菊の花の効用  ≪景時side≫





 夏の水遊び以来の衝撃。
 その日は、仕事も段取りよく片付いてさ。

「じゃあさ、皆で家に来ない?おやつあると思うんだよね〜」
「そうだな。弁慶、行くぞ」
 九郎なんて、最初からそのつもりだったように机が綺麗で。
「はい、はい。ヒノエが戻ったら行きましょうか」
 将臣君たちはさ、きっともう行ってるかなって。
 内裏の時間は昔ながらの交替制だからね。
 オレと違って、ほぼ毎日食べられていいよなぁ。

 なんて事を思いながら我が家の門を潜って。
 オレだけ玄関へ。
 だってさ、アレしてもらわないと、落ち着かないっていうか。

「たっだいま〜!今日は皆も一緒だよ〜」
 出来るだけ早めに大きな声で宣言する。
 ちゃんが慌てないで済むように。
「おかえりなさ〜い!あれ?皆いない・・・・・・」
 なんというか・・・庭へ行ってもらって正解だよ。
 めちゃくちゃ可愛いけどさ〜。
 項が出てる!オレのだよ、それは!!!
 
 そこからしばらく記憶が途絶えて。
 ちゃんに髪を下ろしてもらって一安心。
 背伸びしたちゃんと口づけを交わしていたら・・・・・・。

「・・・・・・失礼した。白龍、行くぞ」
 やっぱりさぁ〜、黒龍の中身は大人のままなんだと思う。
 子供の姿を上手にご利用しているだけなんじゃないのか?!
 その・・・朔と一緒に寝てるし。
 元服前のお年頃だからこそだよ。
 白龍はどういったわけか、譲君に一番懐いていて笑える。



 楽しく皆でおやつを食べて。
 夕方には解散して。
 ちゃんは片付けをしている。

 将臣君に言われて思い出したけど、明日は忙しいんだね。
 オレには関係ないけど。
 九郎だけ忙しいだろうね〜、公式行事に出席だから。
 余分な仕事が来ない事を祈るばかり。
 家でも月見くらいしたら、ちゃんが喜ぶかな〜なんてぼんやりとしていた。

「景時さん!聞きたいことあったの思い出した〜〜〜」
 夕餉までには時間がある。
 朔が気遣ってくれたのかな。ちゃんが部屋へ戻ってきた。
「聞きたいことって?」
 ちゃんの質問は、突拍子もなくて慌てさせられるから。
 心の準備をしないとね!
「“ちょーよー”ってお酒を飲んで、長生きで、厄除け?」

 でた!また何かが混ざってるぞ〜。
 必至に頭を回転させて、余分な語句を払いのける。
「えっと・・・それは“重陽”の事かな?それだったら、五節句のひとつで。前に薬玉
の話をしたよね。明日、薬玉が届くよ?」
「・・・あれ?菊でお酒で長寿?」
 今度は菊かぁ・・・・・・。ああ!そういう事。
「庭で菊摘みか真綿でも見たの?」
 我が意を得たりとちゃんが飛びついてきた。
「そ、それ!長生き?」
 長生きに拘ってるなぁ。何かあったのかな?
「陽数の九が並んでいるから縁起がいいというのと。昔、菊が群生する川の下流の
村人たちが長生きだった事に由来しているらしいんだけどね。ほんとかどうかまでは
わからないな〜」
 そろりと抱き締めると、少しだけちゃんの肩が下がった。
「・・・なんだ。景時さんに長生きして欲しいのにぃ」
 な〜る程。オレの長寿・・・・・・は?
「オレなの?長生きは」
「そ〜ですよ?菊をそのまま食べた方が長生きかなとか。色々考えたのに・・・・・・」
 いつもながら面白いな〜、ちゃんは。
 夕餉に菊が山盛り出てくるところだった!危ない、危ない。
「先の事はわからないけどさ。朝一番の菊の露が無病長寿らしいよ。明日、朝二人で
してみる?」
「するっ!一緒にしよっ」
 ん〜。可愛いなぁ、ほんとに。

「二人でしわしわのくちゃくちゃになっても一緒にいようね!」
「あはは!しわしわかぁ・・・・・・菊は薬にもなるから。案外しわしわにならなかったり?」
 くりくりの目で見つめられるの、弱いんだよね〜。
 ちゃんのためなら、菊の山盛りだって食べるよ!

 何度もちゃんの唇を啄ばむ。
「でもさ、オレにはこっちの方が効きそう・・・かな?」
「えっと・・・・・・私も・・・かも・・・・・・」



 そのまま朔が呼びに来るまで、何度もオレだけの薬を啄ばみ続けた。
 今なら、百歳くらい軽く生きられそうな気分だね。
 





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≪景時×神子に30のお題≫の続編風の続編風→京で二人の子供が?!

 あとがき:一緒にいたいっていうのが“長生き”に脱線中v     (2005.9.10サイト掲載)




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