イチゴの誘惑





「景時さん!どれがいいと思います〜?」
 休日にレンタルのDVDを観ていた景時と
 最初にイチゴが食べたいと言い出したのはだ。
 景時が買ってくると言ったのだが、共に行くと言われてしまい現在に至る。
 スーパーの果物エリアでイチゴを物色中の二人。


「・・・これ・・・大きいね?」
 イチゴといっても、昨今では品種改良の恩恵に授かり、多種多様。
 選ぶのにも一苦労である。

「あっ!それ、テレビで観ました。人気あるみたいですよ?大きくて、お饅頭みたい」
「うん。イチゴって、こんなのかと思ってたよ〜」
 景時が人差し指と親指で摘まめるサイズをして見せる。

「景時さんは、大きなイチゴ初めてですか?これにね、牛乳をかけてぎゅぎゅってして
食べると美味しいんですよ。小さい時にしてたの」
 小粒のイチゴならば、二個分もありそうなイチゴが並ぶ。
 どれをみても赤くて甘そうだ。

「牛乳?ぱくっといかないの?」
「う〜んと・・・イチゴ牛乳みたいになるの。少しだけお砂糖いれたり。友だちは
コンデンスミルクだったって。最初からあま〜い、牛乳凝縮のチューブがあって」
 景時の眉間に皺が寄る。
 どうやら、が説明している商品がわからないらしい。

「そうだ!イチゴパーティーしませんか?たくさんイチゴを食べるの!」
 イチゴのパックをひとつカゴへと入れる
「景時さんは?どれを食べてみたいですか?」
 もうひとつ買うつもりらしい。
 そして、それを景時に選ばせようというのだろう。

「う〜ん。どれがいいんだろう・・・・・・これ〜?」
 が選んだものより、さらに大きなイチゴを手に取る。
「うわ!私の手のひらくらいあるかも。楽しみですね!」
「大粒って、粒っていう言葉にあってないよね〜」
 粒とは気分的に小さなものを対象にしている言葉だ。
 手で摘まむのではない大きさに適用するには、対象が大きすぎる感がある。
 笑いながら売り場を巡ると、が大好きなエリアにたどり着く。


「景時さん!イチゴのお菓子がたくさん!」
 売り場のとある一帯が、なんとなく桃色系統だ。
 イチゴは赤くても、イチゴの菓子となると、赤から桃色になるのだから不思議だ。
「これは・・・チョコ。これは・・・タルト。これは・・・・・・」
 ありとあらゆる菓子が並ぶ。
 でなくとも迷うだろう。

「全部買ってみたら?イチゴパーティーなんだよね?」
 景時の手が伸び、棚の右から順にカゴへと入れられる。
「うわわ!そんなにたくさんは無理〜!厳選して、五個くらいまでですっ!」
 いかにもが好きそうなチョコレート菓子がカゴの中に収められる。
 やはり厳選の品は、チョコレート系統らしい。
 ビスケットなどのスナック類は除外されている。

(可愛いなぁ〜。真剣に悩んじゃってさ)
 の横顔を盗み見しながら、ふと最初の会話を思い出す。

「ね、ちゃん。コンデンスなんとかっていうのはどこかな?」

 景時に問いかけられ、が振り返る。
「もちろん買いますよ!あれはね、お菓子を作る方のコーナーです。お家でも作れる
けど、買った方が濃くて美味しいんですよ!」
「そうなんだ。作れるんだ〜」
 新しい知識を仕入れた景時。
 かなり気になる。
 そんな景時の表情の変化に気づいた

「景時さん!お家で作ってみます?牛乳にお砂糖を入れて、煮詰めるだけなんです。
コンデンスなんてカタカナでいうと格好いいけど、おばあちゃんは練乳って言ってたし」
「れんにゅー?」
 またしても新しい語彙が飛び出してきた。
 こちらの世界へ来て、ある程度の生活するための知識は龍神の力で植えつけられたが、
細かい事は案外初めてが多かったりする。

「練るって書いて、牛乳のにゅう。いかにもお砂糖とまぜまぜして練ってそうでしょ?」
 はどちらかといえば祖父母に懐いていた。
 お陰で年齢の割りに古いことをよく知っている。
 その古いことですら景時には初めてで新しかったりするのだが、突然今の時代に合わせる
よりは近しいので、想像してついていけるきっかけになっていた。
 それは将臣と譲にもいえる事で、彼らも祖母である菫に懐いていたのだ。
 だから異世界へ行った時にも、遅れた時代の習慣に馴染むのが早かった。

