぁ〜。残念!」 伸びをすると、横からヒノエが口を挟む。 「そうでもないかもよ?見ろよ、兄さんの負けのようだぜ?」 全員が黙って知盛との遣り取りに、聞き耳を立てる。 「何よぅ!会いたかったの私だけって事?感動うすぅ〜い!」 「・・・そんな事、言っていないだろうが・・・・・・」 が知盛の胸を拳で叩く。 「後朝の文だって!私が読めない文字書くことないじゃない。すっごく楽しみ にしてたんだからっ!」 暴れるの腕を取り、の背でまとめるときつく抱きしめた。 「悪かったって!・・・・・・起きられると思わなかったんだ」 「馬鹿にしたぁ〜!」 暴れるに手を焼く知盛。 「・・・・・・うん。面白いものみられた。でも、この後どうするの〜?」 このままでは、が内裏ごと壊すかもしれない。 「これ以上は九郎は見ない方がいいですよ?さ、続きを。明日の封印の予定 と、宴の準備の件ですけど・・・」 弁慶がさっさと計画を進めにかかる。 「なっ!弁慶、が暴れ出したら・・・・・・」 九郎が知盛との方を指差す。 「暴れませんよ。いえ、景時は先に帰って知盛殿を迎える準備をした方がよい かもしれませんね?」 それだけ言うと、弁慶と将臣が宴について、ヒノエと敦盛が町中の情報につ いてそれぞれ打ち合わせを始めた。 「じゃ、そうしよ〜っと。譲くん、家に夕飯の手伝いに来ない?」 知盛が早々と来るであろう事を感じ、夕餉の準備に強力な助っ人を勧誘。 「そうですね」 白虎組は心が通じあったのか、さっさと帰った。 「・・・・・・わからん。どうしてそんなに冷静なんだ」 九郎が首を捻っていると、座っていたリズヴァーンの目が開く。 「九郎。少し落ち着きなさい。お前にはすべきことがあるだろう?」 暗に源氏方の頼朝の代理のして、京の整備の仕事がある事を諭される。 「・・・はい、先生」 九郎が弁慶たちの話に加わる頃は、ここが内裏だという事実を無視している 知盛との様子に、他の家臣たちが銅像の様に固まっていた。 少し時間を遡る。 「知盛の馬鹿、馬鹿、ばかぁーっ!」 「はい、はい。俺は馬鹿者だよ・・・・・・」 数々のの暴言に、肯定で返す知盛。 なんといっても不満は吐き出させるに限る。しかし─── 「もう婚儀なんてしないんだからっ!」 この一言で、知盛の表情が変った。 「・・・へぇ?それで?」 掴んでいたの両手首に、さらに力を込める。 「痛いっ!離してっ。もう知盛なんて知らないっ!」 尚も暴れるに冷たく言い放つ。 「・・・・・・煩い口だな。知らないって言うなら、覚えさせるだけだな?」 深く口づけ、の空気を奪う。 苦しさでが暴れ出すと、ようやく唇と手首を離し身体を抱きとめた。 「・・・・・・さて。姫君は誰を婿にお望みだ?」 の身体が震えた。 「知盛が・・・意地悪するから・・・・・・」 目には涙が浮んでいる。 「・・・・・・文の件は、悪かった」 の頬に触れると、優しくキスをする。 「今日だって・・・知盛に会いたいから、頑張って封印して内裏まで来たのに・・・ ちっとも嬉しそうじゃないし・・・・・・」 「まあ・・・花嫁が出歩くのは聞かないしな?」 「そういう普通の返事が欲しいんじゃないもん!」 が涙を拭うと、強い視線で知盛を見つめる。 「普通とか、他なんて関係ない!知盛の気持ちが知りたいのっ!」 知盛が額に手をあて、笑い出す。 「・・・クッ、俺の負けだ。そうだな、朝は・・・帰るが。早く訪ねるのはかまわない だろ?」 を抱き上げる知盛。 「え?早くって?」 落ちないように知盛の首に手を回す。 「兄上!・・・俺の花嫁は、少々気短でして。会いたい時は、会いたいと告げない と、フラれそうなんだが・・・・・・」 将臣と弁慶が顔を見合わせる。 弁慶の予想通りとはいえ、あまりに素直な知盛に驚愕の二人。 「・・・あ、あぁ。今日はもういいぜ?な!弁慶」 「そうですね。お二人で仲良く夕餉をいただくのがよろしいかと・・・・・・」 堂々とその場でに口づける知盛。 「だ、そうだ。このまま梶原殿の邸へ行くぞ」 「えっ?