再びの志度浦で





 予定よりも早く志度浦へ着くことが出来た一行。
 ここでヒノエたち、熊野水軍と別れる。
「じゃあな、姫君!仕事片付けてすぐに京へ行くからな」
「またね、ヒノエくん」
 先に出立したヒノエを見送ると、荷が運ばれる時間を各自
休憩する事になった。


「一刻ほどで終りますよ。町を歩きたければどうぞ」
 弁慶に勧められたが、出歩くよりは昼寝がしたい
「えっと、甲板でお昼寝は邪魔かな?」
「大丈夫ですよ。ただし、少々煩いかもしれませんが」
「それは平気!」
 は知盛の手を引いて、甲板へ向う。
「お昼寝ターイム!」
 知盛の膝に寝転ぶ
「・・・今日はどうしたんだ?大人しいな・・・・・・」
「ん〜?いいの。動きたくない・・・・・・」
 目を閉じる
 しばらくすると、眠りについていた。

(このままじゃ・・・・・・)
 が寒いだろうと見回すと、朔が衣を片手に歩いてきた。
 知盛が口を開こうとすると、朔が首を横に振り、黙って衣を
にかけて去っていった。
「・・・・・・疲れたか」
 の髪を梳く。
 戦いが終ったからといって、すぐに休めるわけではない。
 花見がしたいというのは、花見が目的なのではなく、ゆとり
が欲しいのかもしれない。
「・・・桜・・・・・・か・・・・・・・・・・・・」
 知盛が呟くと、将臣が酒を軽く上げて見せながら近づいてきた。
「・・・寝てるのか?」
「ああ」
「じゃあ、しばらくは起きないな」
 知盛に盃を渡す。
「動かないと冷えるだろ?」
 知盛の盃に酒を満たすと、手元の杯にも酒を注ぐ将臣。
 黙って盃を傾けあう。

「・・・・・・将臣は・・・本当に帰らないつもりか?」
「まあ、世話になった人たちを見届けられれば。どっちでも」
「そうか・・・・・・」
 会話が途絶えた。



「あら〜、昼間っからお酒だ〜。怒られるよ?酒の肴はないんだね。
後でまた来るけど。先にこれ。ちゃんにお土産」
 知盛に包みを渡す景時。知盛が景時を見上げる。
「船じゃ楽しみないからね。行く時はさ、緊張してただろうから。
帰りはさ、せめてお菓子くらいあってもいいかと思ってね」
 軽く右手を上げて景時は帰っていった。
「・・・・・・あの人、ホントよく見てるよな〜」
「・・・そうだな。ここの奴等は、よくみてるよ、先の事を」
「は?突然どうしたんだよ。達観してた奴が・・・・・・。すっかり素直
になっちゃって、まあ・・・・・・」
 将臣が忍び笑いを漏らす。
「・・・・・・別に。俺は退屈しなけりゃいいんだ・・・・・・」
 知盛は、酒を口に含むと口の端を上げた。



 船が動き出す。
「このまま無事に京に入れるといいんだが・・・・・・」
 将臣が離れて行く景色を見ながらぽつりと呟いた。
「大丈夫だろう・・・・・・弁慶殿の言う意味がわからなくもない・・・・・・」
 の頭を撫でる知盛。
「気は抜けないけどな。・・・しっかし。よく寝てるよな〜、コイツ」
 将臣がの頭を見る。
「・・・腹が減れば起きるだろ」
 知盛の言い様に、将臣が吹きだした。
「それは、わかりやすいけどな〜。色気のない事で」
 知盛は黙って盃に口をつけた。



「あれ?先輩まだ寝てるんですか〜?」
 譲がなにやら膳を持って歩いてきた。
「どうした、譲」
「いえ、先輩にハンバーグを食べてもらおうと思って」
 譲が持ってきた膳には、ハンバーグがのっていた。
「おお!すげえな。作ったのか。俺の分は?」
 将臣が訊ねると、譲は首を横に振った。
「兄さん。誰が肉を刻んだと思ってるのさ。この時代にひき肉ないんだよ」
「あ・・・じゃあだけかよ〜〜」
「当然。今朝、ご飯あまり食べていなかったみたいですから。ね?知盛さん」
 知盛が笑った。
「クッ、よく見てるな。譲殿は・・・・・・」
 知盛の前に膳を置くと、譲が正座をした。
「そうそう、知盛さん。前からお願いしたかったんですけど・・・・・・」
 首を傾げる知盛。
「俺の事、呼び捨ててかまいませんから。なんだか調子が狂っちゃって」
「・・・かまわないが。じゃあ俺の事も呼び捨ててかまわないぜ?」
「そんなの駄目です!」
 知盛が将臣と譲を交互に見る。
「・・・・・・少しは弟を見習えよ、兄」
「煩せえ!いいんだよ、これで。バランスがいいだろうが」
 三人が笑いあっていると、が動いた。

