title wedding banquet     page No. 004

「待ってたよ、。ベルナール」
 玄関のドアをノックする前にジェイドによって
開けられてしまった。
「あっ・・・あの・・・・・・」
 戸惑うに構わずに、集まった仲間たちから
声が上がる。

「おめでとう!」
「よかったな!」
「いいよな〜、小説みたいだぜ?」

 言いたい放題の輪の中に入る事になってしまった
とベルナール。

「おめでとうございます。ささやかなお祝いをと思い
まして、皆で用意して待っていましたよ?
はあちらへ。ベルナールはヒュウガと
向こうへお願いします」
 邸の主の言葉は絶対だ。
 はハンナとサリーに手を引かれて部屋へ、
ベルナールはニクスに挨拶をしてから部屋へ向かった。



!おめでとう。よかったね、再会できて」
「そうだよね〜。ずうーっと聞かされてたもの。優しい
お兄さんの話!」
 学友に囲まれ、嬉しいやら恥ずかしいやらで
は俯いた。
「だって・・・その・・・・・・兄さん・・・あっ!」
 慌てて両手で口を塞ぐ。
 ベルナールと帰り道に練習したというのに、友人たちと
いると忘れてしまう。

「・・・〜〜〜。それって」
 ハンナがの額を指でつつく。
「そうだよ。もう兄さんはちょっと・・・ベルナールさん、
可哀想〜」
 サリーもの頬をつついた。

「・・・その・・・帰り道にたくさん練習したのにぃ」
 両手で顔を隠してしまったの頭を軽く叩き、
ハンナとサリーは着替えの支度を始めた。

「それより、着替えなきゃだよ?ニクス理事長が揃えてくれたの。
ほら!」
 真っ白なドレスを広げてみせるハンナ。
 可愛らしいレースが大量に使われたそのデザインに目を奪われる。

「わ・・・・・・それを・・・私に?」

 呆然と立ち尽くすに構わず、二人がさっさと
の支度にかかった。
「はい、はい。主役がいなくちゃなんだから!」
「そうよ。髪もほら!ティアラだよ」
 そのまま二人に引き剥がされるように着替えをさせられていた。




「これを?」
「そうだ。ニクスがぜひにと。も着替えている」
 タキシード一式が揃えられている。ただし、黒ではない。
「・・・グレー・・・・・・」
「似合うだろう。ニクスが決めた」
 かなりかっちりとしたデザインのそれ。
 最近ではまったく馴染みのない服である。
「う〜ん。こういうのは・・・・・・」
 上着を持ち上げて考え込むベルナール。
「・・・が楽しみにしていると思うが?」
 確実にベルナールの弱点を突いてくる。
「そう・・・だよな。ニクスさんのご厚意に甘えますか!」
 意を決したらしいベルナールの様子に、ヒュウガが頷いて部屋を
出て行く。
 着替えまで手伝う理由は無いし、仲間たちの手伝いがあるのだ。
 念の為の案内役でしかなかった。

「・・・も着替えているのか・・・・・・」
 鏡の前に立ち、ひとり想像をする。
 白ならばどんなデザインでも似合いそうだ。
 先に階下のパーティー会場へと戻った。



「で〜きた!下へ確認に行くから、サリーと待っててね!階段から
理事長と登場してね」
 ハンナが連絡に部屋を出て行く。
「ニクスさんと?」
 首を傾げるにサリーが頷いて返す。
のお父さんの代わりですって」
「そんな・・・ニクスさんがお父様の代わりだなんて・・・・・・」
 事実はどうあれ、見た目はと兄弟でも通用する。
「いいの、いいの!誰がのエスコートするかカードで決めて
たんだから。レインさんよりお父さんぽいでしょ?」
 エスコート役が決まるまでの経過を知っているサリーとしては、
面白くて仕方ない。
 最初に負けが決まったレインの落ち込みようには実に笑えた。

!準備はいい?」
 ニクスを伴って戻ってきたハンナ。
「失礼しますよ。ほう・・・嫁にやるのが惜しまれますね」
 手を差し伸べられ、照れながらもが手を重ねる。
「あの・・・ありがとうございました」
「いえ、いえ。我々の大切な仲間であり・・・家族ですから。私が
父親代わりというのもいいのでは?」
 にこりと微笑まれ、の顔にも笑顔が戻る。

(家族・・・私の・・・・・・)

「そろそろ行きましょう。花婿が待ちくたびれていますよ」
「はい!」
 先にハンナとサリーが階下へと下りてゆく。
 階段の周囲に人が集まった中を、ニクスにエスコートされて一歩、
また一歩、足元を確認しながら下りるのだ。
 階段の終わりにはベルナールが待ち受けていた。


「さて。残念ですが、ここからは花婿にお任せしましょう」
 ニクスの手が離れ、ベルナールへと委ねられる。

「さあ、向こうで・・・・・・皆様の前で誓っていただきましょう」
 ニクスが手で示した先は、普段は仲間が寛ぐサルーン。
 今日は何やら食事のほかにも用意がされている。
 小さな卓上のそれは、儀式のためのものだとわかる。


「花婿殿。教団長の代理ということで、ルネさんが誓約書の見届けを
してくれる事になりましたよ」
 いつものふざけた様子がまったくないルネ。
 軽く手を上げて前へ進めと指示されるがままに、二人が進み出た。





