バレンタインって・・・・・・





「節分・・・?」
「ですよ。もっとも、ここの暦と、もとの世界じゃ違いますけどね」
 譲は、合戦を前に準備をしていた。
「一ノ谷の合戦って、二月七日なんですよ。日本史で覚えたのが間違っていなければ」
 弓の弦をかけおわったらしい。手を休めることなく、次の作業をしている。
「その後、屋島の戦。二月十八日かな?この辺りはもう曖昧ですけどね」
 そのまま矢を束ねる。
「じゃあ、俺、弓の稽古するんで」
 譲はさっさと行ってしまった。

「そっか・・・二月七日なんだ・・・・・・」
 は、節分の今日よりも、戦いの日が気になった。
 一ノ谷の合戦、今度は負けるわけにはいかない。

「でも・・・二月ってバレンタインデーだよ・・・・・・」
 は今までに、義理チョコ以外渡したことがない。
 少々のん気だったせいか、幼馴染たちにガードされていたせいか。
 特に好きな相手ができなかっただけというか。しかし、今年は違う。
「景時さんに・・・あげたいなぁ・・・・・・」
 ふと声に出して、思ったことを呟いていた。

「何かオレにくれるのかな?」
 後ろから、景時の声がした。
「へっ?ひゃーーーーーっ!!」
「やだなぁ〜、オレを怨霊と間違えちゃった?」
 叫んだ理由は違うのだ。
「あのっ、そうじゃなくて。誰もいないと思っていたから驚いちゃって・・・・・・」
「ふ〜ん。悪かったね、驚かせちゃって」
 景時は、いつものように軽く笑った。
「九郎がね、刀の確認をって言ってたから。呼びに来たんだけど・・・・・・」
 景時は、に向かって屈む。
「で?何?」
「は?」
「ん〜、言いかけてやめられると気になっちゃうな〜〜、なんてね!」
 このままでは、『何か』がわかるまで景時に追求されるだろう。

(チョコもないのに、あげるものないんだってば───)
 仕方がないので、イベント内容について軽く説明して逃れようと思いつく。
「私たちの世界では、二月十四日にバレンタインデーというイベントがあって」
「“ばれんたいんでえ”・・・?“いべんと”・・・・・・?」
「あ、“イベント”は行事ってことです。バレンタインは・・・行事の名前です」
「へ〜、行事ね。うん。で?」
 さり気なく先を景時に促される。
「女の子が、男の子にチョコレートをあげる日なんです。だから・・・・・・」
「“ちょこれえと”っていうのをあげるの?誰にでも?」
 
(・・・・・・マズイよぅ。どうしてこういう時だけ勘がいいんだろ〜〜)
「えっと、近しい人だけです。誰にでもじゃないです。お父さんとか」
「だけ?」
「うぐっ・・・私は将臣くんと譲くんにもあげてましたけど・・・・・・」
「だけ〜?」
 景時は、かなり疑っているようだ。顎に手を当て、なにやら思案顔だ。

「だから、景時さんにあげてみたいな〜って思ったんです。でも・・・・・・」
 景時が首を傾げた。
「でも?」
「こっちの世界にチョコレートってないんですよね・・・あは!そんな感じで!」
 は笑って誤魔化した。
「ん〜。ようするに。女の子が『近しい』男の子に“ちょこれーと”をあげる日なんだ」
 景時は、『近しい』を強調した。
「そうなんです。ごめんなさい・・・・・・だから何にもないんです・・・・・・」
 あげたいけど、渡すものはない。これで問題解決できたとは思った。

「でも、それをオレにあげたいな〜って思ってくれたってことだよね?」
 解放されると思ったの予想を裏切り、なおも景時は続ける。
「家族とか、近所の人だけ〜?恋人にはあげないの〜?『近しい』って家の距離の問題?」
「い、いや、距離じゃなくて・・・付き合いっていうか・・・・・・」
「それをオレになんだよね〜?」
「・・・はい・・・・・・」
「ほんとはさ、少し違うんじゃない?」

(ス、スルドすぎるっ!)
 は、心で“ピーンチっ!”と叫んだ。

「まぁ、ちゃんが教えてくれないなら、譲君にきこうかな。うん。それがいいね」
 景時は、踵を返すと立ち去ろうとしていた。

(ギャーーーーーーーーッ!そんな事、譲くんにきかないでぇぇぇぇぇ!!!)
「か、景時さんっ!」
 は慌てて景時を呼び止めた。
「ん〜?九郎が呼んでるから、よろしく〜」
「景時さんっ、違うの。違うの〜〜〜」
 は、ペタリとその場にしゃがみこんでしまった。
 どうしてこんなことになってしまったのか。
「よいしょっと。なにかな?」
 景時は、の正面にしゃがんだ。
「ホントは・・・女の子が好きな人に告白するっていう日なの。その時に渡すのがチョコレートなの」
「うん。それで?」
「だから・・・いない人は、なんとなく近しい人に渡すって感じというか・・・・・・」
「うん」
「私・・・初めてちゃんと渡したいって思う人ができたから。バレンタインしたかったの・・・・・・ふえっ・・・」
 ついには泣き出してしまった。

 景時は、を立たせるとそっと腕を回した。
「ごめんね。泣かせちゃったね。でも、ちゃんが悪いんだよ?オレ、お父さんと一緒じゃ嫌だよ〜」
 が顔を上げると、景時が困った顔をしていた。
「だってね?他の八葉もいるのにオレの名前言ってくれたでしょ?それがお父さんじゃさ〜」
「ごめんなさい・・・・・・」
 は、景時の方が泣いてしまいそうな顔をしているので謝ってしまった。
 
 景時は、に向かってニッコリ微笑むと、
「よしっ!じゃ、ちゃんを替わりに貰うとして。告白、待ってるからね!」
「は?」
 は展開の速さについていけてない。
「だから〜。ちゃんからオレへの愛の告白!」

(やられたっ!)
 は景時に騙されたのだ。どの時点で真実に気がついていたのだろうか?
「もう、知りませんっ!」
「え〜、してくれないのぉ〜〜〜」

 
 怒りでドスドスと歩くを、景時がちょこちょこと後ろから追いかける姿が、
 しばらく源氏の兵たちの噂になっていたらしい。
 
 ───もう神子様の尻に敷かれてるなぁ、景時様は!
 こんな感じ?Happy ValentineDay!!!





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バレンタインどころじゃないでしょう、お二人v戦場だってば!     (2005.2.6サイト掲載)




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