「作りたいな〜。いいかな?」
「いいですよ!ついでにジャムも作ってみますか〜?」
 ふと思い出したが口にする。
「へ?ジャムも作れるの?それもしたい!ジャムも出来るんだ〜」
 景時の瞳が輝きだした。
 まさに発明を思いついた時と同じ、好奇心に満ちた瞳。
 これには弱い。ものすごく、とても、かなり弱い。
「じゃあ!もっとイチゴ買いましょうね。お砂糖もたくさんいるし」
 イチゴパーティーから、イチゴのために何かを作る会に変わってしまっていた。





 帰宅すると、の指示に従いジャム作りにとりかかる。
 と、いっても、最初は何もする事がない。
 イチゴを洗ってヘタを取り、鍋にいれて砂糖をかけておくだけ。
「・・・これで何が起きるの?」
「水分が出てくるんです。その汁が出た状態で火にかけて煮詰めるの」
「そういう事か〜。な〜るほど」
 既製品を買っていては気づかないが、作り方を言われれば納得する。

「お砂糖を使うと長持ちするしね〜。元々はそういうのが始まりだったんだろうな〜」
 イチゴを洗いながら、景時が一粒つまみぐいをする。
「あっ!景時さんズルイ。私も、私も!」
 砂糖をスケールで量っていたが、口を開けて食べたいと強請る。

「はい、ど〜ぞ!」
 景時がヘタの部分を摘まんでにイチゴを差し出すと、が齧りつく。
「・・・・・・あま〜い!これ、アタリですね!」
 の笑顔が眩しい。
 が、景時の視線は笑顔という全体よりも、唇に注がれていた。


ちゃん」
「はい?」


 が振り返る。
 呼ぶと必ず答えてくれる存在。
 声にならない叫びにも気づいてくれた、ただひとりの人───


「・・・イチゴ味だね」
「・・・景時さんもですよ?私だけじゃないです」
 軽く唇を触れ合わせた時に、甘味を感じた。
 イチゴの所為だけではない何か。


「えっと・・・練乳作ろうか」
「はい。後はこれをまぜまぜしてるだけです」
 小鍋に牛乳と砂糖を入れてガスにかけた
 煮詰まるとやや褐色になるのが出来上がりの合図だ。

「どれぐらいするの?」
「弱火で一時間くらい」
 一時間はとキッチンにいられるらしい。


「もうひとつ、食べる?」
 景時がイチゴを差し出すと、が食べる。
 が齧りきれなかった分を景時が食べてヘタだけを捨てる。

「景時さん。これだと、一番美味しいトコ食べられてないですよ?」
「そうでもないんだな、これが」
 軽くの唇を啄ばむと、やはりイチゴの味がする。


「ね?オイシイって、こういう時に使う言葉なんだよね?」
「ちょっと違うけど・・・・・・。いいことにします」
 真っ赤になりながら、それでいて小鍋の中をかき混ぜる手は休められない

「ちょっとも違わなくなるまで覚えないとね〜」
 なんとも都合のいい理由をつけて、同じ行為を繰り返す景時。
 イチゴではなく、の唇を味わうために。


「・・・・・・練乳が出来る前に、イチゴが無くなっちゃう」
 何度か繰り返した後、が呟く。
 それは、文句というよりも、手元で作り途中の練乳を使う対象が無くなるという
ただそれだけの意味であり、景時の行為を詰るものではない。
 その証拠に、景時がイチゴを差し出すと、また食べている。


「うわ!どうしよう。後は練乳ができたら続きをしようか〜」
 景時がイチゴを洗う手は止まったが、練乳が完成しても、は自分でイチゴを
食べられないらしい。
 景時はしっかり続きをするつもりなのだから、食べさせられるのだろう。


「景時さん。景時さんはジャムの瓶の消毒して下さい!熱湯消毒!」
 隣に景時がいては、が手を離せない状況を上手く使われまくりだ。
 どうにか側から引き離す理由を考えた結果、ジャムの瓶を思いつく。

「御意〜!まずは熱湯だもんね!」
 大きな鍋に水を入れガス台へとのせる。
 は自分のより近くへ景時を引き寄せる事を言ってしまったのだ。
 まんまとすぐ隣に景時が立っている。


 景時が動く気配を感じて隣を見上げると、微笑まれてキスされる。
 まったりとした休日の過ごし方。

 イチゴは食べる時に、食べる分だけ洗いましょう。
 誰が食べる分かは気分次第───






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 食べさせ合わないんですね〜景時くんは望美ちゃんに食べさせるのが楽しいらしい(笑)     (2007.01.15サイト掲載)




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