陰陽術 浜辺に全員がそろうと、景時は意気揚揚と口上を述べ始めた。 「今日はこの景時めのために、お集まりくださり、ありがとう───」 「兄上!口上は結構ですから、早くしてください!!!」 いつもながら朔のツッコミは早かった。 「そんな、つれないね〜。こういうのは、期待をあおってから、 ぱぁ〜っとするのが盛り上がるのにぃ───」 今日に限っては、九郎まで素早いツッコミをした。 「早く見せてくれ」 景時は、もう少し期待を煽りたかったが断念した。 「御意〜。見て驚いてくれよ」 早速銃を構える。何度も確認した。理論上はできるはずである。 呼吸を整え、引き金の指に力を入れた。 シュルルーーーーーー、パパパパンッ! バチバチ・・・・・・ 轟音とともに、夜空に花が咲いたようだ。仲間が感嘆の声をあげる。 全員が夜空を見上げる中、景時だけは少し離れての横顔を見つめていた。 が喜んでいる姿に、胸がふんわりとした。 (よかった、笑ってくれたね) どうやらの世界では“ハナビ”と言うらしい。 “カヤク”という物を使うと出来ると将臣から聞いた。 が、これに限って言えば、弾に呪を込めた陰陽術の応用だ。 修業していた頃は、自分の術が誰かの役に立つなんて、考えたこともなかった。 ひたすら出来ない課題に追われる日々。力のなさを恥じた。 発明は、出来ない自分のための、いわば逃げ道だった。 (出来ないものを、出来るようにするための・・・・・・) 「景時さん、すごいです!いつもこんな発明しているんですか?」 は景時に駆け寄り、夜空の花火を指差した。 「上手くいったのは、久しぶりだけどね」 景時の発明は、どちらかといえば失敗の方が多い。 小さな失敗は隠しとおせるが、これだけの規模で失敗したら・・・・・・ またしばらくは朔に口を聞いてもらえなかったことだろう。 「今日は朔に怒られずに済みそうだよ」 景時は、前回の失敗を思い出し苦笑いした。 ふと周りを見渡すと、景時とは仲間たちと離れてしまっていた。 (ふ、二人きりはマズイって!オレ・・・・・・) そんな景時の思いを知らずか、は身長差のせいで、上目遣いに 話し掛ける。 「小さい頃から発明好きだったんですか?」 は本当に楽しそうだ。 「そうそう、小さい頃から好きだったな〜」 景時は、適当に返事をした。 それにしても、先ほど考えていたことが、わかってしまったのだろうか? また幼少の記憶の波に漂っていた。 は、こんなに長く景時と話をしたのは初めてだった。 思いがけず幼少時の話まで聞けた。 やはり彼は、心優しく、聡い少年だったようだ。 先に相手が望むことに気がついてしまう。 だからこそ、望みに答えられない自分が嫌いだったのだ。 その気質は、今も変っていない。 (優しすぎるんだよね、景時さんは) 何やらブツブツ言いはじめた景時が心配になり、は声をかける。 「景時さん? どうしちゃったんですか?」 「ちゃんと話をしてるとさ〜、違う世界の話が聞けるでしょ? そうすると、色々思いついちゃうんだよね〜。ほんと、新鮮!」 どうやら景時は、新しい発明を思いついたらしい。 は、いかにも彼らしくて笑ってしまった。 景時は、が笑った理由がわからず、呆れられたと思った。 (嫌われちゃったかな。そうだよな〜、発明の話ばっかりでさ。 気の利いたことひとつ言えないんだもんなぁ) 「そろそろ帰ろうか。送るよ」 (朔と同じ年頃の女の子だもんね。気を遣わせちゃったな) 景時は、これ以上嫌がられる前に話を止めようとした。 「私と話をしても、つまらないですか?」 は、景時は自分と話しても、つまらないから切り上げたのだと勘違いをした。 (景時さん、優しいから・・・・・・。悪いことしちゃったな) 返事に困って、夜空を仰いで考えている景時。 (困らせちゃったみたい・・・・・・) は、これ以上困らせては悪いと、 「ひとりで帰れます。今日は楽しかったです。それじゃ・・・・・・」 くるりと背を向け、宿へ向かおうとした。 「ちゃん」 景時は、まずは引きとめようと名前を呼んだ。 彼の思惑通り、彼女の足は止まり、こちらを振り返る。 「オレは・・・・・・ちゃんと話すの、楽しいよ?」 の目が見開かれる。 「あの・・・さ。オレ・・・あんまり格好いいこと言えないから。退屈なんじゃないかって」 「そんなことありません!」 は、急いで景時の言葉を否定した。 「わ、私は。景時さんと、もっとたくさん話をしたいです!景時さんの事、知りたいです!」 は、発言の大胆さに言ってから気づき、真っ赤になった。 「そ、それって・・・・・・」 景時はの方へ近づく。は俯いてしまっている。 (もぉ〜!どうしたらいいの〜、こんな半端に告白しちゃって) の心は、もうパニックだった。 肝心の“好き”という言葉こそ言ってはいないが、言ったも同然の状態だ。 その場に石像のように固まってしまった。 「オレ、今から君に術をかけようと思うんだよね」 景時は、まで半歩の距離に向かい合って立った。 「いいかな?出来れば目を瞑ってくれるといいんだけど」 は訳もわからず、言われるままにギュッと目を閉じた。 景時の手がの両頬に添えられ、上を向かされる。 (───えっ?!) 瞼に何かが優しく触れた。 (今のって・・・・・・) 「目をあけて、最初に見た人を好きになる呪いをかけたんだけど。どうかな?」 景時は、勝負に出た。彼女は知りたいと言ってくれた。 少なくとも嫌われてはいないはずだ。 「ちなみに、今日のオレの術は失敗しないから。安心して目を開けて欲しいな」 は両目をゆっくりと開き、景時の姿をその瞳に映した。 景時の顔は、照れの所為で夜目にも赤かった。 はが景時に飛びつくと、しっかりと抱きとめられる。 「すっごい効き目です、この術」 「任せといて。一応は陰陽術つかえるからさ〜」 照れ隠しなのか、景時は軽い調子で続けた。 「いつもこれぐらい成功するといいんだけどね!」 の香りに酔いそうだ。初めて自分で望んだものを手に入れた。 (どうしよ。帰したくないな〜) 景時がそのような事を考えながらを抱きしめていると、 「この術は、私以外に使っちゃダメですよ?・・・・・・大好き!」 はドサクサにまぎれて、しっかり告白してくる。 (術をかけられたのは、オレの方だったみたい) 「そうだね。ちゃん限定でかけ続けるよ。オレもちゃんが好きだよ」 そっと彼女に囁いた。 |
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≪景時すきさんに5つのお題≫からお題拝借。お題元はコチラからどうぞ。
あとがき:なんちゃって陰陽師な彼が好き
(2005.2.3サイト掲載)(2005.8.15一部修正加筆)