一緒に?」 を下ろすと、手を取る知盛。 「・・・・・・一緒にいたいって言わなきゃわからないか?」 知盛がの手の甲にキスをすると、が満面の笑顔で返す。 「うん!一緒にご飯食べよ〜〜」 知盛と手を繋ぐ。 「・・・では。失礼させていただく」 軽く手を上げると、そのまま清涼殿の殿上の間を後にする知盛と。 立ち直れないのは、九郎とその場にいた貴族たち。 「・・・あれが西国の習わしなのか?」 東国では、人前で男女がいちゃつくなど考えられない。 九郎が息も絶え絶えに両手を床につき、倒れこむ。 「さあ?でも、ま。知盛は、いつも周りに女侍らせてたしなぁ・・・普通?」 将臣も、この世界の住民ではないため認識不足。 しかも、正しくは知盛が侍らせていたのではない。勝手に集まっていたのだが。 「西国とか、普通とか、そう狭いことを言うとさんに叱られますよ?」 こちらで打ち合わせをしているのに、知盛との話もしっかり聞いている弁慶。 「貴族はさ、親が結婚決めるんだろ?こういうのは珍しいだろうな〜」 ヒノエが敦盛を見る。敦盛は平氏の御曹司。 「少なくとも、知盛殿が女性の機嫌を取るのは珍しい」 敦盛がさりげなく自分の事には答えず、話の核心をつく。 「面白いもの見られたよな!じゃ、見物料分頑張るか」 将臣がその場をまとめると、ようやく貴族たちも意識を取り戻した。 「あの・・・神泉苑の方の準備は出来ておりますので・・・・・・後は当日の食事の 件ですが・・・・・・」 九条が将臣に切り出す。 「食事なぁ〜。は食い意地張ってるからな。適当に揃えておいてくれ。それに 振る舞い酒の準備も頼む」 誰でも自由に出入り出来る花見の要素も兼ねた披露宴である。 「適当に・・・でございますか?酒と他の方々の食事は準備出来ていますが・・・神 子様ともなれば口にしてはいけない物等ありますと・・・・・・」 何を選んでいいものか当惑している様子の九条に、弁慶が助け舟を出す。 「ヒノエ。九条殿をお手伝いして下さいね。さんの機嫌は、お二人が選んだ料 理にかかっていますから」 内裏を背負うほどの重圧を身に受けた大臣・九条。 顔面蒼白、呼吸すら止まっている。 「大丈夫だって!は何でもよく食べるから。まあ、量が少ないと危険だけどな」 どれほどの量を用意すれば神子は満足するのか? またも九条の頭を悩ます発言が、今度は将臣から飛び出した。 とにも、かくにも手配が先である。頭を下げると、その場を弱々しく辞す九条。 「食事はかなり重要ですからね。しっかり手配してもらうとして。町中だけでも早く 安心して住めるようにしなくては」 弁慶の言葉に、全員が頷く。 西国を任された九郎の責任というだけでなく。 これから仲間が楽しく平穏に過ごせるような町にしなくては、この大きな戦を終ら せた意味がない。 それぞれがすべき事をする─── シンプルだが、着実な一歩となる。 「九郎はいつまでそうしているつもりですか?九郎にも素敵な女性が必要の様です ねぇ・・・・・・頼朝様にお願いしましょうか?」 「兄上に余計な事を言うなよ!俺は大丈夫だ。そう、やる事がまだまだある!」 (実に九郎は扱いやすくて) 弁慶が笑うと、仲間も笑い出す。 「九郎、わかりやすっ!レベルが譲以下だよな〜」 将臣より年上のはずなのだが、九郎は思っている事が顔に出やすい。 駆け引きという点では、九郎が勝てるのは八葉の仲間には居ない。 しかし、カリスマ性は抜きん出ている。 常に前向きな姿勢は、周囲を惹きつける。この辺り、も同じ資質がある。 「う、うるさい!シャッキリ働け!・・・・・・いや。働こう、西国を住みやすい国にするた めに!」 それぞれが無いものを補い合い、すべき事をする─── の言葉通りに進む西国の改革の始まり。 |
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あとがき:どこでもいちゃつく二人v望美ちゃんを止める事は出来ません、ええ! (2005.5.8サイト掲載)