ホワイトデーなるもの バレンタインデーからいくつかのイベントを挟み、船の上で迎える事に なったホワイトデー。 知識については、バレンタインデーの時に譲から仕入れ済みの景時。 されど、問題は山積み。 からもらったお守りを握りしめながら考える。 (オレは彼女に相応しくない───) この大きな秘密がある限り、の想いに応えるべきではない事は わかっている。 (ちゃんとの約束は、守れない───) 『一緒にいる』、それだけの事が景時には重く圧し掛かる。 (前はあんなに嬉しかったのにね───) の言葉が欲しくて追いかけっこをした頃。 共に過ごした月日に押し潰されそうになる。 (一緒に逃げてくれと言ったら、君はどんな顔をするんだろうね───) 戦いに決着をつけたくはないが、景時は仕事に戻った。 「最近、変なの」 が朔を船室へ引っ張り、いきなり告げる。 「変って・・・何かあったの?」 何が、どう変なのか?必要な言葉が足りなすぎる。 「もう!景時さんだよ〜。海を見ながら、こう、“ぼ〜っ”と・・・・・・」 「兄上が“ぼ〜っ”としているのは、いつもの事だし・・・・・・」 痛いことだが、事実だ。朔はに嘘を言うつもりはない。 「そういう“ぼ〜っ”とじゃなくて。なんだか海に飛び込んじゃいそうで・・・・・・」 「兄上にそんな根性はないわ」 の心配を余所に、朔は笑いながら断言した。 「そうかなぁ・・・・・・朔がそう言うなら・・・・・・うん」 景時を探そうと、は船室を出た。 景時の姿を見つけたものの、いつも誰かといて話す機会が得られない。 そんなを見つけた譲。 「先輩、どうしたんですか?」 「あ・・・譲くん・・・・・・」 つい気が緩んでしまったは、譲の袖を掴むとぼろぼろと目も閉じないで 泣き出した。 「せ、先輩!あの、向こうへ行きましょうか」 を隠すように船縁へ移動した。 「先輩、何かあったんですか?」 譲もも海の方を向いたままだ。 「・・・・・・私、景時さんに悪いことしたのかなぁ?景時さん、最近変だよね?」 何かあっただろうか?雛祭をした時は、普通だった。 「あ〜、海をよく見てるかも知れませんね」 「だよね!」 が譲の発言に飛びついた。 「・・・朔はね、心配ないって言うの。でも・・・・・・」 「本人に聞く方が早いんじゃないですか?海は、見てると落ち着くし。理由なん て、無いかもしれませんよ?」 譲の言葉に、思い当たる事があるは素直に頷いた。 「そうだよね、海って見てると落ち着くよね!」 (あの時・・・景時さんが私を迎えに来てくれた───) 景時の心は見えないが、見えないなりに自分がすべき答えを見つけた。 「ありがと!譲くん」 の後姿を見送りながら、譲が呟いていた。 「・・・今日はホワイトデーですよ、景時さん」 「ちゃん、ちょっといいかな?」 日も沈んだ頃、景時がと朔の船室を訪れた。 「兄上!もう外は暗いんですよ!」 朔の目尻が上がる。 「い、いや〜、今日はバタバタしちゃって。ちゃんと話したいな〜って」 弱気な景時を見て溜息を吐くと、の背中をとんと押し出した。 「ちゃんと部屋まで送り届けて下さい」 「あ、ありがと・・・朔」 景時は、の手をとって外へ向かった。 「ちゃん、ごめんね遅くに」 会話もないままここまで二人は歩いてきた。 「・・・・・・私も、話したかったから・・・・・・」 「そっか。今日ってさ、ホワイトデーって言うんでしょ?」 しばしは考えた。ここにはカレンダーがないので、中々日付はわからない。 「今日って、14日ですか?」 「そうだよ。そして、オレが君に上げられるものはこれしかないんだ」 景時がに差し出したもの。それは、が贈ったお守りだった。 「これ・・・どうして・・・・・・」 の目にみるみる涙が溜まっていく。 「これからの道は、オレが一人で進まないといけないんだ。これは、受け取れな いんだよ・・・・・・」 から目をそらして、海を見つめる景時。 「オレの手は、もう汚れているんだ。これからも汚れる事をしなきゃならない。もう 引き返せないんだ・・・・・・」 が景時の腕を掴み、無理矢理お守り袋を持たせる。 「これは景時さんの物なんです。こんな事して欲しくて作ったんじゃないです!それ が絶対に景時さんを守ってくれるから。要らないなんて言わないで下さい」 「ちゃん・・・・・・」 景時はへ伸ばしそうになる手を必死に押し止めた。 「ホワイトデーって、別に告白の返事期待したわけじゃないし。わ、私だって、景時 さんに釣り合わない事くらい、わかってます。でも、景時さん私を迎えに来てくれた から・・・・・・一緒に夕日見てくれたから・・・・・・」 は俯きながらも必死に続ける。 「ホワイトって、白って意味なんです。白色の意味知ってますか?白は光の意味な んです。朝の光は白いでしょう?景時さんは、今日を迎えた時点で綺麗になってい ます。汚れてなんて・・・いない・・・です・・・・・・」 涙を零しながら、の脚が震えていた。 「私は、景時さんが大好きで。私の気持ちは景時さんに言われたからって変らなく て・・・・・・」 景時がを抱きしめた。 「ごめん・・・・・・泣かせるつもりなんて、無かったのに・・・・・・」 「な、泣いてなんてないです!」 「嘘ばっかり・・・・・・」 指での涙を拭った。 「君に触れると、汚しちゃいそうだ・・・・・・」 「・・・・・・今日からは大丈夫なんです。ホワイトデーだから」 「そっか・・・・・・」 の額に口づける。 「・・・・・・景時さん、ちゃんと下さい。ホワイトデーだから・・・・・・」 が目を閉じて景時を待つ。 「御意〜」 何度も口づけを交わす。 (またちゃんに救われちゃったな───) 暗い海に引き込まれそうになる心を。赤い血に染まりそうになる両手を。 「ホワイトデーか・・・・・・」 「はい」 これからあと何回迷うだろうか?何度諦めたいと思うのだろうか? 景時にもわからない。わからないが─── 「ちゃんの手は、白いね」 の手に唇を寄せる。 この手が、景時を引き上げる。この手だけが、信じられる。 「あのさ・・・何も用意出来なかったんだよね。オレでいい?」 に囁くと、は首まで赤くなった。 「あ、あの・・・そんな・・・えっと・・・・・・」 が困った様に俯いた。 「そうだね、オレがいい!そうしよ〜〜〜」 を抱き上げると、景時の部屋へ向かう。 明日、一緒に朔に怒られてね?─── |
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ホワイトデーに白をかけて。景時の迷いまくっていた時期かなと。 (2005.3.5サイト掲載)