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title 権力者が味方 page No. 002
「おや、おや。それでは、あまりに間が抜けおいでですよ?私に始めに
仰っていただければよかったのに。学校長には私から話を通しておきま
しょう」
待ちに待った週末、陽だまり邸にはかつてのオーブハンターの仲間たちに新聞記者まで加わって賑わっている。
今夜の夕食の担当はジェイド。
は料理を学びつつ補佐という事でキッチンにいる。
ヒュウガはまだ戻っておらず、レインは自室に篭りきりとなれば、残された二名はお茶を飲みながらサルーンで寛いでいた。
「・・・やはり・・・先にというのは・・・・・・」
見た目はどうあれ、中身はまだまだ幼い。
結婚に夢を見ているだろうと、卒業まで待つつもりだった。
よって、の親戚であるとしか学校側へも挨拶をしなかった
のは先週彼女を送り届けた時の話。
「私は理事の一人ですよ?それぐらいの事、造作もない事です。それに、
もそのつもりだったと思いますが・・・きちんとその件について話し合われましたか?」
首都もまだまだ混乱している。
それでも人々が生活しているからには、役所とて機能してはいるのだ。
「いえ・・・学校へ戻れるとはしゃがれてしまって、つい・・・・・・」
プロポーズ直後に“学校へ戻れる”と言われてしまったベルナールにしてみれば、まだまだ学校に居たいのだろうと、居やすい環境を整えてやるしか出来ない。
「ふむ・・・書類はすぐに用意させますし。場合によっては、日曜日に学校
までご一緒させていただければ万事解決といったところかと思いますが。
まずは二人で話し合われる事ですね」
ベルナールより年下でありながら、その実、二百歳のニクスの言葉には
重みがある。
「そう・・・ですよね。そうさせていただきます」
その晩の夕食会はとても楽しく、今までとなんら変わらなかった。
ひとつ変わったところはといえば、ベルナールの参加だろう。
新聞記者である彼の話題は豊富であり、話の切り替えも上手い。
誰もが食事と話に満足をして各自の部屋へ戻った。
「はい。どうぞ」
ベルナールの部屋をノックする音。
この邸の者ならば誰であろうと構わないので、記事を書く手を休める事
なく返事をした。
「あの・・・お茶を淹れてきました。もしかしたら、お仕事かなって・・・・・・」
ティーセットの乗ったトレイを手に、がドアを開けて立って
いる。
ベルナールが机で仕事をしているのは一目瞭然だ。
(遠慮しちゃったか。変わってないな・・・・・・)
ベルナールが勉強をしているのを窓から確認すると、遊んで欲しくとも
言い出せずに、ひとり庭でしゃがみ込んでいた幼い時のの
姿を想い出す。
「ありがとう、。ちょうど休憩しようと思っていたところだよ。君も一緒にどうかな?」
ファイルを閉じて立ち上がりドアまで近づき、トレイを受け取るベルナール。
ドアを押さえて、さり気なくではあるが中へという意思を見せる。
「はい。・・・後は私がしますね」
再びベルナールからトレイを奪うと、先にテーブルでお茶の準備を始める。
ベルナールは部屋のドアを閉めてから席に着いてその様子を見守って
いた。
トレイには、カップが二つ。
話がしたくて来たことなどお見通しだ。
「それで?今日の夕食の料理はすべて美味しかったけど。が作ったのはムニエルかな?」
料理が出来ないわけではない。
そんな彼女に見た目をもとなれば、教えやすいのは本日のメインデッシュだ。
「ええっ!?ジェイドさんに聞いたんですか?」
今にも瞳が零れそうなほど驚いている。
「・・・ふふ、・・・あはははは!・・・アタリみたいだね」
テーブルに肘をついた手に額をのせて笑い出す。
「もう!またコドモ扱い・・・・・・」
「違う、違う。料理を習いたい人に、サラダを教えるわけないだろう?」
手のひらをひらひらと扇ぎながら、馬鹿にしたのではないことをアピール
する。
「あ、そっか。そう・・・ですよね。私ったら・・・・・・」
両頬に手を添えて真っ赤になっているが可愛らしくて、つい頭を軽く撫でてしまう。
「また!コドモ扱い・・・・・・」
「してないよ。するわけないんだ。そうだな・・・愛しいモノには触れたくならないかな?」
の瞳がくるくると忙しく動き出す。
愛しいモノを頭の中で想像しているに違いない。
(お気に入りのウサギのぬいぐるみに、仔猫に、後はなんだろうね?)
