ほんとのホント





 まだまだ沢山しなきゃならない事あるんだよね───



 は、知盛の横顔を見上げる。
(なんかほんと。憎たらしいくらい綺麗な顔してるんだよね)
 その知盛ががいいと言ってくれた。
(あれ?『好き』とは言われていない───)
 に新たな闘志が芽生える。知盛にしてみたら、いい迷惑だろう。

 

 二人が浜辺に着くと、将臣が嫌そうな顔をした。
「何いちゃついてんだよ、二人とも」
「いちゃついて何が悪いのよっ!」
「・・・・・・」
 は堂々としたものだ。知盛は、なんとなく将臣に返事をしそびれていた。
「あのなぁ、こんなに皆が忙しく働いてるのがみえねーのかよ、お前は!」
「こっちだって、すっごく色々頑張ってたんだから!いいじゃない、手を繋いで
歩くくらい。ふ〜んだ。将臣くんなんて、モテないから僻んでるんだ!」
 
 将臣は絶句した。ずっとを想い続けてきた。
 譲もが好きなようなので、何となく三人仲良く幼馴染の関係を続けていた。
 それが、ここに来て・・・・・・
(鳶に油揚げかよ・・・・・・)
 知盛が恨めしい。
(こんなに鈍くて勝気な女を、どうやって口説いたんだか・・・・・・)

「どうしたの?将臣くん。変なものでも食べた?」
「・・・大概鈍いよ、お前も」
「すっごい失礼しちゃう!将臣くんの手伝いに来たのにさ!」
「だったら、知盛だけ貸してくれ。戦いが終ったから、すぐ仲良くってのは・・・な」
 最後の戦いをみていた兵たちならいざしらず、御座船に乗っていた貴人たちに、
事の顛末を正しく理解してもらえているとは限らない。

(平氏の人にしたら、源氏の人たちがいなければ、今まで通り暮らせたんだよね)
 は知盛の手を離す。
「知盛は、ここで頑張ってね。私は向こうに行くから!」
 知盛の返事を待たず、そのまま朔がいる方へ駆けて行った。

「鈍いんだけど、こういう察しはいいんだよなぁ。ま、助かるけどな」
 将臣は、頭を掻いた。
「すまなかったな、将臣」
 知盛が将臣に歩み寄る。
「おっ、名前で呼ばれるのって新鮮だな!」
が・・・名前は自身を示すものだと・・・・・・俺が言いたいのはそれじゃない」
 知盛は、将臣に向かい合う。
のことだよな・・・お前が言っていた大切な奴っていうのは・・・・・・」
「・・・・・・よく覚えてたな」

 将臣が平家に世話になっている頃、一番会話をしたのは知盛だ。
 知盛は、一通り雅ごともこなしたが、どちらかといえば武術が得意だ。
 将臣はよく稽古をつけてもらっていた。
 この時代、自分の身は自分で守るしかなかったからだ。
 夜は酒を酌み交わしながら、語り合っていた───

「はぐれてしまった、大切な奴を探すって言ってたのにな・・・・・・」
 知盛は思い返していた。時々、将臣が何処かへ出かけていたことを。
 熊野から帰ってきたときは、とても機嫌がよかったことを。

「まぁ、気にすんな。選ぶのはアイツだしな。精々、尻に敷かれろよ!」
 将臣は、軽く知盛の肩を叩く。
「・・・クッ、どうだかな・・・・・・」
 二人は笑いあった。

「じゃあ、京へ戻る準備をしないとな」
 将臣は、伸びをする。
「京へ・・・か?」
 戻れるのだろうか?平家一門は都から追い払われた身の上だ。
「九郎がな。心配すんなってさ。実のところ、一番の大狸は後白河院だからな」
「三種の神器は欠けているが・・・・・・」
「まぁ、ここじゃなんだ。後で話してやるよ」
 将臣は浜辺の平家の船へ向かう。知盛も後についた。





「で?告白したのね?」
 朔は、負傷した兵の手当てをしながらと話をしている。
「違うよ、させたの!」
 は、怨霊に取り付かれた兵の、穢れの残りを祓いながら返す。
って・・・ふふっ。意地っ張りね」
 朔はが可愛くて仕方ない。素直になればいいのにと思う。
 意地を張り合っている時間の方がもったいないだろうに・・・・・・。
「それで?これからどうするつもりなの?」
「もちろん!『好き』って言ってもらうの。ぜぇ〜んぶすっ飛ばして、『欲しい』じゃ、
ちっともお姫様待遇じゃないもの。どきどきでわくわくしたいんだ〜」
 は楽しそうに笑っている。

