お洗濯





 風に乗って景時の鼻歌が聞こえる。
「ふんふんふん〜♪」
 青空の下、洗濯物が気持ちよさそうに揺れている。
 は、景時の姿をみつけ、座って眺めることにした。
(源氏の軍奉行なのにね?)

 初めて会ったときも、彼はここで洗濯物を干していた。
(まさか、朔のお兄さんだったなんて)
 は手近な石の上を、軽く手で払ってから腰を下ろした。

 この世界に来たばかりのに、誰もが龍神の神子である事を求めた。
 今まで刀も持ったことがないのに、戦わなくてはならなかった。
 封印の力があると言われても、何を根拠に信じられるというのか。
 そんな時、景時だけが『怨霊と戦うのは嫌だよね〜』と言ってくれた。
 
(貴方から、目が離せなくなった・・・・・・)

 は景時が振向いたのにも気づかず、その時の事を考えていた。



「あれ〜?どうしたのちゃん」
 景時は、ぼんやりと考え事をしているらしいを見つけ声をかけた。
「空が青いなぁ〜って。庭に出て歩いていたら、景時さんがお洗濯していて。
気持ちよさそうだな〜って」
 は、慌てて立ち上がりながら答えた。
「でしょ〜?いいよね〜洗濯。こう、汚れが落ちてさ。着物をパーンッ!て。
水がキラキラ〜って。水ってすごいよね。なんだろうね。落ち着くんだよね〜」
 景時は、身振り手振りで話終えると、一度大きく伸びをしてからしゃがみこんだ。
 足元にあった盥の水を手にすくっては遊んでいる。

 はゆっくりと景時の方へ向かって歩いた。心臓が煩い。何か話さなくては、間が持たない。

「マイナスイオン効果なのかなぁ?」
 とりあえず、洗濯関係の話題にすることにした。
「は?“まいなすいおん”って何のこと?」
 景時は、聞いたことのない語彙に首をかしげる。
 その様子は、のお気に入りのポーズでもある。
 は、自分の知っている知識の精一杯で説明を試みた。
「水が持ってる“粒子”・・・って・・・。えっと、着物と糸の関係みたいなモノで・・・。
人は水ナシじゃ生きられないじゃないですか。でね、その粒子が人に働きかける力があって。
落ち着く、ゆったりする、そんな感じになるってことです」
 は、そろりと景時の隣に並んでしゃがみこんでみた。
「へ〜、物知りだね。“りゅうし”?だっけ。水にそんな効果があるんだ〜」
 景時は感心したように笑うと、また水をパシャパシャさせていた。


「さあ〜てとっ!」
 景時は立ち上がって、盥の水を庭に撒いた。
 の位置からは、小さな虹がみえる。
「虹色・・・・・・」
 虹色を弾く水滴のキラキラに目を奪われた。

「またちゃんにみつかっちゃったね。皆には秘密ね?」
 景時は、口元に人差し指を立てた。
 その表情は、大人に隠れてイタズラをした子供みたいだ。
「どうしようかな〜?」
 はわざと惚けて答えた。
「ええ〜?!た、た、た、頼むよ、お願いだから〜」
 景時は両手を眼前で合わせて、情けない声でに懇願する。
「また、虹をみせてくれるならいいですよ?」
 そう言って立ち上がると、は景時に右手の小指をさし出した。
「虹?あぁ、水滴のキラキラ〜ってヤツね?約束するよ!また、景気よく水撒いちゃうから!」
 景時は少し前に屈んで、の小指に自分の小指を絡ませた。
「だからさ・・・、今度は二人でしない?洗濯」
「い、いいですよ。こっそり声をかけてくださいね」


 洗濯は、二人だけの秘密。虹は、二人だけの約束。





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≪景時すきさんに5つのお題≫からお題拝借。お題元はコチラからどうぞ。

 あとがき:彼は、何度でも見つかるタイプだと思うんです(笑)     (2005.2.3サイト掲載)(2005.8.15一部修正加筆)




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