眺めているだけで飽きないその瞳の動きが止まり、ベルナールを見つめている。
「ん?」
「あの・・・手を繋ぐの・・・好きです」
「そうだね」
微妙に返事に困ること請け合いである。
肯定したものの、ベルナールが望むモノには程遠い。
ついテーブルの上のの手に手を重ねていた。
「あっ・・・あの・・・・・・」
「ん?」
反応が楽しくて、ついついかまいたくなる。
嫌がらない限りは、重ねた部分から伝わる体温を感じていたい。
「これ・・・・・・」
重ねられた手の部分を凝視するだけで、それについて言葉を探せないでいるらしい。
「これ?」
気にせず空いている方の手でカップを取り、お茶を飲むベルナール。
「だっ・・・だから・・・・・・」
普段察しがいいのに、気づいてくれなくてますます手が動かせない。
「そうだ!僕は・・・こっちが好きかな?」
を抱えてソファーへ移動する。
「えっ・・・・・・あっ!」
まんまと騙されたと気づくまでに数秒。
幼い時は膝に抱えられるのが好きだった。
よくそのまま寝てしまったものだ。
今も嫌いではないが、何かが違うと頭の中で声がするし、心臓が痛い。
(病気・・・なのかしら)
ジェイドには心について語っておきながら、自分の心はわかっていない
。
「そう、そう。まだ君に相談していなかった事があるんだ。実は・・・・・・」
ニクスがいれば、女学院の生徒でありながら入籍しても見逃してもらえ
そうだ。
(君は・・・ある部分で非常に幼いから心配なんだよ・・・・・・)
銀細工の羽の首飾りは、カモフラージュだ。
先に買ったのは細いシルバーの指輪。
ただ、渡しそびれていた。
(こういうものは・・・縛り付けるような気がして・・・ね)
ポケットに持ち歩いている指輪に軽く手を当てると、不思議そうに覗き込まれる。
「ああ。これ?これは・・・ずっと持ち歩いていたんだけれど。そうだ!こうしようか」
の首飾りを取ると、指輪を通してから再び着けてやる。
「これ・・・・・・」
銀が触れ合う軽やかな音がして、羽と指輪を手に取り眺める。
「指輪・・・ですね」
「そう。約束の証し・・・かな。明日、結婚しようか」
が帰ってきた日に告げた言葉に偽りはないが、それについて触れないまま日々が過ぎていたのだ。
ベルナールも結婚の手続きをしない事について説明すべきか迷っていた。
それでも、結論を出してしまったのだ。
学校へ戻りたいなら、すべきではないと。
「よかっ・・・た・・・・・・だって・・・・・・」
が泣き出してしまい、今度はベルナールが慌てる番。
「なっ・・・どうかした・・・・・・」
の頭を撫でながら、その顔を覗き込めば首を横に振られる。
「何も・・・あれから何も言われないから・・・・・・少しだけ心配だったの」
大きく息を吐き出すと、を抱きしめる。
「理事長殿が協力して下さるそうだからね。怖いものナシかな?学校長には本当の事を言ってみようかなと思うんだ。とりあえず今は・・・恋人くらいにしておいてもらえる?」
のロケットを手に取り、まだ何もない事を確認するとそのまま閉じる。
「明日、写真を撮って。それをココに入れてもらえると嬉しいね」
「・・・はい。皆さんに報告しなきゃ!」
今にも飛び出しそうなが逃げられないよう、しっかりと抱きしめなおす。
「に・・・ベルナール・・・さん?」
ベルナールの腕を、離して欲しそうに軽く叩いている。
「いや。もうご存知だよ・・・たぶんね。お茶会の続きをしようか!」
ニクスに話をした時点で明日の予定は決められていただろう。
思い返せば、一番相談してはならない相手だったともいえる。
朝食時に報告すれば、そのまま昼からパーティーだろう。
それぐらいの事はされるに違いないと、つい口元が緩んでしまう。
「返事が欲しいな。聞かせてくれる?」
「・・・好きじゃなきゃお料理の練習なんてしません!兄さんの意地悪っ!!!」
思い切り顔を背けられてしまった。
ベルナールにとって、“兄さん”と呼ばれてしまう事の方が何倍も意地悪である。
それを知っているのは、以外全員だろう。
肝心の想い人だけが、無意識に彼を呼ぶ。
『ベルナール兄さん!』
彼を追いかけてきた、小さなが目蓋に浮かぶ。
(先は長くなりそうだ・・・・・・)
小さな笑みを漏らすと、とっておきのビスケットでのご機嫌取りをした。
2006.08.10
兄さんと言われると、伸ばした手が引っ込む(笑)せつない男ゴコロ
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