title やっぱり陽だまり邸     page No. 001

 タナトス退治に始まって、エレボスまで倒した
宇宙の女王になってしまうんだろうなと、自分の手の小ささと、
粋がって家を飛び出して取り組んだ仕事の成果がこれなのかと、
少しどころか大いに落ち込んでいた。
それなのに、僕のおちびさんはいつの間にか成長して───


「ベルナールさん!」
?!」

 ああ、そうか。最後の別れに戻って来てくれたのか。
 こうして可愛い君の笑顔を見られるのも最後なんだな───

「あの・・・私・・・約束どおり帰ってきました」

 帰って───
 帰るとは、戻るとは違う。それくらいわかるよ。

「女王の力がなくても大丈夫・・・そう言ってました。だから・・・・・・」

 待った、待った!
 ここはぜひとも僕から言いたいんだ。

「ダメだよ、。その先は僕のセリフだ」

 ここまで来て、今更だけど。
 それでも、ケジメをつけたいんだ。

「僕の奥さんになって。、一緒に家に帰ろう」

 俯いているけど、間違いなく返事はイエスだ。
 と、なれば───

「大好きだよ、僕の。君を今すぐ抱きしめたいくらいに!」
「・・・きゃあっ!」

 くらいにではなく、すぐに行動に移せるのが大人の特権なんだ。
 こんなに小さな女の子が、この世界を救った。
 皆に知らせたいよ。





「これで学校へ戻れるし、よかった」





 君のひと言で、しばし僕の体は氷っていたかもしれない。







「それで?週末はこちらに・・・というわけですか」
 静かにティーカップをソーサーへ下ろし、そのままテーブルへと置くニクス。
「ええ。もこちらへ遊びに来たいようですし・・・・・・僕も普段は
ウォードンにいるので、カルディナに家を買ったとしても、そこから通わせるのも・・・・・・」
「そうですか。それはよかった。いえ、こちらからお願いしようかと思っていたところです」
「えっ・・・・・・」
 その時、ジェイドがと手作りタルトを手に戻ってくる。
「お待たせ!二人でケーキを焼いてみたんだ。これがないと、せっかくの
お茶の時間がすぐに終っちゃうからね」
「切り分けますから、すこし待ってて下さいね」
 お皿へタルトを乗せて配り始めた。



「今まで毎日一緒だったからな。オレもヒュウガもジェイドもここで今まで
通りって話してたんだ。だっていなくちゃな」
「ありがとう、レイン」
 深い意味があるのか無いのかわからないが、何となくベルナールだけ
余所者扱いされた気分だ。


が寂しくなければいいさ)
 毎週末に迎えに来てもいいが、ウォードンの部屋では狭い上に
リークは家事をしようと必死になりかねない。
(こちらならば・・・そう大変じゃないだろうし。勉強できる環境だ・・・・・・)
 オーブハンターの仲間たちの会話を邪魔する事なく、出来たてのタルトを食べていた。


「ニクスさん。ベルナール・・・さんも、週末は・・・・・・」
「ええ、もちろんですよ。ベルナールさんにも部屋を用意させていただきま
すので。そうですね、金曜日の晩にはおいで願えますか?の迎えは、こちらでいたしますよ」
 思わぬ提案にベルナールが一瞬動揺する。


「それは・・・・・・僕がここに・・・・・・」
「当たり前じゃん。何?だけこっちに置いとくつもりだったとか?」
 さっさと食べ終えたレインが欠伸をしながら皿を出すと、が次のタルトを乗せている。
「そうだよ。人数が多い方が楽しいし、お菓子の作り甲斐もあるよ。ね?

「はい!」
 嬉しそうに微笑むに、仲間たちが微笑む。


「僕がお邪魔しては・・・・・・」
 そうは言っても、部屋まで用意させるのは申し訳ない。
 今まで黙っていたヒュウガが、ベルナールの方を向いた。
「・・・アルカディアを見ながらは無事に帰ると言っていた。
あなたがいるからだ」
「そう、そう。アンタいないと意味ないだろう」
 レインが右手で引き金を引く仕種をベルナールへ向けてする。
「部屋は余っていますし、あなたもお仕事で毎週来られるとは限らないで
しょう?それでも、少しでも長く共に過ごしたいと思うならば、一番いい選択だと思うのですが。も料理に専念出来ますし」
 ニクスの言葉に、が真っ赤になる。
「そういえば、お料理の練習をしたいって言ってたよね。がここで
過ごしたい理由は」
 ジェイドがうっかりを装って真相を明かしてしまった。