「ん〜、いい匂いがするぅ・・・・・・ハンバーグ!!!」
 が飛び起きた。
「や〜ん、ハンバーグ!目玉焼き付いてるよ〜。これ、誰の?」
 辺りを見回す
「もちろん、先輩のですよ」
 譲が勢いに押され、すんなり答えた。
「わ〜、お肉久しぶりな気がする。いただきま〜す」
 箸を手に取り、食べ始める
 笑いを堪える将臣と、美味しそうに食べる姿を見て上手く出来たと喜ぶ譲。
 黙って飲み続ける知盛。見事にバラバラな四人。
 そこへ景時と朔が白龍を連れてやって来た。

ちゃん起きたんだ〜、おはよ〜。まだ飲んでたら参加させて〜」
 景時が、酒の肴を持参で座る。
「ああ。ちょうどよかった。だけ美味しいもの食べててな〜」
 将臣が早速つまむ。
「あはは。それならよかった」
 景時も飲み始めた。

「あれ〜、皆のはないの?あ、これ何だろ」
 お菓子に気がつく
「・・・景時殿がお前にって」
 知盛が出所を教える。
「わ〜、ありがとう。景時さん。朔、白龍、食べよ〜」
 さっさと包みを広げて、二人にも見せる
「可愛い〜。白龍はどれがいい?いいよ、選んで」
 白龍の前に包みを置く。ひとつ選んで、朔の膝に座る白龍。
「朔も食べなよ〜」
「私は大丈夫よ。でも・・・・・・」
 お茶が無いので用意をしたいが、膝には白龍が居る。
 それを譲が察して立ち上がった。
「お茶の用意を持ってきましょう」
 譲が居なくなった。

「飲んでいていいの?」
 が知盛の膝を叩く。
「・・・・・・お前が寝てたから。暇だったんだよ」
「え〜?!私の所為?それって飲みたい理由にしてるだけでしょ〜」
 今度は将臣に視線を合わせる。
「な、なんだよ。お前今までぐーすか寝てて。起きたら一人だけメシ食べ
始めて。随分と元気じゃねえか!」
「あ!嫌味な言い方〜。私だって、調子悪いことくらいあるんだから!」
 顔を背ける
「まあ、まあ。ちゃんも。ちゃんとご飯たべられたなら良かったよ」
「えっ?」
 が景時を見る。
「ん〜?今朝元気なかったでしょ。譲君もさ、たぶん心配でソレ作った
んだと思うよ〜」
 あっさり理由を述べる。
「あ・・・・・・今朝は、そのぅ、船に疲れちゃったっていうか・・・・・・」
「そっか。それなら大丈夫かな?今のうちによく眠って体力つけた方が
いいからね。川からは、小さな船に乗り換えるから。もっと揺れるよ〜」
 景時が軽い調子でに告げる。
「大丈夫ですよ!案外頑丈なんです、私」
「へっ!景時には愛想が良くて、俺にはあの態度かよ〜」
「うるさいなー、将臣くんは。譲くんだ。わ〜い、私もお茶欲しい〜」
 譲が白湯をの前に置いた。
先輩は白湯。ハンバーグですから、これ以上胃に負担かけては
駄目ですよ」
 朔や白龍にはお茶を置く。
「ぶ〜ぅ。いいもん。デザート食べちゃうもん」
 お菓子に手を伸ばす
「・・・半分にしておけ」
 知盛が菓子を取り上げ、半分に割る。
「あっ!ケチ〜。美味しそうなお菓子なのにぃ」
「少しは朔殿を見習うんだな」
 視線を知盛から朔へ移す。

「朔・・・・・・食べてないね?」
「ええ。あまり船上では動かないし。食べ物は少なめのほうが身体は
楽だわね」
「・・・・・・先に言ってよぅ、朔の意地悪!」
 が知盛に寄りかかる。
「だいたい、わかってたら先に言うもんでしょぉ〜!」
 知盛の膝を叩く。
「・・・言ってもきかないだろうが・・・・・・」
「・・・かもしれなくても!一応言うもんなの。ね〜、皆は船でどんな風に
過ごしてたの?」
 が仲間を見回す。
「あれだ。筋トレ。腹筋とか筋肉落とさない程度の運動くらいは。剣振り
回したら危ねえしな」
 将臣はちゃっかりお菓子を食べていた。
「俺も・・・腕立てとか。とにかく腕の筋肉落としたくなかったし」
 台所仕事もその為か?と思うような真面目ぶりの譲。
「もしかして、景時さんも?」
「え?あ〜、一応ね。腹筋は欠かした事ないし。しかも船の上だとする事
限定されるから。発明の実験も出来ないし〜」
「え〜!朔は?朔も鍛えちゃったりしてるの?」
 は朔の前に移動する。
「私は何も。舞の練習はしているけど」
「え〜!どうして皆そんなに真面目なのぉ〜信じられないっ。白龍は?」
 白龍の頭を撫でる。
「私は何もしていないよ?私のこの身体は仮初の姿。神子に合わせて
人型を成しているに過ぎない」
「きゃーーーーっ!戦が終ってぐうたらしてたの私だけ?」
 かなり慌てている。気になるのは体重。
 しかし、ここに体重計はない。
「やだ、ダイエットしなきゃだよぅ」
 床に両手をついて項垂れた。

