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『薄氷』 景時×望美編
「わ・・・昨日忘れちゃったんだ・・・・・・」
うっかり忘れていた桶に入った水。
野菜を洗おうとしたまでは覚えていた。
しかし、朔に呼ばれた後、手に持った大根は台所の
水で洗ったため井戸端に置き去りにされてしまった桶。
そっと指を伸ばす───
「氷ってる〜〜〜。寒かったもんね、昨夜」
これ以上チカラを加えると割れてしまう。
誰かに見て欲しいと思い、立ち上がると一番に見て
欲しい人物を呼びに行った。
「どれどれ〜?うわ、これはまた綺麗に氷ったね〜」
景時も指でその僅かに氷った表面に触れる。
「ですよね!早くしないと解けちゃうかと思って」
水が透けている加減がなんともいいのだ。
真っ白ではなく、透明でもなく。
地面や池に出来る薄氷とは少し違った趣きがある。
「外だと踏む感触が楽しかったりするよね〜」
「足が濡れちゃわないですか?」
景時が何かを懐かしむような瞳で桶の中を眺めている。
「うん。勢いをつけると跳ねるかな。朔もね、小さい時に
オレに見せるために持ってきたことあったんだよ」
「氷を?手で?」
「そ。冷たいのにね。上手く丸く取れたもんだからさ」
景時が指で桶の際の部分へゆっくりとチカラを加えると、
盆の様な状態で氷が持ち上がる。
「わ・・・触りたいかも」
望美が両手でそろりと取り上げる。
「まんまる〜!ガラスみたい」
「ガラス?」
ガラスはこの時代には存在していない。
望美がいつものように説明をする。
「格子や扉の代わりにこういうのを使うんです。お外が
見えるし、外とはちゃんと別だから寒くないし」
「へ〜〜〜、暑くても解けないんだ」
「はい!・・・これは解けちゃいますけどね」
薄氷越しに景時と目を合わせる。
「結界みたいだね。見えてるのに触れられないなんて。
オレは・・・こうしたいかな?」
望美が手に持っている薄氷を取り上げ口づけた。
「・・・・・・氷、キラキラですね」
解け出した氷に日の光が反射する。
「そうだね〜。寒いけどお洗濯の後の水もキラキラだよね」
景時は今から洗濯がしたいらしい。
「せっかくお休みなのにお洗濯?お水はまだ冷たいですよ」
「いいの、いいの。冷たいと・・・こう出来るし」
氷を桶に戻した景時は、服で濡れてしまった手を拭いてから
望美の手を取る。
すっかり冷えてしまった手に、互いの体温が伝わる。
「どうしよ。ほんっと望美ちゃんには苦労かけちゃってるよね。
冷たい水で洗濯やら台所仕事やらさ」
望美の手を両手で包み、その指先に唇で触れる景時。
「なっ・・・大丈夫!大丈夫ですから。その・・・だから。
時々こうして温めて下さいね?」
「いくらでも・・・任せて」
雪解けの季節までは、もう少し。
ある冬の日の朝の出来事。
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