二人の居場所 この人がいれば・・・・・・安心なの・・・・・・・・・・・・ 知盛に抱えられたまま、は勝利に浮かれて騒ぐ兵たちの中に仲間を見つけた。 はっきりいって知盛は目立つ。仲間の方が先にに声をかけた。 「なんだよ、無理しなきゃいいのに。まだ寝てろ」 将臣の発言に、仲間が心配そうに頷く。 「違うよ。お姫様してもらってるの!乙女の夢ってやつ〜?」 は惚けて言い返す。 「・・・・・・・・・おまえ、馬鹿だろ。あ〜あ、心配して損したな!」 将臣は、『乙女の夢』は『お姫様抱っこ』と理解し、 「それで、見せびらかしながら来るわけ」 本当は、また無理しているだろうと思うが、話を合わせた。 「べ〜〜〜だ!将臣くんになんか、乙女の夢の深さはわかんないんだから!」 なおもが憎まれ口を叩いていると、を横抱きにしたまま、知盛は将臣の左隣に 腰を降ろした。 「ね、ね、抱っこがいい!」 が知盛にせがむ。 「は?だっこって・・・お前・・・・・・」 それがどのような姿勢になるのか、わかっているのだろうか? 知盛は一瞬思案する。 「だって、これじゃ皆に横向きだよ?話しにくいもん。抱っこがいい!」 「・・・はい、はい。姫君の仰る通りに致しますよ・・・・・・」 知盛は、を包んでいた衣を取ると、を自分の胡座の上に乗せ、抱きかかえる。 の腰を左手で支えたまま、右手での足に衣をかけ直した。 「背中があったか〜い。ありがと」 知盛に寄りかかると、は全身の力を抜いた。 (・・・クッ、ほんとうに意地っ張りだな・・・・・・・・・) 今のは、ひとりで座れる状態ではない。 (今日くらいは・・・お前の意地に付き合ってやるさ・・・・・・) 知盛は、こちらを気にしている将臣にそっと首を振って応えた。 「、お腹が空いたでしょう?はい」 と知盛の分の食事を、朔と譲が運んでくれた。 「わ〜、ありがと。そうなの〜、お腹空いてたんだよね!それで、ここに来たっていうか〜」 は嬉しそうに手を合わせた。 「姫君らしいな。食い気が先かい?」 ヒノエが愉快そうに茶化す。 「ヒノエく〜ん?飲みすぎじゃないんですか〜?」 がじと目で言い返す。 「はは、姫君に言われちゃな!そっちの兄さんの方がイケル口っぽいぜ?」 暗に知盛にも酒が必要だろうと、ヒノエが話の方向を変える。 「そうだな。ほら、知盛」 将臣が、知盛に杯を渡した。そのまま酒を注ぐ。 「・・・すまない」 「いや?またお前と飲めるなんてな。よかったぜ」 将臣は、嬉しかった。しかし、ここは源氏側だ。話を切り上げるために、に声をかける。 「。お前ばっか食べてないで、知盛にも何か食べさせてやれよ!」 知盛はを抱えているので、左手が使えない。 の前にある知盛の為の膳には、とうてい手が届く距離ではない。 「あ、やだ。なんで言わないかな〜、知盛!」 は、すっかり自分の事は棚に上げた。 知盛さん、苦労してますね─── 今、この中で何人がそう考えたかは、不明である。 恐らく、白龍を除く全員であったろうが・・・・・・ (あ!知盛に食べさせてあげるのって、いいかも〜〜〜!) 「どれが食べたい?」 は、知盛の膳を引き寄せた。 「は?」 突然振り返られ、わけがわからず、右手の杯を甲板の床に置いた。 「何でもいいよね〜、はい!」 返事を確認せず、は適当なものを箸で摘んで知盛の口元へ差し出す。 「・・・・・・何だ?」 「食べて!」 知盛は、の左肩に顎を乗せると、口を開けた。 が食べ物を運ぶと、租借し始める。振動がの肩に伝わる。 「おいし?