title led answer      page No. 004

「おはよう・・・ございます」
「おはようございます、
 昨夜は答えが見つけられなかった。
 おずおずと挨拶をして朝食の席に着く。
 このような時こそニクスはいつも通りで、それが逆に緊張を
増させる要因になる。
 が、決して相手を無視したり否定したりはしない。
 その証拠に───

「今朝はジェイドか張り切ってパンケーキを焼いていますよ?」
「わ!嬉しい・・・もしかして・・・・・・」
 ニクスの言葉に振り返れば、丁度焼きたてのそれらをワゴンに
乗せて運んできたのはジェイドだ。

「お待たせ。ニクスのはリクエスト通りに薄めにしたよ。
には生クリームたっぷりだからね」
 朝からお菓子の様な食事だが、の食は細く
どうしたら食べてもらえるかをよく考えたものだ。
 思い起こせば夕食会の始まりの理由は、にいかに
料理を食べさせるかだったのだから、誰もが中心に
なってしまうのは陽だまり邸では当然のこと。
 その様子を見守っているのはレディアスだ。

(ここでは陛下は気負っていらっしゃらない・・・・・・)
 仲間たちとおしゃべりをしながら食べるだけでいい。
 体のためとか常にメニューに気を配っているようでいて、
理由をつけてばかりいた己の行動を反省していた。





 野火による被害をなんとか食い止めた焔の砦の畑。
 焼けてしまった部分については手入れが必要だ。
 片付けを手伝いつつ、子供たちの相手をしつつという時間を過ごす。
「お姉ちゃん!このクッキー美味しい」
「ありがとう。たくさんあるから食べてね」
 子供たちに囲まれて寛いでいる姿は、とても女王には見えない。

「きゃあ!」
 転んでも麦の上。怪我の心配はほぼない。
「どんくさ〜い」
「お姉ちゃん、おそぉ〜い」
 子供たちにからかわれ、再び辺りで鬼ごっこが始まる。



「陛下のあのように楽しそうな姿は・・・・・・」
「失礼、陛下とはどなたの事でしょうか?」
 ニクスの視線はに注がれたまま。
 それでいてレディアスを窘めている。
「・・・はとても真面目で。確かに笑ってはいましたが、
あのようには笑っていませんでした」
「でしょうね。背負うものが重過ぎます。それでも、それが彼女が
選び取った道です。ただ厳しくしても無理があるし、甘やかしても
駄目になる。自ら進み続ける強さを持っていますよ、彼女は」
 いつまでも同じ時間を過ごせはしない。
 かつて時間に取り残された自分と同じ思いをするのであろう
新しい女王陛下の身を案じている。
 案じるだけでは意味がないのだ。

(大丈夫。彼がいる。彼にも彼女が・・・・・・)
 肩へ軽々と資材を担いで運んでいるのはジェイドだ。
 時々へ視線を投げかけながら仕事をしている。



「さあ。我々は我々の仕事といきましょう。・・・タナトスの気配を
探らなくてはなりません」
「まさか」
 レディアスの目が厳しいものへと変わる。
「ええ。残念ながら・・・まだまだタナトスはこの世界に残っている。
そして、その理由は別にあるのですよ。この理想郷を脅かすために
存在しているのではなく、気づいて欲しいと・・・声がするのです。
迷子は捜してあげないといけませんからね」
 事件があった場所には新たなタナトスが潜みやすい。
 丁寧に村の中の様子と被害の状況を調べながら歩き進む。
 ニクスが篤志家であると知って近づく者もないではない。
 だが、ニクスの場合、必要であれば逆にそのような者たちを利用
する事も厭いはしない。
 
「人には何らかの役目があるのだと・・・そう考えているのです」
「役目・・・ですか」
 レディアスを供に家々を回り続けながら話を続ける。

「その重さは平等ではなく、時に残酷ですらあると思える。
けれど、私たちの女王陛下を見ていると、私にも出来る事があると、
そう自覚させられる。その陛下も、大きな決断を迫られる日が来る。
それだけが心配なのですよ。日常の瑣末な事も疎かにしないことが
大切だと気づいて欲しくて、昨日はあのようにでしゃばった真似を
してしまいました。申し訳なかったと思っています」
 ニクスに頭を下げられて、珍しくレディアスが慌てた。