「皆さんの意地悪!」
 小さな足音を立てながら、広い庭を駆けていってしまった。


「時に真実は照れくさいものですね。紅茶のおかわりはいかがですか?」
「違うだろ。追いかけた方がいいんじゃないか?たぶん向こうの大きな
木の下。よく鳥たちに餌をあげてた」
 レインがの居そうな場所を助言する。
「ありがとうございます。僕は・・・寂しがりやだったが、いつも笑っていてくれるなら。それだけでいいんです。それでは、少しだけ失礼させて
いただきます」
 ベルナールはの後を追って庭を駆けていった。





「で?の隣だっていうのは言わなくていいのか?」
 レインはまたも空になっている皿を、今度はジェイドへ出す。
「ええ。そう無粋な事をいうものではありませんよ、レイン。が星の舟でアルカディアを見て誰を思い浮かべていたかなど、わからないような鈍い方がおいでとは考え難いですからね」
「俺はのリクエストのビスケットの生地を取り出す時間だ。後5分
7秒だけ冷やしてから型抜きをして焼き上げないといけないからね」
 ジェイドはレインへ皿を手渡すと、そのまま邸のキッチンへと向かう。
「我々とて普段は仕事がある。気軽に週末に集まれるのは都合がいいだ
ろう」
 銀樹騎士団の教官を請け負ってしまったヒュウガとしては、ベルナールと同じく、毎週陽だまり邸を訪れられるとは限らない。
「ええ。いつでもいいのです。誰かしかここにいますよ。そして、週末だと
誰もが一番集まりやすいという、それだけで十分でしょう」
 晴れ渡った空を眺めながらの庭園でのお茶会は、いつも通りゆったりと
時間を楽しみながら続いていた。





「へえ・・・ここは見晴らしがいいんだね」
 大きな木の下で、幹に背を預けて座るの隣にベルナールも腰を下ろす。
「私・・・今までお菓子はたくさん作ったけれど、お料理はそんなにたくさん
種類を知らなくて。それで・・・・・・」
 ベルナールの妻となるからには、レパートリーを増やしたかった。
 幸い、仲間は様々な地方に好みの持ち主ばかり。
 しかも料理が上手いのだ。
 楽しく過ごせて料理も覚えられる絶好の環境がここだった。
「そう無理することはないんだけどな。君は・・・頑張りすぎるから」
「違います。覚えたいの。私はお医者さんになる夢もあったけれど、お医者さんは他の人でも出来るもの。私は兄さんのお嫁さんに・・・・・・あっ!」
 慌てて口元を片手で隠す。
「兄さん?誰かな、それは。・・・そうだね。彼らとなら、君のしたい事が
出来そうだ。女王の力を持っているのは君だけだからね。大丈夫・・・わかってる」
 がしたい事は、傷ついた大地を癒す事というのはわかりきっている。
「ベルナール・・・さん・・・・・・」
 の手を取りながら、その瞳を覗き込む。
「・・・そろそろ、“さん”もナシがいいんだけれど。あまりたくさんお願いすると大変かな?」
「あの・・・だって・・・やっと兄さんって呼ばなくなったばかりで・・・・・・」
 一人前だと言われたあの日から、必死に呼ぶ時に注意していたのだ。
 それでも時々兄さんと呼んでしまうのに、名前を呼び捨てなど難題としか思えない。


「いいよ。もうしばらくは・・・婚約者殿だ。お待ちいたしましょう」
 軽くの額へキスする。
 すると、額を両手で押さえて隠されてしまった。
「・・・のっ・・・その・・・・・・」
 幼い頃から寮暮らしで、女学院育ちなのだ。
 待つべき事は山のようにある。


(いまさら・・・十年に比べれば・・・ね)


 何故、と別れることになった時に、ロケットを贈り物にしたのだろうと考えていた。
 の胸に光るロケットを眺めながら、ひとつの答えを導き出していた。


(写真を入れて欲しいと無意識で思うほどに・・・君を大切に想っていたんだろうね・・・・・・)


「さて。今度、新聞社の後輩に二人の写真を撮ってもらおうか。いつでも眺められるように・・・ね」
「はい!」
 がロケットを握り締める。
 まだ誰の写真も入れていない。





 二人の写真をって意味でしょう?
 大切な人は決まっているから───






 2006.08.10
 何かがアヤシイ。まだ全員の口調を把握できていないとみた(笑)