迷える羊  ≪景時side≫





 今日も真面目にお仕事しよ〜っと!
 元気に九郎の部屋にお届け物。
 朝一番に届いた文の山。全部九郎宛の分。

「おっはよ〜。はい!九郎の分」
「あ、ああ。早いな・・・・・・」
 黙って九郎が文を仕分けしている。
 九郎宛だけど、オレがする仕事はここで振り分けられるんだ。

「景時は・・・いつ今様を練習してるんだ?」
「へ?」
 何だってそんな話題が?オレの顔は変だったと思う。
「そ、その・・・あれだ!が景時の歌を聴くと楽しいって言っていたからな」
 いつ?いつそんな話を・・・・・・オレのちゃんと!!!
「こ、今度練習する時は、俺にも教えてくれ」
 ははぁ、こりゃ九郎の勘違いだ。
「う〜んとね。ちゃんの世界の歌を将臣くんに習ったんだ。だから、九郎が
思っている歌とは違うんだよね。今様じゃないんだよ。ごめんね?」
「そうなのか?!・・・・・・そうか・・・それなら仕方ない。では、これを頼む」
 しっかり本日の仕事を渡された。
 九郎もな〜。もう少し・・・そう。
 出来なくてもいいって気持ちを覚えた方がいいよ?
「はいよ〜、任せといて」
 適当に返事をして九郎の部屋を後にした。



 オレの執務室へ戻る途中で弁慶に会う。
「おや、景時。僕の言いつけをしっかり守っているようですね?いや、それ以上かな」
 褒められてる?でも、言いつけってなんだっけ?
「真面目に家に帰るばかりか、とてもさんを大切にしているようで。僕も驚きました」
 何が?っていうか、いつ見たの?
「・・・・・・大切にっていうか、大切すぎで何をしたらいいかわかんないっていうか。もう、オレも
どうしたらもっとちゃんと大切に出来るんだろうって考えてばかりっていうか・・・・・・」
 あっさり心情を吐露する。
 そうなんだよなぁ。
 大切って言葉は漠然としすぎて、どう行動に移せばいいのか不明。
「・・・・・・そうですね。でも、さんは、景時に大切にされていると感じているのですから。
あてられてしまいましたよ。引き止めてしまって、すいませんでしたね」
 言いたい事だけ言って、弁慶は九郎の執務室へ入っていった。
 ちゃんが・・・そうなんだ。気持ちが伝わってるのがわかって嬉しいな。
 待てよ〜。またも問題だ。いつよ、弁慶がオレのちゃんと話したのは!!!



 早速伝達関係の仕事を終わらせて、当番である市中見回りに出てみた。
「やっ!ヒノエくん。今日は情報収集?」
 見覚えのある背中を叩けば、嫌そうな顔で振り向かれてしまった。何かしたっけ?
「・・・・・・あんた、戦の最中はぼけっとしてたくせに。いつの間に女心に詳しくなったんだ?
姫君はアンタしか眼中にないようだぜ?贈り物は何がいいのか、こっちが教えて欲しい
くらいだ」
 は?ヒノエくんに女心を語れるほどの経験はないんだけど。
 腕組みしながら、オレは全身を眺められてしまった。
「蛍・・・ねぇ・・・・・・ほんと、思わぬ伏兵だったな。姫君を大切にしろよ?」
 蛍とちゃんの共通点がいまいちわかんないんだけど・・・・・・。
 もしかして、夏のアレの話?蛍を捕まえているところを見られたんだろうか・・・・・・。
 それは・・・かっこ悪いなぁ。ま、いいさ。



 後は神泉苑の中を一周すれば本日の見回り終了というところでリズ先生に会った。
「・・・・・・よく頑張っているな」
 このお方、オレより背が高い。
 日頃見下げられる視線を感じる事がないもんだから怯む。肩に置かれた手が怖い。
「あ〜っと・・・京の平和を維持出来ないと、ちゃんの頑張りがもったいないな〜と」
 仕事を褒められたのかと、普段思っている事を言ってみる。
「・・・・・・神子の腹の子も嬉しそうであった」
 それきり姿を消した。
 腹の子って・・・オレの子でもあるよな?嬉しそうって・・・何が見えているんですかっ?!
 あれかな〜、特別な能力があるから見えるのかな〜。
 だったら、“嬉しそう”というのは最高の褒め言葉だよ。
 ・・・・・・リズ先生、その能力何にどう使っちゃってるんですか〜?!



