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title after that page No. 003
「仕事の途中で抜け出すのはいけませんよ?」
「だって、サクリアのお仕事はすぐに終わるし。サインだって全部
してからですよ?お仕事、終わってます」
ニクスに注意されたものの、今度ばかりは素直に応じない。
「では言い方を変えましょう。サインをするという事についての
責任を考えたことはありますか?」
ニクスらしい相手に考えさせる言葉の選び方だ。
は一度ジェイドの表情を伺うと、考え込みだした。
「私の・・・許可という・・・ことですよね?」
サインをするのは、誰かが作った書類の可否である。
の返答はニクスを納得させるものではなかったらしい。
ニクスは微笑を浮かべるだけで、何も言わない。
二人の様子を遠巻きに眺めている仲間たち。
食後のお茶会の雰囲気は、時間はゆったりとしているものの
緊張感が走り出す。
レディアスにしても、ニクスがを諭してくれる
とは考えていなかったために、口を挟めずの背後に
立つしかできない。
どれぐらいの時間が経過しただろうか。
実際は僅かだったかもしれない。
ニクスの厳しい視線がを射抜いた。
「貴女は・・・いえ。私の大切な女王陛下におかれましては・・・
否とサインをしたことはございませんか?」
「そんなの・・・ありません!」
その視線に負けないとばかりにやや声を上げて返事をする。
「そうでしょうね。その意味も考えなければ、前には進めません。
私は今夜は先に休ませていただきますよ」
静かに椅子から立ち上がると、ニクスはさっさと自室へ引き上げて
しまった。
「陛下・・・・・・」
どうすればニクスの真意が伝わるのだろうか。
その前に、何か声をかけなければが泣いてしまうのでは
ないかとレディアスが慌てて呼びかける。
「・・・・・・・・・私の答えか間違っているんですよね?」
振り返ったの瞳は揺れているものの、泣いてはいない。
「間違いというのとも少し違います。けれど・・・一番いいものでは
なかったのは確かです」
「そう・・・ですか。私・・・自分のお部屋で考えます」
椅子が小さな音を立てると、は足取りも重く歩きだす。
「いいのか?」
レインがジェイドを見上げる。
「いいんだよ。ニクスがせっかく悪役になってくれたんだ。俺も先に
気づくべきだったかな。補佐官殿を招待しようとまで言ってくれた
ニクスの気持ち」
ジェイドも気になってはいた。
けれど、の細い肩にかかる重責を思うと言い出せ
ないでいた。
それどころか、脱走に手を貸す始末。
(俺に言わないでに直接だなんて・・・・・・)
ジェイドの存在はにとって唯一の支えだ。
聖地の時間軸を考えれば、いつかはが恐れている
その時が来てしまう。
仲間の死を見送るという日が、いつしか現実になる。
だからこそジェイドにだけは厳しい事を言わせない配慮を
したのだろう。
仕事に関してジェイドが口出ししては、プライベートの時間との
区別が困難になり、精神バランスが不安定になりかねない。
ニクスの考えの深さにはジェイドも考えさせられる。
「俺はを信じているからね。明日は子供たちに会いに行くし。
必ず自分で答えを見つけてくれると思う」
ジェイドは一度自分の部屋へ戻る事にした。
「まあ・・・な。ジェイドだから出来る役割もあるんだろうけど。
ジェイドの安定は次第だし・・・なんとかなるか!」
「心配には及ばないだろう。・・・明日の朝は起きるのか?」
ヒュウガのさり気ない突っ込みに項垂れるレイン。
「あのなぁ・・・オレだって朝はそれなりに起きようとは思って
るんだよ。ただ起きられないだけで」
「行動で示して欲しいものだな。起こしてはやらないから安心しろ」
ヒュウガの口元が意地悪く笑っている。
明日は出かけるというのは決まっていたことだ。
暗に寝坊したら置いていくという含みがある。
「・・・ったく。ご親切にどうも。今夜は程ほどに書いたら寝るよ」
「そうだな。ちっとも書き進んでいないようだから変わるまい」
編集者からの論文催促の電話を取り次ぐのはヒュウガなのだ。
「わかったよ。今日は寝る。これでいいだろう?お客人も、明日は
手伝いに参加してもらうから早めに寝ろよな〜」
手のひらをひらつかせながらレインも部屋へと戻る。