「つか。知盛は何かしてるのか?」
 将臣か酒を注ぎながら訊ねる。
「・・・こいつのおもり・・・・・・・・・・・・」
 口の端を上げ笑う知盛。
「・・・・・・それは、相当大変そうだ」
 将臣が頷くと、景時が吹きだした。
「よく抱えてるよね、ちゃんの事」
 景時の盃を持つ手が震えている。
「そうですねぇ・・・よく担がれてもいますよね。先輩のこと・・・・・・」
 譲も、が暴れると担ぐ知盛の姿を思い出した。
「そうね。よく片付けなさってますわね・・・・・・」
 朔は、が当り散らして投げたものを片付ける知盛を思い出した。
「ちょ、ちょっとぉー。私が暴れん坊で、ひとでなしみたいじゃない!」
 が抗議する。
「え〜っと。そろそろ九郎と弁慶の所に戻ろうかな。お邪魔様〜〜」
 そそくさと逃げ出す景時。三十六計、なんとやらである。
「僕も膳を片付けて、夕餉の支度しないと」
「私も手伝うわ!行きましょうね、白龍」
 譲に続いて、朔と白龍も退散した。
「・・・おい、おい。面倒を残していくなよ〜〜〜」
 将臣の手が、空しく宙を切る。
「・・・・・・お前だ。面倒を増やしたのは」
 知盛が将臣を見る。
「俺かよ〜?マジ?」
 恐る恐るを見ると、頬を膨らませ、腕組みしている。
「あ〜は少し細いから。ちょうどいい感じだ。うん。な?知盛!」
 知盛の背中を叩く。
「・・・・・・零れるだろうが」
 知盛は盃を床に置いた。
「すっごい失礼しちゃう!私ってば、ただの暴れん坊で大食らいで、
煩いって言われてる感じぃ〜」
「・・・これ片付けろよ」
 将臣に盃を手渡すと、知盛が立ち上がった。
 を立たせ、頬に手を添えた。
「・・・そう脹らますなよ。俺は何も言ってないだろ?」
 が素直に知盛に抱きついた。
「だって・・・・・・昨日くらいからだるくて・・・・・・」
「・・・知ってる・・・・・・」
「お腹鳴るほどは空かないけど、食べなきゃだし・・・・・・」
 知盛の腕がの背に回る。
「そう周りを気にする事もないがな・・・ほら」
 の頭を軽く撫でる。

「はい、はい。お邪魔しますよ〜」
 将臣がわざと二人のすぐ後ろを通り過ぎた。
。お前あれだ、季節の変わり目弱かったろ」
 それだけ言い残すと、将臣も居なくなった。

「あ・・・花粉・・・・・・」
「ん?」
 知盛がに顔を近づけた。
「あのね、杉の木の花粉。駄目なの・・・・・・」
「へえ・・・花粉ね・・・・・・」
 知盛は、遠くに見える陸の景色を見る。
「・・・・・・クッ、風に乗ってくる花粉はどうにも出来ないな」
「うぅ。でもそんなにひどくないから。いつもは目も鼻も大変なんだけど。
それよりも!ダイエットしなきゃだよぅ。お散歩しよっ」
 知盛の腕を引っ張る
「・・・何だよ、急に元気になって」
「だって!ウエスト太くなったら、このスカートしかないのに大変だよ!」
 の穿いているミニスカを見る知盛。
「別に・・・着物にすればいいだろ・・・・・・」
「そういう問題じゃないのぉーっ!だって、知盛だって・・・・・・」
「いいんだよ・・・・・・」
 知盛を見上げる。
「そのままでいいと言っただろ・・・・・・」
 と手を繋ぐ。
「そっか!そうだよね〜。でも、お散歩はしよ〜」


 そのままで。お前らしくいればいいんだ───

 
 と船縁を歩く。遠くに沈む夕日が大きく見えた。







Copyright © 2005- 〜Heavenly Blue〜 氷輪  All rights reserved.


 あとがき:時事ネタ。実際は森林伐採の後の植林で多かったのが杉らしいので。流してやってください(笑)     (2005.3.19サイト掲載)




夢小説メニューページへもどる