譲くんのご飯はおいしいんだよ〜」 「・・・食べたことがない味・・・だな・・・・・・」 そのまま二人の世界に突入していた。 九郎は、源氏の船に平家の者が乗船するのを心配していた。 将臣は還内府だったとしても、譲の兄で、の幼馴染だからまだいい。 知盛は、過去の戦歴を考えると、快く思われないのでは・・・と。 しかし、それは杞憂だった。 仲間たちの周囲を囲む兵たちの人だかりに、苦笑いが止まらない。 「神子様が嬉しそうだ!」 「いいなぁ、俺だって神子様に食べさせてもらいたいよなぁ〜」 「神子様が選んだ方なんだろ?」 兵たちは、好き勝手に羨ましがったり、称えたりし放題。 が気を許した相手なのだ。 源氏の神子───龍神の神子であるが。 こうまで見せつけられて、誰が知盛を疑えるだろうか? 「おい、景時。なんとかしろ。こう、じろじろ囲まれては、落ち着いて飲めん!」 九郎が兵たちをみやると、声を上げた。 「御意〜。ほらほら、皆。目の毒だから、見ない方がいいと思うよ〜〜〜」 景時が立ち上がり、兵たちを宥めに行く。 「九郎様〜、ひどいですよ。俺たちの神子様を眺めるくらい・・・・・・」 「そうですよ、神子様の相手なら、俺たちがしっかり確認してあげないと、心配で」 兵たちは、口々に不満をもらす。 ここにいる皆が神子を信じている。神子の笑顔がいつも勇気をくれた。 神子の瞳は、いつも正しいものを指し示してくれる。 「なんだか無理っぽいよ〜、九郎」 景時は、皆の気持ちもわかるのでさっさと引き上げてきた。 「こっち止めさせりゃ、済むんじゃないか?」 将臣が、親指で知盛とを指す。 「誰が止めるんだ?」 九郎は、『俺はしない』という意思表示をした。 「・・・・・・・・・・・・ははっ」 「そうですよ、将臣君。誰も馬には蹴られたくないですからね?」 弁慶はにっこりと、将臣が止めるなら蹴られる覚悟でどうぞという態度だ。 九郎も弁慶も面白がっている。 「まぁ・・・蹴られたくはないけどなぁ。あれ、なんとかしないと」 将臣は、ヘタレている譲の方をみた。 (いきなりこれじゃ、刺激が強すぎるよなぁ、譲には・・・・・・) 知盛の杯に酒を注ぎながら、知盛の横顔をみた。 (・・・・・・譲。勝ち目はない、お前もスッパリあきらめるんだな・・・・・・) 「まあ、経験は人を成長させるものですからね」 何かを察したらしい弁慶は将臣に酒を勧めた。 「そろそろいい・・・・・・」 「そ〜?なんだか少食だね、知盛は」 が食べ過ぎだとは言えずに、知盛は口をつぐんだ。 「でも、私もお腹一杯かな!美味しかったよ〜、譲くん!」 無邪気な笑顔で、さらに譲の傷を抉る。 「あ、はい・・・いえ・・・よかったです・・・・・・」 譲は、の幸せを見守ると決めたことを思い出す。 (───明日からは・・・・・・しっかりしなくてはいけませんね) 譲が決意を新たにしていると、周囲から声がした。 「神子様〜、その方紹介して下さいよ〜」 「そうですよ、神子様」 「あれ〜?皆に紹介してもらってないの?知盛・・・・・・」 は、周囲の兵の声を聞き、九郎の方へ顔を向けた。 「いや、一応は紹介してあるんだが・・・・・・」 九郎は、どういったものかと返事に窮した。 「ちゃん、皆が知りたいのは、二人の関係だと思うんだよね〜」 九郎にかわり、景時が応える。 「え〜、やだ。恥かしいよぅ・・・・・・皆いつからみてたの〜?」 は首まで赤くなる。 大柄な兵のひとりが応える。 「もちろん、はじめから全部ですな〜、そりゃ。