(知盛殿、覚悟して下さい。私には止められません───)
 こういう時のを止められる人間はいない。
 とにかく前向き。立ち止まらない。その上、負けず嫌いなのだ。
 初めて朔と会い、怨霊を封印した
 九郎と会った時も、怯むことなく言い負かした。
 『できないって決め付けないで!』
 朔は、あの瞬間が忘れられないでいた。
(自分のことは、自分が一番信じてあげなくちゃね?)
 から学んだことだ。自分を信じずして、大切なものは見えはしない。
、ここはもう大丈夫だから。知盛殿の方へ行ったら?」
「ん〜、大丈夫。もう少し・・・・・・」
 そのままの意識は途絶えた。



 どれぐらいの時間が経っただろう。
(・・・・・・揺れてる?)
 が目を開くと、見覚えのある天井が目に入る。
(・・・・・・此処・・・・・・船の中だ・・・・・・)
 辺りは暗い。しかし、ここは源氏の船の中だ。恐らく京へ向かっているのだろう。
「お腹空いたなぁ〜〜〜」
 がぽそりと言うと、
「起きて最初に言うことがそれか?」
 よくよく見れば、足元の方に知盛がいた。
「あれ〜?知盛。源氏の船にいていいの?」
「ああ」
 それだけを短く言うと、が起き上がり易いように手を貸す。
「なんだか優しいね」
 は立ち上がろうとしたが、力が入らなかった。
「・・・まだ無理はするな。倒れたんだからな」
「う〜〜ん。でも起きるよ。皆に心配かけちゃったしね」
 龍神の神子が居ると居ないとでは、兵たちの士気が変る。
 は自分の置かれた立場を理解していた。

(・・・また・・・だな・・・・・・)
 が弱気になる所をみた事がない。
(・・・・・・俺がわかればいいことだしな・・・・・・)
 
 知盛は、手近な着物を掴むと、を包んだ。
「な、何?」
「仲間の所に行くんだろ?外は冷える・・・・・・」
 他の者たちは、まだ船の甲板で騒いでいることだろう。
 の背中と膝裏に腕を入れ、横抱きに抱き上げる。
「今日は暴れん坊の姫君じゃないんだな?」
 知盛は、口の端を上げ、意地悪く笑った。
「知盛が王子様だからね!仕方ないからお姫様してあげる」
 は、知盛の首に嬉しそうに腕をまわす。
「・・・“おうじさま”?なんだよ、それ・・・・・・」

 知盛の問いには答えず、は知盛にしがみ付いた。
「温かい・・・・・・知盛が温かくてよかった・・・・・・」
 知盛が生きてくれた。今こうして、を抱えてくれている。
 涙が零れそうになり、知盛の肩口に顔を押し付けて誤魔化す。
「なんだ、まだ眠いのか?」
 知盛は、の涙で濡れた肩を気にせず、甲板へ出た。



「いい星空だぜ。暗いからお前の顔なんて見えないな」
 知盛がの耳に口づけた。
「・・・・・・すっごい気障」
「・・・クッ・・・・・・子供には早すぎだったな・・・・・・」
 の頬が脹れる。
「そんなことないもん!」
 抗議の声が上がる。もう泣き止んだようだ。
「・・・ああ・・・・・・そうだな・・・・・・」
 
 は、また知盛の肩口に顔を寄せる。
(大人だよ、知盛・・・・・・気がつかないふりしてくれて・・・格好いいなぁ・・・・・・)
 将臣あたりだと、言い合いになるだろう。知盛は、黙って引いてくれる。
 は悔しかった。が、悔しいから先に言うことにした。



「・・・好き・・・・・・」
 知盛は、わざとの方に向かず返事をした。
「・・・・・・そうか・・・・・・・・・・・・」

 負けず嫌いの姫君に、そのうち不意打ちしてやろうと思う───
 
 お前を驚かせるのは、楽しいからな───
 知盛は夜空を見上げながら、そんなことを考えていた。






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 あとがき:知盛くんは、本来こんな人だといいなぁって。好きな人にだけベタ甘系。     (2005.2.7サイト掲載) 




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