誕生日でした!





 朝から・・・でも、朝だから。
 今日も一日、ちゃんを貸切させてね?



ちゃ〜ん!ご飯食べよう、ご飯」
 わざとらしくやや高めの声で隣のに話しかける。
「・・・・・・ご飯・・・お弁当・・・・・・ご飯・・・・・・時間ないもん」
 が起きて作りたかった本日のお弁当。
 景時によって邪魔をされ、寝坊を通り越して時間は既に昼だった。

「え〜っと・・・朝ご飯はぁ・・・うん。隣に用意されてそうだよ?さっき音がした〜」
 背を向けて横になっているに擦り寄る景時。
「・・・私がしたかったのにぃ」
「うん。・・・ごめんね?」
 つい口から出てしまった景時の謝罪の言葉に、が振り返った。

「・・・ごめんなさい。せっかくのお誕生日ですもんね」
 が起き上がろうとするのを景時が抱き寄せた。
「ね、二人で謝っちゃった時はどうする?」
 二人で謝ったのだから、普通に考えれば相殺だ。
 どちらも悪くないからナシというところだろう。
「・・・二回キスしてナシにするとか?」
 の嬉しい思いつきに、景時が素早く反応して軽く一度唇を合わせる。
「もう一回イイの?」
 頷くに再び口づけると、ようやく二人は褥から起き上がった。





「ご飯、温かいですね?どうしてだろ〜〜〜」
 炊飯ジャーなど無いのだから、炊きたて以外でこの温かさは不可能である。
「う〜ん。お昼用・・・なのかなぁ?武家風にしたとか・・・ほら。貴族は朝晩だけだしね」
 景時にも疑問ではあるが、敦盛が手配したのならばが三食派な事は知っていると思う。
 帝の別荘だろうと、食事の支度は過ごす者に合わせてくれたのだろうと結論付けた。
 真相は弁慶が起きてこないだろうからと敦盛に言ってあったというだけなのだが。

「炊きたて、嬉しいですね!お魚も!」
 食事が温かい事にどれほど感謝しただうろか?
 が元気にご飯を食べる姿を見られるのが嬉しい。
 昨夜はやや無理をさせてしまい、許してはもらえたものの景時は自分を制御出来ないでいる。
 

(・・・変なんだよな・・・・・・ちゃんにこんなに甘えてちゃダメだって)
 羽目を外し過ぎだとは思うが、止まらない。

「こういうのもいいね?二人だけ〜で旅行して。ご飯を一緒に食べて」
 つい口から零れた景時の思い。
「うん!でも・・・夏に鎌倉行くんでしょう?もっと長く一緒ですよ。それに、二人で旅行な
のに、別々にご飯って・・・変だよ?」
 景時の言葉を素直に受け止めたの、尤もな意見。

「・・・あはははは!参っちゃったな〜。そうだよね、二人なのに別って、仲が悪いみたいだ」
 二人きりという限定の意味で言ったつもりが、ややズレて受け取られてしまった。
 の中では二人は当然らしい。そのまま訂正することなく笑い飛ばす。
 が居るならば、不安すら吹き飛ばせそうだからだ。

「そう、そう。夏休みって言ってたよね?夏・・・はあるのに、他はないの?ほら、冬〜とか」
 季節の中で、夏だけに休みがあるのだろうかと景時がに尋ねる。
「あ!いちおう全部あるんですけど。夏が長いの。冬が夏の半分くらいで、春も少なくて、秋は
おまけであるんですよ?・・・そうだ!毎年、景時さんの誕生日に春休みにしてもらいましょう
ね!そうすれば、毎年お誕生日出来るし。・・・少し長くもらえたら、お出かけも・・・・・・」

 ようやく景時は自制がきかない理由がわかった。
 が先に景時を自由にさせてしまうからなのだ。
 景時が考える前に楽しい予定を決めたり、二人でという方向に話が進んでいる。