残されたレディアスは何となくではあるがヒュウガと話がしたい
と思っている風だ。
「レディアス殿・・・修行にお付き合いいただいても?」
「ええ。銀樹騎士の方とお手合わせ願えるとは、めったにない機会
ですし。ぜひ」
月明かりに照られさた庭でしばし修行をする事になった。
の部屋の扉を叩く音がする。
窓辺に佇んでいたが振り返るが、動く気配はない。
再び月を見上げると、今度はベランダで音がした。
「。そこは冷えるだろう?ミルクを温めてきたから。
これを飲んで早く寝るといいと思うな」
ジェイドがひょっこり現れ、テーブルへカップを置くと来た所から
戻ろうとする。
その背を慌てて掴む手があった。
「ジェイドさん・・・・・・」
「どうしたんだい?眠れないなら散歩に行こうか?」
を包み込むように抱きしめ、その体の冷たさに
随分と長い間窓辺に立っていたのだとわかる。
「あの・・・・・・」
「ただし!散歩の前にアレを飲んでから。そうしたら連れて行って
あげるよ」
の前で立てた人差し指を軽く振って見せると、
小さな笑いが起きる。
「・・・はい」
両手でカップを包むようにしてホットミルクをせっせと
急いで飲む。
もちろんジェイドに抱きかかえられた姿勢であり、それは彼が
に温かさを分けようとしてだ。
「あの・・・これ・・・・・・」
飲み終えたカップの底が空なのをジェイドへ見せると、
「よし!それでは、今から星空の散歩にご招待。掴まってて」
「きゃっ!」
ジェイドはを抱えたままで二階のベランダから
木へと飛び移り庭へと降りる。
「部屋から眺めるのもいいけれど、外は空気も違うからね」
毛布でを包んで抱えている。
いつも時空を越える時の目印にしている大木がある小さな丘で、
遠くの夜空を眺める二人。
他に人がいない静かな場所は、を素直にさせる。
「あの・・・ニクスさんの宿題なんですけど」
「うん」
ジェイドに背を預けたままの姿勢で途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「書類をちゃんと読んでから女王の印を押しているんです」
「そうだね」
別にそれについて否定するつもりはない。
「でも・・・ダメってしたことがないのは確かにそうなんです」
「だろうね」
意見はいわずに、聞いているという合図代わりの返事。
「だけど・・・ダメじゃないのをダメってするのは変ですよね?」
「そうだね」
考えがまとまらないのだろう。
それに、まだ自分視点での話でしかない。
ジェイドはただ相槌を打つ。
「ニクスさんが言いたいのは・・・もっ・・・と違う・・・・・・」
ようやくホットミルクの効果が現れたのか、が
ウトウトし始める。
「そう・・・もっと違うことだよ?」
耳元で囁いてみると、カクリと首の力が抜けて全身をジェイドへ
預けてきた。
しっかり耳朶へ口づけると、今まで我慢していた事を口にする。
「あの時と同じだよ?大切なモノを掴もうとする時、選ばれない
モノが出来てしまうんだ。君が俺を選んでくれたから、俺はここに
存在する事が出来たけれど。もしかしたら俺は壊れて消えてゆく
べき古の機械なのかもしれないよ?」
己の忌まわしい過去の記憶を取り戻してしまった時、傍に
いてくれたのはだ。
何があろうとも過去は消せはしない。
それについて咎めることなく、隠そうとするのでもなく───
『これから頑張ればいいんです。それだけです』
の手をとれば、とても小さな白い手でしかない。
「どこにあんなにすごい力があるのかな?俺は守られてばかりで、
何一つ返せていないんじゃないかと思うよ」
手の甲へキスをすると、揺らさないよう気をつけながら邸の
方角へ歩き始める。
「んっ・・・・・・」
「明日は子供たちと遊ぶんだよね?明日になれば」
楽しいことが待っている。
そして、答えを見つけられなかったには、
ニクスから手が差し伸べられるだろうことも予想の範囲だ。
「明日も天気だね」
星空を振り返り、ヒュウガに迎え入れられ邸へ入る。
「ああ。明日は楽しい一日になるといいな」
誰もが星空に願い事をしていた。
2007.06.11
少しは甘々?アンジェはまだ幼いから。それでも・・・なテーマ。
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