伊予出立前夜 夜になり、九郎と景時が温泉に着いた。 「ここ・・・か。我々だけこちらに泊まるというのも・・・・・・」 「いいじゃない、偶にはね。うん」 景時に背を押され、部屋まで到着する。 「じゃ、九郎はリズ先生とみたいだからね〜」 ひらひらと手を振り、景時は隣の部屋へ消えた。 九郎も久しぶりに師匠と語れるかと、さっさと部屋へ入った。 「あら。お疲れ様でした、兄上」 「ん〜、ただいま〜」 足を崩して座る景時に、朔がお茶を出す。 (何も起きないといいんだけどね・・・・・・) 九郎をこちらへ泊まらせた弁慶の気持ちを思い、銃の点検を 始める景時。 「ちょっと外へ行って来るから」 「あ、兄上?!」 ここへ着いたばかりだというのに、また外へ出て行く景時を 不審に思いつつも、言われた通りに戸締りをする朔。 「何か・・・あるのかしらね?」 白龍に問い掛けても、白龍もわからないのか首を傾げるだけ だった。 知盛が庭の気配に身体を起こした。 「どうしたの?」 手でに動くなと合図して、窓の外を見る。 (景時殿?) 「・・・・・・」 知盛が首で指し示す先を見るのに、も窓から顔を出す。 「あ、景時さんだ。何してるんだろ?」 景時は、銃を空へ向けて放っていた。 「かーげーとーきーさーーーーん?」 が窓から大声で景時を呼んだ。 振り向くと同時に、景時がものすごい勢いで走ってきた。 「ちゃんっ!・・・・・・こ、声が大きいって!」 膝に手をついて、息を切らせていた。 「だって、また花火かな〜って」 「あ、あは、あはは〜」 景時から乾いた笑いが漏れた。 「景時殿、少し話をしたいんだが・・・・・・」 知盛が部屋へ来いと指で指し示す。 「あ、あ〜、そうなの?いいですよ〜」 庭を景時が歩いていった。 「・・・お前はしばらく朔殿の部屋へ・・・・・・」 「邪魔扱いした〜」 が知盛の背にぶら下がる。 「・・・・・・首絞める気かよ・・・・・・・・・・・・」 を背にぶら下げたまま、朔の部屋の戸を叩く。 「朔〜、知盛に追い出された〜」 の声を確認したらしく、朔が戸を開ける。 目にしたものは、知盛にぶら下がる。 「知盛殿?」 「・・・・・・これ、しばらく預かってくれ」 朔に背中を向ける知盛。 朔が、吹き出すと、が渋々といった様子で背中から下りた。 「べ〜だっ!」 知盛の鼻先で、部屋の戸が閉められた。 「・・・・・・クッ、後でご機嫌取りが大変そうだ・・・・・・」 その足で元の部屋へ戻ると、すでに景時が座っていた。 「お邪魔してるよ〜、ごめんね折角二人でいたのに」 「・・・いや、話をしたいと言ったのは俺の方だ」 景時の前に腰を下ろした。 「で?結界が必要な事態なのか?」 「あ〜、バレちゃってるのね。これはオレが勝手にしただけだから」 照れくさそうに頬を掻く景時。 「・・・・・・挨拶に行ったんだろう?」 「ん〜、ま。そうなんだけど。九郎の戦績は良過ぎるからね・・・・・・」 言い難そうな景時。 「なるほど。そっちもあるのか・・・・・・弁慶殿の考えか?」 「たぶんね〜、河野殿は頼朝様の支持者だから」 「帝の事もバレたら面倒だな・・・・・・」 「ま!それはね。どうとでも現段階なら言い訳も立つし」 景時が万歳をして仰向けに転がった。 「・・・・・・源氏の中に間者がいるという事か・・・・・・・・・・・・」 知盛が立ち上がる。 「可能性はあるよね。オレや弁慶も知らない者がいるかも知れない」 知盛が盃を景時に渡すと、景時は起き上がった。 「・・・・・・知らなくていいような話ばかりだな」 景時の盃に酒を注ぐ。もうひとつの盃にも酒を注いでから手にとった。 単純に平氏の財宝狙いも居るかもしれない。 それくらいなら港の兵でなんとかなる。 しかし、景時は頼朝の軍奉行という立場だ。 主から九郎の命を奪えという命令が下されれば、従うしかない。 有事に備えて、港から遠ざけられたと考えるべきだろう。 景時の部下は、景時の命令が無ければ動けない。 頼朝からの命令に備えて、あえて景時を兵から遠ざける。 