一部始終!」 いっせいに兵たちが笑い出した。 「信じられないよ、もぉ〜〜〜!」 が手足をジタバタさせる。 「・・・・・・あまり暴れるな」 知盛はを抱えなおす。 「ん〜、でも。ここはビシッと宣言しないとね!知盛、立たせて?」 を一度横抱きにして知盛は立ち上がる。 屈みこんでの両足を甲板につけ、落ちた衣を拾い上げると、左腕でを支えた。 「みんな、きいてね〜?」 が右手を振りながら、兵たちに声をかける。 「この人はぁ、『知盛』ですっ!それでね・・・・・・」 そこで一度、息を吸い込む。 「私の一番大切で、大好きな人なの!仲良くしてあげてね!」 しばしの沈黙の後、周囲から笑い声が巻き起こる。 「神子様〜、馬鹿正直すぎ〜〜〜」 「もちろんですよ〜〜〜」 兵たちは、納得したようだ。甲板が一気に和む。 かわりに九郎たちは脱力した。 「、お前恥かしすぎ」 将臣が、顔に右手を当てて上を向く。 「あら、堂々としていて素敵だったわよ?」 朔は嬉しそうだ。 「やってくれるよな〜」 ヒノエは口笛を吹き、 「知盛殿がいい男なんで、牽制したかったんだろ?」 「うるさいな〜、ヒノエくんは!」 は、慌てて知盛の腰に腕を回して抱きついた。 「私のものなのっ!───ね?」 高らかに宣言すると、知盛を見上げる。 (そろそろ体力も限界だろうに・・・・・・) 知盛は、を休ませるために、この流れに乗ることにした。 「じゃ、ご期待に応えて・・・・・・先に休ませてもらうぜ?」 を衣で包んで横抱きにし、 「・・・まぁ、野暮なことは聞かないでくれるよな?」 周囲の反応を確認してから、ゆっくりとに口づけた。 「んっ・・・ん〜〜!」 は、驚いて声が出ない。 その場にいた全員が固まった。 固唾を飲む八葉ほかの面々。 「じゃあな・・・」 余裕の笑みを残して、知盛はを抱いたまま船室へ戻っていった。 「・・・・・・すっかり当てられちゃいましたね」 「飲みなおすか!」 「そうだな〜、俺もいい人欲しいな〜」 「その顔で何言ってんだか!」 兵たちは、我に返るとそれぞれ飲み直しをするようだった。 「・・・・・・あいつら、相手にしてたら身がもたねぇ」 将臣がぽつりと零すと、 「いや、これからは、嫌でも目に入ると思うよ・・・・・・」 譲もぽつりと零す。 「景時、を預かるのはお前の家だったな?」 九郎が確認を入れると、 「ん〜、早いとこ嫁に出さないといけなさそうだね〜」 「あら、兄上。もちろん我が家から嫁入りさせるのでしょう?」 「だね〜。支度整えなきゃだね〜。九郎!源氏と平氏の婚姻だよ〜?」 梶原兄弟は、言い逃げした。 「そうですね、盛大にしなくてはなりませんね、九郎」 弁慶が煽る。 「平家側は、私と将臣殿でいたしましょう」 続いて、敦盛も煽る。 「いいね〜、俺も混ぜてくれよ!ほら、リズ先生もさ!」 ヒノエは、ノリが悪いリズの肩を叩く。 「神子は・・・どこかへ行ってしまうの?」 話が纏まりかけたところで、白龍がきょとんとしていた。 朔が歩み出て、 「が一番大好きな人と暮らせるようにしてあげようって話なのよ」 「うん!私も神子が大好きだ!神子と一緒に暮らしたい!」 「・・・・・・は!?」 八葉と朔の最大の苦労は、白龍に納得させることになりそうな予感─── |
Copyright © 2005- 〜Heavenly Blue〜 氷輪 All rights reserved.
あとがき:たまにはいいでしょう、砂吐いても
(2005.2.11サイト掲載)