 神泉苑を出たところで、敦盛君に会った。
「景時殿!宮中の行事に精通されていると窺いました。先の戦のおかげで詳しい者がいなくて
困っていたのです。ぜひとも指南頂きたく・・・・・・」
 うわわわ!何、その縋るような目は。
「なっ、だっ、オレの知ってる事なんて、こんなもんだよ〜〜〜」
 指でちょっとぶりを見せてみる。
「いえ。過日の重陽の節句についても、由来までお詳しかったとの事。五節句ならばまだ文献
も多少はあるのですが、細かな行事についてはなかなか先例を調べるのにも大変で・・・・・・」
 あらら〜。頼まれると嫌とは言えないんだよなぁ、オレ。
 また朔に叱られるのを覚悟しながら、返事をしてしまう。
「いいよ、任せといて〜。オレの知ってる範囲でよければいつでもどうぞ〜ってね!」
「ありがとうございます!神子のお話通りでよかった・・・・・・」
 オレの手を握り締め、振り回すだけ振り回して行ってしまった敦盛君。
 あの・・・お話っていうのは、どんな“お話”だったんでしょうかね〜?
 ちゃんは、菊の話でもしたのかな?
 ・・・・・・まただよ。いつよ、ちゃんと敦盛君が話ししたのは。


 ようやく職場へ戻ると、譲君が居た。そっか、弓を習いに来たのかな。
「景時さん!景時さんは幸せものですっ」
 いきなりな話の展開に、オレはその場に立ち尽くした。
 うん、幸せ者の自覚はある。すっごい可愛い奥さんが家でオレの帰りを待ってくれてるし。
 ぼんやりしてしまったために、がくがくと譲君に揺さぶられながら彼の話を聞く羽目に。
「そりゃあ先輩の手料理を、誰よりも最初に味見をしたのは俺ですよ。でもね、それは成長過程
では仕方のない事なんです。所詮俺は、料理の先生で味見係りですから。そんなの、とっくに
わかってました。けど、先輩に“あなたの為に”って料理を作ってもらえるなんて!俺なんて・・・
俺なんて・・・・・・料理本代わりなんだぁぁぁ」
 涙を流しながら走る彼の後姿を見送るしか出来なかった。
 どうしたんだろう、いつも冷静な譲君らしくない。
 料理本代わり?むしろ、料理人でしょ。おや?
 ちゃんがオレの為にって言うのは・・・・・・そうだね。
 ところで、譲君が味見をしたわけ。オレより先に!大問題でしょ、そっちが。



 今日は立て続けに色々あって。どうもおかしい。
「九郎〜。見回り異常ナシっ!でさ、少し変な予感がするんだよね。抜けてもイイ?」
「・・・・・・に・・・か?」
 おおっ!九郎も話がわかるようになってきたね〜〜〜。
「うん・・・何となく・・・かな・・・・・・・・・・・・」
 胸が痛い・・・感じ?もやもや〜っと。
「なっ・・・すぐ行け!馬鹿者!!!」
「ありがと〜」
 言葉じゃ馬鹿って言われたけど。
 それはちゃんを大切にしろって意味だと分かってるから。



 今すぐ行くからね?ちゃん!






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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:迷ってるのは景時くんです(笑)皆の話で内心オロオロ。     (2005.10.2サイト掲載)




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