「誰の心も汲み取らず、仕事だけ押し付けていた私の非をお許し
下さい。貴方の事ですから、私にも陛下のお心に気づけと・・・
そういう思いもこめてご招待下さったのでしょう?」
「さあ?私はあまり親切ではない男なのでご注意ください」
 目を合わせ笑いあっていると小さなタナトスに出会う。

「これならば私が」
 小さなタナトスの浄化を済ませると、再び歩き出す。
「村中を歩くおつもりですか?」
「ええ。すべてを自ら確認しないと心配なのですよ。これが私の
役目ですから。も知っていますよ。私がしない時は
ヒュウガかレインがしています。今日は力仕事が多いのでそちらを
若い彼らに任せたというわけです」
 任せたのか上手く押し付けたのかは一目瞭然。
 ニクスの話術に敵う者はいはしない。
「くくくっ・・・私もこのままお供させていただきます。アルカディア
を知らずして、仕事をしようとは無理がありますので」
 ニクスのやや後ろを歩む。
 こうして各自が各自の役目を果たして一日が終る。
 陽だまり邸へ戻ると、本日のディナー担当の争奪戦となった。



「皆様、いつもこのように?」
「そうなんです。皆さんお料理がとてもお上手だから」
 に食べてもらいたいからなのだが、肝心の当人が
わかっていない。
「俺なんて最初から外されてしまったよ」
 ソファーでと並んで座っているのはジェイド。
 ソファーの後ろに控えているのがレディアス。
 オーブハンターの他のメンバーは、ヒュウガの提案により
あみだくじで夕食担当を決めている最中。
 誰もが黙ってペンでたどる先を見つめている。

「やった!ニクスは外れ〜〜〜」
 カードでは敵わないニクスが一番に脱落したことに喜ぶレイン。
「そうでしょうか?私はお茶を淹れて食事までの時間を楽しむと
いたしましょう。
 立ち上がると素早くの前で手を差し出すニクス。
「はい、ニクスさん」
「本日はいかがいたしましょうか?」
 紅茶の茶葉を選ぶのはに委ねるという合図だ。
「今日は皆さん頑張ったので、ハーブティーがリラックスできそう!」
 ぴょんと立ち上がると、茶葉のストック棚の前で選び始める。
「カモミール!ぐっすり寝られるように。そうしましょう?」
 振り返ればニクスがおり、リクエストされた茶葉の筒を棚から
取り出す。
「畏まりましたよ、マドモアゼル。しばらくサルーンにてお待ち下さい」
 さっさとお茶の用意のためにニクスが部屋を出て行く。
 勝負の行方を一瞬だけ目で追っていたが、結果は決まっていた。

「・・・天はオレに味方したな。続けてディナーはありえないぜ!」
 レインも部屋を飛び出していく。

「え〜っと・・・ヒュウガもお茶会の方だね?」
 ジェイドが眉間に皺を寄せてしまったヒュウガに声をかける。
「いや・・・庭で修行をしてくるとしよう」
 踵を返してヒュウガまでもが部屋を去る。

「あの・・・・・・」
 思わずレディアスが声を上げる。
 この勝負、勝っても負けてもニクスにだけは損がない。
 一方、ヒュウガの苦渋に満ちた表情は本当に苦しそうだ。

「う〜ん。修行と勝負運みたいなものは別だと思うけど」
 ジェイドが肩を竦めつつを手招きする。
「え?何がですか?今日はレインなんですね〜。何だろう〜」
 がジェイドに寄りかかる。
 レディアスはが陽だまり邸に滞在する時間の短さが
彼らに真剣勝負をさせる原因なのだと理解した。


「私・・・答えがわかったから。ニクスさんに言わなきゃ」
「そう?」
 ニクスからのヒントなしで質問の意図がわかったらしい。
「偶然なんですけど・・・子供たちと遊んでいて。お茶会の時に
ニクスさんに答えを確認します!」
 軽く片手を握り締め、自らを鼓舞している。
「うん。大丈夫。後二分三十二秒でニクスが来るからね?」
「はいっ!レディアスさんも聞いていて下さいね」



 食事の前のティータイムまであとわずか───






 2008.02.10
 突然ひらめくことが。法則は至ってシンプルなもの。