「あ〜っと・・・うん。長くは無理だろうケド。出湯は毎年にしたいな〜って思う。いや、する!」
 箸を握り締める景時。
「ご飯粒、飛ばしちゃって!ダメですよ〜。こんなピカピカご飯は大切にしなにきゃです。毎日
田んぼでせっせと働いている人たちを見てるとね、エライな〜って」
 景時の頬に着いたご飯粒に手を伸ばし、が自分で食べた。
ちゃんは・・・いつ・・・その・・・田んぼへ?」
 梶原邸は町中だが、少し歩けばいたる所に田も畑もある。が、家の外へ出なければ見られない。
「あ、皆でですよ。去年の景時さんが帰ってこない時とか。白龍を連れてお散歩したの。小川が
あって〜、めだかがいて!景時さんと歩きたいな〜って、春をね、楽しんでました」

 
(まただ・・・・・・オレが居なくても。オレを想ってくれる人が、オレにはいるんだ)


「めだかかぁ・・・そうだなぁ。去年は・・・思い出したら、疲れてきた・・・・・・」
 項垂れる景時。

(あれは・・・相当疲れた。離れ離れの時間が。徹夜も通り越すと殺気立ってたよな〜)
 仕事はいつか終わるはずと思うのだが、家に帰れない事が何より堪えた。

「え〜!お弁当届けに行くの、楽しかったですよ?最初はお仕事してるトコに行ったら邪魔かと思って。
すっごく・・・会いたいの我慢してたんですよ?でね、行ったら皆お腹が空いてるって」
 も思い出していた。お弁当の差し入れぐらいで非常に喜ばれた理由を知って驚いた事を。
 食事もしないで仕事をしていたとは思わなかったのだ。
 もっと早く弁当を届ければと悔やまれた。
「あ〜、愛のお弁当ね!あれは・・・救われたなぁ。お弁当があるようになってから、仕事の進みが
三倍だったもんね」
 食事の間だけはが居てくれるのだ。
 今日のように二人ではなかったが、景時にとっての心休まる時間。
「もぉ!愛のとか、変な言葉足さないで下さい!普通のお弁当です!オ・ベ・ン・ト・ウ!!!」
 真っ赤になってが抵抗する。
 弁当を毎日届けただけなのだ。
 余計な言葉を足されると、密かに想っていた事を見透かされている様で恥ずかしい。
「だ〜ってさ、ちゃんのお弁当豪華だったもんね。譲君と考えてくれたんでしょ?」
 味も栄養も計算された、九郎、弁慶、景時、それぞれ違う弁当。
「考えた・・・けど・・・景時さんのは・・・全部私が作ったんだよ?」
「うん。知ってる。だから愛・・・・・・」
「も、お弁当の話はおしまい!はい、ごちそう様でした〜〜。温泉へ入ってお散歩しながら帰りましょ」
 箸を置いて、さっさと礼をする
 景時は食べ終わっていたので、続いて礼をした。



「じゃ!一緒に!温泉〜〜〜」
「景時さん・・・元気すぎ・・・・・・」
 食べ終わるとスキップをしながら景時は荷造りを始めた。
「景時さ〜ん?」
「ん〜?もうすぐだから。馬にちょちょいって。あ、今日は羽衣はナシにしようね」
 の着けていた羽衣を大切そうに最後に篭へ入れた。
「は、はい。えへへ」
「記念にとっておくからね?」
 何の記念なんだ?と、ツッコミする人材がいなかったのは幸運な事だった。





「温泉は〜外ですよ〜〜〜って・・・うわっ。何、これ!」
 歌にならない歌を唄いながらご機嫌だった景時の声が止む。
「景時さん?!どうかしたんですか?」
 景時の声に慌ててが手拭で体を隠しながら脱衣の小屋から出てきた。
「う〜ん?花がね・・・・・・」
 昨日はなかった花弁が温泉に浮かんでいる。
 誰かがしない限り、この近辺に梅も桜も桃も無い。

(やられた!帰りにまた寄るって、わかっちゃってたみたいね〜〜〜)

「わわわっ!お花〜!キレイ」
 が手で湯をすくい上げ、花弁が湯とともに流れ落ちるのを目で楽しむ。
「入らないともったいない!」
「きゃっ!」
 を抱き上げて温泉へ入る景時。
 湯に浮かぶ花弁が波に揺れた。



