船の旅は・・・・・・ 「食べ終わったら少し寝ろ」 「知盛は?」 「俺は寝ない」 「どこ行くの〜〜?」 知盛は立ち上がると、褥を整えていた。 「部屋にいるさ」 「ならいいや〜〜」 は食べ終わったのか、横になってゴロリゴロリと転がっていた。 「ね〜、抱っこして?」 「抱っこって・・・大人しく寝ろよ・・・・・・・・・・・・」 知盛は頭が痛くなった。 あれだけの龍神の神気を身体に降ろしたのだ。 辛いだろうに、どうして大人しくしていられないのか? 「いい。してくれないなら、このままゴロゴロする」 は、床の上でゴロリゴロリと転がっている。 疲れすぎて身の置き所がないようだ。 「わかった。待ってろ」 知盛はの傍まで行くと、を抱き上げた。 「ちゃんと寝るんだな?」 「膝枕してくれる?でもなぁ、知盛の膝は硬そう・・・やっぱり・・・・・・」 しゃべり続けるに構わず、知盛はを褥に降ろす。 「膝枕は、逆だろうが・・・・・・」 「それもそうだね。ん!やっぱり腕枕して」 知盛の発言は無視された。 隣に寝ないと出来るわけがない。 「・・・・・・クッ、お前、俺が言ったこと聞いてないだろ」 つい顔が笑ってしまう。 「聞いてるもん。でもして欲しいの」 ここで知盛が折れなければ、望美が暴れそうだ。 「・・・・・・大人しく寝るな?」 「うん。してくれたら、ちゃんと寝る」 知盛は身体を横にして、の隣に並んで寝そべると、右手での頭を 持ち上げ、左手をの頭の下に伸ばした。 は、もそもそと動いて、頭の位置を決めたようだ。 「おやすみ」 「ああ」 知盛は、の額にキスすると、黙っての髪を梳きながら寝顔を見ていた。 「。起きろ」 「うぅ・・・ん・・・・・・・・・・・・」 知盛が名前を呼んでも、呻くだけで起きる気配はない。 今こそアレをするチャンスだろう。 知盛は、の左頬を摘む。 ───むにっ 「むぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」 の目が開くと同時に、知盛の右頬にの手が伸びる。 ───むにっ 「どうしてこうなるんだろうな?」 知盛は、の頬から手を放した。 「知盛が意地悪だからだよ?」 も知盛の頬から手を放す。 「・・・起きないのが悪いんだろうが」 「こういう時は、優しく起こすものなのっ!」 「優しくねぇ・・・・・・まぁ、とりあえずは」 知盛はの額と、摘んだ後の残る頬にキスした。 「起きられそうか?」 の機嫌は直ったらしい。 元気に身体を起こし、手を伸ばして伸びをする。 「うぅ〜ん!なんかスッキリしたかも」 「そうか。そろそろ外に行けばいい頃合だな」 「朔とおしゃべりするんだ〜。行こ?」 は、ぱふんっと知盛にダイブする。 「・・・・・・ふう。行くか」 知盛は、の背をぽんと叩いて起き上がった。 「手!繋ごうね」 が知盛の手を握って歩き出す。 「はいはい、姫君の仰せのままに」 大人しくついて行く知盛。外との境の戸を開けると、一面の青空が目に飛び込む。 「わぁ〜〜〜・・・・・・ひゃっ!」 が仰け反りすぎて、倒れそうになったのを知盛が支えた。 「・・・クッ、やると思った」 「・・・・・・今ちょっと感謝したのにぃ」 「確かに“ちょっと”だな」 知盛はニヤリと笑うと、朔の方に顔を向け、に場所を知らせる。 「朔ぅ〜〜〜!」 知盛の手をするりと離れて駆けて行く。 「・・・まぁ、俺も将臣を探すか」 手に残る温もりが冷えていくのに寂しさを覚えつつ、将臣を見つけ声をかけることにした。 「よう・・・・・・」 知盛が将臣の肩を叩く。 「ああ、知盛か・・・・・・九郎、こいつにも全部話してもいいか?」 「そうだな。弁慶、頼む」 「それでは、僕から説明させていただきます」 弁慶は、要領よくまとめて話し出した。 後白河院が二大勢力である平氏と源氏を戦わせ、共倒れを狙っていたこと。 三種の神器は、ひとつ欠けてはいてもこちらにある。幼い帝も無事だ。 誰もが穏やかに暮らせる世を築きたいこと。 平氏一門の住まいは、とりあえず六波羅の清盛邸跡地周辺を考えていることなど。 「何か・・・あるか?」 九郎は、知盛が不快ではないかと心配していた。 戦は源氏の勝利だ。なんのかんの言っても、源氏主導型で流れている。 「・・・・・・別に。何も考えなくていいのは、楽だな」 知盛は、幼い頃過ごした清盛邸ならよく知っている。 九郎の配慮が有りがたかった。