九郎の手柄を掻っ攫おうとする輩もいるかもしれない。 九郎の命を狙われてもリズヴァーンが共に居る。 龍神の神子二人についても、すべての兵から守るよりは、距離を置い て待ち受ける方が効率がいい。 神子を守る場合には、剣を扱える者と陰陽術を扱える者がそろってい る計算だ。 港でわざわざ二日と言ったのも、間者のあぶり出しだろう。 「・・・クッ、敵に回したくないな、弁慶殿は」 「オレに言わせると、知盛殿もだけどね〜」 ちびりちびりと飲む景時。 「・・・俺は以外に興味は無いがな・・・・・・」 知盛が酒を飲み干した。 「そのちゃんが皆仲良くがいいっていうんだからね〜?」 知盛の盃に、景時が酒を注いだ。 「・・・・・・アンタも敵に回したくないな」 口の端を上げると、一気に飲み干した。 「あはは〜、そりゃ光栄だね。・・・・・・九郎には内密に頼むね」 「ああ」 景時が盃を置いて立ち上がる。 「さあ〜て!今日くらい揺れない所で寝たいからね。あんまりお邪魔し ても悪いしね〜」 知盛も立ち上がった。 「・・・姫君のご機嫌をとらないとな」 「ん〜?大丈夫でしょ。朔とおしゃべりしただろうし」 景時は休むために、知盛はを迎えに部屋を出た。 「朔〜、お兄ちゃんだよ〜」 足音がして、朔が戸を開けた。 「兄上!その気の抜けた物言いは直して下さいと・・・・・・あら」 知盛に気がつき、小言を中断して二人を招き入れる。 「よう・・・・・・寝なかったのか」 知盛に気がつき、顔を背ける。 「・・・・・・なんだよ、まだ脹れてるのか?」 の前にしゃがみ、頭に手を乗せる。 「脹れてないもん!もとからこういう顔なのっ!」 の脇に手を入れ、左肩に担ぐ。 「ちょっとー!今度は荷物扱いなの?!」 知盛の背中を叩くが、お構いなしで部屋の出口へ向われた。 「・・・・・・あんまり暴れると見える」 右手での脚を撫でる。 「ひゃんっ!」 が大人しくなった。 「・・・・・・いい子だ。朔殿、すまなかった」 戸口で朔に挨拶をすると、振り返らないまま歩いて行く知盛。 「朔ぅ〜、おやすみぃ。あ!景時さんも、おやすみなさ〜い」 知盛に担がれたままが手を振っていた。 「・・・・・・ちゃんって、面白いねぇ〜」 笑いを堪えている朔の頭をぽんと叩く景時。 「兄上。それに聞こえたら、大変!」 「ん〜、それは怖い。内緒にして!さて〜、疲れたから寝るわ」 そのままごろりとなる景時。 「兄上!着替えないと、疲れますでしょう?」 「まあまあ、いいじゃないの〜。白龍が起きちゃうよ〜」 仕方が無いので、景時に衣をかける朔。 「・・・・・・ほんと、見栄っ張り」 ぽつりと朔が呟いた。 非常事態に備えてという事くらいはわかる。 朔も着物のままで白龍の隣で休むことにした。 「ねえ〜何の話をしたの〜?」 が知盛の背中にぶら下がる。 「・・・・・・ここも物騒だから。景時殿が結界を張ったって話」 「それだけ〜?長かったよ〜?」 知盛に体重をかけて、揺する。 「・・・・・・飲んだ」 がくるりと部屋の中を見回して、盃と酒を発見する。 「あ〜〜〜!このために追い出したんだぁ〜〜〜」 知盛の口に鼻を近づける。 「あれ?そんなにたくさんは飲んでいない?」 首を傾げていると、鼻先を知盛に舐められた。 「・・・・・・確認するか?」 知盛に口づけられた。 「・・・・・・飲んでる〜〜〜、騙された〜〜〜!」 「騙してないだろうが・・・・・・」 の身体を離す。 「大人しく寝ろ。明日はもう船だぞ」 「うぅ。大人しくって、私が煩いみたい」 のそのそと四足で褥へ向かう。 「・・・・・・静かだと思ってるのか?」 ニヤニヤとを眺めている。 「・・・・・・知らないっ!」 そっぽを向くを、知盛が声を立てて笑った。 先代の白虎、ゆかりの地で迎えた夜が静かに深けてゆく─── |
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あとがき:説明くさい文章で(笑)次は誰の出番?! (2005.3.13サイト掲載)