 程なく式も終わりの頃、の指へと指輪をはめ終え、
ベルナールもようやく緊張を解こうとした時───



「誓いのキスは当然だよね?みんなの前でしてもらおうかな」
 突然ルネが砕けた調子で式の締めくくりのイベントを告げる。

 すると、途端にが真っ赤になって震えだす。
 ベルナールはその肩へそっと手を回した。

「申し訳ないんだけれど・・・それはナシでもいいかな?」
「はぁ!?誓えないって言うのかよ!」
 レインが大声を上げる。
「そういう意味じゃなくてね。その・・・わかってもらえないかな?」
 肩をすくめるベルナール。
 隣に立っているは、晴れの日だというのに涙目に
なってしまっている。

「まさか・・・・・・」
「察しが悪いですよ、レイン。それに、指で人を差すのはマナーに
反しますね?」
 レインの肩を叩いて落ち着かせると、ニクスが周囲に微笑みかけた。


「ここにいらっしゃる皆様は、心から二人をお祝いにおみえかと思います。
無理強いするのは本意ではございませんね?」
「そう、そう。ケーキのカットもあるし。まだまだ楽しんでもらわないと」
 ジェイドが特大のケーキを用意してある場所へ視線を向けると、つられて
振り向いた人々から歓声が起こる。
 そのケーキはテーブルの上にあるおかげで、ジェイドよりも高さがある。


「ありがとう、皆さん。・・・・・・泣かないで」
 瞳を閉じれば零れるだろう涙のために、瞬きも出来ないでいる。
 ハンカチで涙を零れる前に拭ってやるベルナール。
「・・・っ・・・なさ・・・わた・・・・・・」
「ほら。大好きなケーキが待ってるよ?」
 子供をあやすようなベルナールの言葉に、の涙が止まる。
「また!コドモ扱いしましたね?」
 ベルナールに追いつきたいのに、追いつかせてくれない。
「してないよ。それでは、ケーキを食べさせていただこうかな?」
 素早くの額へキスすると、その手を取ってケーキの前へと
誘う。



「考えてみれば、クリスマスにケーキを一緒に切ったね?」
「・・・あっ!」
 幼馴染であるが故の、初にはならない初の共同作業。
 仲良くナイフを持って、お客様に切り分ける。
 いよいよパーティーの始まりだ。

〜〜〜!おめでとう!私には大きなケーキを下さいな?」
「ええ!ハンナには大きく切るわね」
 幸せの大きなお裾分けだ。
 続いてサリーにも切り分け、かわるがわる友人たちと言葉を交わす。

 一方のベルナールは、グラス片手に仲間に飲まされている。
「つかよ〜〜〜。ぜ〜ったいに幸せにするんだぞ!」
 すでに出来上がってしまっているレインは、ろれつがあやしい。
「もちろん!ただ・・・皆さんも揃っていないとはさびしんぼう
だから。よろしくお願いします」
 酔っ払い相手でも丁寧な受け答えをする辺りに人柄が出ているベルナール。
「ヒュウガ。レイン君はそろそろおやすみのようですよ?」
「・・・大丈夫だ。見張っているから、もうしばらくはここに」
 この祝いの席で何かあっては困るが、無理にこの場を離れさせるのも
気の毒な気がして出来ないらしいヒュウガ。
「頼みましたよ。私は向こうでお客様と話をしてきます」
 ニクスが立ち去るのと入れ替わりに、ベルナールの仕事仲間たちが
やってくる。


「よかったですね!先輩。仕事場の机に写真を飾る・・・・・・」
「待て!その話は・・・・・・」
 ベルナールが後輩の口を塞いだが、間に合わなかった。
「ふ〜ん。そっか。よかったな〜〜〜、!」
 レインが椅子の背もたれに寄りかかり、天井に向かって声を上げた。


「なっ、何?どうしたの?レイン」
 小走りにがやって来る。

「いや?何でもないぜ。ベルナールはいい男だって話。だよな?」
「そうです!時々お菓子やさんまでビスケットを買いに行ったり、
話題のスイーツやお店のチェックまで・・・・・・」
 調子に乗ってレインに追随した後輩は、またも口を塞がれた。

「君ね、少し酔ってるね?向こうへ行った、行った!」
 照れくさいのか、後輩の背中を料理のテーブルの方へ押し出す。
「それはないよな〜、ベルナール。誰もがお前の嫁さんの心配してたんだ。
モテモテのベルナール君?」
 悪友にとんでもない事を言われて冷や汗を掻くベルナール。
 がベルナールの腕にしがみついた。


「あの!もう、私のお婿さんなので、心配ないです!」


 数秒の後、一斉に笑いが起きる。
 心配の意味が違うのだが、のあまりに可愛らしい仕種に
祝福の笑みが周囲から零れる。


「やっ、やだ!あのぅ・・・・・・」
 慌ててベルナールの耳元へ囁く。


 『兄さん・・・どうしてみんな笑ったの?私、そんなに心配?』


 ベルナールもこれには笑うしかない。
「いいや?仕事でフラフラして落ち着かない僕を捕まえられるのは、
だけって意味だよ」



 やわらかな空気の中、小さな結婚披露のパーティーは続く。
 偉業を成し遂げた小さな女王陛下に祝福あれ───






 2006.11.21
 結婚のお祝いパーティー!パパ役にしてごめ〜ん、ニクスさん☆