けれど、表情は変らない。 「面倒くさがりな奴!」 将臣は笑う。こういう人物なのだ、知盛は。 「・・・うるさいな。ただ、何かすることがあればするぜ」 周囲が固まった。こんなに前向きな意見が知盛の口から出るとは驚きだ。 「へぇ〜、やっぱいい男だね。兄さんは」 ヒノエが茶化す。 「ま〜、とりあえずは。仲良く力を合わせないとね〜」 景時がその場をやんわりとまとめ、何となく解散となった。 「将臣」 「ん?どうした」 知盛はすかさず将臣を呼び止めた。 「少し・・・聞きたいことがある」 将臣は、二人で話せる場所がいいと判断し、船の先端の方を親指で示す。 「あそこでいいか?」 「ああ」 二人は並んで歩き出した。 その頃、と朔は、 「、よかったわ。歩けるようで。もう倒れるまで無理したりしないでね?」 「うぅ。でもさ、なんかそんなに頑張ったつもり無いんだよね。気がついたら寝てたって いう方が近い感じだしぃ・・・・・・」 朔は溜息をつく。そうなのだ。は、無意識で頑張りすぎる。 「もう!しばらくは大人しく、安静にすること」 「嫌だよ」 は、朔と目を合わせて言い切る。 「私、ちゃんとできるよ?まだ怨霊に取り付かれたままの人もいる。私がする事だよ」 「・・・ごめんなさい。私に封印の力がないばかりに・・・・・・・・・・・・」 は、朔の手をとった。 「それも違う。私たちは二人で力を分け合っているの。私が出来ないコトは、朔がする んだから、それでいいんだよ。朔が出来ちゃったら、私・・・困るなぁ」 奔放な。意地っ張りの。それでも─── (また貴女に救われちゃったわね) 朔は、初めて宇治で会った時の事を思い出す。 一緒に封印をしようと言ったくれた彼女の眩しさを。 「って、『一緒』が口癖ね?」 「そっかな〜?でもさ!一人だとひとりだけど。二人だと、二人分以上の力が出せちゃい そうな気がするんだよね〜。人数が増えたらもっと増えるような。だからかなぁ〜?」 の優しさに甘えることにした。 「ん・・・ありがとう、」 「変な朔〜!いいんだよ、私がしたいんだから」 「知盛殿に迷惑かからないようにしないとね」 の口が尖った。 「ふ〜んだ。いいんだ、意地悪なんだから。さっきもね、私の頬をむにいって摘んで起こす んだよ?普通そんな風に起こさないでしょ〜!思い出したら腹立ってきた・・・・・・」 「ぷっ・・・・・・」 朔はふきだしてしまった。この寝起きの悪いを起こすのだ。 どうしたって少々荒っぽくなる。朔とて今までは・・・・・・ 「ね、。私、いつもを起こすの大変だったんだけど」 「ええっ?!うそっ!」 「身体を揺すったくらいじゃ起きてくれないし。いつも衾をひきはがして。と戦ってたわ」 と衾の引き合いになるのだ。朝から力仕事だった。 「え゛ーっ。そんなに大変だったの?!」 が驚きのあまり、びっくり目になっている。 「そうなの。相当前から起こしてくれていて。起きないから摘んだんじゃないかしら?貴女が 摘んだのがわかるくらいまで待っていてくれるなんて。優しいわね?知盛殿は」 の顔が赤くなる。 「や、やだな、朔ったら。そうそう、今はどの辺りかな〜。早く京に着くといいね!」 柔らかな緑色の山々の方へ、わざとらしく視線をそらし、は誤魔化した。 「先輩。まだ山口県を抜けていないですよ」 譲が二人の傍に歩み寄りながら告げる。 「えぇ〜、まだ山口県辺りなの〜。遠いなぁ〜」 「ったら。壇ノ浦まで、何日かかったか覚えているの?」 「そうですよ、先輩。まだ出立してから二日です」 は項垂れた。 「後何日かかるかな〜」 「しばらくは船旅ですからね。食事も贅沢はできませんよ?」 「えぇ〜、楽しみが減っちゃう〜。でも、いっか!」 は、海からの景色を観ながら思う。 色々な場所で。色々な人の生活がある。皆が幸せに暮らせますように─── 「さて!怪我人の様子をみにいかなきゃだね。行こう!」 が気合を入れなおして伸びをする。 「そうね、行きましょうか」 「はい」 三人は、穏やかな海から観える景色を見納め船室へ向かった。 季節は、春の桜が散り、木々が夏への準備を始める頃─── |
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あとがき:ファイル消失。譲くんの出番が減ってます。なんだったっけな〜?ま、大筋は変ってませんので。 (2005.2.19サイト掲載)