「朔と・・・一緒に来たいなぁ・・・・・・お肌つるつるで。花の香りも・・・・・・」
「え〜!オレは?オレ、朔とは入れないよ〜〜〜。叱られるっ」
 考えただけで恐ろしい。
「大丈夫ですよ。皆で来て、龍神温泉の時みたいに別の方にすれば。向こうにありましたよ?」
 昨日は勢いのまま騙されたが、この温泉も男女別の湯があったのだと気づいた
「あらら、バレちゃったか。だってさ、ちゃんと入りたかったんだ」
 あまりに素直に言われると、叱りなれていないには景時を叱る事は出来ない。
「・・・いいですよ。誰もいないし。別だとおしゃべり出来ないですもんね」
「そ〜そ〜!おしゃべり、おしゃべり」
 二人でのんびり湯につかれば、そろそろ日が傾き始めていた。





「梅しかお土産ないですね?」
 途中で手折った梅の枝を手に、が残念そうに顔の前で軽く枝を振り香りを楽しむ。
 買い物に来たわけではないのだ。
 土産物屋があるわけもなく、何となく手持ち無沙汰の
「いいの、いいの。オレたちが元気に“ただいま〜”ってね!」
「・・・そうですね。そうしよ〜っと。これ、押し花にしてもいいでよすね。文に入れるの」
 花弁を押し花にして、文に挟み込むのだ。
 相手が文を開いた時に、香りも花弁も楽しめる。
「へ〜〜、雅やかだね。・・・誰に?」
 文を書く相手が気になる。
「え?景時さんに。だって、文を書いたらお返事くれるでしょう?」
「えっ・・・・・・」
 は最初から景時の家に居たのだ。文を書く理由がない。

「あ、あの・・・お歌は出来ないけど・・・景時さんの文・・・欲しいな・・・・・・」
 先に書けば返事をもらえるだろうと思うが、文字には自信が無い。でも、景時の手紙が欲しい。
 文字の練習でもらった歌の短冊ではなく、宛の文が。

「・・・ごめんね〜。オレって、そういうの疎くて。ちゃんは文が欲しかったのか・・・・・・」
 が喜ぶ顔が見たくて、時間があれば小間物屋を見て回ったり、遠出の土産は欠かさなかった。
 しかし、が一番欲しかったものは、もっと簡単で別のモノだったと知る。

「えっと・・・無理にとかじゃなく、そのぅ・・・ついででいいっていうか・・・・・・」
「ううん。時々こっそり書くね。そうだな〜、今度遠出があった時は、毎日思った事でも書こうかな」
 

 毎日、に会いたいと。
 声が聞きたいと。
 夢でいいから会いに来てと。
 思いつく限りの言葉を並べようと思う。
 帰ってから読まれると恥ずかしいかな?


「はい!あ、もう門だ。お家に着きました!」
 梶原邸の表門に立つ警備の武士が見える。家までわずかの距離。
「はぁ〜〜〜、誕生日終わるの早すぎ」
「また来年ありますよ?」
「・・・そうだね!じゃ、もう一度ちょ〜だい。ココに」
 景時が自分の唇を指差す。

「も、もうお家に着くし、外ですよ?」
「え〜〜〜、こんな夕闇なら見えないよ」
 景時は手綱を引くと、馬の足を止めた。

「・・・一度じゃなくて、たくさんあげます」
 このままでは目の前の家に永遠に帰りつけない。
 が景時へキスをする。
 可愛らしく何度も啄ばむキスを繰り返す。
 景時の瞳が閉じているのだ。
 満足するまで開かれないであろう瞳を観察しながら、キスを続けた。



 門の傍で馬が止まっていれば、相当に怪しい。
 が、馬の主が誰か知っている警備の武士たちは必死に見えないフリを続ける。
 誰もがこの家の奥方の涙に弱い。
 見られていたと知れたら、また部屋に引きこもられてしまうからだ。

「・・・武士って損だよな。夜目がきくし」
「そうだな。でも、景時様が怖いし・・・それよりも・・・・・・」
 門の内側を振り返れば、出迎えのために姿を現した朔と白龍がいる。
 見たなどと、口が裂けても言えないのだ。
「俺たち警備だからな」
「そう、そう。前だけを見てればいいんだよな、今だけ」


 可愛らしい奥方の笑い声を誰もが喜びとしている、梶原邸の者たち。
 温かい出迎えを受けるまで・・・、あと数分の時を要した、景時、大満足の誕生日だった。






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ここまで書きたかったんですよ〜v 景時くんに、すぺしゃるはっぴいでいをでした☆    (2006.03.08サイト掲載)




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